大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

漆黒のブリュンヒルデQ・091『世田谷城址公園』

2022-09-26 16:01:28 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

091『世田谷城址公園』   

 

 

 こんなところがあったんだ……

 

 学校帰り、芳子と二人で足を伸ばして世田谷城址公園に来ている。

 いや、足を伸ばすというほどではない。

 なにせ、豪徳寺の南隣だ。

 通学路との間にマンションが立ちふさがっているが、子どもの頃から住んでいれば、十分に生活圏……というよりも子供には絶好の遊び場だ。通学路からはマンションと重なって背景の森のように見え、豪徳寺の緑とあいまって、日常の景色であって、特に意識することも無かった。

 中世からの城跡を整備したもので、面積は世田谷八幡ほどだろうか、石垣で囲まれた防塁の跡がそこここにあって、防塁の合間を森の小道が走り、小道は枝を伸ばしてそれぞれの防塁を繋いでいる。

「子ども会の行事で来たじゃないですか、昆虫採集とか写生の会だったけど、先輩は男の子と戦争ごっこばかりやって叱られてましたよね」

「え……ああ、そうだったな。勝ってばかりなんで飽きてしまったがな」

 状況に合わせて自動生成された記憶なんだが違和感がない。

 さすがは、北欧の主神と言われた父だ。娘を放逐するにも無駄がない。

「わたしも入れてもらいたかったんですけどね、あの頃は見てるのが精一杯でしたからね」

「そうか、じゃあ、こんど学校のみんなで鬼ごっこをしよう」

「ですね、でも、出発は明後日だから、戻ってからですね」

「そうか、もう明後日なんだなぁ……」

 芳子のアメリカ行きは、半分は芳子に憑りついている女学生の霊が望んでいるからだ。

 ここに来たころなら問答無用に成敗していたかもしれない。

 名前を持たないあやかしは、ただただ危ない存在だと思っていたし、いまも、そのことに変わりはないと思っている。

 今度のことは……まあ、特別だ。

「友だちがね、お握りを落っことして、転がって行ったんですよ」

「おお、おむすびころりんではないか!」

「そうなんですよ! ころころ転がっていくと、本当に切り株のところに穴があって、コロリンと落ちて行って……」

「穴の中に白ネズミとかいたのか?」

「話し声が聞こえて、ともだちと覗いていたら先輩が来たんです」

「え、そうなのか?」

「そしたら、とたんに話し声がしなくなって、お握りも友だちのお弁当箱に戻っていて」

「そうか、なんか、いいことをしたのか悪いことをしたのか分からんな」

「いい思い出です!」

「そうか、それは良かった」

 アハハハハ

 二人で笑っていると、公園の入り口辺りで良からぬ気配がした。

「ちょっと待ってろ」

「先輩……」

 

 公園入口のところに国民服の男が立っている。

 少し疲れた感じで、明らかに戦時中から、このあたりを徘徊しているあやかし、あるいは妖化しかけた零体だ。

 

「そこを動くな! 貴様の名前は……」

『松本順二です』

「なに……」

 国民服は、たった今、わたしの頭に浮かんだ名前をシレっと答えた。

「貴様……」

『お騒がせして申し訳ありません、まだ怪しの空気を纏っているかもしれませんが、浄化の道を進んでおりますので、どうかご容赦のほどを……』

「そ、そうか、ならば行け」

『失礼いたします』

 そう言うと、国民服は横断歩道を渡って道の向こう側に行ってしまった。道の向こう側にはゲートルの学生服が待っている。

 国民服が促すと、学生服は気後れしながらもキチンと礼をして、国民服と共に東の方に去って行った。

 

 芳子の待っている防塁に戻って、ささやかに森林浴を楽しんで家に帰った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・76『夏コミに行きたい!』

2022-09-26 06:53:58 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

76『夏コミに行きたい!』シグマ 





 これの三倍以上の人が来るんだ……

 そう思うとため息が出る。

 ウットリしてるんじゃない、す、すごいなあ(;'∀')……そう感じて尻込みしてしまう。


 気まぐれでテレビを点けたら後楽園球場の試合を映していた。

 ググってみると……後楽園球場は43000人ほど人が入る。

――満席の後楽園球場には定員いっぱい43000人、満杯の野球ファンで埋め尽くされております!――

 アナウンサーの言葉でリモコンを持つ手が止まった。

 画面の後楽園もすごいけど、かねがね行きたかったアソコは一日に17万人、三日で50万人以上の人が集まる。

 夏コミ 20✖✖!

 日本最大!……ってことは世界最大のオタクの祭典!

 中学の頃から行きたかったけど、動画サイトなどで見る混雑ぶりというか密度の高さで諦めていた。

 夏コミに行けば、限定アイテムや同人誌が手に入る。

 これが他府県なら諦めもつくけど、なんてったって東京ビッグサイトだ。始発に乗っても六時前には着ける。

 それに、今のあたしはボッチじゃない、サブカル研のみんなに声を掛ければいいんだ!

 …………でも迷ってしまう。

 オタクと言ってもいろいろなんだ。

 人生全てが二次元というようなガチな人から、数ある趣味の一つですという人まで。

 うちのサブカル研は、あたしが無理を言って、その無理に先輩たちが合わせてくれているところがある。

 そうなんだ、合わせてくれているんだ。

 ノリスケ先輩は元々二次元が好きみたい。パソコンでゲーム進行していても、とてもテンポがいい。

 ゲームで詰まっても「おもしれーじゃねーか」とセーブデータを見て「ここが分岐だったんだなあ(^▽^)」と適切に過去フラグに戻って、すぐにルートに戻ってくる。

 でも、オメガ先輩は途中で投げ出すゲームも多い。

 最初にやってもらった『君の名を』はツボにはまったみたいだけど、先月紹介した『時を掛ける妹』は止まっているみたいで、あまり興味はない様子だ。

 部活らしくやろうということで始めた『バトルフィールドラブ』で勝ったことが一度もない。エロゲなんで勝ちにこだわることもないんだけど、やっぱ、お付き合いでやらされてる感が漂っている。

 冷静に分析すれば、あたしの我がままに、人のいい先輩たちが着きあってくれているということなんだ。

 そこんとこ分かっているから、連休中も無理は言わなかった……言えなかった。

 それで、あたしは風信子先輩に相談してみることにした。

「へー、そういうのがあるんだ!」

 まず感心された。

 

 三日で50万人以上のイベントとはいえ、やっぱ社会的にはオタクの祭典。連日ニュースで取り上げられたたり、スポンサーがついて中継されるようなもんじゃない。情報に接していなければ知らなくて当たり前。

 そもそもオタクのイメージって「異性にモテない」「目を合わせて話さない」「服装がキモイ、あるいはダサい」「引きこもってゲームばっかりやってる」そんな感じ。

 そんなオタクが集まっても、世間は後楽園球場に集まった野球ファンのようには見てくれない。そうなんだよ、野球に関しては「野球オタク」とかは言わない。あくまでファンだよ。サッカーやラグビーとかは、熱狂したファンが発狂して事件を起こすことがあるよね、暴力沙汰になって、暴動めいたり、殺人事件になったり、興奮したファンを鎮めるために機動隊やら軍隊が出撃することも珍しくない。

 オタクが何十万人集まっても、機動隊やら軍隊が出動なんて無いよ。会場に行っても、スタッフが「並んでください」「走らないでください」という注意に見事なくらい従ってる。イベントが終わった時も自主的にゴミの回収とかもやるしね。

 でも、いくら大人しくても、秩序だってても、オタクはオタク。ファンのカテゴライズには勝てない。なんというか、イナゴの大群とかネズミの大群見る感じ。たとえネズミがきれいに一列に並んでも「えらい、キチンとしてるねえ」とは言われないよね。

 去年の夏コミの動画を見ていると、風信子先輩は意外なことを言った。

「ねえ、これって出展とかした方が面白いんじゃない?」

 絶句した、そういう発想は持ったことが無いから……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート


 

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