やくもあやかし物語・33
それから黒電話に変異は無い、いまのところね。
七割安心して、三割期待してる……と思って、慌てて否定。
三割でも期待して、本当になったらどうすんのよ(;'∀')!
慌てて、ひとりエンガチョを切る。
戦時中の真岡にあったものでもない。単に芳子ひい婆ちゃんのころに電電公社が据え付けたものだ。
梅の咲くころまでには、そっけない部屋のオブジェとして収まった。
庭の梅の木にポツリポツリと花がほころび始めた時に来客があった。
梅田さんという苗字は暗示的だったけど、お婆ちゃんの和室にお茶を持っていくと、うちのお婆ちゃんと同年配の中肉中背のオバサンだ。お婆ちゃんと同年配でオバサンというのもおかしいんだけど、若く見えるから。
若く見えると言っても、美人だとかいうわけじゃない。
ただ、よく喋る。お喋りが若やいでいる。
「まあ、これが孫娘のやくもちゃん?」
遠慮なく、わたしの顔を品定めする。
「さすがに、あなたの孫ね。キュートで可愛い、学校でもモテるでしょ?」
「いいえ、そんな(#´∪`#)」
言いながら思った。お婆ちゃんとは血のつながりがないから『あなたに似て』というのはおかしいというか、不用意な発言。
お婆ちゃんも言い返すこともなくニコニコしている。まあ、ほんの社交辞令と聞き流しているんだろう。
「どう、新しい学校には慣れた?」
お尻を上げようとすると話題を振られる。
「はい、慣れました」
だけでは愛想が無い。
「友だちは、そんなにいませんけど、先生も生徒もいい人ばかりです」
「そうでしょうね、やくもちゃん、陰りのないいいお顔してるもの」
それからも、梅田さんはよく喋った。
以前は近所に住んでらしたらしく、中学もわたしの通っている中学の出身。うちの中学は昔から美男美女の少ない学校で、うかうかしてるとブスが染っちゃうからほどほどでいいのよなどと言う。梅田さんは「わたしはよく喋ったのでブスが染っちゃったあ!」とケラケラ。
これは、コミュ障っぽく見える(じっさい友だち少ないんだけど)わたしをフォローしようって気持ちなんだろうけど、しっくりこなくて曖昧な笑顔をしておく。
いいかげん持て余したころ、部屋の外で電話のベルが鳴った。
「失礼します」
と言って部屋は出たものの、いつもの固定電話じゃない。
リビングにいったら、やっぱ、着信のベルは鳴っていない。
「まさか……」
部屋に戻ると、むろんオブジェの黒電話も沈黙している。
いったい……?
腕組みしていると、今度はほんとにリビングの電話が鳴る。
パタパタとリビングに戻る。
「もしもし、小泉ですが」
受話器を取ると――あ――と声がする。「あ」だけでも分かる。お母さんの声だ。
――ごめん、間違えて家に電話してしまった! 島田くん、そっちの電話で、ごめんね――
お母さんは、自分のミスを島田くんとやらに押し付けたようだ。地声がでかいから、受話器を手で押さえていても聞こえてしまう。
「もう、しっかりしてよね」
――そおだ、久々に二人でご飯食べようよ(^▽^)――
島田くんをスケープゴートにして、久々に親子の晩餐になる。
それにしても、あの電話の呼び出し音は?
ま、いいや。少々の不思議には驚きません。
お婆ちゃんにことわり入れようと思ったら、すでにお母さんが携帯で連絡していた。
お婆ちゃんと梅田さんの笑顔に送られて、最初の晩餐に出かけるわたしでした。
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている
霊田先生 図書部長の先生