魔法少女マヂカ・291
風を巻き起こしたのは孫悟嬢、もう一つは、孫悟嬢の如意棒。
如意棒は意志あるもののように雲を曳きながらポチョムキンの周囲を旋回、着かず離れずの間合いを取ってポチョムキンに打ちかかり、わたしを攻撃する余裕を与えない。
「掴まれ!」
悟嬢自身は筋斗雲を寄せて、わたしを助けてくれる。
「ありがとう、助かった!」
「来栖司令が戦闘記録を照合して、現れるなら舞鶴沖だろうと見当を付けてくれたんだ。待ってくれ、止めを刺すからな……」
ブチ
悟嬢は一房の髪を毟ると、フッと息を吹きかけて飛ばした。
飛ばされた髪は、数百人のミニ悟嬢になって、それぞれの如意棒を握ってポチョムキンに打ちかかっていく。
「みんながんばれ! ここで仕留めるんだ!」
エイ! エイ! トー! セイ! セイヤ! トー! エイ! トリャー!
「かわいいもんだね」
小さな悟嬢たちが打ちかかっていく様子は、戦闘とは思えない可愛さがある。如意棒は、けっこうヒットして、そのたびにポチョムキンの甲冑や剣に火花を走らせる。
「本当は等身大なんだけどな、このニ十一世紀に飛んでくるのは、ちょっと無理があって、あれが精いっぱいなんだ」
「飛行石があれば、わたしも自在に戦えるんだけどね」
「仕方がないさ、無理をしているのはポチョムキンも同じだ。疲れて音を上げたところを仕留めるさ」
セイヤ! トー! エイ! トリャー! エイ! エイ! トー! セイ!
悟嬢の分身たちは懸命に戦ってくれているけど、個体によって差があるようだ。
猪突猛進してポチョムキンの剣で粉砕される者もいるし、巧妙に動き回って一打を決める者、グルグル回っているばかりで、攻撃のタイミングが掴めない者、親分の如意棒の後ろに隠れて、声をあげているだけという者もいる。
「これを持っていてくれ、万一の時は役に立つ」
「なに、指輪?」
「髪の毛をリングにして固めたものだ、多少の役には立つだろう」
「ありがとう……で、どうケリを付ける? ちょっと旗色が悪くなってきたみたいだけど」
猪突猛進型のものが、ほとんど打ち砕かれて、人数は半分ほどに減っている。
「その分、奴も、くたびれ始めているさ……今だ、如意棒!」
悟嬢の檄に感応したのか、如意棒は、一瞬で力を貯めると一気にポチョムキンに突きかかって行った!
ガキーーーーン!!
敵は、一瞬のうちに悟って結界を張った。
しかし、生成がわずかに追いつかず、如意棒は弾き返されたが、ウブな結界は障害物が当たったフロントガラスのようにひびが入った。
「まずい、中途半端だ!」
悟嬢が筋斗雲を巡らせるのと、強度の落ちた結界に穴が開くのが同時だった!
ビューーー!!
結界の中と外では、大きな気圧差があるようで、結界の穴に周囲の空気が持っていかれる。
分身たちは懸命に風に逆らうが、その抗いには結構なエネルギーを使うようで、次々に弾け去っていく。
パチン ピチ パチ プチン
「仕方がない、とりあえず戻るぞ!」
筋斗雲が方向転換するのと結界の割れ目が大きくなるのとが同時だった!
ビョオオオオオオオオオオオ!!
猛烈な風が吹いて、わたしは体を持っていかれてしまう。
「マジカアアア!」
「悟嬢オオオオ!」
お互いの叫び声も虚しく、わたしは結界の中に吸い込まれていってしまった……
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
- サム(サマンサ) 霊雁島の第七艦隊の魔法少女
- ソーリャ ロシアの魔法少女
- 孫悟嬢 中国の魔法少女
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男
- 箕作健人 請願巡査
- ファントム 時空を超えたお尋ね者