大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 89『クルミ団子』

2022-09-23 12:25:27 | ノベル2

ら 信長転生記

89『クルミ団子』織部 

 

 

 ぬふふふ……

 

 扶桑(転生国)と三国志の間に蟠る大森林を前にして、自然に笑いがこみ上げてくる。

「キモ……」

 リュドミラの侮蔑の呟きも気にならない。

 なんといっても、中華文化の宝庫である三国志に、大手を振って入れるのよ。

 唐三彩、景徳鎮、青磁、白磁、灰釉、黒陶……茶器に通じる焼き物だけでも目が回るほどの種類と数がある。

 彫物、金細工、螺鈿、翡翠などの装飾品にも目が離せない。

 そもそも、扶桑文化の種は、大陸の中華文化にこそある。茶器を中心とする我が国の文化の源流と言ってもいい。それが凝縮、昇華されたものが三国志文化。

 へうげ者、古田織部の面目躍如でしょ! 野に放たれた虎よ!

 活動資金も生徒会からもらったし、諜報の表題さへ付けば、どこへ行こうと、誰と会おうと自由だもんね。

 おまけにリュドミラなんて、名うてのガードまで付けてもらって……もう武者震いが止まらない。

 

 ブルブル

 

 しかし、急いては事を仕損じる。

 

 美を求める心は隠しようもないものだけど、少しは地に足をつけなければ、どんな失敗をするかもしれない。

 信長の使いで信貴山城に行った時は、松永久秀に読まれてしまって、平蜘蛛の茶釜ごと爆死されてしまった。

 久秀の命も信長の調略もどうでもよかったけど、あの平蜘蛛を爆砕されてしまったのは一生の不覚!

 焦る心は押さえなくちゃね。

「ちょっと、休憩しよう」

「ああ」

 ロシア女は大人しく路肩の岩に腰を下ろすと懐からクルミの実を取り出して、グリグリもてあそぶ。

「それって、指の鍛錬なんだよね?」

「ああ、銃を出すわけにはいかないからな」

「まあ、落ち着こうよ。こっちのクルミはどう?」

「ん、クルミ団子か。いただく」

「お握りでは芸がないし、お茶に合うかと思ってね」

「うん、美味しい」

「よかった」

「……さっきは、思わず言ってしまった。ごめん」

「ああ、いいよ。キモイのは自覚してるから」

「そ、そうか」

 

 ひとしきり団子を食べる。

 

「ひとつお願いがあるんだけど」

「なに?」

「ガードをやってもらって、こんな注文するのは僭越なんだけど、あんまり銃はぶっ放さないでね」

「なぜ?」

「あ、いや、リュドミラって、こんど生まれかわったら3000人の願掛けしてるんでしょ? 前世じゃ309人しか殺れなかったから」

「まあな」

「ということは、腕を上げたいわけでしょ? 腕を上げるためにはバンバン撃たなきゃならないわけでしょ? あたしたちスパイだから、あんまり目立つのは、ちょっとね……」

「そうだな……でも、いまのわたしは少し違う」

「違う?」

「わたしはモスクワで生まれたんだけど、ウクライナ人だ」

「ウクライナって、ロシアでしょ?」

「ちがう、いや、そう思っていたけどちがう」

「ちがう?」

「ああ、いま、ロシアがウクライナを侵略している」

「あ、ああ……」

 近ごろニュースでやっているのは知っている。

「フン、日本人の認識はその程度だ、まあ、いいけどな。今度のことで、自分はウクライナ人なんだと、しみじみ思った。生前は、ほとんど意識しなかったから大きなことは言えないがな」

「そうなんだ」

「織部は、美術以外のことはどうでもいいんだろう」

「あ、いや……」

「いいよ、責めているわけじゃない。織部みたいないい加減そうな奴の方が諜報に向いていることも承知している。わたしも軍隊生活が長かったからな」

「あはは……」

「わたしは、ほんとうに戦いを停めようと思ってるんだ。たとえ、ロシアとウクライナでなくともな……だからガードを引き受けた。いまは、そんな気持ちだ。これでいいか?」

「じゃあ、3000人達成は……」

「やるよ、侵略者は容赦しない、あの時代に戻ったら3000人を目指す。それと……」

「なによ?」

「この森でもクルミが採れそうだ」

「あ、ああ、そうだな、採っていけば、まずは物々交換の種になるか。物々交換が商いの第一歩だよね」

「あ、いや、クルミ饅頭も美味しいだろうと思ってな。織部は茶人だろ、茶人なら饅頭ぐらい作れるだろ?」

「あ、そうか、饅頭にした方が商品価値が上がるか」

「いや、取りあえず食べたいだけなんだが」

 

 そうだ、扶桑からの商人という触れ込みなんだ。そう思いなおすと次の行動は早かった。

 一時間ほど大森林でクルミ狩りをやって、とりあえず皆虎の街を目指す二人だったよ。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・73『松ネエの傷跡』

2022-09-23 06:41:20 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

73『松ネエの傷跡』小菊 





 松ネエはお医者さんに叱られた。

 叱られたと言っても病院のお医者さんじゃない、ホームドクターの薮中先生だ。

 腐れ童貞が付き添って退院して来た時には、もうヘロヘロだった。

「気が利かないわね、どうして病院で診てもらわなかったのよ!」

 松ネエに肩を貸しながら言ってやった。だって、この様子じゃ病院を出る時から不調だったに違いない。

「すまん」

 こういう時に言い訳しないのは認めてやるけど、どうして口が笑っているんだ!

 本当に笑っているわけじゃないことは分かってる。ω口が生まれついてのものだということも分かってる。

 でも腐れ童貞はショーモナイ奴だ、高校三年にもなったら自分の顔に責任持てよな。

 兄妹だから、あたしも似たような口元だけど、あたしのはチャームポイントになっている。悲しいときや腹立つ時は、ちゃんとそういう表情になる。ほんとうにショーモナイ男だ!

「わたしが無理を言ったからだよ……」

 こんな時にも松ネエは人を庇う。こんなにもいい松ネエが、こんなひどい目に遭うなんて……悔し涙がこぼれてくる。

 夕方に、お祖父ちゃんが車で薮中医院に連れて行った。

「無茶だよ、一週間は安静!」

 

 薮中先生は診察半ばで宣告した。

 それまでに「若いと言って過信しちゃだめだ」とか「術後で体が弱ってるんだから」とか、九十過ぎとは思えない馬力で叱っていた。

「コウちゃんも気を付けてやらないとな」

 コウちゃんとはお祖父ちゃんのこと。コウちゃんは、しきりに頭を掻いている。薮中先生にかかるとお祖父ちゃんも、まだまだハナタレ小僧だ。

 先生は、松ネエの背中と首筋を摩って薬を出した。

「このマッサージは、我が医院の秘伝でな、親父のころは宮さまにも施してさしあげたそうだ。緊張をほぐして五臓の機能を整えて血流をよくするんだ……よし、このくらいか……お風呂には入っていいけど半身浴、傷口を浴槽に浸けちゃダメだからね」

 家に帰って、松ネエは一晩眠った。先生が摩ったのが効いたのかもしれない。

 

 朝になっても松ネエは起きてこなかった。

 

 いちおう部屋を覗いて、穏やかに寝息を立てているのを確認。

 昼休みにはメールが来た。

―― いま目が覚めたとこ、熱も下がりました。昨日はありがとう ――

 ひと安心(^_^;)。

 増田さんと食後のお茶を飲んでいたら、またメール。

―― 今日は久々にお風呂に入りたいので、よかったらいっしょに入ってくれる? ――

 入院中はお風呂に入れない。お風呂に入りたい気持ちはよく分かる。

 夕食後、松ネエのお風呂に付き添う。

 いっしょに入るなんて小学校以来、ちょっと懐かしい。

 でも懐かしさなんて、服を脱ぐだけで辛そうな顔を見ていると吹っ飛んでしまう。

 身体を洗ってあげて、マジマジと見てしまった傷跡。赤いムカデが貼りついたように見えるのは縫った跡だ。

 この傷は一生残るんだろうなあ……そう思うと目が熱くなってきた。

「アハハ、菊ちゃんが泣くことないじゃない」

 笑顔は、もういつもの松ネエだった。

 とりあえずよかった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 



 

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