やくもあやかし物語・154
部屋が広い。
こんなに広いと思うのは二度目だよ。
一度目は、この家にやってきたときね。
中学に上がるのをきっかけに、それまで住んでいたアパートを引き上げて、お母さんの実家である、このうちにやってきた。
200坪っていうから、いままで居たアパート全体の敷地よりも広い。お母さんに聞いたら、アパートは全体でも100坪も無かったんだって。
わたしの部屋は洋間で、畳に換算すると8畳くらいはあるそうだよ。
「え、もっとあるよ」
お婆ちゃんに言うと「そうか、やくもとお婆ちゃんとは、畳一畳の大きさが違うんだわ」と答えた。
アパートの畳は団地サイズで、縦で20センチ、横で10センチも小さいらしい。
だから8畳換算だと縦横40センチも違うんだとか。
二度目は、いまだよ。
神保城をもらって、部屋の住人たちは、みんなあっちに行ってしまった。
六条御息所は、神保城の総理大臣兼建設大臣。アノマロカリスは国防大臣。交換手さんは逓信大臣。
他のフィギュアやグッズたちも、役職やら称号をもらって、あっちにいることがほとんど。
それに、なによりチカコが居ないしね。
あ、これはいいことなんだよ、喜ぶべきことなんだよ(^_^;)。
チカコは、やっと旦那さんの家茂さんと心が通じて、家茂さんのところに行ったんだ。
だからね、悲しんじゃいけないんだ。
部屋が広くなったといっても、ちゃんと入り口のドアも、手を伸ばせば窓枠にも手が届いて、空気の入れ替えだってできる。
お爺ちゃんから、コーヒーミルをもらった。
鉄製で、横に大きな手回しハンドルが付いていて、人力でガリガリと豆を挽くやつ。
それで、一杯分だけ豆を挽いてコーヒーを淹れる。
淹れるまでの作業をやっているうちに、部屋はコーヒーの香りでいっぱいになる。
それで、文庫とか読んだり、ボーっとしながらコーヒーをいただく。
胃によくないから、コーヒー淹れるのは日に一回だけ。
リビングで、家族と一緒にコーヒーとか紅茶飲むときもあるから、そう言う時はできない。
あら?
最後の一口飲んで、文庫にしおりを挟むと、黒電話の横に交換手さん。
「退屈じゃないですか?」「お城はいいの?」
二人の言葉が重なって、フフって笑ってしまう。
「交換手さんから言って」
「はい、それでは、こちらは携帯が使えないので、そんなに仕事は無いんですよ。逓信大臣だなんて大層な肩書をいただきましたけど」
「改正電波事業法のやつね!」
「いえ、結果的には良かったんですよ。みんなスマホ漬けにならなくて済んでますから」
「あ、そうか、物事には裏表があるってことね」
「はい、万事塞翁が馬です」
「あ、チカコも御息所も居ないから、お座敷自由に使ってね」
机の上には、二人が使っていた1/12サイズのお座敷とコタツがある。
「それよりも、ちょっと出かけませんか? 電話線のあるところなら、どこにでも行けますから」
「え、あ、そうだね……えと、どこか、お勧めとかある?」
「はい、いっぱいありますけど、もう一度和歌山に行ってみませんか?」
「和歌山?」
「はい、こんなところはどうでしょう」
交換手さんが指差すと、机の上に中国風の立派な門の映像が現れた。
「……これって、日本なの?」
「はい、和歌山の新宮です。徐福伝説の街です」
「ジョフク?」
「はい、紀州みかんの、スゴイ伝説があるんです!」
「う、うん」
「それじゃ、お繋ぎしまーす(^▽^)!」
交換手さんが元気に手を挙げると、黒電話の受話器が持ち上がり、ダイヤルが回り始めたよ……
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)