大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 88『労いの茶席』

2022-09-15 16:01:46 | ノベル2

ら 信長転生記

88『労いの茶席』信長 

 

 

 帰還後、天下布部の最初の部活は茶の湯だ。

 

 亭主は信玄、客は謙信と俺だ。

 茶室に入ると、信玄好みの緋色の毛氈が布いてある。

 茶室で座布団を置くことは基本的にやらないが、おおよその居所を示すために毛氈を布くことはある。

 毛氈は座布団のように一人前ずつにはなっておらず、長いままに敷いてあるのだが、その長さが三人分はあるのだ。

 つまり、客は、俺と謙信以外にもう一人いるということを示している。

 

 カマを掛けているんだな……。

 

 そう読んで、俺は正客の席を開けて、相客の席に着く。謙信は自然とお詰め(末席)に座る。

「なんだ、読まれているか」

「フフ、だから、止めようって言ったでしょ」

 非難しながらも謙信も笑っている。

「正客は誰なんだ?」

「当ててみろ」

 正客とは主賓のことだ。この茶席は半ばおちょくられてはいるが、三国志の偵察任務を果たしてきたことへの労いだ。偵察は、俺と市で行った。最後は学園生徒会長の乙女と武蔵に助けられたが、それならば、正客のところは二人分空いていなければならない。

 では、市……いや、市は、朝から学園に登校している。久々に弁当を作ってやったら、小さな声で「ありがとう」と言っていたものな。

 それに、兄の……いや姉の俺を差し置いて上座を設定されるわけは無いしな。

 生徒会長の今川義元?

 いや、冗談でも、あいつを呼ぶほど、この戦国の両雄は悪趣味ではない。

 

「曹茶姫か」

 

 閃いて、そう口にした。

「さすが上総介じゃ」

 そう言うと、信玄は四つの茶碗にお茶をたてた。

 茶の湯で亭主の分まで茶碗を用意することは無い。

 これは、茶席の形を取った誓の席だ。

「次に行う時は、そこにリアル茶姫に就いてもらう」

「では、乾杯」

 謙信が音頭を取り、なんとも無作法に、お茶で乾杯したぞ。

 まさに茶化してはいるが、それだけに、この二人の真剣さが伝わってきた。

 

「なぜ、あの二人を行かせた?」

 

 分かっている、織部とリュドミラが入れ替わりで偵察に出したのは、義元などではない、この二人が動いて、最後に義元に判子を押させたんだ。

「織部は数寄者だ。美しいもの美しいことにしか興味がない、半ば本気でお宝さがしの気分だったしな。怪しまれることが無い」

「今度は、わたしが行くつもりだったんだけどね」

「謙信に出張られては、偵察でなくて、本当の戦になるからな」

「そういう信玄も、制服の下に鎧を着こんでいたじゃない」

「フフ、バレていたか」

「では、なぜ、相棒がリュドミラなんだ。あいつ、ちょっとおかしかったぞ」

「三国志にはシルクロード系の人間は珍しくないからな。商人の長旅、相棒という点でも用心棒という点でも自然だろう」

「それだけか?」

「本当は、武蔵に、そのまま付いてもらってもよかったんだけどね。カラコン入れてアイドルになっちゃったでしょ」

「ああ、でも、カラコンを取れば、いつもの武蔵だぞ」

「ああいう奴が目覚めると、速攻でカミングアウトしてしまって、戻ってこなくなる」

「でも、転生して体は女なのだから、いいのではないか?」

 それには応えず、謙信が返してきた。

「信長、リュドミラの出身は知ってるかい?」

「ああ、たしかソ連だろ。公園で会った時に言っていたぞ」

「ソ連は広かったからね……あの子の出身はウクライナなのよ」

 

 謙信が呟いて、その重さにピンとくるには少し時間がいった信長であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

 

 

 


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