泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
連休の谷間ってめんどくさい。
だってさ、この月火が休みだったら9連休なんだよ。むろん水曜からの5連休だってすごいよ。夏休みとかを別にしたら、もう年内に5連休なんてやってこないもんね。
でもね、9連休だったらエロゲ二本はクリアできるよ。
ゲームにもよるけど、一本だいたい二十時間くらい。分岐の多いのだと四十時間くらいかかるのもある。
「へー」とか「なるほどお」とかのシーンはゆっくり見る。
エロゲの中には真面目に人生やら青春やらを語っているものもある。開始一分でエッチ全開ってのもある。
両方あっていいんだ。表現は違っても――人を楽しませる――というコンセプトは同じだ。
出会いがあって、大小いろんな事件があって、あーこれは発展フラグだなーってのがあって、初々しい初エッチに突入! そこまでの流れは、できるだけ切れ目なしに味わいたいんだよね。
それが、ブツ切れの連休だと急ぎ足になってしまう。もしくは、トライするゲームの数を減らさなきゃならない。
で……連休谷間の今日は遠足だよ。
いかにも消化試合だよね。どうせやるなら、いつも通りの六時間授業をやればいいのにね。
ま、六時間やったらやったで文句を言う百地美子だって自覚はある。えと、百地美子ってのは、あたしの名前。日ごろはシグマとしか呼ばれないから忘れてる人もいるかもしれないわね。ま、この際覚えてくださいな。なんたって連休の谷間なんだからさ。
基本的に、連休の谷間というのが面白くなくてプータレてるわけですよ。
で、井の頭公園のベンチに座っている。
高校生の遠足に井の頭公園というのはどーなんだろ?
ま、クラスに8人という欠席の数を考えればいわずもがな。
中には「北○○のミサイルが心配で」というこじつけっ子もいる、無断欠席の方が清々しいと思うよ。
「お、懐かしいゲームやってんだな」
え( ゚Д゚)!?
まさか堂本先生に声を掛けられるとは思っていなかったからドギマギした。
「『陽だまりのキミ』は良くできた恋愛シミレーションだな、人生は、ほんのちょっとしたことで結婚相手まで変わっちまうんだってコンセプトがいいよなあ、メインヒロインのキミなんて、おれ三回もクリアーしたもんだ」
「は、はい……」
あたしは曖昧に頷いて調子を合わせた。
「陽だまりみたいに暖かく、清く正しく、キスするだけで結婚するのがよかった」
「ですね……(^_^;)」
先生は分かっていない。
『陽だまりのキミ』はミレニアムエロゲの金字塔と言われ、後年の萌ゲー大賞があればグランプリ間違いなしと言われた名作。
キミルートは裏を含めて五つあって、いずれも濃厚なエロシーンがある。その展開は、その後のエロゲに絶大な影響を残し、制作会社はエロゲ界のジブリと言われている。あまりの人気なのでエロはキスまでの純愛設定にしてプレスト3に移植されている。あたしは、プレスト3をプレストヴィータにしたのをやっているんだ。
「あれに出てくる恩賜公園は、この井の頭公園がモデルなんですよね」
「え、あ、ああ、そうだったよな、そうだった」
あたしは、連休のゲームモードになっている自分を保つためにコンシューマ版の『陽だまりのキミ』をやってるんだ。
先生は、つまらない遠足の言い訳をするように話しかけてきただけなんだ。八人の欠席も気にかけているんだろうね。
そう思うんだったら、もっとましな行事計画立ててほしい。
「公園の西にジブリの森があるんです。あれがルートに入っていたら、欠席する人はいなかったと思いますよ」
玉川上水の向こうの方を指さした。
「え、あ、そんなのがあるのか?」
「ありますよ……ほら」
スマホの検索画面を見せてあげた。ま、遠足なんかで予約がとれるとこじゃないけどね、勉強してくださいってとこです。
先生の相手が終わるとスマホが鳴った。
あ……?
それは、風信子先輩からのメールだった……。
☆彡 主な登場人物
- 妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
- 百地美子 (シグマ) 高校二年
- 妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
- 妻鹿幸一 祖父
- 妻鹿由紀夫 父
- 鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
- 風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
- 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
- ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
- ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
- 木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
- 増田汐(しほ) 小菊のクラスメート