妹が憎たらしいのには訳がある・43
『優奈 そしてプレコンサートへ』
あたしにできるわけありませんよお(#>0<#)!
優奈は、目と口を倍ほどに開き、まるで悪魔払いをするように。見方によっては、ウルトラマンが及び腰でスペシウム光線を発射するときのように、両手で×印を作って抵抗を試みた。
「絶対、絶対、ぜった~い、で・き・ま・せ・ん!!」
しかし、加藤先輩と幸子を相手にしては、唾の聖水も、スペシウム光線も無力だった。
「あたしとサッチャンの意見が一致したの。これは、その通達であって、優奈に選択権は、あらへんの」
加藤先輩は、唾の聖水を拭いながら宣告した。
「今の優奈ちゃんの力では、確かにしんどいけど、優奈ちゃんの前向きな姿勢は、きっとわたし以上の仕上がりになるわよ」
幸子もニヤニヤしながら、しかし、真剣な目で告げた。
「視聴覚教室の修理も終わって、今日から真っさらなステージ。これも、なにかの因縁ね。連れてきて!」
「覚悟しな、優奈……」
ギターの田原さんが目配せをすると、ヘビメタ担当のマッチョ六人が優奈を担ぎ上げた。暴れた優奈は、担ぎ上げられた瞬間、スカートがめくれあがり、イチゴパンツが剥きだしになったが、ヘビメタは優奈のスカートごと足を押さえつけ、学校の「下着が見えるようなスカートの穿き方をしてはいけない」という校則をクリアー。
「拉致だ! 誘拐だ!」
と、優奈は叫んだが、校則には拉致も誘拐も書いてはいない……。
優奈の代わりには、幸子が戻された。
自称『幸子ファンクラブ』の会長の祐介は喜んだが、本心では寂しがっている。軽飛行機突入事件で、祐介が優奈のことを体を張って守ったのを知っている。でも、まあ、優奈の大抜擢なので、ケイオン全体としては祝福している。なによりも幸子が全力で応援したことが、この出来事を明るくしていた。
「もっと、口は大きく開けて、目はつぶるんじゃなくて!」
加藤先輩の指導は厳しい。
「ほら、選抜に決定したときの顔思い出してみい!」
幸子は、「絶対、絶対、ぜった~い、で・き・ま・せ・ん!!」のシャメを撮っていて、それを本人に見せた。即物教育だ。幸子は、演劇部に行く余裕も無くなってきたので、先輩たちを説得し、演劇部全員をバックダンサーにした。秋のコンクールまではヒマだったので、演劇部も喜んで参加。そのバックダンスの練習がカッコイイというので、演劇部だかケイオンだか分からない新入部員が五人も入った。そうするとプレイヤーが貧弱になるので、俺たちのグループもバックバンドとして入ることになり、真田山高校としては、過去最大の編成になった。そして、ナニワテレビが幸子の降板から本番までをドキュメンタリーにする企画を持ち込んだことが、みんなを勢いづかせた。
「どう、うちの系列のホール確保するから、一度プレコンサートやってみない!?」
お馴染みキャスターのセリナさんの発案で、大規模なプレコンサートをやることになった。
「大会事務局からクレームつきませんかね」
顧問の蟹江先生は心配してくれたが、セリナさんはお気楽だった。
「これに刺激されて、他局でも似た企画やりますよ」
セリナさんの読みは当たった。他局も有力と思われる学校のオッカケを始め、NHKでさえ、特集番組を組むようになった。
《出撃 レイブン少女隊!》
GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! みんなのために
放課後、校舎の陰 スマホの#ボタン押したらレイブンさ
世界が見放してしまった 平和と愛とを守るため わたし達はレイブンリクルート
エンプロイヤー それは世界の平和願う君たちさ 一人一人の愛の力 夢見る力
手にする武器は 愛する心 籠める弾丸 それは愛と正義と 胸にあふれる勇気と 頬を濡らす涙と汗さ!
邪悪なデーモン倒すため 巨悪のサタンを倒すため
わたし達 ここに立ち上がる その名は終末傭兵 レイブン少女隊
GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! For The Love!
ああ ああ レイブン レイブン レイブン 傭兵少女隊……ただ今参上!
極東事変以来、国民の意識が変わった。ことなかれの政府の意向とは裏腹に、極東の情勢は緊迫していた。それを知って、国民の多くは冷静に有事に備える気構えを持ち始めた。十数年前の極東戦争では、戦死傷者数万を出している。そういう事態にならないための備えであった。戦わないためには、戦う決意が必要だ。
そのために、真田山高校軽音楽部は、演奏作品に《出撃 レイブン少女隊!》を選んだ。先の極東戦争のきっかけになった対馬戦争のとき、危険を顧みずアジアツアーのため乗っていた飛行機もろとも撃ち落とされたオモクロの桃畑律子の持ち歌である。
プレコンサートは大成功だった。優奈も自信を付けた。スニーカーエイジそのものを盛り上げることにもなった。
しかし、パラレルワールドを取り巻く事態は、俺たちの知らないところで動き始めていた。そして、俺たちが、それに気づくのには、もう少し時間が必要だった……。
※ 主な登場人物
- 佐伯 太一 真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
- 佐伯 幸子 真田山高校一年演劇部
- 千草子(ちさこ) パラレルワールドの幸子
- 父
- 母
- 大村 佳子 筋向いの真田山高校一年生
- 大村 優子 佳子の妹(6歳)
- 桃畑中佐 桃畑律子の兄
- 青木 拓磨 ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
- 学校の人たち 加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
- グノーシスたち ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
- 甲殻機動隊 里中副長 ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん