大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真凡プレジデント・27《とりあえず》

2021-03-20 06:05:30 | 小説3

レジデント・27

《とりあえず》   

 

 

 

 生徒会役員と言うのは、意外に露出は少ない。

 

 選挙の立会演説は年に二回。だだっ広い体育館でやるってこともあるんだけど、ステージは遠いし照明が点いてるわけじゃないから顔なんか分かりづらい。

 本気で立会演説やるなら、ステージのスクリーンに候補者のバストアップのライブ映像映すぐらいの事やらなきゃね。アメリカの大統領選挙とかでやってるやつ。

 卒業式や入学式、同じく体育館。だだっ広い上に生徒会役員なんて、完全にエキストラ。その他大勢、NPC、モブにすぎない。

 体育祭の挨拶。体育館以上にだだっ広いグラウンド、それも、校長先生はじめPTA会長、実行委員長、体育科からの諸注意なんかに埋もれてしまって、生徒会役員なんか意識の外。

 まして、うちの学校は迅速な行事運営を目指しているので、行事の実質的な運営は実行委員会に任されて、執行部の出る幕はほとんどない。

 前にも言ったけど、役員は会長、副会長、書記、会計だけで、各種委員会の委員長職がない。

 保健とか風紀とか文化部とか体育部とかの長が無いんだ。

 立候補者を募るのが難しい、分かるでしょ、今回も藤田先生が――候補者がいない――と、中庭で頭抱えていたでしょ。

 で、行事の度毎に実行委員会を作った方が小回りが利く上に短期集中できる。

 そういうことで、二十一世紀に入ったころから今の四役体制になっている。

 

 まあ、部活に等しいくらいの規模と質になっている。

 

 でも、そういうもんだから、プレジデントという響きに立候補を決心したんだし、なつきたちも役員が足りないよ~と言ったら、気楽になってくれたりもした。

 わたしは現実主義なので、そういう生徒会を、いますぐどうこうしようとは思っていない。

 でも、このままでいいとも思っていない。

 

「ほんとうに周るのか?」

 

 体育祭業務の報告に職員室を訪れると藤田先生が、ちょっと真顔で聞いてきた。

「はい、他校の様子ってネットなんかの情報だけじゃ分かりませんから。ま、行ったからって、すぐうちの学校に取り入れられるというものじゃないでしょうけど、来年以降の生徒会が考える資料になればと思ってます」

「そうか、実は四校ほどOKの返事をもらってるんだけど、行ってみるかい?」

「はい、ぜひ!」

「そうか、決まったら報告してくれ。あ、それと、これは俺からの慰労だ」

「あ、ありがとうございます」

 食堂と購買共通のチケットをいただいた。チケットだけど、けっこうな金額がある感じ。

「あ、気にしないでくれ、体育祭で使おうと思って使い残したものだから」

「はい、遠慮なくいただきます」

 

 フェリペ女学院(私学)  修学院高校(私学)  二の丸高校(都立)  神楽坂高校(都立)

 チケットは綴りのまま三千円分あった。

 

「週末に一校ずつ……う~ん、期末テストになっちゃうわね」

 聡明な副会長福島みずきが腕を組んだ。

「これからも、周れる学校増えそうだしね……」

「とりあえず、二人一組で周る体制にしようか」

 綾乃が指針を示す。いい呼吸だ。

「じゃ、とりあえずフェリペと二の丸だね」

「えと、交通費とか、どうなるのかな? これからも周るとしたら、ちょっと負担かも」

 なつきが心配する。心配は真面目に考えている証拠だ。

「それは、先生に掛け合ってくる、じゃ、この週末からやるってことでいいよね?」

「うん、じゃ、フェリペはわたしと綾乃で」

「地味な取り組みだけど、ま、よろしくお願いします」

「じゃ、質問やら観察のポイントを確認しよっか」

「そいじゃ、ジュースとおつまみ買ってくるじょー!」

「なつき、これ、藤田先生からもらったチケット」

「おう、ちょっと贅沢できるかも~(*´∀`*)」

 かわいいスキップが遠のいていった。

 

「しかし、真凡も考えるようになったんだ」

 食卓を挟んでお姉ちゃん。

「え、なにが?」

「自分の露出を意識するなんてさ」

「え、ああ……」

 沢庵を咀嚼しながら考える……お茶を飲むときには結論が出ている。

「わたしは、どうやったってダメだろうけど、生徒会役員という記号は見えてなきゃダメなんだよ。例えていうと交差点の信号機」

「信号機?」

「うん、信号機は目立つようにしとかなきゃ意味ないでしょ、赤・青・黄色のシグナルはさ。でも、信号機がどんなだったかは覚えてないでしょ、電球だったかLEDだったか、ボディーは黒だったか白だったかシロと緑のゼブラだったかとかさ」

「面白いね、真凡は(^▽^)」

 それだけ言うと、お姉ちゃんは、わたしよりも陽気な音を立てて沢庵を咀嚼した。

 間違ったこと……言ってないよね?

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 


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