応長の比、伊勢国より、女の鬼に成りたるをゐて上りたりといふ事ありて、その比廿日ばかり、日ごとに、京・白川の人、鬼見にとて出で惑ふ。「昨日は西園寺に参りたりし」、「今日は院へ参るべし」、「ただ今はそこそこに」など言ひ合へり。まさしく見たりといふ人もなく、虚言と云ふ人もなし。上下、ただ鬼の事のみ言ひ止まず。(後略)
応長(おうちょう)は、日本の元号の一つ。延慶の後、正和の前。1311年の期間を指します。
本題から外れますが、「しょうわ」という年号は二つあります。「昭和」と、この「正和」です。
ある、と、言い切りながら、この段を書くまでは知りませんでした。かりそめにも日本史を教えていたのに知らないとは情けない話ですが。
まあしかし、「大化」から「令和」まで二百五十以上も年号があり、この「正和」は一年余りしかなかったですから(n*´ω`*n)。と、言い訳。
話は、この応長の年に伊勢の国から女の鬼が連れてこられ、都中の評判になったが、誰もその姿を見たことがないという、今で言えば都市伝説のような話です。
女性の都市伝説と言うと『口裂け女』と『トイレの花子さん』でしょうか。
おそらく、男についての都市伝説もあるのでしょうが、不勉強なオッサンなので思い浮かびません。
『口裂け女』は地域や時期によってローカルな違いはあるのでしょうが、おおよそは以下の通りだと思います。
夕方、人気の少ない道を歩いていると、後ろから人が付いてきます。チラ見すると、マスクをした若い女が付かず離れずで、着いてくるのです。
そして、人通りが途絶えると「もしもし」と声をかけてきます。
「はい?」
振り返ると、女は「わたしキレイ?」と聞いてきて、それから、ゆっくりとマスクを外します。
女の口は耳元まで裂けていたああああああああああ!
キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
というお話です。
コロナで、町中マスクに満ちていて、黄昏時の待ちいく女の人を目にして『口裂け女』と連想するのは、まあ、若くても40歳以上の人ではないでしょうか。
十年ほど前のスポーツ新聞の一面に『お忍びのトモチン』というような見出しが躍っていました。
女子高生だったと思うのですが、街を歩いているとマスクをしてお忍びのともちんこと、AKBの板野友美に出くわしたのです。
「キャー、ともちん!」
「ともちんだ!」
あっという間にファンに取り巻かれ、その場に居合わせたカメラマンが写真を撮って、あくる日の一面に載りました。
実は、このともちんは、顔の上半分のメイクと髪をいじることで、いろんなタレントさんに化けて楽しんでおられるザワチンとおっしゃる女性で、YouTubeで、その変装のプロセスを載せて好評を得た方でありました。
一部を隠すことによって、隠された部分に人間は想像力をたくましくしてしまいます。
わたしも、世間様に恭順の意を示すために、外出時、特にスーパーやコンビニに入る時には、先の総理大臣閣下から頂戴したマスクを着用いたします。
散歩の途中、ドラッグストアに立ち寄りました。
若いころからの花粉症は、かなりマシになったのですが、目のかゆみだけが残りました。
そこで、目薬とかの花粉症対策の薬を思い立ったのです。
初めてのドラッグストアなので、商品の配置が分かりません。
「すみません、花粉症の……」
陳列棚を整理していた女店員さんにこえをかけました。
「は、はひ!?」
と振り返った女店員さんは、まるで口裂け女に出くわしたように驚かれました。
ああ、ひどくなってるんだ(;'∀')……と凹みました。
花粉症のせいで、ひどいときは日に数千回目をこすります。
それが目の周辺のニキビを悪化させ、目の周辺のニキビだけが、この歳になっても残っています。
いつか、目の周辺は黒ずんできて、光の当たり具合によってはゾンビのように見えます。
それに加えて顔のあちこちに浮かび始めたシミと相まって、それでも、人と接するときは、それなりに笑顔を心がけているので、昼間にゾンビに出会ったような反応をされることはありませんでした。
散歩の途中だったので、キャップを被り、鼻から下は恩賜のマスク。
際立つ、目の周辺のゾンビ面。
〆て3400円なりの薬を買って、洗顔するたびに塗りこめております。
ひょっとしたら、ドラッグストア周辺では『マスクのゾンビ男』という都市伝説が生まれかけているかもしれません(;^_^A