大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 87『迎えが来ていた』

2022-09-08 16:02:48 | ノベル2

ら 信長転生記

87『迎えが来ていた』信長 

 

 

 学校まで二キロという三叉路で迎えが来ていた。

 

「ご苦労でした!」

 かけた眼鏡を振り落としそうな勢いで頭を下げたのは織部だ。

「うむ」

「出迎えありがとう。やけんど、学院の正門前じゃなかったが?」

 乙女会長が微笑みながら声を掛ける。武蔵と市は、面識がないせいか馬を停めただけで前を向いている。

 不愛想という点では引けを取らない俺だが、こういう場合は、最低でも「うむ」とか「ああ」とかぐらいはあってしかるべきだろ……と、思ったら、二人とも学園に通じる西の方の道の向こうに首を向けた。武蔵はカラコンも外して、いつもの三白眼で脇差の柄に手を掛けている。

 そこに至って、俺も気づいた。

 道路わきの茂みから微弱ながら殺気を感じる。

「リュドミラ、出てきなさい。あんたは身を隠いちゅーだけで殺気を発するがやき」

 乙女が声を掛けると、おずおずと茂みから出てくる学園の制服。

 プラチナブロンドに通学カバンを背負った姿は、まるでリコリスリコイルのキャラみたいだ。

「まあ、あんただったの! 意外なお出迎えだけど、嬉しい。ありがとね!」

 市は、以前カラミティー・ジェーンから銃を借りて遊んでいたのだが、その銃が、このリコリコ女だ。

 同じ転生学園、あれから仲良しになったのか? 馬から下りて、旧交を温める妹、相手はいささか持て余し気味なのもおかしい。

 たしか、フルネームはリュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ。名うてのスナイパーだぞ。

「任務を帯びました、みなさんの帰還を確認したのち任地に向かいます」

 市を引きはがして、リュドミラは乙女に正対する。

「任務? うちは知らんが」

 乙女が首をかしげる。学園の任務なら生徒会長の乙女が承知していないはずがない。

「緊急なので、巴(巴御前)副会長の指示です」

「ああ、会長不在時の緊急マニュアルかぁ……やけんど、そこまで緊急というがはどういうことなが?」

「うちの今川会長からの要請です」

 織部の眼鏡が光る。

「義元の要請だと」

「はい、織田姉妹が帰還されるので、諜報の間隙を作ってはならぬとおっしゃっておられました」

「であるか」

 こちらの報告も受けずに、次の偵察隊というのは、ちょっと面白くないが。全体の指揮を執るものなら、ありうる判断だ。

「むろん、お二人のお迎えをやったうえでということなので、このようにお待ち申し上げておりました」

「是非も無し」

「では、行ってまいります」

「リュドミラ!」

「なに?」

 不登校だった娘の久々の登校、それを見送る母親のように最後の一言を伝える乙女。

 いささかくどい気がしないでもないが、脱藩する龍馬を見送る時も、このようであったのだろう。英雄の周囲には、このように情の厚い者がいるものだ。

 俺は……市も無事だった。まあ、良しとしておこうか。

 さあ、甘いものを食って風呂に入ることにしよう。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・58『ガスマスク!』

2022-09-08 06:24:41 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

58『ガスマスク!』オメガ 




 松ネエの両親はミサイルを心配していた。

「アハハ、そんなの落ちてくるわけないのにね(^_^;)!」

 笑って言い切ると、時間の迫っていたアルバイトに出かけて行った。

 段ボール箱はパックリ口を開けたままテーブルの上だ。

 リビングの真ん中、開いた箱から顔を覗かせているガスマスクは、なんとも禍々しい。

「ほんと、やあねえ」

 眉を顰めるお袋だけど、オキッパにしている松ネエや、送りつけてきた叔母夫婦を非難しているわけでもない。

 夕べも家庭用シェルターが売れているというニュースをしっかり聞いたしな。

 ガスマスクは箱ごと、一晩リビングに置かれたままになった。

「これって案外むつかしいんじゃないかなあ……」

 朝食を食べ終わった小菊がガスマスクをいじくりまわしている。

「ただ被りゃいいんじゃないのか?」

「被り物ってムズイんだよ。VRの体験会とか行ったけど、あれだって慣れないと一人じゃ被れないもんね」

「こういうものはなあ……」

 お祖父ちゃんも、一つ手に取った。

「バイクのヘルメットよりも複雑ねえ」

 お袋も興味を持った。

「女は、こういうストラップとかの結束には強いんじゃないのか」

「あなた、それじゃ反対」

 逆さに被った親父をお袋がたしなめる。

「オキッパですみません」

 松ネエが二階から下りてきて恐縮する。

「ちょうどいい、期せずして全員が集まったんだ、ガスマスクの練習をしておこう」

 お祖父ちゃんの発案でガスマスクの装着練習が始まった。

 あーだこーだと言いながら、五分後にはみんなダースベーダーのようになってしまった。

「なんか、みんなアッヤシー!」

 フガフガ言いながら小菊が喜ぶ。

「息はそれほどでもないけど、圧迫感がハンパないわね」

「密着してないと、隙間から毒ガスが入ってくるからね」

「でも、案外会話はスムーズだね」

「ね、記念写真撮ろ!」

 小菊の発案で三脚を持ち出し六人で記念写真を撮った。

 なんだかテンションが上がって、先日の花見の時よりも賑やかな記念撮影になった。

 ま、一般市民の危機意識というのはこの程度のものだろう。

「え、えと……どうやって外すんだろう」

 小菊が頭の後ろに手を回してモゾモゾしだした。

「この留め具を……」

 やってみるが、俺も外せない。

「待ってろ、祖父ちゃんが……」

 お祖父ちゃんも留め具の解除に戸惑う。

「だから、母さん、ここを……あれ?」

 親父も、語尾が?になる。

「ウフフフ……」

「なにが可笑しいんだよ」

 なんだか両親はいちゃついているように見える。

「なんだか新婚時分の二人みたいだなあ」

 祖父ちゃんが冷やかす。

「いやですよ、お父さん(^^♪」

「アハハ、女が身に付けるものって男は外しにくいもんだぜ、初めての時は俺も婆さんのブラホック壊しちまったもんなあ」

「お、親父」

「お祖父ちゃんたら」

 ここまでは余裕だったけど、十分ほどしても外せないので、ちょっと焦り始めた。

「これって……」「やだー……」「なんで……」「ムムム……」

 ドッカーン!

 大音響とともに、家がグラッと揺れた。

「「「「「「!!??」」」」」」

 ただ事ではないと思った俺は、こけつまろびつしながらも玄関から這い出した。

「え、ええーーーー!?」

 ガスマスクのグラス越しに見えたうちの外壁には自動車が食い込んでいた。

 で、車のエンジン付近からは濛々と煙が立ち始めているじゃねえか!

 わらわらとご近所の皆さんが集まり始めている。寿屋の小父さんなどは大きい消火器を抱えている。

 俺は玄関にとって返して叫んだ!

 みんな逃げろー!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

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