大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・290『墜ちる!』

2022-09-21 15:28:22 | 小説

魔法少女マヂカ・290

『墜ちる!語り手:マヂカ 

 

 

 飛行機の中でクマさんを見つけ、主翼の端っこまで追いかけたのが夢の中。

 そして、いま、クマさんに続いて空中を落下しているのは現実。

 ファントムは夢と現実を巧妙に入れ替える魔法の力があるんだ。

 飛行石を持たないわたしは、このまま落下して、地面か海面に激突して壁に叩きつけられたトマトのように破裂粉砕されてしまう。数千メートル、ひょっとしたら一万メートルを超える高度は、魔法少女の回避能力を絶望的に超えている。

 いっそ体を丸めて落下速度を速め流星のように燃え尽きてしまおうか。それとも大の字に体を開いて速度を落とし、ギリギリまで運命に逆らって、万に一つの奇跡に掛けてみようか……。

 刹那の逡巡のあと、わたしは、制服のボタンを外し左右の裾を掴んで空気を含ませた。

 ボワ

 空気を孕んで、目に見えて落下速度が落ちてくる。

 しかし、とてもパラシュートほどの揚力はない。せいぜい十秒ほど命を長らえるだけだろう。

 せめて、クマさんをロストした方角を見据えて、そこを目がけて旋回しながら墜ちて行こう。

 

―― その根性だけは褒めてやろう ――

 

 頭の中で声がした……と思いきや、旋回の中心にポチョムキンが浮かび出た。

 女帝を偲ばせる甲冑姿だ。悔しいが姿がいい……そうか、ロシア王室や貴族は事あるごとにドイツやオーストリアの血が入っていたな、それを煎じ詰めればこういう成りにもなるんだろう。

「ここは舞鶴の沖合、お前がアリヨールを沈めた怨みの海だ。海に激突して、アリヨール終焉の地を護る魚どもの餌になるがいい!」

「言ってろ、姿を現したのが運のつき。道連れに、その首叩き落としてやる!」

 シャラン!

 風切丸を実体化させ、正眼に構えると、ポチョムキンを目がけ大上段に振りかぶる。

 ズワ

 一瞬で、ポチョムキンの姿が手の届かない高さに上昇する。

「バカめが、太刀を抜いて滑空姿勢を止めてしまえば落下速度が増すだけであろうが!」

 くそ、飛行石さえあれば……やむなく、風切丸を収めて滑空姿勢に戻るが、落ちた落差は取り戻せず、ポチョムキンは上空から降りてきて、数メートルの高さから睥睨する。

 たかが数メートル。

 しかし、飛行石を持たない今は、この数メートルを超えられない。いや、同じ高さに居たとしても、風切丸を抜かないとしても、戦闘姿勢をとった瞬間に、わたしは数十メートルを降下してしまう。

 千年を超えようかという魔法少女マヂカの活躍も、これでおしまいか……せめて、せめて、消滅のその瞬間まで敵を睨み据えてやろう……!

「おお、怖い怖い、目力だけはな……しかし目力だけでは、このポチョムキンは殺せぬぞぉ」

「くそ……」

 ビュビュン!!

 その時、目の前を二つの影が過って、その風圧で舞い上げられたわたしは十メートルほどのアドバンテージを取り戻した。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・71『最低の連休』

2022-09-21 06:53:35 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

71『最低の連休』小松 





 最低の連休だよ。

 二日の日にわき腹を刺されて、そのまま救急車で入院。

 数えて六日目になる。

 幸い内蔵には達していなかったので、手術の後はひたすら寝ているだけなんだけど。

 笑っても寝返りを打っても痛い(;'∀')。

 内臓に達していないとはいえ、左前のわき腹から背中側に駆けて八センチもナイフが刺さったもんで、いまだ、わき腹に異物が刺さったままのような感じがする。

「先生、どうしたんですか!?」

 朝の点滴をしにきたドクターを見て驚いた。白衣の前が金魚の柄のように赤く染まっているんだもんね。

「今朝の点滴は失敗してばかりなんだ」

 聞くんじゃなかったよ(;'∀')。

 この病院では日によっては当番のお医者さんが点滴をしにくる。医師でも看護師さんの不足を補うことは良いことだと思うんだけど、相対的にお医者さんはヘタクソなんだよね。目の前で点滴パックをぶらさげているお医者さんは、その中でもスコブル付のヘタッピーの様子。

「じゃ、いきます……」

 点滴の針を構えると、目に見えて先生の緊張が高まる。

 なんだかピンチに立った時ののび太に似ているぞーー、こういう時ののび太って、必ず失敗してドラえもんの世話になるんだ。

 でも、この病院にドラえもんはいない。

 ウグッ!!

 腕とお腹じゃ比較にならないかもしれないけど、刺された時よりも数段上の痛みが走る。

「あ……れ? れ? れ? ここに静脈が……」

 あるはずの静脈が見つからないのか、針を指したままグリグリやっている。

「ああ、ここだここだ(#'∀'#)」

 右手で二度失敗したあげく、左手でやっと成功。するほうもされるほうも額に汗が噴き出している。

「週末に、もう一回来るけど、その時は、もっと上手くなってるからね」

 ゲ、もっかいくるのかよ!

 針が刺さって五分もすると、左腕全体が痛くなってくる。

 先生がヘタクソなせいじゃない。

 わたしは血管痛になるのだ。

 人より血管が細いのかデリケートなのか、針を刺したところから始まって、しだいに腕全体、放っておくと、肩や首筋まで痛くなってくる。最初はナースコールを押していたけど、三日目からは自分で点滴の速度を落としている。

 お昼にはもなかさんがやってくる。

 入院した日は泊まり込んでくれたし、あくる日からは昼前にはやってきて食事の世話などをやってくれる。もなかさんは、自分の身代わりに刺されたと思って、まるで自分の責任のように感じている。

 無理もないんだけど、かえって気の毒になるよ。

「杉谷さん、先生が呼んでる」

 点滴のパックが残り1/3ほどになったときに看護師さんの声が掛かった。

 この先生は緊張のび太ではなく、私の主治医。

 珍しい女性の外科医。優しい笑顔とは裏腹に、テキパキとしていて「大丈夫、痛いのは治りつつある証拠だから」と、患者を甘やかさない。男性患者には人気があるようなんだけど、わたし的には、まだ一週間なので判断がつかない。

 点滴のポールを押しながら診察室へ。

「えーーーと」

 レントゲンを見ながら、先生は言葉を繋いだ。

「経過も良好なんで、明日退院してください」

「え、明日ですか!?」

 わたしは、点滴のポールをゴロゴロひきながら病棟のフロアを歩くのが精いっぱい。まだ階段を上り下りする勇気も無かった。

「あ、もう点滴も必要ないのよ。連絡いってないのかなあ」

 朝の苦行はいったいなんだったんだ!?

「でも、神楽町まで帰る自信ありません。階段とか坂道はちょっと……」

「タクシーで帰ればいいじゃない。荷物はナースに持たせるといいわ」

「でも、帰るのは下宿ですし、せめて静岡の両親が来れるまで」

「病院はホテルじゃないの、治った人には退院してもらわなきゃ、後がつかえてるのよ」

 そう言うと、先生はカルテのファイルをパタリと閉じた。問答無用のようだ。

 点滴の苦しみから解放されるのと、もなかさんに一安心してもらえるのは嬉しいけども……。

 わたしの週明けは、ちょっと割り切れないところから始まった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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