大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真凡プレジデント・59《ウワーーーー(#^0^#)!》

2021-04-21 05:56:45 | 小説3

レジデント・59

《ウワーーーー(#^0^#)!》   

 

 

  何ごとも規則通りにやると息が詰まる。

 

 たとえば、道路の左側を歩けば道路交通法違反になる。

 空き地を斜めにショートカットすると不法侵入罪になる。

 女の子を五秒以上見つめるとセクハラになる。

 

 これと同じ理屈で、学校は生徒会室のエアコン使用を許可しなかった。

 

 だから、事務所と同じ感覚で校内を見て回った。

 主に教官室や教科準備室など十五か所。

 出てくる出てくる。

 冷蔵庫が十二台、エアコンが二台、洗濯機が二台、電子レンジが四台、ガスコンロが一台。

 いずれも学校の備品ではなく私物として持ち込まれたもの。コンロにいたっては隣の部屋からホースを敷いて堂々の消防法違反。

 いつもならネットに晒す。

 今回は生徒会室のエアコンを稼働したいだけなので、タブレットに取り込んだだけで事務所に向かう。

 

「これ、問題だと思うんですけど」

 

 それだけ言って主査のオッサンに見せる。

 ほんの五秒で、オッサンは事務長に耳打ち。

 チラチラと俺を見てはヒソヒソ。

「時間かかるようならエンターキー押しますが」

「「エンターキー!?」」

「はい、ネットに流れると同時に都教委と都庁の記者クラブに……」

「分かった分かった、直ぐに生徒会室の電源を入れてあげるから(^_^;)!」

 事務長は若い主事のニイチャンに指示して電源を入れてくれた。

「学校の節電努力も理解しています。給湯室のレンジなんか使用しないときはプラグ抜いてらっしゃいますもんね」

「え?」

 主事のニイチャンの背中が驚く。

 事務所の給湯室は隣接する校長室と共用で通路を兼ねている。万が一の校長の脱出ルートでもあるし、秘密の相談が行われるコーナーでもあり、生徒はいっさい立ち入れない。その給湯室の秘密なんだから驚くだろう。ただ、ヤマはっただけなんだけどね。

 

 ウワーーーー!

 

 生徒会執行部、四人の女の子が歓声を上げる。日ごろはなにかと癖のある子たちだけど、これだけの暑熱が一気に解消されると、彼女たちのコアな女の子らしさが出るんだ。エアコンの威力は絶大だ。

 それと、真凡が特徴のない女の子だと言われる理由が分かった。

 分かったんだけど、なにもかも表ざたにするのも芸のない話なので、ここでは言わないぞ。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

 

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銀河太平記・041『ミクの朝』

2021-04-20 09:55:52 | 小説4

・041

『ミクの朝』未来   

 

 

 予測はしていたけど、心はブルーだよ。

 学園艦が爆破されて、修学旅行中の生徒や先生やクルーたちが亡くなった。

 後半組は、まだ地上に居たので、犠牲になったのは前半組。

 幼稚園や小学校からいっしょだった前半組の子たちの顔が浮かんでは消えていく。

 熱!

 腹ばいになった脚の裏側が熱くなって、小さな悲鳴が出る。

 家について、お父さんと少し話して、そのままベッドにうつ伏せに飛び込んでそのまま。

 部屋に入った時は、せめてシャワーを浴びようと思って上と下を脱いだところで限界。

 上はタンクトップ、下はパンツだけ。

 脚の裏が熱いのは、カーテンが半分開いていたから下半身にだけお日様があたっているからに違いない。

 お日様には人を元気にする力がある。

 日光に当っているだけでビタミンDが生成されるし、セロトニンという元気物質も作られる。

 だから、起床時間になるとカーテンが開くように設定してあるんだけど、調子が悪いんだろう、半分しか開いていない。

 さ、起きるか(^▽^)/

 アニメキャラのような空元気出すと、着替えを掴んでシャワーを浴びに行く。

 おお!?

 浴室には先客が居た。

「ムー、声くらいかけなしゃいよ!」

 胸の高さでテルがボヤく。

 浴室はテルと共用なんだ。というか、元来は一部屋だったのを区切ってあるだけだからバストイレは共用。

 うちの両親は二三人子供を作るつもりでいたから、医院兼自宅を作る時に子供部屋は二人で使える広さにしていたんだよ。

 まあ、そういう余裕があったから、テルの下宿先がうちになったということでもあるんだけどね。

「テルは朝から起きてたの?」

「もちろんだわよさ。家の前掃除して、お花にもおみじゅあげたわよさ」

「そっか、テルは大したもんだね……」

「ウジウジしても、始まんないわよしゃ……」

「うん……」

 ムギュ!

「ちょ、オッパイ掴むな(#'∀'#)!」

「こんにゃ立派なもの付けてんだから、しっかりしゅゆ!」

「あ、ああ、分かったから、も、揉むなああ!」

「朝ごは食べたや、お城行くのよさ」

「あ、ああ、そうだった」

 空港からヒコが電話してくれると、お父さんが出て、わたしの偽者は二日前から上様のお招きでお城に上がっていると伝えられた。

 そいつは偽物と伝えると、お父さんもお母さんもビックリしてた。なんせ、細胞レベルの変装だから実の親でも区別がつかないんだ。

 偽物が持ち帰った荷物もいつの間にか無くなっていて調べようもないし、朝ごはんを食べると、制服に着替えてガレージへ。

「あ、掃除半分残ってるじゃん!」

「ミクの分残してありゅのよさ、当たり前っしょ! 帰ったらやんなしゃい!」

「じゃ、花壇も?」

「それは、やってあるのよしゃ。お花が可哀しょうっしょ」

「あ、そだね(^_^;)」

 これだけの会話をしながらも、テルと二人、自転車を出す。

 テルもわたしも車には乗れるんだけど、未成年が車でお城に向かうのははばかられる。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略

 

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らいと古典・わたしの徒然草・78『今様の事どものめづらしきを』

2021-04-20 07:05:09 | 自己紹介

わたしの然草・78
『今様の事どものめづらしきを』  

 

 

 今様の事どものめづらしきを、言ひひろめ、もてなすこそ、又うけられぬ。世にことふりたるまで知らぬ人は、心にくし。いまさらの人などのある時、ここもとに言ひつけたることぐさ、ものの名など、心得たるどち、片端言ひかはし、目見合はせ、笑ひなどして、心知らぬ人に心得ず思はする事、世なれず、よからぬ人の、必ずある事なり。

 訳すと、こんな感じでしょうか。

 最近流行のめずらしいあれこれを言い広め、得意げになっているのは感心しないぞ。そういうことは世間で言い尽くされてしまうまで、そんな事は知らずにいる人は奥ゆかしいものだ。新米の者がある時、こちら側で言い馴れている言い方、物の名前とかを、分かってる仲間同士で言葉の一部を省略して言い合って、目を見合わせて、笑ったりして、意味を知らない人に「え、なんのことだ?」と戸惑わせて悦に入ってるやつとか、世間のバカが必ずやる事だよな。

 

 兼好は、こう言いますが、流行りのものに飛びつくのは、心身が若い証拠でしょうね。

 わたしなど、いまだにスマホはおろかガラケーも触ったことがありません。

 だから、外出先で急に電話しなければならないことになって「あ、わたしのスマホ使ってください」と勧められてもかけ方が分かりません。

 パソコンは使いますので、キーボードの操作はできるのですが、スマホというやつは「アルファベット」とか「あかさたな……」とかが並んでいるだけです。タッチして上下左右にスライドさせるとか、タッチの回数で文字が変わるとかの操作が必要なんだそうで、わたしにはエニグマの暗号機を操作しろと言われているのとかわりません。

 たまたまの外出先で電話する必要ができたときは、ひたすら公衆電話を探します。

 この公衆電話が、近頃は見つけにくくなりました。

 ちょくちょく自転車で散歩に出かけるのですが、気が付くと十キロやそこら走ってしまって、帰りが遅くなることがあります。以前、六時間余りも走って帰ると「電話ぐらいしてちょうだい」とカミさんに叱られました。言外に――スマホぐらい持てよ!――という気持ちがあるのですが、わたしのスマホ嫌いはどうしようもないと観念しているので、せめて公衆電話からでも電話しろということなのです。

 自宅の八尾市を出て、東大阪市のど真ん中で思いつきましたが、やっと、公衆電話を見つけて電話できたのは守口市でした。

 しかし、公衆電話からの着信はうちの固定電話のディスプレーには『公衆電話』としか表示されません。

 不審な電話にはいっさい出ないカミさんは、なかなか受話器を取ってくれません。

 一分余りも呼び出し音が鳴って、やっと出てくれると無言です。

『あ、オレ。ちょっと遠出して守口市まで来てしもたから、ちょっと遅くなる……聞いてる?』

 十秒ほど空白があって「うん、分かった」と二秒もかからない返事。

 カミさんは、いちおう返事はしたものの、わたしが帰って確認するまでは半信半疑だったようです。

 カミさんのスマホに電話すればよかったのでしょうが、憶えている電話番号は自宅の固定電話だけです。

 いやはや……

 流行りのものに飛びつく浅はかさと、流行りのものに飛びつける心の若々しさは面白くも奥深いものがありますので、また改めて触れたいと思います。

 

 

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真凡プレジデント・58《柳沢先輩は手を切らない》

2021-04-20 06:07:28 | 小説3

レジデント・58

《柳沢先輩は手を切らない》   

 

 

 さすがは柳沢先輩、わたしが倉庫の整理をやっているうちにやっつけてしまった。

 むろんエアコンの取り付けよ。

 しかし、様子がおかしい。

 エアコンが付いてるわりには蒸し暑く、扇風機すら回らずに生徒会室の窓は全開になっている。みんな汗を流してペットボトルのお茶や缶コーヒーなど飲んでいる。

 

 え、あ、どうして?

 

 表情を読んだのだろう、柳沢先輩が解説してくれる。

「設置許可と電気代の問題なんだとさ」

「なんですか、それ?」

「エアコンは設置許可が必要で、電気代もバカにならないから、運転の許可が下りないの」

 お茶を飲みつくした綾乃が補足する。

「さっき事務の人がやってきて、宣告された」

「えと……わたしがいけないの」

「なんで、なつきが?」

「なつきは悪くないって」

「だって……」

「じつはね、エアコンつくのが嬉しくって、なつきがお茶を買いに行ったのよ。そしたら、自販機が故障してお茶が出てこないから……」

「あ、あ、だから事務所に知らせに行ったのよ」

「自販機の故障なら食堂のおじさんでしょ」

「ま、それで、あまりになつきが嬉しそうなもんで『なにかいいことあったのかい?』と聞かれてさ」

「『生徒会室にエアコンが付くんでーす(^▽^)/』って、言ってしまった……」

 

 なるほど、それで視察にこられて難癖付けられた……か。

 

「でも、とりあえず点けてみるとか?」

「だめだよ、配電盤のブレーカーごと電源を落とされてる」

「エアコンを撤去しない限り電源も使わせないってさ」

 杓子定規な学校にも腹が立つけど、汗を流しながらもヘラヘラお茶を飲んでる柳沢先輩もどうかと思う。

「じゃ、どんな手続き踏めばエアコンを点けられるんですか?」

「おーーーー」

「なんですか先輩!?」

「いつも取り留めのない顔だけど、怒ると、けっこう美人じゃないか」

 先輩のオチョクリに執行部の三人の視線が集まる。

「あーー確かに……写真撮っていい?」

「困ります」

「あ、もう撮っちゃった」

「あの、だから手続きは?」

 ダメならキチンと正面から立ち向かってやろうという気になっている。

「我々から生徒会顧問に言って、学校の運営委員会に掛けられて、年間の予想消費電力の見積もりなんかも添えて職員会議で許可が下りなきゃいけないんだぞ」

 う~ん、ちょっとまどろっこしいけど、やってやろうという気になって来た。

「しかしな真凡、運営委員会も職員会議も議案が詰まってるから、取り上げてもらえるのはいつになるか分からんぞ」

「え、そんなあ」

「それに、そのプロセスで代議会とか、生徒会側の評決を得てないとかで横やりが入ると、俺は見ている」

「ニヤニヤ笑わないで言ってもらえます!」

 我ながら言葉に棘が出てきた。

「学校って役所だからさ、特に事務は、モロ行政職だからな、気に入らないとなったらいくらでも邪魔するさ」

「だったら、どうしろって!?」

「よし、俺が行ってくるよ。汗も引いたし、真凡のレアな表情も見られたしな」

 

 先輩はグシャリと空き缶を握りっ潰して席を立つ。

 わたしやお姉ちゃんのように手を切らないところがシャクだ!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

 

 

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やくもあやかし物語・74『自習時間、教頭先生の話から・1』

2021-04-19 08:51:51 | ライトノベルセレクト

やく物語・74

自習時間、教頭先生の話から・1』    

 

 

 日帰りハワイ旅行!

 これだけを聞いたら、怪しげな日帰りパックツアー。

 いくら世間知らずな中学生でも、ハワイは日帰り旅行の範疇ではないことくらいは分かる。

「鳥取県に羽合温泉というのがあってね……」

 と、話が続いて、クスクスと笑い声がさざ波のように起こる。

 三時間目の公民の先生がお休みで、教頭先生が自習監督にこられて漫談を始めた。

 ふつう自習時間には手空きの先生がやってきて、たいていプリント一枚くらいの自習課題をやらされる。

 自習課題が間に合わなかったのか、手空きの先生がいなかったのか、教頭先生が暇だったのか……日ごろ、職員室の奥の席で電話番やら、書類の作成などに追われてる、どっちかというと仏頂面しか見たことが無い教頭先生が教壇に立っているのは新鮮で、これだけで目が覚める。

「教頭というのは、法律でも週七時間は授業できることになってるんだ。それに、元々は理科を教えていたしね」

 という前振りがあって、ハワイ日帰り旅行の話になった。

「その羽合温泉でもなくて、本物のハワイに日帰り旅行できる日が、必ずやってくる!」

 そう言うと、教頭先生は日本とアメリカに挟まれた太平洋の地図を書いて、ハワイ諸島をチョークで囲って、矢印を付けて日本の伊豆半島のあたりまで伸ばして、ビックリマークを三本も添えた。

「実はね、ハワイというのは年間十センチくらいの割合で日本列島に近づいていて、何億年かすると、本当に日本列島と繋がってしまう!」

 そういう落ちのある話から、地球と言うのはいくつかのプレートに分かれていて、そのプレートは絶えず動いているという学問的な説明になっていく。

 なんせ、まだまだ中学生。

 へえーー  ほーー と感心しきり。

 教頭先生は、平教師のころから授業の上手い先生だったんだろうなあと思う。

「実は、伊豆半島はフィリピン、フィリピンはここ(地図にフィリピンを書き足す)。何億年もかけて日本に寄ってきて、そしてぶつかった!」

 伊豆半島の付け根に赤いチョークで火花のエフェクトが点く!

「その時の圧力と熱で出来たのが箱根山と富士山。ドッカーーーン!」

 アハハハハ

 教室のクスクスのボルテージが上がる。

「ハワイが載っているのを太平洋プレート、伊豆半島が載っているのをフィリピン海プレートと言う!」

 赤チョークが、二つのプレートを縁取る。

「そして、ぶつかられている被害者の南半分をユーラシアプレート、北半分を北米プレートと言う」

 なるほど、こいうドラマのように言われると、スッと入って来る。

「ぶつかったところに、その圧力で火山とか断層ができるというわけ。有名な断層は……」

 このあたりから、興味を失っていく子がいるのが、気配で分かる。

 すると、教頭先生は話題を変えた。

「君たち、弥生式土器って知ってるよね? 昔の人が作って、時々遺跡なんかから発見される……ほら、こんな土器」

 くるくるとふくよかな弥生式土器の絵を描いて、大きく弥生式土器と名前を書く先生。

「なんで、弥生式って言うか、知ってる?」

 なんか盲点を突くような質問。

 なんで? 弥生さんという人が発見したから?

「最初の弥生式土器が発見されたのが、東京は本郷の弥生町だったから!」

 なるほど。

「だから、渋谷で見つかっていたら渋谷式、羽合温泉の羽合で見つかっていたら羽合式になっていた」

 そうか、こういうのは発見された場所の名前が付くんだ。

「で、さっきの断層なんだけど。こういうのは日本中にあってね、ほら、学校のある三丁目を東に向かうと、二丁目と一丁目の間に崖があるだろ?」

 あるある、てか、わたしは毎日、その崖の坂道を下って学校に来ている。

 直球で自分の通学路の話になったので、ついつい身を乗り出してしまう。

「あれは、小さいけど立派な断層でね。専門的には二丁目断層と呼ぶんだ」

 アハハ

 あまりにローカルな呼び方に、また笑いが起こる。

「断層というのは、地球の圧力が集中しているところでね、磁石が北を指さないとか、重力が乱れるとか、いろいろ異変が起きやすいところでね。そのせいか、古くから妖怪とか怪異とかの不思議なことの言い伝えがあって、それを鎮めるために、崖を登って横に入ったところにお地蔵さんが祀られている……」

 教頭先生の話は、そのまんま、わたしの周囲のあやかしごとの話になって、耳をそらせなくなってきた……

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 

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らいと古典・わたしの徒然草・77『世の上の人は』

2021-04-19 06:52:16 | 自己紹介

わたしの然草・77
『世の上の人は』  



徒然草 第七十七段

 世中に、その比、人のもてあつかひぐさひ言い合へる事、いろふべきにはあらぬ人の、よく案内知りて、人にも語り聞かせ、問ひ聞きたるこそ、うけられね。ことに、片ほとりなる聖法師などぞ、世の人の上は、我が如く尋ね聞き、いかでかばかりは知りけんと覚ゆるまで、言ひ散らすめる。


 簡単に言えば「世の中の人は、うわさ話が好き」だということを言っています。特に坊主なんぞというものは、お喋りでウワサ好き。ことの真偽も確かめず喋りまくるんだから、坊主には気を付けろと、坊主である兼好が言うのですからおもしろい。

「社会科は見てきたような嘘を言い」
 現職時代に、自嘲と自重の念から、よく言ったことばであります。
「皇極天皇4年(645年)6月12日、飛鳥板蓋宮にて中大兄皇子や中臣鎌足らが実行犯となり蘇我入鹿を暗殺。翌日には蘇我蝦夷が自らの邸宅に火を放ち自殺。蘇我体制に終止符を打った」だけではつまらないので、中大兄皇子が蹴鞠をしていてパスエラー、転がり出た鞠の先に中臣鎌足が居て、「実は、殿下……」「ふむ、そなたも、そう思うか……」などと実況風景風にやって、生徒の関心を引きながらやったものであります。

 むろんこの話は、言い伝えで事実ではりません。でも、見てきたように言います。

 シーザーが暗殺された下りでも、シェ-クスピアの嘘八百から引用して「プルータス、お、オマエもか……!」などと芝居気たっぷりにやります。

 人にものを伝える時は『印象付ける』ということが重要です。

 相手に興味を持ってもらわないと、ただ「伝えた」とか「説明した」というアリバイや自己満足しか残りません。

 手応えのある話し方を心がけました。

 たとえば、鎌倉仏教というのを一学期の終わりごろに『鎌倉文化』の中で教えます。

 それまでは、教義や修業が難しい密教が全盛で、その教義や修業が優しい鎌倉仏教が現れて、仏教は、一般庶民レベルにまで広がった。代表的なものが、日蓮宗、浄土宗、浄土真宗、禅宗などである……と、教えますが、これでは、ただの記号です。

 密教の修業が、いかに厳しいかを延暦寺の千日回峰行の要素で示します。

 比叡山の偉い坊さん(阿闍梨とか)になるために、千日のあいだ、休むことなく比叡山のみならず、一部は京都市街にまで入り込んで30キロの道のりを真言を唱えながら走り回ります。30キロというと、大阪市内から京都までの距離になります。

 その様子を、実際に真言を唱えて教室の端から端を往復(約16メートル)して見せます。

 ノウマク・サラバタタ・ギャティビャク・サラバボッケイビャク・サラバタタラタ・センダマカロシャダ・ケンギャキギャキ・サラバビギナン・ウンタラタ・カンマン……

 教室の小さなモニターで動画を見せるより効果があります。

 こういう千日回峰行は、普通の人間ではできません。

 そこで、南無阿弥陀仏とか南無妙法蓮華経と唱えるだけで極楽往生できるという鎌倉仏教が受け入れられるようになったということを、これも実際に教壇で唱えて見せます。禅宗の座禅の姿も教卓の上でやって見せます。

 その差は一目瞭然で生徒たちに伝わります。他にも、親鸞や日蓮のエピソードを話していたりしますと、鎌倉仏教だけで三時間ぐらいかかってしまって、授業が先に進みません。

 まあ、手応えのある話し方もほどほどにということで、お茶を濁しておきます(^_^;)

 

 

 

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真凡プレジデント・57《新品エアコンの恩恵にあずかろう!》

2021-04-19 05:52:52 | 小説3

レジデント・57

《新品エアコンの恩恵にあずかろう!》    

 

 

 

  ごくろうさま。

 控えめな労いの声に顔を上げると藤田先生だった。

 倉庫の中に居てはうだってしまいそうなので、とりあえず廊下に出すことに専念したので乱暴な積み方になった。残り1/3というところで、廊下に積んだ荷物が崩れそうになって、支えているところだ。タンクトップ一枚の腋が丸出しで恥ずかしい。

 先生は、言葉だけでなく、瞬間迷ってから、崩れそうになった荷物の上の方を積み直してもくださった。

 その間、先生もわたしも無言。

 声を掛けた先生も気まずいようで、目線が逃げている。

 でも、こういう気まずい状況でも、生徒が汗みずくで働いていたら声を掛けずにはおれないのも先生の好ましい個性だ。

 春先の中庭で、生徒会選挙の候補者で悩んでいる先生に出くわさなければ、生徒会プレジデントになっていることも無かっただろう。

「生徒会の資料とかがあるんで整理しているんです」

 中谷先生が言っていた建前だけを笑顔と共に述べる。中谷先生の私物処理がメインだとは言わない。

「あ、えとね……」

 気の毒そうな顔をしたまま、先生は倉庫の中に入りゴソゴソやり始めた。

「あ、もう終わりかけで、一人で出来ますから」

 先生の善意をけん制したつもりだったが、物事はよく確認しなければならない。

「あ、いや、手伝ってあげられるといいんだけどね、これから会議なもんで……」

「あ、あ、そうですか、それはそれは……(^_^;)」

 早とちりに不得要領な返事になる。

「あったあった」

 先生は、倉庫の奥から二つのものを出した。

「この台車で運べばいい、それからエレベーター使っていいからね。それと、PTAで作ったタオル。それじゃ間に合わないだろう」

「あ、ありがとうございます!」

 もうタオルハンカチじゃ間に合わないくらいの汗だったので助かる、それに、台車とエレベーターは百人力だ。

 

「ごめーーーん、助かった!」

 

 台車一杯の荷物を運んでくると、中谷先生も正直な礼を言ってくれる。先生の机の上には退学届けと退学に関わる上申書などが載っている。学期末で退学者が出て、その処理に追われていたようだ。先生にも事情があるんだと納得。

「あ、これ、ホテルのケーキバイキングの優待券。良かったら使ってみそ」

「ありがとうございます!」

 これでチャラ。

 藤田先生にボヤいたりしなくて正解だと思い、お相撲さんのような手刀きって頂戴する。

 職員室のもう一つのドアから、会議の終わった藤田先生が入って来る、微妙な目配せが中谷先生との間に交わされる。

 

 これは、藤田先生から一言あったんなあと思うが、ペコリとお辞儀だけして生徒会室に戻る。

 

 さあ、新品エアコンの恩恵にあずかろう!

 意気揚々と生徒会室に戻ったんだけど……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

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RE滅鬼の刃・22『わたしとラノベとお祖父ちゃんと』

2021-04-18 09:23:19 | エッセー

RE エッセーノベル    

22・『わたしとラノベとお祖父ちゃんと   

 

 

 わたしが所有する本は、教科書を除くと20冊ほどしかありません。

 普通の高校生と比べても、ちょっと少ない部類になると自覚しています。

 ときどき街の図書館に出かけて、表紙のイラストやタイトルの面白いのを借りて読むので、読書量は並の高校生よりは、やや多いという感じです。

 お祖父ちゃんは2000冊ほど持っています。

 大きいのは山川出版社の『国史辞典』とか『原色日本の美術』とか、鞘のようなケースに入った……辞典的な本。戯曲、時事問題とかの単行本。その他は、大方新書本と文庫本。

 読みたい本を全部買っていたら家中本だらけになってしまうので、中年になってからは必要な本は図書館で借りるようにしているんだそうです。

 わたしも、お祖父ちゃんの習慣が身について、子どものころから図書館を利用するようになりました。

 そのお祖父ちゃんが、今でも買って読む本がライトノベルです。

 わたしがもの心ついたころには、お祖父ちゃんの座卓の周囲にラノベが平積みになっていたので、それが普通だと思っていました。

 満足に字が読めないころから、お祖父ちゃんのラノベをパラパラとめくっていました。

 表紙が可愛くてきれいで、表紙をめくったところにイラストだけのページが2~4ページあります。たいてい登場人物の相関関係がキャラの説明といっしょに書かれていて、本の要所要所にもモノクロのイラストがふんだんにあります。

 ラノベで見たキャラがテレビのアニメになっていると、ついつい見てしまいますが、たいてい深夜アニメなので全編通して見たことは、ほとんどありません。

「栞は、ラノベ以外の本を読んだ方がいいよ」

 中学に入ったころに、お祖父ちゃんに言われました。

「え、なんで?」

「ラノベ以外にも、おもしろい本はあるからさ」

 お祖父ちゃんは、そういう言い方をしましたが、どうも違うのです。

 中学の図書室にもラノベは置いてありますが、うちにあるラノベは、ほとんど見かけません。

『冴えない彼女の育てかた』『エロマンガ先生』『中古でも恋がしたい』『可愛ければ変態でも好きになってくれますか?』などがありません。

 クラスの図書委員に聞くと有害図書だとかで置いていないんだそうです。

 わたしも、中二のころからは読まなくなりました。

 進路のこともあったし、読書そのものから外れてきたという感じです。

「それでも、栞は読んでる方だよ」

 お祖父ちゃんは言います。図書館で、年間で30冊くらい……人と比較したことが無いのでよく分かりません。

 ただ、お祖父ちゃんが、ラノベを読む変なお爺さんなのだと言うことは分かります。

 普通のお年寄りはラノベは読みませんよね(^_^;)。

 お祖父ちゃんが、シャンソンのライブに連れて行ってくれたことがあります。

 お客さんは、お年寄りがほとんどで、お祖父ちゃんの横にはお知り合いのシャンソン歌手が座っておられ、互いに挨拶をしたあと、読書の話になって「ラノベを読んでいます」という話になったのですが、その歌手のおばさんは、ラノベという言葉の意味がお分かりになっていませんでした。

「ラノベ?」

「ライトノベルです」

「ええと……」

 という感じでした。

 お祖父ちゃんの面白いところは、自分でもラノベを書くところです。

 むろん商業ベースに乗るようなものではなく、四冊出した本以外は『なろう』とか『カクヨム』とかの投稿サイトに出しているものです。

 わたしも、たまに読みますが、長い本だと連載200回を超えるものもあって、アクセスも二万を超えるものがあったりして、孫としては大したものだと思うのですが、どうでしょう?

 まあ、お祖父ちゃんの元気の元なので、これからもがんばってくれたらと思います。

 二日続いた雨も上がって日本晴れの日曜日、これからお布団を干します(^▽^)/

 

 

http://wwc:sumire:shiori○○//do.com

 Sのドクロブログ☠!

 

 どっちかって言うと、ラノベは嫌い。

 そりゃ、子どものころは、それとは知らずにジジイのラノベ見て、見てたよ、字ぃ読めなかったから、それこそイラストとかを絵本代わりに見てた。

 可愛いし、きれいだし、それに大きさがちょーどいい。

 普通の絵本とかは、けっこうかさばるんだよ。A4サイズどころか、B4くらいの絵本、平気であるもんな。

 子どもってさ、お気に入りのものって持ち歩くじゃん。

 ガキンチョで、訳わかってないあたしは、そういうラノベをお母さんからもらった(憶えてないんだけど)ポシェットに入れて持ち歩くわけさ。

 それが、お友だちとか、お友だちのお母さんとかに見られるわけよ。

 反応は「アハハハ(^_^;)」だよ。

 ガキを叱るわけにもいかないだろうけど、その「アハハハ(^_^;)」で分かっちゃうよ。

 ああしはヤバイ物(ぶつ)持ってんだ……

 そういうのには敏感な子だったから。

 それで持ち歩かなくなって、長じて分かったよ、やばいラノベだって。

 そんなもん、子どもの目につくとこに置いとくなよな!

 他にも、ここでは書けないようなモノが、うちにはゴロゴロしている。

 全部、クソジジイの持ち物!

 あぶなくって、友だちなんて呼んだことが無いよ。

 でも、ラノベ見ることから読書の習慣がついた。

 読書家ってほどじゃないけど、月に二回くらいは街の図書館行って二三冊借りてくる。

 ちょっと変わった小説が好きかな。

 たとえば、こんなの。

 中学生の女の子が目覚めたら、前後にドアがあるきりでの部屋に閉じ込められてんの。気が付くと、自分の同じくらいの制服着た女の子が居て、ドアには、こう書いてある『相手を殺さなければ外に出られない』ってさ。最初は躊躇するんだけど、食べ物も何にもないから、やがて、その子を殺しちゃう。殺しちゃって、その子の持ち物の水とか僅かの食べ物とか奪って、ドアを開ける。しばらくいくと、同じような部屋で、そこにも女の子が居て、今度はナイフとかが置いてある。やがて、その子も殺しちゃう。その子は、なんにも持ってないんで、その子のお腹を割いて胃の中のものを食べる。そういうことを繰り返して、殺し方や人の食べ方を克明に描写している。

 タイトルはよしとくね。うる憶えだし、ネタバレするし。

 そういう本て、表紙もタイトルも穏やか。普通の文学書みたく見える。中身はすごいんだけどね。

 ためしに、学校の図書室に希望図書で出したら、あっさり買ってくれて、ショーケースの中に新刊図書としてディスプレーされてたよ。

 でさ、図書の先生に「こんなに過激なんですよ~」って、見せたわけ。

 その本は、近未来の日本でさ。忙しいとか、持てないとかの事情がある人間が、アンドロイドの異性とひと時を過ごすって話。

 まあ、アンドロイド相手にってか相手をしてもらってセックスするんだよ。

 そのプロセスが克明に書いてあって、もう、エロゲ真っ青ってしろもの。ラノベのパンチラなんて可愛いもんよ。

 でもさ、先生は言うわけよ。

「これは文学、芸術だからね、大丈夫なんだよ(^_^;)」

 おかしくね?

 試しにさ、ラノベ読んでるクラスの男子に「どーよ」って見せたら、真っ赤な顔して鼻血流してましたよ。

 瞬間、ほんの瞬間なんだけど、うちのジジイも間違ってないじゃんと思った。

 でもさ、いい年して、ラノベもどき書くのはやめてほしいよ。

 せめて、ペンネーム、あたしと同じ苗字にはしないでほしい。

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らいと古典・わたしの徒然草・76『法師は人にうとくてありなん』

2021-04-18 06:04:21 | 自己紹介

わたしの然草・76
『法師は人にうとくてありなん』   

  

 

 徒然草 第七十六段

 世の覚え花やかなるあたりに、嘆きも喜びもありて、人多く行きとぶらふ中に、聖法師の交じりて、言ひ入れ、たたずみたるこそ、さらずともと見ゆれ。
 さるべき故ありとも、法師は人にうとくてありなん。


 徒然草は、あまり真面目に読んではいけない。最初に本人が言っている、「徒然なるままに=思いついたことを勝手に書き散らしてるだけだから、マジな顔して読まないでくれる!?」
 実際、読んでみると矛盾したところがよく出てきます。この七十六段なんかは、その典型でしょう。
 この、たった三行のエッセーは「葬式なんかで、坊主が受付に並んでたりするのウザイよなあ、坊主ってのは、俗世間からは、離れてなくっちゃいけねえぜ」という気まぐれ。
 兼好自身が坊主で、世間の垢にまみれているのは、徒然草自体を読めばよく分かることです。
 だから、わたしは、兼好坊主の与太話に付き合うつもりぐらいの軽いノリで書いております。

 実は、わたしの親類は坊主だらけなのです。叔父と従兄弟二人が坊主で、五親等ぐらいたどればもっといます。
 十年前の2011年11月11日という分かり易い日に父が亡くなりました。生前から、ある葬儀会社の積み立てに加入していたので、すぐそこに連絡して葬儀の準備にかかりました。
「で……おかかりのお心づもりは(予算はどのくらいで、という意味)」と営業のオバサンがしめやかに聞いてきた。わたしは、黙って指一本を出した。これで通じる。葬儀が十万であがるわけでもなく、一千万もかけられるほどのブルジョアでないことは、わたしの風体・人相からでも明らかであり、百万であることはすぐにしれる。
 オバサンは、タブレットをチョイチョイと操作し、百三十万ほどの金額を提示してきた。その中に、坊主にかかる費用は入っていなかった。
「ボンサン呼んだら、いくらぐらいかかります?」
 オバサンは、黙って人差し指と中指を立てた。別にジャンケンのチョキを出したわけでも、ピースサインを出したわけでもない。相場が二十万ということである。葬儀費用と合算すれば百五十万を超え、予算を五十%もオーバーしてしまう。
 で、従兄弟の坊主を思い出し、気楽に電話した。商売慣れというのも変だが、二十分後には葬儀会館までやってきてくれました。

「直接言うてくれて正解。業者通したら四割ほどキックバックとられるとこや」

 わたしは、さらに値切って、相場の半額であげた。葬儀費用とつっこみで、百二十万ほどであげました。別になんでも値切り倒す大阪人根性からではありません。父が残した僅かな貯えで、身の丈にあった、葬儀や、それから何年も続く法要の費用まかなおうという思いからです。死んでまで息子に借金するようでは、親父も後生が悪いだろうと思いました。

 家は、代々浄土宗なのですが、従兄弟は仏光寺派の浄土真宗です。まあ親類のような宗旨でもあり、なにより気楽な宗派なので、あっさり改宗。法名(浄土真宗では戒名とは言わない)は釋善実と付けてもらいました。
 ついでに自分の法名を自分で考えてみました、釋睦夫(シャクボクフ)。本名を音読みしただけですが、なんとも長閑な音の響きが気に入っております。これで、わたしの葬儀費用から法名代が節約できる。

 浄土真宗のお気楽さは、年号を使わないところにも現れています。寺から頂くカレンダーは西暦で、本堂に行くと「護ろう憲法九条!」などのポスターが平気で貼ってあります。九条についての考え方は、わたしのそれとは大きく離れるのですが、そういうことを平気で貼ってあるところがいい。

 郷土の名士に今東光がいました。天台宗の坊主で瀬戸内寂聴の法名を付け、中尊寺の貫主を勤めたほどの偉い坊主で、文学者でありました。死ぬまで世俗の中にいた人で、編集者が原稿をもらいにいくと、座卓に向かい呻吟していて。編集者は、さぞかし難しい教典でも読んでいるのかと思えば、週刊誌のグラビアの女の子の見比べをやっていたそうです。今でもネットで検索すると、今東光和尚の法話などが出てきますが、とてもNHKの地上波や学校で生徒に言える内容のものではないのですが、面白くタメになる(ならないものもあります)のであります。
 坊主というのは、かくも世俗にまみれてこそのものである。兼好坊主の、この七十六段は、坊主として、いや大人として生きる人間へのパラドクス的な喝(かつ)であろうかと思いました。

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真凡プレジデント・56《高校生の美徳》

2021-04-18 05:45:17 | 小説3

レジデント・56

《高校生の美徳》    

 

 

 

 高校生が正直なのは美徳なんだろうけど、役に立たないこともある。

 

 毎朝テレビでエアコンをもらって帰る途中、中谷先生からメールが入った。

――倉庫に生徒会の資料があるから取りに来て、至急ね――

 学校に着くと、柳沢先輩と執行部の三人に任せて、わたしは職員室に向かった。

 エアコンの据え付けは綾乃が拝み倒して、柳沢先輩がやってくれることになっている。

 資料を取りに行くだけだから、汗を拭いて戻るころには作業に掛かれるだろう。

 

「失礼します……オオ」

 

 ドアを開けると、どっとあふれ出した冷気に包まれて気持ちがいい。

 職員室のエアコンはガンガンかかっていて羨ましい。ま、生徒会室も一時間もすればエアコンが付く。羨むのもこれが最後だと思うと、気分がいい。

「田中さん、こっち!」

 机の島に胸壁のごとく高く積まれたゴミにしか見えない書類等やらの山から、中谷先生の手がオイデオイデをしている。

 声だけで分かってくれるのは嬉しい。

 何度も言ってるけど、わたしの特徴のなさは特筆もので、先生によっては学年の最後まで覚えてもらえないこともある。

 とっくに諦めているんだけど、今みたく間髪いれないで分かってもらえるのは、エアコンの冷気と共にありがたい。

「資料って、どこの倉庫でしょ?」

 どことは聞いたけど、職員室に附属している六畳ほどのそれだと見当はつけている。あそこなら、ドアを開けっぱなしにしておけば一分足らずで職員室と同じ涼しさになる。ラッキーだ。

「あ。こっち」

 先生は鍵束を手にするとスタスタと職員室を出ていく、ちょっち悪い予感。

 

「ここなんだけどね」

 

 先生が立ち止まったのは四階の階段を上がって直ぐのドア。

 ドアが開くと、四十度くらいはあろうかという熱気がカビとホコリの臭いをまとわりつかせて転げ出てくるる。

「このロッカーと棚にあるので生徒会らしいのは持ってってくれる? あと、わたしの名前とか書いてある……こういうやつね。これを職員室まで持ってってくれると嬉しい。大変だろうから、執行部みんなでやっていいわよ」

「あ、いえ、一人で出来ます」

 一人ではきつい量なんだけど、こんな仕事に皆を呼ぶわけにはいかない。

「あ、そう、ま、無理しないでね」

 先生はサッサと行ってしまう。

 ため息一つついてブラウスを脱ぎ、タンクトップ一つになって取り掛かる。帰りのことを考えるとブラウスを汗びちゃにはしたくない。むろん、ここを出る時にはタオルハンカチで汗をぬぐう。

――これって……――

 二三分して気づいた。

 生徒会の資料って、ほんの段ボール一箱程度。あとは先生の私物と思しきガラクタばかりだ。

 ハーーーー

 再びため息ついて周囲を見渡す。他の先生の私物とかもあって、どうやら、空き部屋を先生たちの物置にしていたようだ。

 一画がゴソッと無くなっているところや、荷造りされているのもある。おそらくは、学校の都合で部屋を整備するか使うかで、私物はどけておくように指示があったのだろう。

 ざっと見当を付けて、とりあえず廊下に出すことにする。

 廊下に出してしまえば、中よりもよほど涼しい。

「さ、やるか!」

 気合いを入れて作業にかかるわたしであった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

 

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かの世界この世界:181『黄泉の国を目指す神々の会・1』

2021-04-17 09:58:26 | 小説5

かの世界この世界:181

『黄泉の国を目指す神々の会・1』語り手:テル   

 

 

 こいつめ!!

 

 イザナギは太刀を振るった!

 突然のことに、止める暇もなかった。

 温厚な男のように見えているが、さすがに国生みの神だ。オーディンの威光も届かぬ流刑地ムヘンで様々な災厄や敵の襲撃を凌いできた我々でも咄嗟に対応できなかった。

 イザナギは、生まれたばかりの火の神を一撃で切り倒した。

 その斬撃は凄まじく、火の神は数百に爆散して、生まれたばかりの世界に散ってしまった。

「イザナギ、気持ちは分かるが、あれでは、火のタネを増やしただけだぞ」

「すまない、つい気が荒ぶってしまった……」

「ヒルデ、あちこちに火の山が盛り上がってきたよ」

 ケイトが指差す方を見ると、霞を通してもはっきりと分かるほどに赤々とした山容が浮かび上がっている。それも一つ二つではなく、山の向こうにも次々と燃え盛り始めている。

「……イザナミさんが息を引き取ったよ」

 そこだけ焼け残ったイザナミの手は脈を打っていなかった。

「イ、イザナミ……イザナミ!」

 イザナギが真っ黒に焼け焦げた妻の亡骸に縋りつく、その後ろで、我々も不運な女神に頭を垂れて哀悼の意を示すのだった。

 ヒルデも北欧神として、かなり過酷な運命を背負わされているが、イザナギ・イザナミの不幸に言葉もない。

「テル、このあとはどうなるんだ?」

「それが……検索しても出てこなくなってきた」

 わたしたちは日本神話を習っていない。

 日本史の授業の中で『古事記』『日本書紀』と習うだけだ。712年『古事記』、720年『日本書紀』、稗田阿礼、太安万侶も四文字の記号のような人物名としか頭に入っていない。

 日本神話は、ラノベやアニメのモチーフにされ、加工されたものしか知らない。

 ついさっきまで身を隠していたアメノミハシラも、FF14のダンジョンでしか知らなかった。

「妻を迎えに行く!」

 ひとしきりの慟哭が収まると、イザナギはグシグシと涙を拭って立ち上がり、角髪(みづら)のほつれも構わずに、西の空に向かってまなじりを上げた。

 はた目にもカッコいいのだけど、こういうヒーロー感丸出しの男と言うのは、えてして失敗が多いものだ。

「迎えに行くのはいいが、どこに行こうと言うのだ?」

 オノコロジマは四方が海に囲まれて、真ん中にアメノミハシラが立っているだけの孤島だ。

「黄泉の国」

 イザナギが目を向けた先は霞が薄れ、火の山から漏れ出た溶岩がトンボロのようになって、西に広がる大地に続いているように思えた。

「我々も同行したいが、かまわないか?」

 ヒルデが一歩前に出る。

「おお、ご同行願えるか?」

「ああ、国生みの最初から関わってきたからな。東西の隔てはあるが、共に原初の神だ、力になれるのであれば」

「おお、百人力! いや、千人力! よろしくお願いする!」

 そう言うと、イザナギはズタブクロに剣一振りという軽装で歩き出した。

「え……歩いていくの?」

 テルが、残念そうに呟く。

 ムヘンでは乗り心地はともかく二号とか四号に乗って移動していた。のっけからの歩きは意欲を削がれるのだろう。

「わたしらも、ヒルデに出会うまでは歩いていたじゃないの。荒れ地の旅なんて、テルもはしゃいでいたわよ」

「え、そうなの?」

「忘れた?」

「あ、うん……最初の方は、なんか記憶があいまいで」

「そのうちに思い出すさ……」

「さあ、みなさん、潮が満ちる前に島を出ますぞ!」

 イザナギが上げた拳には『黄泉の国を目指す神々の会』と添乗員の小旗のようなものが握られていた。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

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らいと古典・わたしの徒然草75『つれづれわぶる人は、いかなる心ならん』

2021-04-17 08:09:25 | 自己紹介

わたしの然草・75
『つれづれわぶる人は、いかなる心ならん』   

 

第七十五段

 つれづれわぶる人は、いかなる心ならん。まぎるる方なく、ただひとりあるのみこそよけれ。

 智に働けば角が立つ情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。
 夏目漱石『草枕』冒頭の言葉の後に付けると似合いそうな段です。

 簡単に言えば「世の中、人と交わって生きるのは、ウザったくてむつかしいもんだ」ということであり、この七十五段は「だから一人で、居ようぜ!」という孤独の勧めのようです。

 

 府教委の強い指示で、学校行事には国旗の掲揚と国家の斉唱を実施すると言うことが提案さた時の事です。

 相変わらず教職員の間からは「軍国主義、侵略戦争の象徴」「外国籍の生徒への配慮に欠ける」「教育現場に持ち込むことではない」というような反対が為されました。

 言われっぱなしでは面白くないので、そろりと手を挙げて反論を試みました。

「侵略戦争の象徴と言われるならば、他にもいっぱいあります。東京都は、かつて東京府で、特別区は、まとめて東京市なっていましたが、戦時国策の遂行のため戦時中に今の特別区になりました。東京は、いまだに戦時体制なのです」

 なにそれ?

「電力会社や、ガス会社、私鉄などは寡占状態ですが、これも戦時中に国が統制しやすいようにまとめられたものがそのままになっています」

 そうなん?

「日本語を横書きにするときは、右から左に書きます。授業でも、そうやっていますし、この職員会議でも議事内容は右から左に書かれています」

 なにを当たり前なことを。

「これは、戦時中に南洋庁、南洋庁というのは、当時の日本が国際連盟から信託統治領として任されていた島々を収めるために作られた役所です。その南洋庁が『横書きの日本語が左書き右書きが混在していて、南洋の現地人には、とても読みにくいので、統一してほしい』という要望があって閣議決定で右から左に書く、今の形になっとものです。これも戦時政策の残滓どころか戦時政策そのものです」

 へえ……

「だから、そういう、明らかに戦時政策であるものが反対されずに、日の丸君が代だけを問題にするのはおかしいです」

 そんなん聞いたことないわ……

 会議室は、実に薄い反応しかなく、反論も返って来ません。

 けっきょくは、言いたい者が言いたいことを言って、校長が締めくくります。

「府教委からの指示通りに実施いたします」

 これでおしまいです。

 あとは「大橋は変な奴」「あいつは右翼」という空気だけが残って、とても気分の悪いものでした。

―― ああ、知に働けば角が立つというやつか ――

 と思いましたが、先輩がボソリと言ってくれました。

「いや、あんたは情に竿さしたんや」

 ああ、なるほど……

 

 

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真凡プレジデント・55《四人揃って来るこたーないだろ》

2021-04-17 06:28:28 | 小説3

レジデント・55

《四人揃って来るこたーないだろ》     

 

 

 

 俺が免許を持っているのは綾乃以外は知らない。

 

 だから、綾乃がバラしたのに違いないんだけど、久々に縋りつくような眼差しで頼んできたので引き受けてやることにする。

――四人揃って来るこたーないだろ――

 待ち合わせ場所のロータリーに生徒会執行部が雁首揃えて並んでいるのが目に入って、思わずハンドルを叩いた。

「エアコンの効きが悪いから、ちょいと暑いぞ」

「大丈夫よ、効きのいいエアコンを取りに行くんだからさ、さ、みんな乗って乗って(^▽^)」

 意味不明の小理屈を言って、どーしようかという顔をしている三人を急き立てて車に乗せる綾乃。

 こういう調子づいた行動は俺への甘えからなんだろうが、三人に気づかれても面白くないのでブスっとしておく。

 

「よろしくお願いします」

 会長の真凡が挨拶してくれる。

 真凡は常識ある生徒会長らしく、申し訳なさそうに眉をヘタレさせる。

 ほら、アニメとかでよくある表情、眉毛が「し」の字に、目が「へ」の字になってるやつ。

 意外に可愛い……きれいだ。

 取り留めのない造作で、かなり親しくなっても、真凡の素顔って? 考えてしまうほどに特徴が無い。アニメやゲームに出てくるNPCというか、へのへのもへじ顔というか、そんな感じ。

 しかし、元々、毎朝テレビ一押しの女子アナ田中美樹の妹ではある。磨けば相当の輝きを発する……と思って運転に集中する。安全運転のためでもあるが、助手席の綾乃の機嫌を損ねたくはない。綾乃に対して完全な優位に立てることも、近頃無いしな。

「ちょっと、窓開けていいか?」

「えーーーなんで!?」

「いや、その……窓開けた方が涼しいかなって……」

「やだ、温い風が入ってきてもしかたないよ」

 綾乃の反対に、後ろの三人があいまいな笑顔を返す。

 暑い以外に、四人の若い女のニオイで閉口しているんだけど、さすがに言えない。綾乃に、これ以上口を開かせることも剣呑だしな。

 

 毎朝テレビが近くなるにしたがって、言いようのない負のオーラを感じる。

 

 六十年以上民放の雄として君臨していた毎朝テレビが潰れたんだ。言葉では説明しきれない何かがあるのかもしれない。

 しかし、言っとくけど、俺のウィルスが原因で潰れたという呵責は爪の先ほどもない。

 駐車場に車を入れながら思ったのは、こいつらエアコンの据え付けまでやれって言うんじゃないだろうな? という心配。

 エアコンの取り付けっていうのは、テレビ局一つ潰すよりも面倒なんだぜ。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長

 

 

 

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誤訳怪訳日本の神話・35『ちょっと怪しいんですけどお(;一_一)』

2021-04-16 09:37:15 | 評論

訳日本の神話・35
『ちょっと怪しいんですけどお(;一_一)』  

 

 

 オオクニヌシは名乗りをヤチホコノカミと変えて越の国(福井・富山・新潟のあたり)に向かいます。

 ヤチホコとは沢山の武器を持っているという意味で、武神としてのオオクニヌシの性格を現しています。

 オオクニヌシは他の日本神話の神々と異なって、沢山の名前が付いています。

 ご先祖であり妻のスセリヒメの父であるスサノオは、後にも先にもスサノオの名前しかなく、姉のアマテラスも同様です。

 素人考えですが、オオクニヌシの姿が定着する過程で、いろんな神さまの話が一緒くたにされたのではないかと思います。

 なぜ一緒くたにされたのかと想像しますと、以下のように妄想します。

 オオクニヌシを頂いていた西日本の地域は大和朝廷に対立する大きな勢力であったので、大和政権に帰順させるにあたって特別扱いをされた。

 特別扱いなので、元々出雲にあった神々や大和の神々の話がまとめられてオオクニヌシという神格になった。

 だから、出雲を治めていた首長は国造として残され大和政権からも敬意を払われて、令和の今日でも天皇家と並ぶ古い家系として出雲大社の神主を務めておられると想像します。

 日本人は、一般的に大虐殺をやりません。

 相手を服属させても、地方長官として残して、彼らの文化や信仰を汚すような真似をしません。

 弥生時代の遺跡から銅鏡や銅鐸がまとめて出てくることがしばしばあります。

 おそらくは、他の集落や部族を従えた時に取り上げた、あるいは帰順のしるしに差し出されたものでしょう。

 世界的に見ると、服属した者の神は否定され、時には邪神、悪魔の扱いになり抹殺されます。神々の依り代や神具は壊されたり、金銀なら鋳つぶされて、金貨や装身具に鋳なおされます。

 日本では、祭祀権を取り上げるというか、より高次の神に統合することで継承されます。

 この感覚が、後に仏教が伝来した時には神仏習合という便利な考え方になり、ほとんど平和的にまとめられたのではないかと思います。たとえば、天照大神(アマテラス)は大日如来の垂迹(すいじゃく=仮の姿)であったなど。

 

 話をオオクニヌシに戻します。

 スセリヒメはスサノオの娘だけあって、非常に気の荒い女神であります。

 亭主のオオクニヌシが浮気を目的に越の国まで出かけるとあっては、決して許さなかったでしょう。

「ちょっと、あんた、馬を引き出させて、いったいどこに行くのよ!?」

「いやあ、狩りだよ、狩り。俺って『ヤチホコノカミ』って武神でもあるんだからさ、平和になったとは言え、そういう精神を忘れちゃいけないと思うんだよ。だから、武神のたしなみっていうか、腕が鈍らないためと言うか、部下の神々に示しを付けるためと言うか……ま、そんなノリでさ」

「ちょっと怪しいんですけどお……いつになく多弁になってるしい」

「違う違う、久々の狩りでさ、ちょっと興奮してんのさ。そ、そう、おまえを背負ってお義父さんのところから走って逃げたときみたいにさ。いやあ、あの時のスセリちゃんは可愛かったあ!」

「あ、それって、今は可愛くないって間接的に言ってない?」

「違う違う(^_^;)」

「そ~お、首筋を汗がつたってるんですけどお」

「あ、これは、気負ってるからっすよ。久々の狩りってゆったじゃん」

「そ~お?」

「とにかく、お義父さんがそうであったように、俺も武神の端くれ、腕がなまってはお義父さんに申し訳が無い。どうか、この俺の男を立てさせてくれよ!」

「そ、そう……そこまで言うなら。じゃ、早く帰って来るのよ」

 記紀神話の中では、原則的に女神は移動しません。あちこちほっつき歩いているのは男神ばかりです。

 アマテラスは高天原ですし、イザナミは死んでからは黄泉の国です。

 その点は、日本神話をモチーフにしたアニメも守っていて、記紀神話の女神の名前を付けられたキャラは移動しません。

『ノラガミ』でも大活躍する女神は『毘沙門』という外来の仏神の名前にしています。

 さて、なんとかスセリヒメを言いくるめたオオクニヌシ、いや、ヤチホコノカミは一路腰の国を目指します途中アリバイ工作の狩りを怠ることなく、やがて、ヌナカハヒメの屋敷の門前にたどり着きます……。

 

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らいと古典・わたしの徒然草・74『蟻の如くに集まりて』

2021-04-16 06:43:51 | 自己紹介

わたしの然草・74
『蟻の如くに集まりて』  

 



徒然草 第七十四段

 蟻の如くに集まりて、東西に急ぎ、南北に走る人、高きあり、賤しきあり。老いたるあり、若きあり。行く所あり、帰る家あり。夕に寝ねて、朝に起る。いとなむ所何事ぞや。生を貪り、利を求めて、止む時なし。
身を養ひて、何事をか待つ。期する処、ただ、老と死とにあり。その来る事速やかにして、念々間に止らず。これを待つ間、何の楽しびかあらん。惑へる者は、これを恐れず。名利に溺れて、先途の近き事を顧みねばなり。愚かなる人は、また、これを悲しぶ。常住ならんことを思ひて、変化の理を知らねばなり。


 これは、兼好が、時々触れている。というか、落ち込んでいる無常観で、いささか始末が悪い。
 蟻のように生きたって、けっきょく死んじまうんだから、あくせくしたってしかたねえ。と、開き直っています。「生を貪り、利を求めて、止む時なし」それでも、けっきょくは、老いと死がまっているだけなんだぜ。というデカダンスと紙一重のように思えます。

 人生およそ八十年。
 だから、80-80=0

 この0の意味の取り方であると思います。お金に例えてみましょう。八十円を落っことせば0になる。インスタントラーメンを八十円で買えば、しばらく腹が持つ。八十円で切手をかえば、二十五グラム以内の重さの便りを誰かに送ることができる(いまは84円ですが(^_^;)。
 落っことした八十円は意味がありませんが、例えインスタントラーメンであっても、食べれば、一時お腹と心が暖まります。
 二十五グラムの便り、書く内容によっては、プロポーズが成功するかもしれず。エッセーの懸賞募集ならば、一等賞になって賞金五十万円ぐらいが手に入るかもしれない。
 要は、-80で何をしておくかによって答の0の意味が異なってくると思います。

 わたしの友人で、雅号というかハンドルネームというかを「朱夏」としている人がいます。朱夏とは人生の中年を指し、天命を知り、身を立て惑わずの時代であります。
 かみくだいて言うと、自分の人生のテーマを知り、モラトリアムの時代、すなわち親のスネかじりを止め、経済的にも精神的にも独立し「わたしの人生はコレデイイノダ!」と、惑わないことを表すことでしょう。
 この伝でいくと、わたしは朱夏の最後期で、惑っていてはいけない。おのが人生を顧みて、「コレデイイノダ!」と胸を張り、耳に従い、すなわち他人様のご意見に素直に聞く白秋の準備ができていなければならない。

 ところが、わたしは天命と心得た職を五十五で辞し、かろうじて出した過去の著作や、出版社が拾ってくださる駄文をもって、「嗚呼、我は、作家哉!」とやせ我慢の胸も張りかねております。戯曲、小説、エッセーと書くものも尻が定まらず。時たま「これを書こう!」と一念発起しても、「ああ、あれが分からん。これも知らんかった」と、ネットで検索したり、広辞苑を引いてみたり。朱夏はおろか「学を志す=青春」の先っちょにいるような気さえしてきます。
 惑わず=独立も怪しいもので、退職金の食いつぶしとカミサンの嘱託職員としての収入が頼りの毎日。実際、健康保険などはカミサンの扶養家族としてのそれであります。
 
 わたしの宗旨は仏光寺派の浄土真宗であります。この我が宗旨では開祖親鸞上人以来、人は死ねば、善人悪人にかかわらず、等しく御浄土に逝くことになっております。法名も勝手に決めて「釋睦夫(シャクボクフ)」と決めております。
 御浄土に逝くことは決まっているので、朱夏や白秋などと取り澄ますのは止しにしようと、最近は思います。分からんものは分からんと言い、嫌なものは嫌と言って残りの二十年を、生き恥と言われながら生きていこうと思う……と、思うところまでは開き直れてはおりません。
 毎日、ブログのアクセスを気にし、コメントやトラックバックにヒヤヒヤ。

 

 愚禿釋睦夫

(注)愚禿とは、親鸞上人を気取っているのではなく、見た目の通りであります(^_^;)。


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