真凡プレジデント・23
目立たない格好のつもりらしい。
「でしょでしょ(o^-^o)、番組で着てたおシャレなジャージだから、ちょっとだけね、スクールジャージみたく白線とかネームとか入ってないし、狸穴坂46とオソロだし、コンセプトは『書を捨てよ街に出よう』だから、パジャマ、部屋着、ちょっとした外出着にもなってえ、引きこもり応援グッズのベストワンだったしさ、自然に溶け込んで目立たないっしょ」
「喋ったら目立つ!」
グイグイ引っ張って家に帰る道すがら、姉貴は陽気に言い訳ばかりしている。
小さいころからのモテカワで、高校と大学のミスコンではずっと一等賞。女子アナになってからは、いっそう磨きがかかり某週刊誌で『恋人にしたい女子アナ!』のナンバーワンになった。いくらジャージ姿でも姉貴は目立つんだ。それに、いくらオシャレでもジャージはジャージ、狸穴坂46だって不振で解散してるし、理由はダサイアイドルだったし、落ちぶれ女子アナ宣伝してるようなもんだし、やっと世間は忘れかけてるっていうのに、ジャージ姿で買い食いなんてあり得ないんだよ!
「ねえ、これだけ買いに行かせてよ~」
折り込み広告なんかヒラヒラさせんな、ちょ、顔に貼りつけんな!
「……大学芋?」
「そ、コロッケじゃないんだよ! 匂いもしないからさ、これだけ買いに行かせてよ! 行かせてよ真凡ちゃ~ん」
「ウウ……ダメだあ」
「ね、家に帰るまで食べたりしないからさ」
立ち止まったのが中町公園の前、やっぱ、人がチラチラ見ている。これ以上ことを荒立てたくないわたしは「先に帰ってジッとしとくこと!」チラシをふんだくって商店街に舞い戻る。
で、やっと宿敵の大学芋を買って戻ってみると、公園の一角に人だかり。
買い物帰りのオバサンや、下校途中やらそうでないのやらのガキども、シルバー人材センターご指名の公園整備のお年寄り。
でもって、その人だかりの真ん中には不肖の姉貴。だれが持ち込んだのかけん玉で賑わっている。
とても、その輪の中に入っていく気にはなれずに木陰に隠れる。
――やっぱ、腰の入り方! 失敗してもフォームがお見事! 大勢でやると楽しさ倍増! これは延長戦か!? いま、ドキッとした? アハハ、笑顔でやらなくっちゃ何事も~ よーし、じゃ、つぎはみんなで駆けっこだ! 低学年の部と高学年の部と、それ以上に分けまーす!――
職業柄かよくしゃべる。
喋るだけじゃなくて、姉貴の喋りは場を盛り上げる。
そーっと木陰から覗いてみると、みんな、姉貴よりもけん玉に夢中になり始めている。
けん玉くらいで、こんなに人は熱狂はしないだろう。盛り上げたのはジャージの姉貴……。
閃いた! これをやれば体育祭は盛り上がる!
けん玉大会が終わるのを待って、ジャージ女を引っ張って家に帰る。
「ん? なんか、さっきまでの真凡と違くない?」
わたしは、なんとか家に帰るまでは耐えるのだった。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡(生徒会長) ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 福島 みずき(副会長) 真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
- 橘 なつき(会計) 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 北白川 綾乃(書記) モテカワ美少女の同級生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 対立候補だった ちょっとサイコパス
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問