大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・346『目をつぶった』

2022-09-10 20:37:45 | ノベル

・346

『目をつぶった』さくら & 頼子   

 

 

 頼子さんが学校休んでる。

 

 頼子さんとの付き合いは四年になるけど、二日続けて学校休んだことは初めて。

 王女さまやから、たまに早引きとか早退とかはあった。お婆さまの女王陛下が来日された時は、いっしょに行動せなあかんかったりして、早退してたし、東京での行事を終えた時は遅刻してた。

 せやけど、昨日今日と二日続けての休み。

 ソフィーも休んでるから、王室の仕事やいうのんは見当つくねんけどね。

 ペコちゃん通じて探ってみても「家庭事情で休んでるんだって」という漠然とした答えしか返ってこうへん。

 なによりもね、今まではメールをくれてたのに、今回は突然でなしのつぶて。メール送っても既読マークもついてへん。

――たぶん、たぶんだけどね……エリザベス女王と関係ある――

――え、頼子さんはヤマセンブルグの王女さまやで――

 下校中の電車の中、留美ちゃんとメールのやり取り。

 電車の中で声出すのんが憚られるいうこともあるねんけど、頼子さんの身分考えたら、他の人が居てる電車の中で口にすること自体がNGのような気がする。

 ヤマセンブルグ王室と英国王室の関係は深いし、今回の御不幸も知ってるけど、まだ、ご葬儀のだんどりも分かってへん。

 動くにしても早すぎる。

――一般人とはちがうからね……――

 この夏休み、みんなでヤマセンブルグ旅行に行って、そこで、頼子さんは日本国籍を捨てて、正式な王女様になった。

 なんとか、自分の中で折り合いをつけて、この事実を受け止めたとこや。

 なんとか、いつものうちらに戻れて、部活の散策部もがんばろういう気持ちになってた。

――だいじょうぶ、頼子さんの判断は間違っていたことないし、きっと連絡くれるよ――

――せやね――

 そこまで打ったとこで、電車は大和川の鉄橋を渡り出した。

 ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン

 鉄橋渡る音と振動が、なんや理不尽で、それ以上メール打つのは止めて、うちは目をつぶった。

 ひょっとして、もう会われへんのんちゃうやろか……

「バカなこと言うんじゃないわよ」

 留美ちゃんが声に出して怒る。

 うち、知らん間に声に出てたみたい(-_-;)。

 それから、堺東に着くまでは、目ぇつぶって、じっとしてるわたしらでした。

 

 

 お祖母ちゃんがおかしい。

 きのうスカイプしてきて、ポロポロと涙を流すだけでなにも言わない。

 十分ほどして、やっと言った一言が。

『ヨリコ、すぐに来て』

「え、どうしたのお祖母ちゃん!?」

 すると、画面が切り替わって、サッチャーさんが出てきた。

『失礼します、殿下。もう、ご存知の事とは思うのですが、エリザベス女王が崩御なさいました。それで……』

 二重の意味でびっくりした。

 早朝だったので、わたしは英国王室の御不幸をまだ知らなかったし、こんなに落ち込んだお祖母ちゃんを見るのも初めてだった。

 それから、総領事とも話をして、外部にはいっさい内緒で、その足で飛行機に乗った。

 学校には『家庭事情で休みます』とだけ電話した。

 さくらたちには済まないけど、今回ばかりは、なにも伝えられない。

 お祖母ちゃん大丈夫だろうか……

「大丈夫ですよ、殿下」

 いつの間にか、隣のシートにソフィーが来ていた。

「そうね、ありがとう、ソフィー」

 ひょっとしたら、何カ月、何年か日本には帰れないかもしれない。

 いや、ダメだ。

 わたしの帰るべき場所はヤマセンブルグしかないんだ。

 少しでも眠っておこう。

「どうぞ」

 ソフィーが眠剤と水をくれる。

「ソフィー」

「なんでしょうか?」

「面構えが、ジョン・スミスに似てきた」

「光栄です」

 それだけ言うと、よきガーディアンは、通路を挟んだ本来のシートに戻って行った。

 薬を下の上に載せて、ゆっくりと水で流し込む。

 とりあえず、目をつぶった。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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ピボット高校アーカイ部・23『ろって・2』

2022-09-10 14:21:13 | 小説6

高校部     

23『ろって・2』 

 

 

 自転車二台がプッペをめざしている。

 

 前の自転車は僕。後ろの自転車は先輩だ。

 先輩の自転車の荷台にはウィンドブレーカーのフードをすっぽり被った女子が、先輩の背中にしがみ付いて乗っている。

 微妙に変なんだけど、まあ、部活で遅れた生徒が帰宅の風景には見えているだろう。

 

 実は、先輩にしがみ付いているのはロッテなんだ。

 

 生徒手帳の切れはしにロッテを憑依させて部室に戻って、先輩は、自分の日常体に憑依させ直した。

 同じ人形として、体が無いロッテを可哀そうに思ったんだ。

 雑で変態の先輩だけど、根っこにあるのは、優しさなんだろうね。

 むろん、僕に説明したりはしないんだけど、先輩の目の色を見ていれば分かる。

 

 先輩は二つのボディーを持っていて、日常の学校生活と部活で切り替えている。

 先輩は、部活中で休止状態の日常体をロッテに使わせてやろうと、泰西寺から自転車をとばして部室に戻ってきた。

 ところが、憑依し直すのはいいけど、日常体には頭が無い。

 そこで、レジ袋に紙くずを詰め込んで頭の大きさにしてソケットにくっつけて、ウィンドブレーカーを着せてあるんだ。

「プッペに行くぞ!」

 その一言で分かった。先輩は、ロッテをちゃんとした人形にしてやりたいんだ。

「プッペに行ってなんとかなります?」

「ああ、今日はメンテナンス後最初の検診の日で、一石氏が来ている」

 そうか、あの精霊技師の一石さんなら、なんとかしてくれるかもしれない。

 その会話以外は一言も喋らない先輩。

 ロッテが可哀想で、ロッテの運命が呪わしくて、出会った直後に気付いてやれなかった自分が腹立たしくて、先輩はがむしゃらにペダルをこいでいるんだ。

 

「やれやれ……」

 

 一石さんは、最初にひとことため息交じりにこぼしただけで、ロッテの診察に移った。

「……ちょっと無理があるけど、なんとか馴染んでるね。日常体は優しくできているから、小さな子のソウルでも受け入れられるみたいだね」

「よかった……」

「でも、問題は首なんじゃないですか?」

 マスターが最大の問題点を指摘する。

「仕方がない、補修用のラウゲン樹脂を使おう」

 一石さんは、往診用の革鞄から、樹脂のチューブを取り出した。

「これだけで足りるのか、先生?」

 まるで、妹の治療が気になって仕方がないお姉ちゃんのように先輩が眉を顰める。

「そうだね、なにか芯になるような……イルネさん、そのブロートいただけますか?」

「あ、はい、どうぞ」

 ブロートは、少し大きめの硬いパンで、芯にするにはうってつけ……て、いいんだろうか!?

「なあに、焼き上がったら、ブロートは掻きだして食べればいい」

 一石さんは、ブロートにラウゲン樹脂を盛って、ほんの三十分ほどで女の子のヘッドを作ってしまった。

「小顔で可愛いな……」

「ちょっと、先輩の妹って感じですね」

「そ、そうか(^o^;)」

「あ、頭に塗るラウゲン液はちがうんですね」

「うん、髪の毛と眉毛の生えてくるところは、種類がちがうんだ」

「どんな髪になるんだろうなあ(^^♪」

「用意してきた訳じゃないから、普通のブロンドだね。さ、あとは焼き上がりを待つだけだ」

 イルネさんが窯に入れて、温度設定。

 焼き上がるまで、ラボのテーブルを囲んでお茶にする。

 

 チーーン

 

 三十分焼いて、出てきたのは、やや童顔なかわいい女の子のヘッドだ。

 ちょっと、芯材に使ったブロートが心配だったけど、一石さんは器用に抜き出した。

 ブロートとは分かっていても、ヘッドの中から掻きだされては、ちょっと(^_^;)という感じだったので、丸々抜きだすというのは抵抗が少ない。

 みんなで食べた。

 より香ばしくなって美味しかったんだけど、あとになってみると、やっぱり複雑な気がしないでもない。

 

「え、これが、わたしなの?」

 

 首を装着したロッテは、鏡に映った自分が不思議でたまらない感じだったけど、シゲシゲと映しているうちに、しだいにバラのように頬を染めていく。

「う、うれしい……」

 百年後に、やっと自在に動く体を手に入れたロッテは「うれしい」と言っただけなんだけど、万感の思いが籠っていて、先輩でなくても感動した。

 学校に連れて帰るわけにもいかず、ロッテはプッペで働くことになった。

 店員の制服の胸には「ろって」と平仮名の名札が付けられた。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・60『臨時の避難訓練!』

2022-09-10 06:27:54 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

60『臨時の避難訓練!』オメガ 




 臨時の避難訓練を行いまーす!

 ヨッチャンの声が教室に響いた。


 いつもノホホン顔のわが担任はメチャクチャに緊張している。

「かの国のミサイルが飛んでくる可能性、今日がいちばん高いのです! ミサイル攻撃に対しては、通常の避難訓練では対応できないのです!」

 クラスのみんなもテレビやネットの情報で、かの国が軍創設記念日で、核実験やミサイル攻撃をやる可能性が高いことを知っている。いつになく真剣な眼差しで、ヨッチャンの指示に耳を傾けている。

 実のところ、ヨッチャンは感動しているんだ。

 教師になって四年、担任になって三年、ヨッチャンは、こんな真剣に話を聞いてもらったことはないのだろう。

 教卓に両手をついて、身を乗り出すようにして説明をしている。だれかに似ているなあと思ったら、世界史で習ったレーニンだ。十月革命だったかで、演壇に手をついて拳を振り上げて演説してるレーニンの雰囲気だ。そういや野党の女性議員にもこんな感じのがいたなあ。

 教卓の前には副委員長の木田さん。

 木田さんは俺やノリスケと同じく二年のクラスからの持ち上がり、気のいいお嬢さんなんだけど、頼まれた仕事をよく忘れる。

 そのたんびにお鉢が回ってきて、俺が代理で使われる。

 根は真面目な木田さんなので、気にはしている。

 だけど気にしているのは担任のヨッチャンに対してであり、代わりにかり出される俺に対してではない。
 
「みんないい!? 緊急放送がかかったら机の下に隠れるのよ! いつもみたいにグラウンドには逃げないの! 外に出ちゃ危ないから、頭を抱えて机の下に隠れるの! いいわね!」
 
 ヨッチャンの唾が飛んでくるんだろう、後ろから見ていても木田さんは嫌そうだ。

 でも、ヨッチャンに引け目が有るので我慢してるんだ。悪いけど、ちょっと面白い(^_^;)。

「じゃ、一回やってみるね! ハイ! 机の下に隠れて!」

 ゴソゴソと音がして、クラスのみんなが机の下に潜り込む。学校と名の付くものに入って十二年目だけど、みんなで机の下に潜り込むのは初めてで、新鮮というか、壮観だ。

 痛い!

 木田さんの声がした。

「先生、机の下にネジが飛び出ていて頭に引っかかるんですが……」

 都立高校の生徒机というのは昭和の時代から引き継がれてきたもので、相当にガタがきている。

「困ったわね……そうだオメガ君の前が空いてるから、臨時に、そっち行ってくれる?」

「はい、分かりました」

 従順な木田さんは、直ぐに立ち上がって俺の前の席にやってきた。

 待つこと三分。

――緊急連絡! 緊急連絡! ○○のミサイルが間もなく東京都内に着弾します! みなさん所定の避難行動をとってください!――

 みんな一斉に机の下に潜り込む。

 で、ドキッとした(# ゚Д゚#)。

 目の前十センチほどの所に木田さんのお尻がある。

 むろんお尻と言っても、見えるのはスカートなんだけど、スカート越しとは言え、こんな間近に女の子のお尻がくるのは、保育所時代以来だ。保育所の頃はかくれんぼとか馬跳びとかやっていて風信子とかのお尻を間近にしたことはあるけど、あれはほんのガキンチョだ。

 木田さんのそれは違う、現役女子高生のリアルお尻だ。

 サブカル研のエロゲでは、こういうのは日常茶飯なんだけど、あくまで二次元の映像だ。リアルの破壊力は核ミサイル並だ……。

 ゲーム用語ではラッキースケベとか言うんだが、リアルでは拷問に等しい。

 視線を落とすが、視野の上端には、どうしてもプリーツスカートがチラチラしてしまう。

 あろうことか、そのプリーツスカートがずり上がり、スカートの中のものが眼前に迫った!

 一瞬パニクったが、すぐに状況が理解できた。

 なぜか木田さんは気絶して、頭を抱えたまま前のめりに倒れてしまったのだ!

 少し姿勢をずらして、さらに分かった。

 倒れた木田さんの頭からは一筋の血が流れだして、床に溜まり始めているのだ!

「先生、木田さんが!」

 俺の声に、すぐにヨッチャンは駆けつけたが、こういう状況には慣れていないので「木田さん! 木田さん!」と呼びかけるだけで、何もできない。

「保健室に運びます!」

 そう言うと、俺は木田さんを抱えて保健室に向かったのだった。

 この状況は、今月に入って二回目だぞ(-_-;)。


☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

 

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