せやさかい・346
頼子さんが学校休んでる。
頼子さんとの付き合いは四年になるけど、二日続けて学校休んだことは初めて。
王女さまやから、たまに早引きとか早退とかはあった。お婆さまの女王陛下が来日された時は、いっしょに行動せなあかんかったりして、早退してたし、東京での行事を終えた時は遅刻してた。
せやけど、昨日今日と二日続けての休み。
ソフィーも休んでるから、王室の仕事やいうのんは見当つくねんけどね。
ペコちゃん通じて探ってみても「家庭事情で休んでるんだって」という漠然とした答えしか返ってこうへん。
なによりもね、今まではメールをくれてたのに、今回は突然でなしのつぶて。メール送っても既読マークもついてへん。
――たぶん、たぶんだけどね……エリザベス女王と関係ある――
――え、頼子さんはヤマセンブルグの王女さまやで――
下校中の電車の中、留美ちゃんとメールのやり取り。
電車の中で声出すのんが憚られるいうこともあるねんけど、頼子さんの身分考えたら、他の人が居てる電車の中で口にすること自体がNGのような気がする。
ヤマセンブルグ王室と英国王室の関係は深いし、今回の御不幸も知ってるけど、まだ、ご葬儀のだんどりも分かってへん。
動くにしても早すぎる。
――一般人とはちがうからね……――
この夏休み、みんなでヤマセンブルグ旅行に行って、そこで、頼子さんは日本国籍を捨てて、正式な王女様になった。
なんとか、自分の中で折り合いをつけて、この事実を受け止めたとこや。
なんとか、いつものうちらに戻れて、部活の散策部もがんばろういう気持ちになってた。
――だいじょうぶ、頼子さんの判断は間違っていたことないし、きっと連絡くれるよ――
――せやね――
そこまで打ったとこで、電車は大和川の鉄橋を渡り出した。
ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン
鉄橋渡る音と振動が、なんや理不尽で、それ以上メール打つのは止めて、うちは目をつぶった。
ひょっとして、もう会われへんのんちゃうやろか……
「バカなこと言うんじゃないわよ」
留美ちゃんが声に出して怒る。
うち、知らん間に声に出てたみたい(-_-;)。
それから、堺東に着くまでは、目ぇつぶって、じっとしてるわたしらでした。
お祖母ちゃんがおかしい。
きのうスカイプしてきて、ポロポロと涙を流すだけでなにも言わない。
十分ほどして、やっと言った一言が。
『ヨリコ、すぐに来て』
「え、どうしたのお祖母ちゃん!?」
すると、画面が切り替わって、サッチャーさんが出てきた。
『失礼します、殿下。もう、ご存知の事とは思うのですが、エリザベス女王が崩御なさいました。それで……』
二重の意味でびっくりした。
早朝だったので、わたしは英国王室の御不幸をまだ知らなかったし、こんなに落ち込んだお祖母ちゃんを見るのも初めてだった。
それから、総領事とも話をして、外部にはいっさい内緒で、その足で飛行機に乗った。
学校には『家庭事情で休みます』とだけ電話した。
さくらたちには済まないけど、今回ばかりは、なにも伝えられない。
お祖母ちゃん大丈夫だろうか……
「大丈夫ですよ、殿下」
いつの間にか、隣のシートにソフィーが来ていた。
「そうね、ありがとう、ソフィー」
ひょっとしたら、何カ月、何年か日本には帰れないかもしれない。
いや、ダメだ。
わたしの帰るべき場所はヤマセンブルグしかないんだ。
少しでも眠っておこう。
「どうぞ」
ソフィーが眠剤と水をくれる。
「ソフィー」
「なんでしょうか?」
「面構えが、ジョン・スミスに似てきた」
「光栄です」
それだけ言うと、よきガーディアンは、通路を挟んだ本来のシートに戻って行った。
薬を下の上に載せて、ゆっくりと水で流し込む。
とりあえず、目をつぶった。
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
- 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
- 夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
- ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
- 月島さやか さくらの担任の先生
- 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
- 女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首