魔法少女マヂカ・126
黄泉の国の入り口である黄泉比良坂(よもつひらさか)は島根県の東にあって、東京から出発すると、ちょうど半分の所に琵琶湖が横たわっている。
琵琶湖の上空に差しかかって来ると体が軽くなってきて、聖メイド服の締め付けるようなきつさが緩んできた。
「あ、隊長がスマートになった!?」
ノンコが最初に気づいた。
「ほんとだ!」
「というか、若くなってるし!」
友里と清美も持ち場のシートから感嘆の声をあげる。
「フフフ、これが十四年前のあるべき聖メイド、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世のお姿なのニャ!」
「普段の安倍先生とは思えないなあ……」
「おう、アメリカ一の魔法少女であるオレが太鼓判を押してやってもいいくらいの魔法少女ぶりだぞ」
「あ、その自分の方が上だって優越感を籠めた賛辞は止してほしいなあ」
「でも、隊長、それでスパッツ破れる心配ないじゃん」
「ああ、でも、なんで琵琶湖の上空で? 黄泉比良坂は、まだまだ先だぞ」
「琵琶湖は日本一の湖なのニャ、つまり、日本一のお清めの水ニャ。その効果ニャン(^ー^* )」
しかし、鏡を見ると記憶にある十四年前の自分の姿よりも五割り増しくらいの美しさだ……だ、だけど、それは言わない。きっと無慈悲なツッコミされるからな。
「あ、速度が落ちていく! ノンコ、投炭!」
「合点だ!」
機関助手のノンコがワンスコでバーチャル炭水車から仮想炭を投げ入れる。北斗は九州や北海道の深層炭のバーチャルエッセンスを燃料にしているのだ。
「だめだ、速度が上がらない……」
「ノンコ、投炭三十!」
「合点!」
「四十!……五十!」
「これは……黄泉の力……ニャのかも」
「隊長がスリムになったのは琵琶湖の力だけじゃない、ダークメイドの力が伸びてきているんだ。オレが先に偵察に行こうか?」
「待てブリンダ、ユリ、このまま速度低下して速度がゼロになるのは、どのあたりだ?」
「そうね……綾部か福知山の上空」
「北斗を下りて、全員パーソナルフライトで侵入するのはどう?」
清美の提案はもっともだが、パーソナルフライトとなれば個人差が大きい。かえって到着が遅れる恐れがある。ダークメイドの予期せぬ伏兵もあるだろうし……なによりも北斗の車載武器が使えなくなる。
「そうニャ、黄泉比良坂には千曳の岩があるニャ。天岩戸と並ぶ岩ニャ、北斗の主砲・量子パルス砲でなきゃ抜けないかもニャ!」
「生身で当たったら、各個撃破かもね……あなたたち、生身での連携戦闘なんてしたことないんでしょ」
それまで沈黙していたサムが冷静に痛いところを突いてくる。さすがカオスのスパイ、我々の弱点は心得ている。
「心得ているのはいいんだけど、その、試すような目つきは止めてくれる」
「あ、ごめん。でも、ここは隊長が判断するしかないと思う」
サムの冷静な言葉に、クルー全員の視線が集まる。
「北斗は元々は蒸気機関車だ……ここから降下して、山陰線をすすんで行こう」
十四年前の美しい姿に戻りながら、ダサくて辛気臭い方法しか思いつかなかったが、笑ったり突っ込んだりする者は一人も居なかった。