大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・155『徐福公園』

2022-09-16 15:34:10 | ライトノベルセレクト

やく物語・155

『徐福公園

 

 

 ……環境に優しい乗り物です

 

 視界が戻って目についたのが、この標語なので、いっしゅん黒電話のことかと思った。

 受話器が持ち上がってダイヤルが回って、ちょっと呼び出し音がしたかと思ったら、ここに着いている。

 電話線の中を通って来るんだから、炭素も排気ガスも騒音もないわけで、まさに環境に優しい乗り物!

 と思ったら『鉄道は環境に優しい乗り物です』という青い文字が、鉄筋の建物の幅広の入り口の上に書かれていて、JR新宮駅だということが分かる。

 視線を落とすと、目の前に緑の公衆電話。

 そうか、自分の部屋から電話線を伝って、新宮へやってきたんだ。グーグルアースよりも早いので、ちょっと感動。

 なにより、写真じゃなくてリアルだからね。うちの近所よりも日差しが眩しくて、ちょっとしかめっ面になる。

 ちょっぴり潮の香りもして、海が近いことも偲ばれる。

「ねえ……」

 振り返ると、交換手さんのコスが変わっている。

 なんと、女子高生の制服ですよ。

「あ、やくもさんと一緒なら、こういうのがいいかなって思ったもんですから(^_^;)」

「うんうん、とっても似合ってる!」

 交換手の制服の時は、ずいぶん年上のオネエサンという感じだったけど、JKの制服になると、二つぐらいしか離れてない感じで、とってもフレンドリーになる。

「ほんとうは高等女学校にいきたかったんで、ちょっと制服には憧れがあったんです」

 はにかむ顔は、もうほとんど同級生。

「あっちに行きます!」

 溌溂と指さしたのは、駅前通りを100メートルほどお日様の方向。

 

「あ、なんか中国みたい!」

 

 小走りで三十秒ほど、みかん色の瓦が雰囲気の中国式の門。

 門といっても、扉は無くって、真ん中と両脇に入り口があって、とってもイケイケ。

 横浜の中華街にも同じようなのがあるけど、それよりも大きい。

 徐福公園……と立派な扁額がかかっている。

「ヨフクコウエン?」

「ジョフクと読みます、ジョフク公園」

「じょふく……?」

「中に入ってみましょう」

「うん」

 ……そんなに広い公園じゃないんだけど、雰囲気がいい。

 真ん中に大きな木があって、その周囲に池やら記念碑めいたものやら、門と同じコンセプトの売店やら休憩所やらが並んでいる。

「あ、諸葛孔明!」

「いえ、徐福です(^_^;)」

 三国志でお馴染みって石像があったので、つい叫んでしまったら間違った。

 孔明と同じような冠で髭を生やしてるもんだから、アニメとかでお馴染みの諸葛孔明と思ってしまったよ。

「まあ、中国の学者は、みんな同じような服装ですからね」

 そう言われれば、孔明よりは恰幅がいいかも。

 というか、こういうコスの中国の人って孔明と閻魔さんぐらいしか知らない。

「なんで、中国の学者さんの石像が和歌山県に建ってるわけ?」

「徐福さんは、昔々の中国は秦という国の学者さんなんです。ええと、秦て分かります?」

「ええと……聞いたことはあるんだけどね……」

「始皇帝のご家来さんです」

「始皇帝……あ、キングダム! 政(せい)のことだよ!」

 キングダムは、小学校の頃からアニメでやっていて、お祖父ちゃんも観ていて共通の話題が出来て嬉しかった。

 お祖父ちゃんは無駄に知識があるもんで、政が皇帝になってから作った宮殿が、阿呆宮っていって、めちゃくちゃ大きくって、バカを表す阿呆(あほう)の語源になったとか、無駄な運河を作って民衆を困らせたとか意地悪ばかり言ったんだけどね。

「その始皇帝が、東南の海に蓬莱山をいただく島国があって、そこには不老長寿の薬があるそうだから、船団を仕立てて調べてくるように命じたんですよ……」

 そ、そうなのか、あの凛々しい少年王が……いつまでも、少年じゃないのは分かってるんだけどね、イメージはそうなのよ。命惜しさに家臣に無茶ブリしたんだ。

「そして、徐福は、ずんずん船を進めて、海の彼方に見つけたのが、ここ新宮にある蓬莱山だったんです!」

「え、ここにあったの!?」

「はい、この次に見に行きますけどね、徐福が見つけた不老長寿の薬はなんだと思います?」

「え、えと……」

 交換手さんはニヤニヤ笑って、早く降参しなさいって顔してるんだけど、なんせ女子高生の制服なもんで、中学の先輩にいたぶられてるみたいで、ナニクソって気になって「降参、教えて(^_^;)」にはならない。

 すると、さっき入ってきた門の前を、足早に横切っていくスーツ姿のおじさんが目に留まった。

「あ、あの人!?」

「え、知り合いの人?」

「う、うん……」

 それは、学校で、わたし以外であやかしが見える唯一の人。

 教頭先生だった!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・66『JR秋葉原駅昭和通り口』

2022-09-16 06:44:35 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

66『JR秋葉原駅昭和通り口』小松 

 

 


 うちの親がガスマスクを送ってきて、試しに付けてみたら外し方が分からなくって大騒ぎになったのは先週の日曜日。

 偶然、妻鹿家の外塀に車が突っ込んできて、外せないガスマスクのまま外に出たもんだから、ご近所はミサイルが飛んで来たのかと人だかりになってテレビに取り上げられたりした。

 でも、ま、ローカルトピックス、大山鳴動して鼠一匹てな話だった。

 あれからガスマスクは持ち歩いているんですよ。

 なにかと話題になって「見せてよ!」とせがまれ、ここのところ、わたしのコミニケーションツールになっているんだよね(^_^;)。おかげで、何度も着脱を繰り返してるもんだから、ちょっとしたガスマスクマイスター。自分で被るのも人に被せてあげるのも名人級になってきたわよ(^▽^;)。

 
 バイト明けの夕方、@ホームナンバーツーのもなかさんと買い物に出た。


 流れで、いつもとは違う昭和通り口の方にやって来たんだけどね。

 ここはガスマスク事件と同じ日に不審物が見つかって、警察の爆発物処理の車両なんかも出動して大騒ぎになったところなのですよ。むろん、規制線とかもとっくになくなって、自分の責任でもないのに『お騒がせしました』の地下鉄のわび状みたいなのが貼ってある。

 ま、おぞましい記憶を呼び戻しても仕方ない、「よいせ!」と両手の荷物を左手にまとめ、右手にスイカ(食べるスイカじゃないよ)を握る。

 改札に向かおうとしたら、再びもなかさんが立ち止まる。

「ごめん、チャージしなくっちゃ」

 直前に気づくとは、さすがに@ホームナンバーツー。わたしだったら気づかないで改札機に通せんぼされているところだ。

 お店のメイドの中では珍しい和風の美人さん。ハワイ@ホームの指導に行った時も彼女の人気は一番だった。「ごめんなさい」を自然な笑顔に載せて券売機に向かって行った。

 あれ……?

 券売機の前でもなかさんは立ち止まった、手にスイカを握ったまま。

 横にはソバージュにグラサンの女のひと……。

 二秒でおかしいと思った、二人とも券売機に進もうとしないのだ。後の人が先に券売機の前に立つ、二人目の人が追い越して、ただ事じゃないと感じた。

 磁石でくっついたように二人は券売機のコーナーから離れ始めた。

 キラリ

 動いた拍子に、もなかさんの脇腹に光るものが突き付けられているのに気が付いた。

 気づくと同時に駆けだした。

 トリャー!!

 両手いっぱいの荷物を、数歩の間に振りかぶってソバージュの後頭部にぶっつけた!

「ウガーー!」

 ソバージュは、勢いで前につんのめる。

 わたしの買い物は、五メートル四方に飛び散っている、軽いものは遠くに、重いものは足許に。

「ウワー!」「ブギャー!」

 わたしとソバージュの叫びが続く。

 足許に落ちたオリーブオイルの瓶が割れ、二人そろって滑ってしまったのだ。

 偶然だけど、腹這いに倒れたソバージュの上に覆いかぶさるように倒れていた。

 で、その感触で分かった――こいつは男だ!――

 男だと分かると、自分一人では制圧できないと思う。できなければ反撃を食らうのはわたしだ。

 腹這いになったソバージュの手には、もう光るものは無い。同時に、散らばった荷物の中にガスマスクを見つける。

――これだ!――

 ガスマスクを掴むと、ソバージュウィッグの外れた男の頭に被せた。

 マンガみたいだけど――スポッ!――と音がして男の頭にガスマスクがハマってしまった。

 予期しないガスマスクに女装の男はパニックになってのたうち回る。

 そのタイミングで、駅員さんとお巡りさんが駆けつけて男を制圧。

「パインさん……」

 もなかさんが、わたしのメイドネームを呼ぶ。もなかさんは、わたしのお腹を指さしている。

「え……」

 光るものの正体は短いナイフで…………分からないはずね、自分のお腹に刺さっていたんだ……。

 急速に目の前が暗くなっていった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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