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ボクはよく夢をみるようになった。
夢をみるということは、その間眠っているということだ。
だから正確には、よく寝るようになったということだ。夜だけじゃない。昼間カップラーメンを作っているときとか、二階への階段をあがっている最中とか。
カップラーメンのときは、伸びきったラーメンで分かる。階段のときは、しゃがみ込んだ何段目かで、窓からの陽が傾いて、無理な姿勢で身体が痛くなっているので分かる。
夢は、外国にいる夢だ。
社会科は苦手だけど、アメリカや大統領やロシアの大統領ぐらいは分かる。ついさっきは某国の国家主席に会っていた。会っていたといっても、いつも相手は眠っている。そこで、ボクは、ただ突っ立っているだけ。
実に変な夢だ。
レポートを仕上げなくっちゃ。通信制はラクチンと思っている人がいるかもしれないけど、けっこう家でやらなきゃならない課題やレポートがある。
で、机に向かってシャーペンを持ったところで、また眠ってしまった。
当然の如く夢を見る。
あれ、ここは、ついさっき夢でみたどこかのホテルだ。
「何度もごめんね」
後ろから声がした。振り向くと乃木坂の制服のアノコがいた。
「邪魔が入ったの。もう一回やり直し」
ドアを開けると、さっきと同様に国家主席が寝ていた。気づくとボクは、アノコのスマホを持っていて、スマホのオレンジのアイコンを叩いていた。ちょっと手を緩めると、オレンジが赤っぽくなる。意味は分かっている。アノコの義体が限界に近くなっているんだ。アノコは習 近平の額に手をかざし汗を流しながら、念力を送っている。
「もうちょっとよ……」
すると、急に国家主席が目を開き、ベッドから手を出したかと思うと、アノコが部屋の壁に吹き飛ばされた。
ドオオオオオオオン!
「明……コードX!」
ボクは、スマホを操作しXマークを出すとタッチした。
爆発音と同時に、ボクたちは、アノコの部屋に戻った。
アノコは仰向けに倒れていた……だけではなくて、制服の上からでも分かるこぶし大の穴が開いて、出血していた。
「おい、アノコ、大丈夫か!?」
「なわけないじゃない……」
「どうしたらいい?」
「…………」
「な、どうしたらいいんだ!?」
「明クンを拘束したくない……」
「言ってる場合か。義体ごと死んじまうぞ!」
「あたしと別れられなくなるわよ……いい?」
「いいよ、アノコが直るんなら、なんでもするよ」
「……じゃ、コードαにして」
ボクは、スマホ画面をコードαにした。するとスマホが、ボクの手のひらに癒着したかと思うと、あっという間にボクの体の中に溶け込んでいった。
「あたしを……ゲホ!」
アノコが大量の血を吐いた。どうしたらいいか、体内のスマホが命じてきた。ボクの奥に残っている理性と羞恥心が邪魔をしたが、ボクは指令に従った……。
気づくと、アノコとボクは裸で抱き合っていた。もう血の跡もなければ、アノコの体に開いた穴も塞がっていた。
「ごめん、一線を越えちゃった……」
「いいよ、キミが元気になったんだから」
「明クンが思っている以上に大変なことなのよ……」
そう言いながら、アノコは真新しい服を身につけ始めた。ボクも服を着た。
「アナライザーは、明クンと同化してしまった。コードαにするって、そういうことなの。これから、メンテや、あたしが致命的な傷を負ったときは、今みたいにしなくちゃいけないの」
「そ、そうなんだ……」
「で、生涯、あたしから離れられなく……逆ね、あたしが明クンから離れられなくなっちゃった……ごめんね」
「いいよ……ボクも、なんとなく、そんな気がしていたんだ」
「ありがとう、前任者は、そこまでの覚悟をしてくれる人がいなかったから、ハンパな仕事しかできなかった」
「あの……」
「うん?」
「キミの仕事って?」
そう聞くとアノコの目が点になり、ズッコケてしまった……。