大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

漆黒のブリュンヒルデQ・088『芳子?』

2022-09-04 11:29:52 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

088『芳子?』   

 

 

 二階の洗面で歯を磨きながらお向かいに目をやる。

 

 また揉めている気配。

 また啓介がねね子と揉めている。

 視力と聴力の感度を上げれば会話の内容まで分かるんだけど、止めておく。

 ねね子は、設定を超えて啓介と向き合おうとしている。そっとしておいた方がいい。

 

 制服を整えて下に下りる。

 

 リビングでは、玉代が祖父母といっしょにテレビを観ている。

 テレビは、ここのところ活動が活発になってきた桜島の解説をやっている。

 警戒レベル3、なんとか入山規制のレベルにまで落ち着いたようだが、安心はできない。

 神さまなのだから、テレビなんか見なくても桜島の様子は分かるはずなんだけど、きちんと祖父母といっしょに見てくれている。いっしょに心配したり安心したりがいいんだ。ときどきマッサージもしてくれているし、玉代の自然な振舞いはありがたい。

―― じゃ、先に行ってるから ――

 口の形だけで伝えると、小さく手を挙げて了解してくれる。

 

 そして、日直でもあるので、今日は一人で登校する。

 

 失礼しました

 

 学級日誌を受け取って職員室を出る。

 階段を上がろうとしたら、廊下の向こうに芳子の後姿。

 廊下の果ては進路指導室だから、朝から進路相談か?

 芳子は、今度の生徒会選挙には出なかった。二期務めて小栗結衣のあとの会長をやるのかと思っていたから、ちょっと意外。

 おはよーー

 ちょっと距離はあるけど、階段の手前で声を掛けておく。

 ふぇ?

 芳子にしては間抜けな顔で振り返る。

 あ、おはようございます。

 明るく応えてくれるが、違和感。

 瞬間、なにかが芳子の奥に隠れた気配がしたんだ。

 

 そして昼休み。

 

「ごめん、ちょっと気になる奴がいて」

 学食を出たところで玉代とも別れる。

 校舎の角を曲がって、中庭に向かおうとしたら「だーるまさんがこーろんだ!」と玉代の声にワイワイ言ってる仲間や下級生の声が混じる。玉代は遊びの天才だ。わたしが教室を出て中庭に向かう間に、すでに人を集めて遊び始めている。

 まだまだ薩摩訛が抜けないけど、周囲も本人も気にしていない。そこだけ日当たりがいいような玉代に接していると、とても幸せな気分になれるんだ。大昔の子どものような遊びにもたくさん人が集まっている。

 藤棚の下のベンチに芳子が居る。

 気配を感じたからではないだろうが、読んでいた書類を紙袋にしまっている。

「進路のことか?」

 主題を言いながら、ベンチに掛ける。

「え、あ、まあちょっと。そうだ、コーヒーとココアとどっちがいいですか?」

「うん?」

「新製品出たんですよ、この前はせんぱいのおごりだったから、今度はわたし」

「じゃあ、コーヒー。砂糖もミルクもドッチャリマシマシのやつ」

「りょうかい!」

 自販機までスキップする姿は、いつもの芳子だ。

 でも、けして思い違いなんかじゃない。芳子の中には、良からぬものが住み始めている。

 こっちへ来て、何人も、いや何体も出くわした名無しの権兵衛が見え隠れしている。

 

「実は、アメリカに留学しようと思ってるんですよぉ」

 スキップで戻ってくると、缶コーヒーを渡してくれながら、駅前で英会話を習うくらいの気楽さで切り出す芳子だった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・54『図書室で借りた本』

2022-09-04 08:59:57 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

54『図書室で借りた本』小菊 





 街の図書館や学校の図書室が、まだアナログの図書カードを使っていた時代、昭和の終りか平成の始めのお話。

 読書大好き少女の月島雫は気が付いた……。


 自分が借りた本の図書カードにある名前。

 天沢聖司

 あれ?

 ほかの本の裏表紙をめくると、どの本の図書カードにも天沢聖司の名前がある。

 みんな、あたしより先に読んでる。

 天沢聖司……どんな人だろう?

 疑問と興味の湧いた雫は、いろいろなドタバタ事件の果てに天沢聖司に出くわした。

 天沢聖司は、それまで雫に意地悪ばかりしていた変わり者の男子、同じ中学校の三年生だった……。

 あたしだって素敵だと思ったジブリの名作アニメ。

 それに憧れて、増田さんは図書室で本を借りた……んだけどね。

 いまの図書室ってバーコード管理だから図書カードなんて無いのよね!

 言ってみりゃ無精卵みたいなもんで、いくら温めても「彼との出会い」というヒヨコは生まれっこない。

 そんなことは承知の上で、増田さんは、本を眺めてはニヤニヤしている。

「あーーーで、どんな本借りたの?」

「え、えとね……」

 増田さんは、書店の陳列のように五冊の本を並べる。

 トイレから戻ってみると、あいかわらずのニヤニヤだったので聞かざるを得なくなったのよ。

 本から顔あげた彼女と目が合ってしまったしね。

「えと、一押しは?」

「もちろん、これですよ!」

 その一冊だけカバー付きの表紙をめくると『耳をすませば』とあった。

 なんちゅうか、とてもベタな子だ(^_^;)。

「い、いや、これはですね(;'∀')」

 顔に出てしまったのか、増田さんは慌てて斜め上を見る。

 ちょっと意地悪を言ってみた。

「わたしも借りればよかったかな、オソロに五冊」

「ダメです!」

「え?」

「夕子、本は借りないんです」

「ゆうこ?」

「雫の親友ですよ! 原田夕子! ほら、カントリーロードの訳詩を頼むコーラス部の同級生! 杉村に思いを寄せてる!」

「あ…………ああ」

 そうか、雫が借りたのも五冊だったっけ?

 思い出したけど、ちょっと付いていけないテンションですよ(^_^;)

 まあ、期せずして同級生認定。よくできた過年度生よりもいい。

「あーーーとりあえず、教室に置いといたら(^_^;)」

 五時間目と六時間目は移動教室が重なってしまい、校内移動にしては「どーなんだ!」ってくらいの荷物なのだ。

「うーーーーーん」

 唸った後、五時間目六時間目のモロモロの間に、五冊とも挟んでしまった!

 ただでもスペシャルサンドイッチ状態なのに、どーすんだろって感じになってしまった。

「早く早く!」

 急かしたのが悪かったのか、二度ほどスペシャルサンドイッチを落としてしまう。

「ごめん、先に行ってぇ(#^o^#)」

 なんとか授業には間に合ったけどね。


 そして恐れていたことが起こってしまった。

 六時間目が終わって教室に戻って確認してみると、図書室で借りた本は四冊しかなかったのよ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする