大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・154『部屋が広い』

2022-09-09 12:11:30 | ライトノベルセレクト

やく物語・154

『部屋が広い

 

 

 部屋が広い。

 

 こんなに広いと思うのは二度目だよ。

 一度目は、この家にやってきたときね。

 中学に上がるのをきっかけに、それまで住んでいたアパートを引き上げて、お母さんの実家である、このうちにやってきた。

 200坪っていうから、いままで居たアパート全体の敷地よりも広い。お母さんに聞いたら、アパートは全体でも100坪も無かったんだって。

 わたしの部屋は洋間で、畳に換算すると8畳くらいはあるそうだよ。

「え、もっとあるよ」

 お婆ちゃんに言うと「そうか、やくもとお婆ちゃんとは、畳一畳の大きさが違うんだわ」と答えた。

 アパートの畳は団地サイズで、縦で20センチ、横で10センチも小さいらしい。

 だから8畳換算だと縦横40センチも違うんだとか。

 

 二度目は、いまだよ。

 

 神保城をもらって、部屋の住人たちは、みんなあっちに行ってしまった。

 六条御息所は、神保城の総理大臣兼建設大臣。アノマロカリスは国防大臣。交換手さんは逓信大臣。

 他のフィギュアやグッズたちも、役職やら称号をもらって、あっちにいることがほとんど。

 それに、なによりチカコが居ないしね。

 

 あ、これはいいことなんだよ、喜ぶべきことなんだよ(^_^;)。

 

 チカコは、やっと旦那さんの家茂さんと心が通じて、家茂さんのところに行ったんだ。

 だからね、悲しんじゃいけないんだ。

 部屋が広くなったといっても、ちゃんと入り口のドアも、手を伸ばせば窓枠にも手が届いて、空気の入れ替えだってできる。

 

 お爺ちゃんから、コーヒーミルをもらった。

 

 鉄製で、横に大きな手回しハンドルが付いていて、人力でガリガリと豆を挽くやつ。

 それで、一杯分だけ豆を挽いてコーヒーを淹れる。

 淹れるまでの作業をやっているうちに、部屋はコーヒーの香りでいっぱいになる。

 それで、文庫とか読んだり、ボーっとしながらコーヒーをいただく。

 胃によくないから、コーヒー淹れるのは日に一回だけ。

 リビングで、家族と一緒にコーヒーとか紅茶飲むときもあるから、そう言う時はできない。

 

 あら?

 

 最後の一口飲んで、文庫にしおりを挟むと、黒電話の横に交換手さん。

「退屈じゃないですか?」「お城はいいの?」

 二人の言葉が重なって、フフって笑ってしまう。

「交換手さんから言って」

「はい、それでは、こちらは携帯が使えないので、そんなに仕事は無いんですよ。逓信大臣だなんて大層な肩書をいただきましたけど」

「改正電波事業法のやつね!」

「いえ、結果的には良かったんですよ。みんなスマホ漬けにならなくて済んでますから」

「あ、そうか、物事には裏表があるってことね」

「はい、万事塞翁が馬です」

「あ、チカコも御息所も居ないから、お座敷自由に使ってね」

 机の上には、二人が使っていた1/12サイズのお座敷とコタツがある。

「それよりも、ちょっと出かけませんか? 電話線のあるところなら、どこにでも行けますから」

「え、あ、そうだね……えと、どこか、お勧めとかある?」

「はい、いっぱいありますけど、もう一度和歌山に行ってみませんか?」

「和歌山?」

「はい、こんなところはどうでしょう」

 交換手さんが指差すと、机の上に中国風の立派な門の映像が現れた。

「……これって、日本なの?」

「はい、和歌山の新宮です。徐福伝説の街です」

「ジョフク?」

「はい、紀州みかんの、スゴイ伝説があるんです!」

「う、うん」

「それじゃ、お繋ぎしまーす(^▽^)!」

 交換手さんが元気に手を挙げると、黒電話の受話器が持ち上がり、ダイヤルが回り始めたよ……

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・59『大江戸放送』

2022-09-09 06:24:35 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

59『大江戸放送』オメガ 





 塀に穴が開いただけで済んだ。

 寿屋の小父さんは元消防団長で、やっぱプロの火消しは大したもんだと思った。家族六人のガスマスクも小父さんが外してくれて事なきを得た。

「ガスマスクってのは一般用がないからね、防災ヘルメットみたいに着脱が簡単じゃないんだよ」

 外してもらった顔には、しっかりマスクの縁の痕がクッキリ。まるで顔の皮膚を移植しましたって感じになってる。

「キャー、信じらんない!」

 一声あげて家に逃げ帰った小菊は無事だったが、残り五人はご近所の皆さんや通行人の人たちに写真やら動画に撮られられてしまった。

「動画サイトに投稿されるわね(^_^;)」

 松ネエの予想は、しっかり当たって、昼過ぎには新聞社と放送局までやってきた。

 で、今日は朝から大江戸放送のスタジオに来ている。

「それでは妻鹿家のみなさんどうぞ!」

 国営放送出身のMCの声が掛かって、俺たちはスタジオの真ん中に進んだ。

 手に手にガスマスクをぶら下げ「どうぞ!」の掛け声で装着する。

 あれから何度もやってみたので、六人の手際はなかなかのもんだ。

「すごい、五秒で装着完了ですね!」

 MCのストップウォッチはきっかり五秒を指している。

 オームサリン事件でも活躍した警察OBのお爺さんがチェックをしてくれて、しっかり合格点をくれる。

「とっさにはキッチリとした装着はむつかしんですが、妻鹿家のみなさんは怪我の功名と言ってはなんですが、しっかりなさっていますね」

「どいうところが注意点なんでしょうか?」

 MCは国営放送の謹厳実直さで訊ねる。

「顔とマスクの間に隙間ができないことが重要です」

「なるほど」

 レギュラーやゲストの皆さんが寄ってきて、しげしげと俺たちのマスク顔を覗き込む。

「さらに重要なのは、ここからなんですが……」

 OB爺さんがいきなり俺のマスクを掴んでグラグラと揺すった。

「お、う、あ」

 3D酔いのようになって、うめき声がもれてしまう。

「人間というのは動きますし表情が有りますので、装着後は、できたら人に揺すってもらったりして確認するのが良いと思います」

「妻鹿さんの家はご家族が多いですからいいと思うんですけど、一人暮らしの人とか」

「そうですね、家族が居てもとっさの時などは」

「ガスマスクってフリーサイズですしね」

 ゲストがいろいろ言う。

「そういう時は、口を大きく開け閉めしていただいて、馴染ませるとよいと思います」

「みなさん、お口の開け閉めを」

 スタジオというのは人を従順にしてしまう魔力があるようで、妻鹿家の面々は、あの気難しい小菊でさえフガフガとやり始めた。

「お、あ、あががーーーー(゚o゚;」

 親父が尋常ではないうめき声を上げ始めた。

「あ、これは……」

 OB爺さんは、すぐに親父のマスクを剥がして異変に対処した。

 親父は、マスクの中で大口御開けすぎて顎を外してしまったのだ。

 カクン

 ピンマイクが拾った音は以外に大きく、親父には災難であったけど、スタジオは笑いの渦に包まれた。

 放送局というのは大したもので、アクシデントがあったにも関わらず、予定時間の中にガスマスクを収めてしまった。


☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

 

 

 

 

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