大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・348『密かに喜ぶ』

2022-09-19 13:28:52 | ノベル

・348

『密かに喜ぶ』さくら    

 

 

 今日から部活!……にはなれへんかった。

 

 ごっつい台風が鹿児島に上陸して、大阪は強風注意報が出てる。

 暴風警報やないさかい、休校にはなれへんねんけど、部活は止めて帰りなさいという学校のお達し。

 それに加えて頼子さんも、王女さまとしてエリザベス女王のご葬儀が終わるまでは、部活は控えならあかんらしい。

「明日からは部活もできるからね」

 そう言って、昇降口で小さな封筒を三人に配ってくれて、ソフィーといっしょに帰って行った。

 いつもの黒塗りの車が見えんくなるまで見送って封筒を開ける。

「うわあ、あれだ!」

 留美ちゃんが歓声をあげた。

 そう、写真は昨日ネットニュースでも見た『二重(ふたえ)の虹』やんか!

「これからは、希望をもってやっていこうということだね!」

 メグリンがこぶしを握る。

「裏にサインしてある!」

 留美ちゃんが写真の裏側を掲げる。

―― Over the rainbow! 頼子 ――

 気の利いたプレゼントに、凹んだ心を戻して家路についた。

 

 瑞兆(ずいちょう)というのは続くもんやろか。

 家の山門をくぐると、正月の掛け軸から抜け出したみたいに、尉と姥(じょうとんば)が熊手と箒を持って境内を掃除してるやおまへんか!

「いやあ、お寺のベッピンさんら!」

 歯ぁの抜けた口を開けて喜んでくれてるんは、婦人部長の田中のおばあちゃん。

 いっしょに掃除してるのは、うちのお祖父ちゃん。

「おかえり、今日はええニュースあるでぇ」

「え、なんやのん、お祖父ちゃん?」

「わたしに言わせて!」

 田中のおばあちゃんが尉(じょう)を押しのける。

「実はね、こんどのこんどこそ落語会ができんねんで!」

「え、ほんま!?」

 喜んでると、米国さん(外人落語家の桂米国さん)が帰り支度で出てきた。

「さいでおます、お嬢さんがた!」

 マスクからはみ出しそうなくらい口を開いて米国さんが寄って来る。

「ちょ……」

 真面目な留美ちゃんがソーシャルディスタンスをとると、米国さんも「かんにんかんにん(^_^;)」言いながら一歩下がる。

「よそのお寺さんでも、ぼちぼちやってはるし、婦人部のおばちゃんらも後押ししてくれはるし、10月10日の大安の日に如来寄席やらせてもらえることになりました!」

「「うわあ!」」

 留美ちゃんと二人でピョンピョンする。

「で、まあ、久々やし三度目の正直やし、今度は出し物はリクエストでやらせてもらおと思てます。なんか希望があったら、米国までメールしておくれやす!」

 いつもより濃い大阪弁で宣言して行ってしもた。

 

 今日はエリザベス女王の、もうちょっとしたら安倍さんの国葬。

 

 ちょっと早いかもしれへんけど、密かに喜んでるうちらでした。そう、密かに、静かにね……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・090『天空橋駅』

2022-09-19 10:48:39 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

090『天空橋駅』   

 

 

 東京に住んでいる者すべてが東京に詳しいわけではない。

 

 まして、世田谷の女子高生、土地勘のあるのは家と学校の周囲。あとは、たまに出かける渋谷と秋葉原くらいのものだ。

 ブァルハラからとばされて来たのだが、そういう設定になっている。親父が設定したのか、親父に縁ある神々の仕業かは分からんけどな。

 保育所以来、遠足などで、あちこちに行ってはいるが、先生に引率されてバスや電車で出かけるので、地理的感覚は、それほど優秀ではない。

 あ、むろん保育所の頃から、こっちに来ているわけではないが、こちらに馴染むにつれ間尺に合うように記憶が生まれてくる。

「カーナビで走ってると道を憶えないからなあ」

 祖父がこぼしていた。

 現役の頃は、仕事の都合でよく車を走らせていたのだが、定年前の十年ほどはカーナビを頼りにしていたので、五十代半ばから行ったところは記憶があいまいなんだそうだ。それと同じだ。

 

 というわけで、芳子と二人で京急に乗って、羽田を目指している。

 

 アメリカへの留学を控えている芳子に付き合って、空港まで行くリハーサルをしている。

「やっぱり、足を運ばなきゃ分かりませんからね」

 要所要所で足を止めて周囲の景色をスマホの地図と重ねて確認。

 ノホホンとしているようで、こういうところに手を抜かないところが芳子の長所だ。

「要領悪いんですよね、小栗先輩とかはグーグルで調べたら、あとはぶっつけ本番で行ってますよ」

「いや、大事なことだぞ。自分の力を知って準備しておくということは。それに、スマホのナビじゃ分からないこともあるからな」

「あはは、ですね」

 そう笑いながら、電車が来るまで今川焼を頬張っている。

 乗り換えの為に階段を下りたら、いい匂いがしてきて、足を止めると新規開店の今川焼の出店が開いていて、オープン特価の今川焼を買って、ベンチでパクつきながら乗り換えを待っているのだ。

「あ、来ますよ!」

「おお」

 急いで残りを頬張る。車両の中でモグモグするわけにはいかないからな。

 一人なら座れる席があったけど、芳子と二人、扉の所に立つ。

「やっぱり景色見えるのは楽しいですね♪」

「そうだな、景色も運賃のうちだな」

 芳子は、元来もの喜びする性質で、缶コーヒーを奢ってやっても、目を盛大にへの字にしてくれる。

 横に立っていても、芳子の瞳はせわしなく左右に動いているのが分かる。

「あ、次の駅は『天空橋駅』って云うんだ!」

 通過する駅の表示板を目ざとく見つけて感動を発する。

「空港にピッタリの駅名だな」

 天空といっても、空中に浮いていてファンタジーが生まれるような駅ではない。川を渡って、空港につく一つ手前の小さな駅だ。

 駅の開設に合わせて駅名を募集して選ばれた駅名であるらしいが、わたしも好きだな。

 天空とくれば、一般にはアニメに出てくる空中都市を連想するんだろう。

 わたしにとっての空中都市は、ブァルハラで、煙たい親父の顔しか浮かんでこないのだが、まあ、それもいい。

 

 うん……?

 

 芳子の姿が二重にボケる。

 あ、例の……。

 芳子を留学に急き立てたのは、自分の名前も忘れた女学生の霊だ。

 いつもなら、名前を付けて昇華させてやるが、こいつは憑いたままにしてある。

 いや、違う。

 女学生の他に、別のが憑いている。巧妙に女学生の陰に隠れているが、車体の振動でブレるので分かってしまう。

 男の霊だ……戦時中に撃墜されたアメリカの戦闘機乗りだ。

―― おい、おまえ ――

『Oh, you can see me?(え、見えているのか?)』

―― ああ、丸見えだ ――

『…………』

―― おまえは、ヘンリー・マクブライドだ ――

『Oh, yeah. ......(そ、そうか……)』

 少しだけ悔しそうな顔をすると、スルスルと芳子から離れ、過行く天空の駅の駅名表示のところから立ち昇って行った。

 駅の名前も、優れたものは、昇天のよすがになるのかもしれない。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・69『御籠りの五日間・3・御神渡り』

2022-09-19 07:12:58 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

69『御籠りの五日間・3・御神渡り』オメガ 





 一口にエロゲと言ってもいろいろだ。

 とにかくエッチをしまくるシミュレーションもの。

 ストーリーもへったくれもなくて、徹頭徹尾エッチ! 主人公以外の男が死に絶えた世界とか、時間が停まってたりとか、試合して勝っても負けてもエッチな展開しかねえとか、自分以外に男が居ないクラブを経営するとか。中には男女のキャラやらアバターやらも一からカスタマイズして声や性格まで決めていたすもの。シグマが「こんなのもあります」とVRになってんの見せてくれたが、うちのサブカル研ではやらない。
 

 その対極にあるのがシナリオゲー。

 ほとんどノベルと同じで、ストーリーが命。たいていフルボイスになっていて、画面に出てくるキャラが喋ってくれる。当然声優さんたちが演じてくれているんだけど、その熱のこもり方、表現の豊かさに、最初はびっくりしたものだ。

 途中に様々な分岐があり、どの分岐を選ぶかによって付き合えるパートナーが変わってくる。

 物によっては分岐が百以上もあって、エンディングが分岐の組み合わせで無数と言っていいほど別れるものもある。

 俺たちサブカル研がやっているのは、主にこのシナリオゲーで、まだ初心者の俺はシグマの勧めで数本やっただけだけど、正直目から鱗の毎日だ。

 モノにもよるけども、最後の方にならなければエッチフラグが立たないものが結構ある。エッチに至らなければ、普通のノベルゲームと変わらない。

「これも、元々はエロゲだったんですよ」

 シグマが開いたフォルダにはプレイステーションなどの、俺だってタイトルぐらいは知っている普通のゲームが並んでいた。いわゆるコンシューマー版てやつだ。

「ここにこういうイベントが入っているんです」

「オ……オーーーー!」

 プレイステーションでは手を握ったり、ハグしたり、せいぜいキスするだけなのが、男女の距離に寄って様々なエッチの展開になる。

「……この方が断然ナチュラルってか、展開として自然に広がっていくよなあ」「もう、ほとんで文学じゃんよ」

「じつはですね……」

 シグマの講釈が始まる。意外な名作アニメやドラマの原作が、こういうゲームだったり、監督がエロゲ畑出身だったりする。

「『冬のコナタ』の元ネタは……というエロゲで、『君のわな』の監督はエロゲで力をつけてきた人で、こういうところの表現が……秀逸で、この○○のダイナミックさは……」

 シグマの解説に聞きいってしまう(^_^;)

 エロゲの感動が無ければ、学食の前で堂本に弄られているのを助けただけで、それ以後のシグマとの付き合いは無かっただろう。

 座卓の上のエロゲは、そう言うのばかりだったから、ノリスケの横で見ているだけの増田さんにも抵抗はない。

「『蒼空に翼広げて』は、もうじきフラグが立つぞ」

 ノリスケがやっているのは、先月コンプリートしたやつだったので湯船の中で忠告を与える。

「いや、つばさルートを先にやったんで、夕方には初エッチになってしまった」

「え、そーなのか!?」

「おまえ『まにてつ』に熱中してたから気づかなかったんだろ」

「増田さんは?」

「ビックリしたようだけど、なんか、コクコク頷いてたぞ」

 もう三日目になるんで、それぞれのゲームも最初の佳境に入っているようだ。あれこれゲームの感想を言い合っていると、のぼせそうになって来た。

「そろそろ出ないと、女子の時間だぞ」

「あ、今日は女子があとだったな」

 御神楽大神神社の豊楽殿はよくできているが、旅館ではないので、風呂は時間を決めて男女交代で入っている。

 風呂そのものはゆったりとしたL字型になっていて、Lの横棒の所がガラスになっていて眺めがいい。横棒と縦棒の角の所は大きな岩がドデンとあって、入り口からは目隠しになっている。

 ジャブジャブと岩の角を曲がるのと湯気に曇ったガラス戸が開くのが同時だった。

 エ……ア…………

 無防備に湯船から立ち上がった俺たちの前には、前も隠さないシグマと増田さんが立っているではないか!

 ゴメン! キャ!

 謝るのと叫ぶのが同時で、ノリスケと二人速攻で風呂を飛び出した。

 今日は神社の都合で時間がズレていたのを女子は気づていなかったんだと思う。

 気まずいんで確認はしなかったけどな。

「御神渡りがありますので、豊楽殿の半分を閉めます」

「おみわたり?」

 巫女さんの言葉にポカンとするばかりだ。

「えとね……」

 風信子が補足してくれる。

「神さまがお通りになる道が今夜から豊楽殿に掛かるの、掛かる部分は使えなくなるから、座敷の半分に結界を張ることになるのよ」

 座敷に戻ると、半分の所に結界を示すしめ縄が張られていた。

 それまで几帳を挟んで座敷の両端に敷いていた男女の寝床が、接するほどに近くなってしまった。

 衣擦れの音だけでもドキドキしたのに、今夜は几帳の向こうからオメガと増田さんの気配が距離の二乗倍で濃厚になる。

 風呂で一瞬見てしまった二人の無防備な姿が、どんどん脳みその中で際立ってくる、ああ、やんぬるかな!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

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