巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
いつものように川を渡って学校に行く。
寿川
普通の橋を渡る分には、普通の川だ。
だけど、わたしが渡るのは戻り橋。
魔法少女しか渡れない橋で、普通の人には渡るどころか見ることさえできない。
川沿いにはフェンスというか子どもの背丈ほどの防護柵があって、魔法少女だけが見える柵の根元にMの標石がある。それを足でつつくと戻り橋が現れる。
通行人とかに見られないようにして現れた橋を渡る。人には女子高生が忽然と消えたようにしか見えなくて、見られてしまうと騒ぎになるので要注意。
一度だけ近所のお婆さんが付いて来てひと悶着あって(093『お婆さんが付いてきた』)それからは気を付けている。
渡っているのは寿川と重なって流れている時空の川。この川を渡ると半世紀以上の時を跨いで昭和の世界に入る。
最初に渡ったときは、ちょっとビビった。流れているのは水では無くて時間だからね。うっかり落ちたり水しぶきを浴びたりすると、どんな影響があるか分からない。それに、川はいつも轟々と音を立てているから、ちょっとおっかない。「そりゃあ、何千年の時間が流れているから、いろんなことがあるさ」とお祖母ちゃんは言う。
だからね、近ごろは慣れてきたけど、やっぱり十秒そこそこで渡り切ってしまう。
その時空の川が、今朝は穏やかだ。
今までにも穏やかな時はあったのかもしれないけど、余裕のないわたしは気にも留めなかったのかもしれない。
……なにかキラキラしたものが流れていく。
四月の中頃、例年になく長持ちした桜もようやく散りはじめ、リアルの寿川は花びらがいっぱい流れていた。そういう様を花筏とか言うらしくて、ちょっと見とれてしまった。
橋に踏み込むと、あのころの花筏みたくキラキラしたのが川面を流れていく。
あまり橋の上で立ち止まってはいけないんだけど、すこし見とれてしまった。
そして、思いついた。
「ねえ、七夕やろうよ」
いつものように駅前で出会ったロコを皮切りに、MITAKAのみんなに話した。
「みんなに短冊書いてもらってさ、笹に吊るすの。みんなの願いとか希望とか、思いやりとか吊るしたら、少し優しい気持ちになれるんじゃないかなあ」
そういう意味のことを伝えると、昼休には話が広がった。
「うん、いいと思う。金原さんのこととかMITAKAで話しても、なんだか学校や誰かを糾弾するような雰囲気になるもんね。うん、いいよ、いいことだよ。静かに穏やかに胸に刻む、いい方法だと思う」
真知子がモワっとしてただけのわたしの気持ちを代弁してくれる。
「うんうん、短冊に書くんだったら、そんなに気負わずに済むし、子どもの頃みたいに楽しんでできるよ」
「たみ子、いいこと言う!」
そうだよ、みんなでお星さまに『お願い』とか『ここだけの話し的』にやれば、下手にエキサイトせずに済む。
「最後は、グラウンドとかで燃やせば雰囲気ですよ!」
「でも、許可出るかなあ」
ロコが盛り上げて、女バレでセッターの佳奈子は、話の要にボールを戻す。
「まあ、それは後で考えるとして、まずは生徒会に話を通そうか」
そう、全校的な盛り上がりにするなら、まずは生徒会。
「あれ、生徒会室は向こうですよぉ」
「フィクサーが先よ」
「「「あ、ああ」」」
真知子を先頭に向かったのは職員室の倉田先生、生徒会の顧問だ。
「ううん……趣旨は悪くないが、短冊は事前にチェック。最後に焼くのはダメだからな」
文化祭のファイヤーストームもアウトだったから、釘を刺されてしまう。
「それに、まずは執行部に言うのが先だろ」
「アハハ、ですね。途中に職員室があるので、まあ、ご挨拶と思いまして。まあ、MITAKAのサークル行事でやろうと思うんですけど、一応は話を通しておこうということです」
アハハハ
みんなで愛想笑いして、あらためて生徒会室に向かう。
そうなんだ、事前に倉田先生に言っておくことで話を通りやすくしとくんだ。二年生になるといろいろ知恵が付いてくる。
まあ、ひそかに期待していたファイアーストームは初手から詰んでしまったけどね。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
- 辻本 たみ子 2年3組 副委員長
- 高峰 秀夫 2年3組 委員長
- 吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 2年学年主任
- 先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫
- 早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人