真凡プレジデント・33
校門を出ると若い男が待っていた。
「話があるんだ」
そいつは、一言言うと、とっとと前を歩き出した。
これを目撃した下校途中の生徒たちが注目……することは無かった。
声を掛けられたのが、人柄はいいが、どうにも色恋沙汰には縁のなさそうな生徒会長のわたし(田中真凡)であることと、男がいささか若すぎるからだ。
「なによ、健二」
やっと声をかけたのは中町公園の前だ。
公園に入るのかと思ったら、健二は自販機で缶コーヒーを二つ買った。
「話を聞いてもらうんだから、これでも飲みながら……」
小学生に気を遣われては収まりが悪いのだけど、その思い詰めた表情から、おそらくは姉のなつきのことだろうと見当が付くので、あえて何も言わなかったのだ。
ただ、健二の不器用な気遣いから、容易なことではないと、つい、つっけんどんな「なによ、健二」になってしまう。
「小学生が高校生に気を……」
言いかけて停まってしまった。
健二が差し出した数枚のA4用紙には「怠学届」「退学届け」「辞表」などの意味は一発で分かるが、全部間違った言葉が書かれていたからだ。
「姉ちゃんバカだから、書き損じばかりして寝ちまったから持ってきたんだ、相談するのは真凡ねえちゃんしか思いつかなかったから」
「バカが早まって……」
「まだお母さんには言ってないんだ。お母さん何も知らないし、心配かけるの嫌なのは、俺も姉ちゃんもいっしょだから」
健気な奴だと思った。なつき同様スカタンなところはあるが、心配するポイントは外していない。
「分かった、すぐに会いに行く!」
勝算も見通しも何もないけど、とりあえずなつきを一人にしてはいけないと思った。
そう言ってやると、やっぱり小学生、目から大粒の涙がこぼれ、それをグシグシ拭きながら付いてくる。わたしを待ち伏せて助けを乞うところまでがやっとだったのだろう。
公園を出たところで一台の自転車が追い越したと思ったら、急停車して二人の前に立ちふさがった。
「あ……柳沢!?…………さん」
「坊主、おまえ付けられてる。付けてるやつを撒くから後ろに乗れ、真凡、電話するから、聞いたら指示に従ってくれ」
そう言うと顎をしゃくって健二を後ろに載せると横っちょの路地に入ってしまう。
さて、どこで電話を待とうかと考えて……なんで柳沢が? ちょっと遅れて腹が立ってきた。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡(生徒会長) ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 福島 みずき(副会長) 真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
- 橘 なつき(会計) 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 北白川 綾乃(書記) モテカワ美少女の同級生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 対立候補だった ちょっとサイコパス
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問