大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・21『ダブルブッキング』

2022-09-28 15:59:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

21『ダブルブッキング』 

 

 

 声さえ出さなければソックリ!

 

 まあやの代役とスタントの仕事は増えてきた。

 それまでは、アップでまあやの演技を撮っていて、そこで倒れるとか落ちるとかの危ない演技になる時は、カメラが切り替わる。

 切り替わって、カメラがロングになったり、後姿になるとかして、倒れるとか落ちるとかする、つまり代役の仕事。

 ところが、ソックリになってきたので、台詞が終わった時に入れ替わって、そのままアップで倒れたり落ちたり。

 昨日なんか、暴漢に火を点けられ、苦しみながら川に飛び込むなんて、忍者でなければ不可能な吹替までやった。

 

「いやあ、あはは、まあやの人気は天井突き破ってしまったわ!」

 マネージャーさんは手放しの喜びよう。

 金持ちさんに聞いたら「マネージャーのギャラ倍になったそうよ」だった。

 マネージャーのギャラが上がるんなら、むろんまあや本人のギャラも上がってるわけで、当然わたしのギャラも上がるはずで、わたしのギャラが上がれば事務所の収入も増える……ことにはならなかった。

「いやあ、今のところ、そのちゃんのことは秘密だからね。いきなりギャラあげられないのよ、表向きはまあやが自分でやってることになってるから、そのちゃんの立場は付き人兼代役でしかないのよ。へたにギャラに反映させたらさ、ネットの時代でしょ? すぐに足が付いて、そのちゃんの存在に気付かれてしまうからね。いや、ネット民恐るべしなのよ! いずれは、身の立つように考えるって社長も言ってるし、ごめん、もう少し辛抱してね!」

 弱小事務所の駆け出しアルバイトでは、それ以上言うことはできない。

 自分のことはいい。生活費と、お祖母ちゃんに渡すだけのギャラがもらえるんだったらね。

 でも、社長と金持ちさんの期待を裏切ることになるのは辛い。徳川物産に入って、会社の支出は減ったけど収入が増えるわけじゃないからね。

 まあやが気を遣って手を合わせる。

「ごめんねぇ、後でそのちゃんの口座教えて」

「え?」

「わたしのギャラから、いくらかは回せるようにしとくから」

 まあやの嬉しい気遣い。

「それはダメだよ。まあやの口座なんて、全部事務所が把握してる。変なお金の流れとかあったら、すぐに分かってしまう」

 こういうことも金持ちさんから教わっている。お金の流れはクリアーにしておかないと政務署がうるさい。

 今は、ただただ辛抱の時なんだ。仕事自身は十分楽しいしね。

 

「ごめん、助けると思って『うん!』て言って!」

 

 会うなりマネージャーさん。

「え、どうしたんですか?」

「じつは、ダブルブッキングしてしまって(^皿^;)!」

「ダブルブッキング?」

「うん、吠えよ剣のリハーサルと、一日警察署長の仕事が重なってしまって……」

「え、そんなことってあるんですか?」

「コンピューター管理してるから起きるはずないんだけどね、入力ミスとシステムエラーが重なったとかでね……リハの方を代わってもらうわけにはいかないでしょ?」

 そりゃそうだろ、わたしがリハに行って、まあやが本番だけってやれるわけないし、だいいち声出したらバレバレだし。

「だから、一日署長の方をね……にこやかに手を振ってりゃ済む話だからさ……」

「ウウ……事務所の方には話しといてくださいね」

「もちろん! 任しといて!」

 いっしゅんでマネージャーさんは元気になって、スマホを持って廊下に出て行った。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・78『その明くる朝』

2022-09-28 06:40:57 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

78『その明くる朝』小菊 




 好きなものを見ると人間の瞳孔は大きく開く、特に女子はね。

 赤ちゃんとか、恋人とか、大好きなスィーツとか見たら、女の子の瞳は、もうマンホールの穴かってくらいに開く。

「わー、すごいです! スゴイです! 凄いです!

 いろんなニュアンスでSUGOIDESUを連発している増田さんが、まさにそうだ。

 遠くからしか見たことないけど、ノリスケを見る時もこういう目をしてるんだろうなあと思う。

 ついこないだまでは、引きこもり寸前だった地味子の増田さんの両眼は緩みっぱなし。

「で、この太一というお兄さんは実在するんですか!?」

「え、あ……まあね」
 
 覚悟はしていたけど、あの腐れ童貞が実の兄貴だと言うことを認めなくてはならない。

 同じ神楽坂高校に通っていても、腐れ童貞は特徴のヘラヘラ顔からω(オメガ)で通っていて、本名の妻鹿で呼ばれることはほとんどない。

 もし聞かれたら――遠い親類――で通そうと思っていた。でも、そんな心配はいらなくって、いまだに真実を知っているのは学校では、ほんの僅か。

 今朝、増田さんは最初の信号の所で待ち伏せしていた。

「学校では、あんまりキャーキャー言えませんからね(^_^;)」

 それで、校門を潜るまで、瞳孔開きっぱなしのキラキラ眼(まなこ)であたしを眩しがってくれている。

 増田さんがこれなんだから、学校に行ったらさぞかしと覚悟はしていた。

 ……でも、意外に平穏。

 

 なぜか昇降口の所に担任の田中先生が居て「新人賞おめでとう」と小さな声で言ってくれただけ。

 教室に入るといつも通り、月曜日特有の倦怠感。

 中には週末に試合を控えた運動部とかで、やる気満々という人も居るんだけど、そういうポジティブな空気は、なるべく出さないようにしているところがある。増田さんが「学校じゃキャーキャー言えませんから」と言った、あの空気。

 何人かは、突破新人賞を知っている人が居て、瞳がオッキクなっている子がいる。

 でも、キャーキャーとはならない。日本人特有の『そっとしてあげよう』感。

 騒がれるのは苦手だから、ま、ありがたい空気。

「なあ、オメガが兄貴だって言っちゃだめか?」

 渡り廊下で会ったノリスケが聞いてくる。

「だめ! 自然に知れるのはともかく、バラされるのは絶対だめだからね!」

「いや、一般ピープルにじゃなくて、増田さんにさ。彼女、授賞式のトーク聞いててさ、がぜん腐れ童貞クンに興味を持っちまってさ」

「んーーーーやっぱだめ。まだ作品は発表されてないんだしさ、最低、やっぱ読んでからだよ」

「そっか、じゃ」

 そう言ってやり過ごしてから、再び声を掛けてきた。

「まだ用?」

「あんまりひどく書いてないよな?」

 親友だからの心配なんだろうけど、カチンと来た。

 でも、少し瞳孔が大きくなっていたので「出たら読んで」とだけ言って許してやった。

 放課後、昇降口で下足に履き替えようとしたら、柱の陰から声を掛けられた。

「突破新人賞おめでとう、妻鹿小菊さん」

 え(# ゚Д゚#)!?

 校内で初めての正面切ってのおめでとうだったので、正直びっくりした。

「わたし二年二組の和田友子、うちの学校から突破新人賞が出るなんてすごい。それに、こんなに可愛い一年生なんだもの、ほんとにすごいわ」

「あ、ども、あ、ありがとうございます」

 二年生なので、いちおう敬語でお礼を言う。

「ね、わたしとあなたで、学校にラノベ部つくらない?」
 
 にこやかに言う和田さんだけども、瞳孔は開いていない……どころかめちゃくちゃ小さくなってたんですけど(;'∀')。
 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

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