大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・345『あずきバーとペコちゃん』

2022-09-03 18:02:07 | ノベル

・345

『あずきバーとペコちゃん』さくら   

 

 

 ねえ、見てよ!

 

 お風呂から上がったら、留美ちゃんがパソコンの画面を指さしてる。

「え……アハハハ( ´艸`)」

 思わず口を押えてしまう。

 動画のタイトルは『怒れるフランス人』です。

 

 フランス人のカップルが、浅草の雷門。はんぶん怒って、はんぶん面白がってる。

『日本はキュートで好きだけどさ、これはあり得ないわあ』

 男が、右手に持ったそれを左手で指差してる。女の人が『ちょっとやめときいや』いう感じ。でも、目ぇ笑てるから、なんや面白いこと言うんやろねえ。

 なにを言いよんねん? すると、お前にだけ教えたるいう感じでカメラに寄って来る。

『そこで買ったアイスなんだけどさ、世界で一番硬い! 硬すぎる! 知らずに齧りついたら、ぜったい歯を折ってしまうぞ!』

『でも、美味しいよ(^_^;)』

 彼女がフォローして、はんぶん面白がって、男がガキっと奥歯で嚙み切った!

 

 それは、うちが大好きな『あずきバー』やおまへんか!

 

 おぜんざいをそのままに凍らせたような、いかにも日本のアイスいう感じのあずきバー。

 うちらはまるカブリなんかはせえへん。

 最初、ペロペロ舐めて、それから前歯で削るようにして齧る。

 すると、お善哉の甘さが口の前の方から広がってきて、もっかい、ひと齧り。

 やがて、小豆が顔を出して、冷やし善哉。でもって、全体に張った霜が、だんだん小さなって、小さなったとこは柔らかなって、ガブっと齧りつける。

 他のアイスよりも溶けるのん遅いし、美味しいし、うちはあずきバーが大好き。

「これって、ソフィーが初めてあずきバー食べた時といっしょだよね」

 留美ちゃんがくすぐったそうに喜ぶ。

 

 まだ、語尾に「です」が抜けきれへんかったころのソフィー。

 本堂の階段に頼子さんと四人腰かけて食べたあずきバー。

『なにかの呪いですか!?』

 魔法使いの末裔は、戦闘的な顔であずきバーの齧り跡を見つめてたっけ。

 そのソフィーも、こないだ頼子さんと昼寝に来た時は、うちらと同じ食べ方をしてた。

 

 で、放課後のキャフェテリア。

 

 二割ぐらい霜が消えたあずきバーを持って、スマホを見つめてるペコちゃん先生。

 後ろからそーっと回って、留美ちゃんと覗いてみる。

 え?

 スマホの画面は、お台場の大観覧車とアンナミラーズの停止と閉店のニュースをやってる。

「え、あ、やだなあ(n*´ω`*n)」

 気ぃつい照れまくるペコちゃん先生。

「なにか、思い出があるんですか?」

 留美ちゃんにしては直球の質問。

「え、あ、うん……」

 そう言うて、あずきバーの先を二センチ近く齧る。フランス人の男並みに歯が強いみたい。二人で感心。

「「おお」」

「……学生の頃にね、ここでバイトしてたの」

「ええ!?」

 アンナミラーズは、うちでも知ってる。行ったことは無いけど、日本で一番制服の可愛い喫茶店ですやんか!

 ミニスカートの切り返しが高い位置(ほとんどオッパイの下)にあって程よくバストが強調されて可愛い!

 スカートはオレンジ系の暖色、色は何色かあって、ブラウスの白に映えてる。

 こ、これをペコちゃんが着てたぁ!?

「ほら、この人……」

 スクロールすると、雑誌の表紙にもなったという伝説の神メイド、いやカリスマウェイトレスさん!

 今は、結婚してお母ちゃんになってはるねんけど、最後にお客で来てはるのが写ってる。

「笑顔とか、人との接触の仕方というか接客とか、ここで勉強したんだよ……友だちも、ここのバイト仲間が多かったし。まる三年やって、ほんとに、わたしの青春だった……かな?」

「いやあ、先生やったら不二家でバイトしてたと思ってましたぁ(^▽^)/」

「アハハ、顔は生まれつきだからね」

 気が付くと、先生のあずきバーは最後のひと齧りを残すだけになってる。

「でも、なんであずきバーなんですか?」

「え? ああ、このあずきバーの会社の経営なのよ……ガブリ」

 先生は、最後をひと齧りにすると、時計を見て行ってしもた。

 うちらも、時間なんで部室にいくことにしました。

 二学期の学校も、いよいよ平常運転です。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ピボット高校アーカイ部・22『ろって・1』

2022-09-03 14:34:55 | 小説6

高校部     

22『ろって・1』 

 

 

 僕にも見えるようにしてくれたんだけど、先輩は言葉を発しない。

 じっと、その子を見ているだけだ。

「な、名前はなんていうのかな?」

 沈黙に耐えられなくなって口を開いたのは僕だ。

「ロッテ……」

「ロッテ、そうか、いい名前だね(^o^)」

 目は合わせないんだけど、少し上げた顔はほんのりと染まって、七歳くらいなのに、初めて告白された少女のように時めいているように見えた。

 ち      先輩は小さく舌打ちをした。

「先輩!」

「フルネームは、ロッテ・ビルヘルム・バウマンだな」

「え?」

「おまえは、ここの墓地に葬られているヤコブ・ビルヘルム・バウマン軍曹の娘……」

 ブンブン     ロッテは激しくかぶりを振った。

「最後まで聞け」

 ?

「ヤコブ軍曹の娘の人形(ひとがた)だ」

 コクコク

「あ?」

「思い出したか、傀儡温泉の人形(ひとがた)にロッテと書かれたものがあっただろ。それが、こいつだ」

「え、えと……ダ、ダンケシェーン」

 小さくお礼を言うと、いたたまれないように背中を向けて、お寺の奥に逃げてしまった。

「ロッテ!」

「放っておけ、行くぞ」

「先輩!」

「つべこべ言うな!」

 

 それから、先輩は学校に戻らず、僕を載せたまま貫川に沿って自転車を浜辺までかっ飛ばし、浜辺に自転車を転がしたままドラヘ岩に登った。

 

「願掛けのお札とか人形とかは願掛けをした段階で働きを失うものなんだ」

「そうなんですか」

「いわば、願いを載せる器のようなものだからな用が済めば虚ろになる。切れた電池のようなもんだ。だから、傀儡温泉の人形や人形(ひとがた)は不気味だけど、みんな虚ろだった……それが、あいつだけが生きている」

 言われれば不思議なんだけど、ピンとこなかった。ロッテは儚げでおどおどしているけど、ささやかに、先輩の力を借りなければ僕には見えないくらいささやかに命を保っていた。捨てようとしていた電池の中に、ちょっと電気が残っていた。そういうことなんじゃないのか? 

 岩の上、腕を組んで口を結んでいる先輩のむつかしさは、ちょっと戸惑ってしまう。

「分からんか……あいつは、ロッテという女の子の回復を願って作られたヒトガタだ。それが百年の後に姿を残しているのは、あいつが作られた時点でロッテはすでに死んでいるからだ」

「あ……!」

「どんな因果かヤコブ軍曹は極東の戦場に回されたが、国に残した娘の事がずっと気になっていたんだ。だから、捕虜となって日本にやってきて、要の町で傀儡温泉のことを知って、ヒトガタに願いを掛けた。おそらくは、もう自分の命が長くないと悟ってもいただろうしな」

「そうか、だから……行き場の無くなったロッテは、ヤコブ軍曹が葬られた泰西寺に……」

「軍曹は天国で本物のロッテに会えただろう……あの軍曹の墓からは安らぎしか感じなかったからな」

「じゃ、あのロッテは?」

「知らん!」 

「…………」

 僕は思い返した。

 傀儡温泉に残されたドイツ語で書かれたヒトガタたちを。

 みんなハガキ大の大きさの木札に名前が書かれていた、むろん微妙に大きさは違う。たいていはこけしのようになっていて、おおよそ人のシルエットになっている。日本のヒトガタに倣ったものだ。

 その中で、ロッテのものは小さな名刺大でしかなかった。印象に残ったのは、その小ささだったのかもしれない。

 まあ、異国の温泉のお呪いめいたものだから、その程度の間に合わせのもので…………いや、ちがう。

「先輩、ロッテはちゃんとした人形(にんぎょう)だったんですよ!」

「なんだと?」

「あのブリキ橋や石垣を作った捕虜たちです、あんなに、仲間の捕虜たちや要の人たちに愛された軍曹です。その願いを載せるのに名刺大の木札で済ませるわけがない。きっと、キチンとした人形に仕立てて、その中に札が縫い籠められていたんですよ。古い人形は温泉の湿気と熱で朽ち果てていたじゃないですか、だから、人形はとっくに朽ち果てて、それ以上の腐食と劣化を防ぐため、お札だけ資料館の方に回されたんですよ」

「やつは、わたしと同じ人形だったのか……そうだったのか……」

「先輩……」

「寺に戻るぞ!」

 

 それから、先輩は僕を連れて泰西寺に戻り、生徒手帳を千切って『ロッテ・ビルヘルム・バウマン』と書いて、とりあえず、そこに憑依させた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・53『図書室のガイダンス』

2022-09-03 07:12:48 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

53『図書室のガイダンス』小菊 





 わたしじゃありませんから……。

 涙目になりながら、増田さんが言う。

「わかってるわよ、増田さんは……」

 後の言葉を飲み込んだ。

―― 言えるくらいなら、もう友だちできてるわよね ――

 入学してから半月近く、増田さんは、あたし以外には友だちってか、まともに口の利ける相手がいない。だから目撃者だとは言え、彼女が広めた話ではない。

 なんの話?

 あれよあれ、寿屋さんの前であいつといるところを目撃された話。

 お花見の幔幕を借りに行ったんだけど、寿屋さんがラブホだってことが飛んでしまっていた。

 だって、ご近所で、子どものころから出入りしてるんだし、娘さんの幸ちゃんは、あたしの憧れのオネエサンだったし。

 でも、ラブホはラブホ、地域以外の部外者が見れば、男女二人が出てくるのを目撃したらドキッとするよね。

「増田さんは信用できるから」

 言い直してからまずいと思った。

 信用できるからというのは、増田さんなら人に言ったりしないよねってことで、そこから読み取れるのは「増田さんが見たのは真実だよ」ということになり、弁明することがいっそう難しくなる。

「うん、人に言ったりしない。ああいうことが出来るということが、わたしは素晴らしいと思ってますから(;'∀')!」

 あー、完全に誤解してるよ(=゚Д゚=)。

 けど、ま、いいや。現時点であいつと兄妹であることがバレるよりはましだ。

 今日は二時間目に図書室のガイダンスがあった。

 司書の先生が図書室の案内やら本の借り方を説明してくれる。

 なんでも、卒業するまでに図書室の説明を受けられるのは、この一回限りだから、しっかり聞いておくようにって枕詞が付く。

 自慢じゃないけど、図書室で本を借りたことも無ければ借りる予定もない。

 だから、お行儀よくボーっと聞いてるふりだけしておく。

「……ということで、残りの時間は、実際に本を手に取ってみてください。もし借りたい本があれば、この時間に限って貸し出しをします」

 司書の先生が締めくくる。

 五台あるパソコンから埋まっていく。

 みんなポケットにスマホを忍ばせているんだろうけど、図書室で出すわけにはいかない。

 他の子たちは、団地のように並んだ書架に向かう。

 あたしは入ってきたときにチェックしておいた雑誌コーナーに。

「お……」

 Pティーンが有ることまではチェックしきれていなかった。

 中学の図書室には絶対置いてない雑誌なので少し興味が湧く。

 載ってるモデルには興味ない。みんなバカに見えるかバカそのもの。モテカワ系も媚びてる感じがしてやだ。

 ま、彼女たちのファッションに、あーだこーだと思いながらページをめくるのが楽しいっちゃ楽しい。

「ん……」

 ツンデレモデルのところで手が止まる。

「似てるなあ……」

 作ったんじゃなくて、地のままツンデレですって感じなのが、なんとなく、あのシグマに似ている。

 Σ口も地のままだと魅力あるのかも……。

 なんで、このページで停まってるんだ!?

 癪になって雑誌ごと書架に戻す。

「へへ、借りてきちゃいましたー」

 増田さんが嬉しそうに本を抱えてやってきた。

「あら、読みたかった本なの?」

「『耳をすませば』ですよ」

「え、耳?」

「ほら、ジブリアニメの!」

「あ、あーーー」

 思い出した。

 図書館の貸し出しカードが元になって、中学生の男女が付き合い始めて夢を追いかけるとかって話だ。実写版もできたとか云ってた、主人公は雫って言ったっけ?

「そうそう、月島雫です。素敵ですよね、あの出会いは(*’▽’*)!」

「ハハ、増田さんは、ああいうのに憧れてるんだ」

「はい、わたしの汐(しほ)って名前はここからきてるんです!」

「え、汐?」

 たしかに増田さんの名前は汐だけど、アニメとおりなら雫でしょ?

「フフ、雫のお姉さんが汐ですよー♪」

「あー、そうだっけ(^_^;)」

「こうやって本を借りれば、わたしにも開けてくるかもしれませんよ」

 あー、でも、今はバーコードの読み取りで、貸し出しカードなんてないから出会いなんかありえないんだけど。

 思ったけど、もう一度言葉を飲み込んだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする