大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・156『蓬莱山』

2022-09-24 16:01:02 | ライトノベルセレクト

やく物語

156『蓬莱山』 

 

 

 教頭先生を追いかけていくと、向こうに鳥居が見えてきた。

 

「阿須賀神社ですね」

 電話線のある所ならどこへでも行ける交換手さんは、まだ距離があるのに神社の名前を言い当てる。

「あれ?」

 てっきり神社の鳥居を潜るのかと思ったら、その手前で左に曲がった。

 新宮歴史民俗資料館への矢印があるので、そっちかな?

「いえ、ちがいます」

「ちがうの?」

「ちょっと巻き戻します」

 そう言うと、交換手さんの前に黒電話のダイヤルの部分だけが現れて、交換手さんは0と5を回した。

 ジーーコロコロコロ  ジーーコロコロ

 5が回り終って戻ってくると、鳥居と矢印の間に道が現れた。

「無線機のスイッチを入れてください」

「ラジャー!」

 バッグの中の無線機のスイッチを入れる。

 みかん畑のとこでも言ったけど、交換手さんは電話線のある所ならどこにでも行けるけど、電話線が無いところには踏み籠めない。

 そこで、お爺ちゃんからもらった無線機のスイッチを入れて延長する。一個は木の陰に置いて、もう一個を持って道に踏み込む。電波の届く範囲なら、これでだいじょうぶ。

 道は上り坂になっていて、道は丘の上に繋がっている。

「丘じゃありません、山です、蓬莱山です」

「え、徐福が目指した?」

「はい、時空の狭間からしか行けない蓬莱山ですけどね」

 普通の神経なら「なにそれ?」ってことになるんだろうけど、あやかし慣れしたわたしには分かる。世の中には、リアルの時間からは切り離された場所と云うのがあるんだ。

 教頭先生は、学校で、わたし以外であやかしが見えるただ一人の人。

 二度ほどあやかしについてアドバイスしてもらった。

 先生が忙しいのか、わたしが人見知りのせいか、必要以外でお話したことは無い。

 

 五分もかからずに山頂に着いたわたしと交換手さんは薮の陰に隠れて様子を窺ったよ。

 

 教頭先生は、こんな感じ。

 しまった、早く着いてしまったという感じで、上着を脱ぐとハンカチでオデコや顔を拭いた。

 ネクタイを緩めると、カバンからペットボトルを取り出して、グビグビと2/3ほども飲み干した。

 わたしは、のどが渇いていても半分も飲まないので、ずいぶん喉が渇いているんだと感心した。

「まあ、東京からは遠いですからね」

 まさか、東京から走ってきたわけじゃないよね?

「なにか現れます……」

 思わず、口に手をあてる。

 保育所の時、先生に「静かにしなさい!」と言われた時を思い出した。

 しばらくすると、山の向こう側から公園で見たのと同じ姿が現れた。

 徐福だ!?

 教頭先生は、立ち上がるとネクタイだけ直して、ペコリとお辞儀する。

 お辞儀の仕方がペコリお化けみたいなんで、ちょっと可笑しくなる。

 二言三言話すと、徐福は、うんうんと頷き、労わるように先生の肩を叩いた。

 それから、懐から、千疋屋とかで売ってそうな果物の包みを渡して、もう一度頷いたよ。

 果物の包みは、半分ほどほぐれていて、中身が見えそう……

 

 !!

 徐福と目が合いそうになって、急いで身を隠す。

 

 三十秒ほど息を殺して、おそるおそる顔を上げると……徐福も教頭先生の姿も無かった。

 交換手さんと頂上を横切って、山の向こう側を見ると、山肌は一面のみかん畑。みかん畑はかすみの向こうまで果てしなく広がっていたよ。

 一個ぐらいもいで帰ろうかと思ったけど、果てしなくあっても人のものなので我慢した。

 

 家に帰ると、交換手さんが電話してきた。

『教頭先生、ご苗字はなんと言いますか?』

「うん、ハタ先生だよ」

『ハタ……どんな字を書きますか?』

 え、あ、そう言えば、普通には先生も生徒も『教頭先生』と呼んでいる。ときどき、PTAとか校長先生とかが『ハタ先生』と呼んでいて、それで憶えたんだ。

「ちょっと待ってね」

 一学期の始業式でもらった学年通信を出してみる。

「ええと……春って字の日を禾(のぎへん)に変えた字だよ」

『あ……ああ、分かりました。ありがとうございます』

 自分でも紙に書いてみる。

 パソコンで『はた』で入力して、分かった、秦と書いて『ハタ』って読むんだ。

 で、これは秦国の秦だったよ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・74『盗撮すんじゃないわよ!』

2022-09-24 06:53:38 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

74『盗撮すんじゃないわよ!』小菊 






 喋る前には空気を吸わなきゃならない。

 あたしは、一瞬遅れてしまった。


「先輩と食べてくる!」

「ア、アハハ……(#^▽^#)」

 フライングした増田さんの一言にはくすぐったい笑顔で返すしかなかった。

 今日の3・4時間目は初の調理実習で、クラスは緊張と期待でソワソワしている。

 なんせ、高校に入って初めての調理実習で、こういうイレギュラーな実習の時は、普段の成績や様子からでは推し量れない結果が出るものなんだよ。

 中学の時も、クラスでイジメラレ傾向にあったS君が仕込みの段階から美味しそうな匂いをさせてカレーを作った。玉ねぎのみじん切りも料理番組の先生みたいだったし。そのために女子たちから「S君の女子力すごいよ!」ということで俄然注目され、あっという間に人気者になってしまったことがある。

 高校にもなると、そこそこお料理の出来る子は結構いる。

 だから、S君のようにクラスのスターダムに昇るとこまではいかないけど、増田さんの中では会心の出来であった。

 おそらく、味見するまでは「先輩と食べてくる!」ということは考えていなかった。

 瞬間的に閃いたことなので、破壊力は抜群。

 あらかじめ考えていたら、引っ込み思案の増田さんは「先輩と食べてくる!」にはならない。

 入学二日目から、お昼はあたしといっしょ。その習慣を壊す勇気は増田さんには無い。

 で、先輩というのは、言うまでもなくノリスケよ!

 作品のちらしずしをタッパに詰めて教室に戻る道すがら、ひょっとしてと渡り廊下から目線を下ろしたところに二人は居た。

 中庭の藤棚の下、仲良くベンチに腰掛けて食べているよ~(n*´ω`*n)。

 ノリスケは誰に対しても垣根のないやつで、あのフレンドリーさに偽りはない。

 増田さんも、あたしには見せたことのない自然な親しさで接している。

 う~ん、でも微かな媚を感じるのは、あたしのヒガミ?

 いや、相手がノリスケでヒガムわけないんだけど、なんだろね、この感じ?

 月曜にこっそり教えてくれたけど、連休の後半は神社の風信子さんたちと一緒に奥多摩に行ってきたんだ。

 ま、うちの腐れ童貞とかシグマとかいっしょだったから、そうそう飛躍することってないと思うんだけど……。

 あたしはスマホを出して藤棚の二人を撮ることにした。

 カシャ! カシャカシャカシャ!

 シャッター音に驚いて柱を挟んだ隣を見る。

「な、なにやってんのよ!」

 なんと、あたしより先に腐れ童貞が二人の様子を連写しているじゃないの( ゚д゚ )。

「い、いつから、そこに居やがるんだ(;'∀')!?」

 質問には答えないで糾弾してきやがった。

「盗撮すんじゃないわよ!」

「なにが盗撮だ、お前だってスマホ構えて撮る気マンマンじゃねーか!」

「あたしとあんたとじゃ撮る意味が違うのよ!!」

「声デカ……」

「ウ……」

 兄妹仲良くしたくもないのに、柱の陰に密着して身を隠した。

「ノリスケに頼まれたんだよ、もっと増田さんを自由にしてやるためにな」

 え、なにそれ……?

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

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