かの世界この世界:85
主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将! 堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士たるブリュンヒルデが……なんでこんなことをせねばならんのだあああああ!
わたしのツインテールを二股の四つに分けて、それを我が下僕ともリトルデーモンとも呼べる者ども、タングリス、テル、ケイト、ロキに持たれ……ま、それは見ようによっては我が魔力、我が威光にひれ伏す者どもを導いているようにも見えないでもない。
しかし。
その麗しき二股ツィンテールの上に石化した町長を載せて引っ張っている姿は、まるでボルガの船曳だ!
知っているか、ボルガの船曳!?
帝政ロシアのころ、ボルガ川を遡上する船を引っ張っていた人足たち。
数人から数十人の人足たちが、船の舳先から延ばしたロープを牛か馬のように肩や頭に掛けて、お頭の音頭に合わせて――エイコーラ エイコーラ もーひとーつエイコーラ――って船を川上に引っ張っていくんだ。あの奴隷みたいにこき使われたボルガの船曳を彷彿とさせる姿だ!
こんなことをやるなら、父オーディンに命ぜられたままムヘンで幽囚の身であった方がよっぽどマシと思う。
並のツィンテールならば、バリバリと頭の皮ごと持っていかれてしまっていただろう。
エイコーラ…………エイコーラ…………
「その歌唄うなあああ!」
「自然と出てきてしまう」
「ジト目こわ~い」
「ジト目とはなんだ! この体勢で振り返ることもできないんだぞーー!」
「背中でジト目が分かるしい」
ケイトとロキが好き放題を言う。タングリスは気づかないふりをして、テルは笑いをこらえているのも癪に障る。
「峠を越えました、木の間隠れに泉が見えます!」
「わ、分かってる……」
タングリスの言いようは、子どものころにお八つを欲しがってむずかるわたしをなだめた婆やにソックリだ。
くそ……無性にお腹のすく性質で、お昼を食べて三十分もするとお八つを欲しがるわたしに「ほら、あの時計の針が五センチも下がればお八つでございますよ」となだめおった。
「五センチとはどのくらいじゃ?」
「ほんの、これくらいでございますよ」
そう言って指を広げて見せおった。あの時の婆やのオタメゴカシを思い出してしまう。
「ブリ、がんばれ! がんばれ、ブリ!」
人間の姿になったポチが、目の前を飛びながら励ます。
ポチは健気なもので、その三十センチにも満たない体に紐を町長の首と自分の肩に結び付けて引っ張っている。
この健気さがなければ、右手の先をハエたたきにして叩き落しているところだぞ!
「がんばれ、ブリ!」
「ブリブリゆーな! 我はオーディンの娘にして堕天使の筆頭たるブリュンヒルデなるぞおおお!」
「あ、MPが戻った!」
ケイトが嬉しそうに叫ぶ。ケイトのMPは歩くと回復するようだ。
「町長をリペアしながら行けるじゃないか!」
「それなら四号を持ってこいいいいい」
「四号を取りに戻っている間に泉にたどり着けます」
タングリスは容赦がない……クソ!
そうしてニ十分。ようやくエスナルの泉についた。
「姫の御髪を戻してさしあげろ」
タングリスの一声で、石化した町長を下ろし、頭皮ごと抜ける寸前の髪を解放してくれた。
「ウ、ウワーーーー!」
姫! ブリ! ブリュンヒルデ!
みんなが叫ぶ!
急にツインテールの負荷が無くなったので、わたしは前のめりのまま泉に突進して飛び込んでしまった。
ドッポーーーーン!
☆ ステータス
HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)
装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長