せやさかい・395
朝に本堂であげるお線香の順番。
ご本尊の阿弥陀さま ⇒ 聖徳太子ご尊像 ⇒ 歴代住職絵像
いつもやったら、この三つなんですけど、昨日から一つ増えた。
釋恋女(しゃくれんにょ)さんのお骨。
釋が付くのは浄土真宗の法名です。他の宗派で言うところの戒名。
法名は、お葬式で導師を務めた坊さんが付けます。
釋恋女と付けたのはテイ兄ちゃん。
「恋の字使うのは、ちょっと艶めきすぎてへんかあ」
おっちゃんは反対したんやけど、テイ兄ちゃんは押し切った。
「昴が『恋』の一字は入れてくれて言うしなあ、俺も『恋』は外されへんと思うんや」
そない言うて仮位牌にけっこう上手な字で書いたんが六日前。
そうなんです、この釋恋女さんは、俗名今井瑞穂。
つまり、うちと留美ちゃんが毎朝自転車を預けてるスナック『はんぜい』の奥さん。
奥さん言うても、うちらとあんまり変わらへん18歳。
正月にお礼を兼ねて挨拶に行った(377『テイ兄ちゃんの偵察に付き合う』)。
マスターの昴さんは、テイ兄ちゃんの大学の同期で歳は同じ30歳。
結婚の知らせを受けた時、彼女いない歴=年齢の従兄の頬っぺたは引きつっとった!
しかし、阿弥陀さんの啓示を受けたのか、ちょっと冷静になって友だちに聞きまくって事情を知って、その上に――自分の目で確かめる!――の信念で、うちを連れて偵察に及んだという次第。
とにかくデレデレの新婚夫婦で、あれだけムカついとったテイ兄ちゃんが、わりと穏やかな顔でデレデレ新婚夫婦に付き合ってたんは不思議やった。
学校が始まって、留美ちゃんとチラ見したお店の中では、十八とは思われんほどにテキパキ働いてた瑞穂さん。
二人は、新婚生活が一年も続かへんことを承知で結婚したんや。
昴さん、瑞穂さんのどっちが言い出したのかは分からへんけど、ほんまやったら何十年もあるはずやった二人の時間を四カ月で駆け抜けたんや。
「さくら、昴が写真送ってきよった」
テイ兄ちゃんがタブレット持ってキッチンにやってきた。
留美ちゃんと二人晩ご飯の下ごしらえしてた手を休めてリビングに行く。
「あ、やっぱり湘南の浜辺だ(^▽^)」
「ほんまや、よかったねえ、ええ天気で」
「ちゃんと瑞穂ちゃん抱っこしてからに……」
湘南の浜辺、江ノ島をバックに砂浜に座ってる昴さんの膝の上に袱紗の袋に収まった小さな骨壺。
「二人で湘南の海辺を歩くのが夢や言うとったさかいなあ」
「このために分骨したんですか?」
「それもあるけどな、瑞穂ちゃんの家は山梨の甲府や。ご両親やら向こうの親類の事考えたら分骨するのが自然やろ」
「動画やったらよかったのに……」
「そうだね、この昴さんと瑞穂さん、波の音が似合うと思う」
「せやな……せやけど、これは昴の照れや、動画やったら、ちょっともたへんと思う」
「そうかもしれへんねえ」
「あいつも、三十のオッサンやねんで」
他に、江ノ島のでの写真、江ノ電の踏切、鎌倉高校前のプラットホーム……なんや、アニメの聖地巡りみたいで微笑ましい。
最後の一枚は小田急江ノ島の駅前。
―― これから瑞穂の実家に向かう ――
短いコメントが入っていて、マスターの気持ちが伝わってきた。
夕刊をとりに山門に向かう。
境内から見上げる空は三日ぶりの晴天、せやけど湘南の空の方がもうちょっと青いような気がした。
山門横のポストに夕刊は入ってへん。
そうか、今日は日曜日やった(^_^;)。
ニャ~~
足元でダミアの一声「アホやなあ」いう感じに聞こえた。
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
- 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
- 夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
- ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
- 月島さやか さくらの担任の先生
- 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
- 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
- 女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
- 江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)
- さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)