大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・トモコパラドクス・49『友子の夏休み 軽井沢・1』

2023-10-16 06:45:22 | 小説7

RE・友子パラドクス

49『友子の夏休み 軽井沢・1』 

 

 

 駅の改札を出たとたんに少女たちは興奮した。なんたって、ここは軽井沢なのだ!

 

 友子のクラスメート王梨花の突然のメールで決まってしまった。梨花のお父さんは四代続いた華僑で、よく分からないが、大変なお金持ちなんだろうけど、そんな感じは普段ぜんぜんさせない本物のセレブ。

 そのお父さんが気を遣った提案をしてくれた。

「八月の半ばに、仕事仲間を連れて避暑にいくので、それまで別荘の掃除とかしてくれたら、食料付きで使ってもいいよ」

 娘が学校でうまく溶け込み始めているので、二学期を見据え、もっと友だちとの関係を良くしてやろうという親心であることは、解析しなくても友子には察せられた。見かけは十六歳の女子高生であるが、感性の奥には四十六歳のオバサンが潜んでいる。

 で、けっきょくクラスの仲良し女子、麻子、妙子、純子、そこに友子と紀香が加わった。紀香と妙子は演劇部員でもあるので、梨花のお父さんが趣味で敷地の中に作ったダンスのレッスン用の別棟を借りて、コンクール用のお芝居の稽古をするという、もっともらしい理由もねじこんである。

 

「うわー、山が近ーい!」

 

 麻子が無邪気に感動。妙子がその横に並んだ。

「あれは離山、向こうに見えるのがもっと大きくて浅間山」

 純子の父も軽井沢に別荘を持っているので、つい解説してしまう。家の事情があったとはいえ、引きこもっていたころの陰は微塵も無い。梨花は、それを後ろでニコニコ聞いている。人柄の良い子だ。

 紀香と友子は、駅前の国道26号線、すなわち旧中山道に気を取られた。

 明治に外国人達が、ここに別荘を構え始める前や後の土地の情報がいっぺんに飛び込んできた。中には皇女和宮が、十四代将軍家茂に嫁いだとき、ここを通ったときの覚悟や寂しさなども混じっていた。

「お気軽そうだけど、ここもいろいろあったところなんだよね……」

「ま、しばらくシャットダウンする、バカンスにならないものね」

 六人は、タクシー二台に分乗して別荘に向かった。

 

 気づくと、後ろからつかず離れずで、一台のワゴンが着いてきている。

 

「ちょっと後ろの車まきますね」

 運転手さんは気楽そうに言ったが、緊張はダイレクトに伝わってきた。

「竹内興産のセガレとその取り巻きですね」

 紀香が振り向きもせずに答えたので運転手さんはびっくりしていた。

「え、知っているの!?」

「ちょっと、そこの脇道に入ってもらえます?」

「え、この道は林への一本道で、行き止まりだよ」

「ちょうどいいわ」

 友子と紀香は平気な顔をしていたが、四人は顔色もなかった。

「大丈夫、同じ人間、コミニケーションすれば分かるわよ、ね?」

 

 タクシーを停めて、紀香は友子といっしょにワゴン車に近づいた。

 

「ちょっと秀哉くん。顔かしてくれないかなぁ(^▽^)」

 男達は、秀哉の名前を知っているので驚いたようだが、ニヤニヤ笑いながら、二人のあとを付いてくる。

――いい、ケガさせちゃだめよ――

――うん、ちょっと、あそこの神経刺激しておわりにしよう――

 

 そのあと、林の奥で男達の大笑いする声がしはじめた。

 ガハハハハꉂꉂ(ᵔᗜᵔ* ) ギャハハハꉂꉂ◟(˃᷄ꇴ˂᷅ ૂ๑) グハハハハꉂꉂ◟(˃᷄ꇴ˂᷅ ૂ๑) 

 

 気になった運転手さんが駆けつけると、男達は笑いながら地面をのたうち回っていた。

「ちょっとギャグが効き過ぎたみたい」

「もう、大丈夫だからいきましょう」

 

 その後、男達は、気絶するまで笑い続け、六人は無事に別荘に到着した……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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RE・トモコパラドクス・48『友子のマッタリ渇望症・4』

2023-10-15 07:06:03 | 小説7

RE・友子パラドクス

48『友子のマッタリ渇望症・4』 

 

 

 かすかに期待していた、また滝川に会えるのではないかと……。

 

『再会』という店の名前のせいもあるだろう。

 石造りに見える正面、壁際の植え込みには糸杉のミニチュアみたいな緑と花々が並んで、入り口にはテントの張り出しの下に樫の木ドア。

 手応えのあるドアを引いて中に入る。期待に反して店内は良いコーヒーの香りがするだけで、人の気配も義体の気配もせず、カウンターの向こう、コーヒーのサーバーみたいのから湯気が立っている。

 とりあえず左側の窓辺の四人がけに腰をおろし……かわいい悲鳴を上げた。

「キャ!」

 お尻を押さえて立ち上がると、そこに滝川がいた。

「たいしたもんでしょ、ここまで気配を消せると」

「この対応不能の状態を『びっくり』っていうんでしょうね……前いいですか?」

「どうぞ」

 友子は、滝川の膝の感触をお尻に残したまま前の席についた。目の前には成分分析不能なコーヒーが湯気を立てている。

「……成分が分からないと不安?」

「いえ、こういう状況に慣れてないだけです」

「ここでは、ただ安らげばいいんだ」

「滝川さんも、義体なんですよね?」

「ああ、そうだよ。それ以上は説明しないけどね。とにかく、ここではくつろげばいい」

「………」

「無理もないけど、トモちゃんは困った人だ。分析とか解析とかしないと、前に進めないらしい」

「すみません」

「じゃ、ほんの一瞬だけ、ぼくの過去の断片を見せるよ……」

 ズオーーー

 一瞬、頭の中に深い悲しみや怒り、恐れ、破壊の衝動など、ささくれだった情念が飛び込んできた。そして、それらは、解析する間もなく頭から消え去った。

「……すごい」

「それだけ分かればいいよ。人間は、自分でしょいきれないものを、全部義体である我々に背負わせた。無責任……とまでは言わないけど。ぼくたち義体にも退役や休息は許されていいと思うんだ」

「滝川さんは、退役されたんですか?」

「むりやり。もう人間たちに義体であることも感知させない。まあ、いつかは突き止められるだろうけどね。それまで、ぼくはただの城南大学の学生さ。トモちゃんの記憶からもたどれない仕組みになっている」

「このお店は?」

「ぼく達がが作った、義体のための亜空間。トモちゃんが必要になれば、どこにでも現れるよ。店の名前とカタチはその時次第だけどね」

「……おいしいメロンソーダ」

「よかった」

「これが美味しいと感じられることは、わたし、少しは癒されたんですね」

「ハハ、そうだけどね。癒されたと感じればそれでいい。認識の並列化も、ここではしなくていい。なんとなくの表情や仕草で、そう感じればそれだけでいいよ」

「フフ、はい、そうします」

「これから、夏休みだね。人間らしく過ごせよ、トモちゃん」

 気づくと、店の中には数組の客が憩い、ウェイトレスがゆっくりと対応していた。二人いるウェイトレスの一人と目が合った。その目は「良かったわね」と言っている。

 後になって忘れてしまったけど、懐かしい旅の話をした。

 へええ……ほおお……そうなんだ……ほんとですか……と楽しく話しているうちにメロンソーダのグラスが空になった。 

「じゃ、わたし行きます。なんだか、良い夏休みが送れそうな気になってきました」

「それはけっこう。また、電話かどこかの喫茶店で」

「はい(^▽^)」

 

 喫茶店を出て、振り返ると、やはり店は消えてただの児童公園に変わっていた。

 

「やっぱりね」

 そう、納得した後、友子は、思い切り人間的なショックを受け、うなり声を上げてしまった。

「くそ~!」

 薄いビニール袋に入った犬のウンコを、まともに踏みつけてしまった。ウンコは、破れたビニール袋からはみ出してお気に入りのヘップにベッチャリと付いてしまった。

 

 実に、人間であったころから三十数年ぶりの失敗であった。

 

「こういうのも癒しの現れかもね」

 さすがに、ウンコは目力で電子分解した。60%の水分と、有機分子に分解されてウンコは空気によって希釈されて、水蒸気といっしょに上って行く。

 そして、見上げた空にはムクムクと入道雲が湧いて、友子の夏休みが始まった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・057『ウィッチカモミール』

2023-10-14 15:14:02 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

057『ウィッチカモミール』   

 

 

「活性化して来てるねえ……」

「活性化ぁ?」

 腕を組んだお祖母ちゃんに、ボケた応えをする。

 チョボチョボチョボ……

「まあ、お茶でも飲んで……」

 学校でのあれこれ、おもに栗原さんのことにまつわる不思議のあれこれを話している。

 話し始めると「お茶でも淹れよう」と言ってお湯を注いでいたのが、ようやく飲み頃になった。

「離れたところの話が聞こえるのはテレパシーの一種でクレアオーディエンスって言うの。一瞬で場所を移動するのはテレポート……どっちも魔法少女の潜在能力」

「ええ(-_-;)……」

 魔法少女の家系だけども、お祖母ちゃんは、とっくに現役引退してるし、お母さんは、そういうのに関心なくてNASAで火星行きの訓練中。

 わたしは、1970年の高校に通っている以外は普通の高校生をやってる。このまま二十歳になって、魔法少女の能力なんか芽生えないで普通の人生歩みたい。

「たぶん、栗原さんのことで芽生えたんだと思う……」

 

 ああ……そんな能力欲しくも無いよ。

 

「それと、1970年に行くにあたって、ちょっとだけ巡の力解放しちゃったしね……」

「関係あるの?」

「ほんの入り口の力、空を飛ぶのが魔法少女の力だとしたら、やっと家の二階から飛び降りるくらいの力。とてもテレポートに結びつくような力じゃないよ」

「そうなんだ」

「他になんか無かったかい?」

「他には……」

 

 一つ思い浮かんだ。

 

 体育祭の開会式で、とつぜん先生のではないホイッスルが鳴った。

 ピイイイイイイイ!

 なんだと思って、ホイッスルのした校舎の端っこを見ると、ゲバ棒にヘルメット被った二十人くらいの集団が「体育祭粉砕!」とか叫びながらグラウンドに入ってきた。みんなタオルや手拭いをメットのストラップにひっかけて顔が見えないようにしてる。手には軍手嵌めて、五人一組でスクラム組んで蛇行しながら行進してんの。

「あ、あれ、加藤高明!」

 ロコが気づいて指を指したのは、先頭でホイッスル吹いてリードしてる奴。三度目ぐらいのシュプレヒコールでタオルがずれて横顔がばっちり。わたし一人が密かに10円男と呼んでいる留年生のクラスメート。

 学園紛争なんて、前の年の1969年で終わってるのに、こいつらはバカかと思った。

 ほんの二十人ほどだし、今朝まで練習してたムカデ競争ほどにも統制取れてないし。シュプレヒコールとかうるさいし。

――もう、こけちゃえ!――

 そう思ったら、一列目が脚を絡ませて、ほんとうにこけた!

 後の三列も続いてコケまくって、グラウンドのみんなから笑いが起こった。

 どうも、二人ほど脚をグネったみたいで起き上がれずにいると、見かねた保健の先生が救護の生徒を呼んで救助に行った。

 さっきまで威勢のよかったヘルメットたちがペコペコお礼をいって、みんなで校舎裏に戻って行った。

「あはは、ドリフターズのコントみたい(^▽^)」

 だれかが言って、グラウンドは爆笑の渦になった。

 

「ほう、そんなことがあったんだぁ」

 

「え?」

 思い浮かんだだけで、まだ喋ってないんだけど。

「これって、クレアオーディエンス?」

「クレアエンパシー、言葉を使わずに意志や気持ちを伝える能力さ」

「どっちの?」

「両方、わたしが四分で、巡が六分ってとこかなあ」

「そ、そうなんだ」

「もう一度ゲバ坊主たちがコケたところ思い出して」

「う、うん…………プ(`艸´)」

 今度は十円男の心底情けない顔がアリアリと浮かんで笑ってしまう。

「わかった」

「え?」

 

「列をコケさせたのは、巡、おまえだよ」

「ええ!?」

「テレキネシスの一種だよ」

「ええ、どうしよう!?」

「いま飲んだお茶、ウィッチカモミールって言うんだ。抑制効果があるから、しばらく飲み続けるんだね」

「ええ……」

 正直、おいしいお茶じゃなかった。

 あくる日からは水筒に入れてもっていかされることになってしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)

 

 

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銀河太平記・185『ゾンビと旧友』

2023-10-14 09:20:36 | 小説4

・185

『ゾンビと旧友』ツナカン 

 

 

 ゾンビだぁ(゚д゚)!

 

 そう思ったっす、慌てて口を押えたっす!

 チーチェが群がっていた戦死者どもは、ムクムク起きだしてぎこちなく動き始めたっす!

 

 ノッシ……ノッシ……ノッシ……

 

 まるで、オデンカンが嵌ってる古典ゲームのゾンビみたいっす!

 ――任 ヒンメル副長――

 船長にもらった副長の辞令が頭に浮かんだっす。

 もし、この辞令が浮かんでこなかったら、そのまま逃げだしたかもっす。

 副長なんだから、しっかり見極めて報告しなくっちゃっす!

 ゲロ吐きそうなのを、必死でこらえて観察するっす…………少し分かったっす。

 ロボットも義体も、電脳で動いてるっす、人間の脳みそと変わりないっす。

 でも、末梢神経的なのが、体のあちこちにあって、突然の刺激や情報に反応するように出来てるっす。

 人間が熱いもの触ったら「アチ!」って感じで手を引っ込める、アレっす。

 突然の危機に出くわして、いちいち脳みそを経由して行動していたら生きていけないからっす。

 恐竜が分かりやすいっす。恐竜は図体でかいっすから、足でなにか踏んづけて「痛い!」と思って脚を上げるのに脳みそを使っていたら間に合わないっす。だから、あちこちにある制御用のプチ脳みそが信号送って回避するっす。

 目の前のゾンビどもは、扶桑のパルスター攻撃で電脳は焼かれてるっす。

 でも、目の前をノッシノッシ動いてるのは、体のあちこちにある制御系が生きてるからっす。

 

 チーチェどもが埋め込んだのは、そういう制御系に指令を与えるチップ、あるいはソフト。

 

 電脳によって全体としての制御はされていないので、走ったり跳んだりの素早い動きができない様子っす。

 大勢の人間が体の部分部分を動かすコントローラー持って、一体のロボットを動かすようなものっす。

 だから、ゆっくりでしか動かせねえっす、バラバラな動きになるっす、だからゾンビみたいなんす。

 

 そうと分かっても気持ち悪いっす。

 

 副長って自覚が無かったら逃げ出していたかもっす。

 

 バシ! ビシバシ! ブシュ!

 

 突然の斬撃音に驚いて目を向けたっす!

 小柄な迷彩服が刀でゾンビどもをビシバシ切りまくってるっす!

 セイ!

 迷彩服は、数匹のゾンビに囲まれそうになると、小気味いい掛け声をかけてジャンプ、空中で一回転して、十メートルほども飛んだっす!

 あ!?

 その美しい跳躍、反らした胸の膨らみ、きれいな喉から顎にかけてのライン……サンパチ殿!

 思わず漏れ出た感激にサンパチ殿も気づいた様子で、着地の寸前に向こうの岩山を指したっす。

 ザザザザザザザザザ!

 ゾンビどもの群れの中を掻いくぐって岩山を目指すっす。

 

 ズチャ! ズサ!

 

 岩山に着地したのは同時っす。

 美少女という点では引けを取らないツナカンっすけど、サンパチ殿の美少女ぶりは、ほとんど反則っす!

 140センチそこそこの身長、小さく引き締まったお尻、掴んだら潰れてしまいそうな肩、細い首に載った瓜実顔は、頬っぺたがぷっくりして、五年もしたらすこぶる付の美人まちがいなし!

 着地と同時に振り返った上半身、意外に大きい胸がブルンと揺れて、ツインテールの先っぽが頬っぺたを撫でて、長いまつげがパチパチしたかと思うと、朱い唇が小さく開いて懐かしい声を発したっす!

 

「久方ぶりでござる! ツナカン殿!」

 

 美少女に武骨な侍言葉のアンビバレンツ!

「サンパチ殿おおおおお!」

 背中にビビっと電気が走って、思わずハグしてしまったっす(#^▽^#)!

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・47『友子のマッタリ渇望症・3』

2023-10-14 06:53:07 | 小説7

RE・友子パラドクス

47『友子のマッタリ渇望症・3』 

 

 

 気が付くと、父でもあり弟でもある一郎がニヤニヤ笑いながら写真を見て立っている。母であり義妹である春奈は並べたあれこれをゴミと保存に分けている。

 夏休みの初日と日曜が重なったので、この妙な親子三人は、まず身の回りの整理から始めた。両親の一郎と春奈は、新発売のルージュの販売が軌道に乗ったので、友子はマッタリの一環としてオカタヅケという人間的な行為にいそしんでいるのである。

 ただ、友子は義体なので、身の回りは最高に機能的で、その点ではオカタヅケの必要など無かった。

 で、年頃の女の子らしく、適度に散らかして(人間的には飾り付けるという)いるのだが、これが、なかなか難しい。

「なによ、気持ちわるいわねえ」

「友子も見てごらんよ」

「あ……!」

 その写真を見たとたん、記憶が膨大な情報として蘇ってきた。

「連休にディズニーランド行った時のだ!」

「そうだよ、このグズって、お袋にあやされてるのがおれで、全然構わずにビッグサンダーマウンテンの方見てるのが友子だ」

「ハハ、なんか今と関係逆過ぎるから笑えるね」

「母」の春奈が、笑った。

「懐かしい、ちょっと借りていい?」

 友子は、部屋のベッドにひっくり返って、写真を見るというか、解析してしまう。

 軽い気持ちで見ても、数億の情報が頭の中で演算されていく。

「ああ、だめ。もっと軽い気持ちで!」

 友子は、気合いを入れてお気楽になった。

「このときの、わたしって、ビッグサンダーマウンテンのことしか考えてないよ。一郎の泣き声も聞こえてこない。いいよなあ……こういうワガママというか無神経さは」

 数秒後、頭の中で、かすかなアラームが鳴り、ガバっと身を起こした。

 

「これ……滝川さんに似てる」

 

 義体である友子に「気がする」はあり得ない。写真を見れば、その人物から、すくなくとも数万の情報を得ることができるが、滝川らしきものからは、らしいという以外なにも分からなかった。

「ああ、これがいけないんだ。マッタリマッタリ!」

 再びバタリと仰向けに寝転がると、ベッドのスプリングが「プツン」と、音がして折れてしまった。

「いかん、十万馬力なんだ、わたしは……ちょっと、散歩してくる!」

 友子は電脳の中に「無意味」というカテゴリーを作ろうとしていた。昨日食堂で、アイスクリームとラーメンの汁を被ってしまったのは、機能不全によるバグである。人間的なマッタリとは似て非なるものである。友子はバグりかけたPCの持ち主のように必死であった。

 外に出ると、数兆の情報が飛び込んでくる。人間にとっては、体にも頭にも良い刺激なのだろうが、友子にとっては、ただCPUの負荷を掛けるだけのデブリ情報に過ぎなかった。友子は、この負荷を取捨選択し「無意味」をカテゴライズしようと、いわば逆療法に出たわけである。

 

「え、あんなとこに喫茶店が……?」

 

 『再会』という名前の喫茶店だった。友子のGPS機能は「確認不能」のシグナルを発していたが、しばらくすると、確認に変わった。

 カランカラン

 もう――この土地に大正時代からありました――というような面構えをした店で、友子が入ると、レトロなドアベルの音がした……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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RE・トモコパラドクス・46『友子のマッタリ渇望症・2』

2023-10-13 06:49:08 | 小説7

RE・友子パラドクス

46『友子のマッタリ渇望症・2』 

 

 

「お相席になりますが……」

 

 思わぬ声をかけられた。

 

 駅前のパンケーキ屋はいっぱいなので、道を一筋入ったコーヒーハウス。

 レンガの外壁に格子の出窓の中はセピアに滲んで、フェイクではない蔦がほどよく絡んだ昭和レトロ。

 女子高生が一人で入るような店ではないが、なんとも懐かしく、友子は自分の成りを女子大生風にして入ってみたのだ。

 で、空席と思った四人がけのシートに腰掛けたら、ウェイトレスの女の子に言われた。

 言われて気づくと、向かいで、サマージャケットの学生風が文庫を読んでいる。

「あ、ごめんなさい。気がつかなくって」

 そう言って立ちかけると。サマージャケットが文庫から目を上げた。

「これも、何かの縁。よかったらいっしょにどうぞ」

 いつもの友子なら断っている。そもそも、四人がけのシートに人が居ることに気づかないわけがない。

 面白いと思うより、そこまでボンヤリしてしまっている自分を、そのままにしたくて座ってしまった。

「オレンジジュース」

 そうオーダーすると、サマージャケットが店内の鏡二枚を使って友子のことを見ていることに気づいた。

「オレンジの成分分析で産地のバーチャルトラベル。悪くはないけど、もっとリラックスしたら」

「え……」

 この時点で、サマージャケットが人間でないことは分かったが、不思議に警戒心は湧いてこなかった。

「じぶん、城南大学の滝川修。君は?」

 友子は、笑いを堪えて答えた。

「乃木坂学院の鈴木友子です」

「じゃ、トモちゃんでいいかな?」

「いいも、なにも、全て知ってるんでしょ?」

「知らない。トモちゃんが、あんまりくたびれてるみたいだったから、オレンジジュースについては読んじゃったけど」

「あなたも……義体なんでしょ?」

「そうだよ。ここじゃ、誰でもそうだし、誰も気にしないんだ」

 

「え……?」

 

 ウェイトレスの女の子と数人のお客が友子の方を向いてニッコリ笑った。

 ちょっと驚いた。

 滝川を含め、だれもスマホを見ていない。電車の車内にしろ喫茶店にしろ十人前後の人が居て誰もスマホをいじっていないのは、ちょっと奇跡的な風景だ。

「ここは、義体が心を休めるための店なんだ。僕たちみたいな義体のためのね」

「それって……」

「ハハ、難しい理屈は抜き。とりあえずトモちゃんのオレンジジュースだけどね」

「和歌山産ですね?」

「そういう味気ない解析はやらないの。和歌山産のミカンというとね……」

 サマージャケットの滝川は、紀伊国屋文左衛門の故事から、前世紀のミカンの輸入自由化までいろんな話をしてくれた。それは、知識としては友子の頭の中には全て入っていることだったが、滝川の話が面白く、つい笑い転げてしまった。

「じゃ、今度は電話でもするよ」 
 
 楽しく話しているうちに、いつのまにか夕方になっていた。

 店を出るとき、『乃木坂』という店の名前を確認し、表通りに出る前に振り返った。

 

 え?

 

 そこには、ただ三十坪ほどの更地があるばかりだった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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RE・かの世界この世界:210『記念写真を撮る』

2023-10-12 15:14:56 | 時かける少女

RE・

210『記念写真を撮る』テル 

 

 

 鳥取って言えば、ゲゲゲの鬼太郎じゃないか!

 

 落ち込みそうな場の空気を盛り上げようとしてケイトが指を立てる。

 しかし、ヨネコの緊張を緩めてやるには逆効果のようだ。俯いたままポツリと言った。

ヨネコ:「鬼太郎は……境港だし……」

ケイト:「ああ、港の方なのか」

 駅前の観光地図では、米子市の北の方、中海と美保湾を繋ぐ水路のあたりにある。

ヨネコ:「ちがうのよ、鬼太郎は境港市の観光資源なの!」

 地図をよく見ると、薄いグレーの点線で境界線がひかれているのが分かる。

 

 え……ああ…………

 

ヨネコ:「あ、いいのいいの。鬼太郎も人気だものね、米子の空港だって『鬼太郎空港』って呼んでるくらいだし(^_^;)」

桃太郎二号:「あ~でも、空港って、ほとんど境港っぽくねえかぁ、滑走路も管制塔も境港市の領域みてえだし」

ケイト:「おまえも二号付きの桃太郎だろーが!」

桃太郎二号:「二号いうなぁ!」

テル:「この二人はバカだから気にしないでいいよ」

ヨネコ:「いいのいいの、米子も境港も鳥取県だしね(^_^;)」

 両手をハタハタ振って笑顔をつくるヨネコ、なんかいじらしくって大人たちは笑顔になる。

ヨネコ:「みなさんがいらっしゃるのは因幡の白兎からも聞いていました。それで、ぜひ、お手伝いしたいと思ってお待ちしていたんです(°´ω`°)」

桃太郎二号:「そうか……でも、もうキビダンゴねえしなあ」

ヨネコ:「桃太郎二号のお供じゃないわ『黄泉の国を目指す勇者の会』よ!」

イザナギ:「そうか、それは嬉しい申し入れです。なにもお礼はできませんが、付いて来てもらえれば心強いです。山陰地方に詳しい者がいないので助かりますよ。いいですよね、みなさん?」

 みんな暖かく頷き、桃太郎二号も顔を赤くして「おお!」と返事してくれる。

利休ねずみ:「どうでしょう、目的地の黄泉比良坂までは西へ真っ直ぐ10キロちょっとです。記念写真撮っておきませんか?」

ケイト・桃太郎二号:「「撮ろう撮ろう(^▽^)(^◇^)!」」

イザナギ:「そういえば、ここまで写真どころか、記録をとっていませんでしたね」

ヒルデ:「それはいいことだ。北欧神話はほとんど口伝えだったからな、文章化されたときにはグチャグチャになっていた」

イザナギ:「いや、日本も古事記ができるまでは、稗田阿礼君たちの口伝えですからね」

利休ねずみ:「じゃ、ここからは、ちゃんと記録してSNSにもアップしておきましょう」

タングニョ-スト:「じゃあ、さっきの記念碑の前が良くないか?」

利休ねずみ:「あ、いいですね。いかにもこれから冒険の旅という感じでいいです!」

与一:「じゃあ、みんなでイザナギさんを取り囲んで……」

イザナギ:「いやあ、わたしは後ろでいいです。前は、子どもや若い人たちにしましょう」

桃太郎二号:「ヨネコ、ランドセル重いだろ、持ってやんぞ」

ヨネコ:「いえ、いいんです」

ケイト:「重そうだけど、なにが入ってるんだ?」

ヨネコ:「宿題です」

桃太郎二号:「宿題!?」

ケイト:「どんだけ溜め込んでんだぁ!」

ヨネコ:「いいんです、好きで持ってるんですから」

タングニョ-スト:「そうだな、宿題は自分で持たなきゃな」

ヨネコ:「はい、タングのおねえさん!」

 タングニョーストとヨネコは揃って荷物を揺すりあげ、みんなで自然なポジションについて初の記念写真を撮った。

 

 パシャ!

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ

 

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RE・トモコパラドクス・45『友子のマッタリ渇望症・1』

2023-10-12 06:28:20 | 小説7

RE・友子パラドクス

45『友子のマッタリ渇望症・1』 

 


 それは、ごくささいな、しかし、友子には思いもかけない事件から始まった。

 

「あ……」

  ボタ

 声が出たときには、アイスクリームはカップを離れ、丸ごと座ったスカートの上に落ちてしまった。

「「きゃ(,,ºΔº,,*)!」」

 同席の紀香と麻子が声を上げる。

 麻子は突然のアクシデントに驚いて、紀香は義体では絶対起りえない事態に声が出た。

「……どうしたの、なんかの伏線?」

「伏線?」

「それが合図で、またどこかのスパイ退治が始まるとかぁ……( ≖ᴗ≖​)」

「もう、茶化さないでよ」

 ニヤニヤ笑う紀香を尻目に、友子はティッシュでスカートを拭いた。

「それとも、なんか事件の兆し? それともぉ……」

 紀香は、しつこかった。

 まあ、無理もない。義体である友子が、学校の食堂でアイスクリ-ムをベッチャリとスカートに落とすような人間的な失敗をやるはずがなく、あるとすれば、紀香が嬉しそうに予想した意味や原因があるはずであった。

「ほんとにボンヤリしてたのよ……」

「本気で言ってんの?」

 くり返すようだが、友子のようなハイスペックな義体は、意図しない限り、人間的な失敗はしない。向かいの席で、友子のささやかな不幸を見ている麻衣のコーラが、あと0.5度傾けるとこぼれることや、上空の積乱雲が発達して3分後には大雨になることも、それが15分で止むことなど、常に数兆の情報を観測、管理していた。その友子が自分の手に持ったアイスクリームをスカートの上に落としてしまうことなどあり得ないことなのだ。

「……いま、とても新鮮な気分なの」

「なに、それ?」

「完全なボンヤリなんて、義体になる前の人間だったころ以来三十年ぶりよ」

 そのとき、二人の後ろを、食べ終わった食器をトレーに載せて女子と男子が通っていく。男子は女子に気があって、少し注意力が散漫になっていた。

 紀香は、二センチ背をかがめてトレーを避けた。義体なら当たり前の予防行動だ。

 ガチャン!

 牧歌的な音がして、男子のトレーが友子の頭に当たり、飲み残したラーメンのスープが友子の制服にかかってしまった。

「あ、ごめん(;゚Д゚)!」

「ごめんなさい(-_-;)。なにボサっとしてんのよ、拭いて……ああ、あんたじゃセクハラになっちゃう」

 女子が、ピンクのハンカチに水を含ませて叩くようにしてシミをとってくれる。

「あ、ありがとう。わたしもボンヤリしてたから」

「いいえ、こいつがドンクサイから。少しファブリーズしとくわね」

 

 親切な子だった。男子に謝らせて、やっと行った。

 

「いまのなに? ここらへんの情報解析したけど、あの男子があの女の子にフラれることぐらいしか分からなかった。あの男子、このあと帰り道でコクルつもりだよ。なんか、わたしには分からない意味があるの?」

「義体になってからのわたしって、人や組織のためだけに働いてきたように思うの……なんだかね……」

「そういうの、アンニュイとかメランコリックって言うんだろうけど……友子、ひょっとしてアレの前兆じゃない?」

 ここは、本気でボケテおいた。

「アレが来るのは、まだ十日ほどある。そんなに重い方じゃないし」

 この部分は、麻子に聞こえるように言った。長い会話なので麻子が興味を持ち始めたのだ。で、この部分を聞いた麻子は、鼻からコーラを吹き出して咳き込んだ。

「バージョンアップじゃないの?」

「分からない。悪いけど、今日は一人で帰るわ」

 

 ザアアアアア

 

 それが、合図だったかのように大粒の雨が降ってきた……そして15分きっちりで止んだ。

「じゃ……」

「友子……」

「うん?」

「せめて、そのアイスクリームとラーメンの汚れは電子分解すれば。犬が付いてくるかもよ」

「ありがとう。でも、このままでいい……」

 その先で思いがけない出会いがあるとは、友子にも紀香にも分からなかった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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くノ一その一今のうち・79『国境警備司令ドーカン・2』

2023-10-11 15:44:15 | 小説3

くノ一その一今のうち

79『国境警備司令ドーカン・2』そのいち 

 

 

 B国を繋ぎとめなければならん……

 

 指令室のモニター画面を操作しながら姫が呟く。

 カメラもモニターも高解像度の8K対応。屋上で身を晒して双眼鏡を覗くよりもよく見える。

 姫が国境警備隊に来ていることを示すのは敵を幻惑させる効果があるが、度が過ぎればピンポイントで狙撃されかねない。

 ここで銃弾なりミサイルが飛んできても簡単には特定できない。A・B両国も草原の国も旧ソ連製の武器を使っている。弾やミサイルからでは簡単には分からないのだ。

「ドーカン、B国に行きたい」

「なんですと?」

「サマル(B国の皇太子)は賢い奴だが気が弱い。過敏に反応してとんでもない行動に出る可能性が高い」

「行って、どうなさいます?」

「敵に与しないように説得する」

「無茶です」

「グズグズしていてはA・Bが連合して草原の国の露払いになる」

「危険すぎます」

「従兄妹同士だ、そう無茶はしないだろ。もし、わたしに万一のことがあったら、A・Bと諸共に喪に服せばいい。王族に不幸があれば一か月の喪に服するのが三国共通のルールだ。その間に対策を練ればいい、草原の国も喪中の国を攻めることはない」

「しかし」

「映画の撮影隊を呼んで平和志向のPRもしているが、国連の平和維持軍も引き上げてしまっているんだぞ。手を打たねば自滅する。自滅しては王族も国境警備も意味はないだろ」

「しかし、姫を窮地に置くことはできません」

「ドーカン、国が窮地に置かれているんだぞ」

「いかにも……硬く決意されたご様子、これ以上は申しますまい」

「すまん、無理を言う」

「しかし、やるからには最善を尽くさせていただきますぞ」

「頼むぞ」

「では、一時間の猶予を」

「おお」

 

 一時間かけてドーカン司令は、わたしとアデリア姫を送り出す準備にかかった。

 

「では、10分後に姫はご出発ください」

「おお、ドーカンこそ、無理をするなよ」

「出発します」

 ブロロン

 ドーカンが自ら運転するジープが走り去る。助手席には姫と同じ軍服を着た女性兵士が乗っている。

 走り出した先はA国との国境線。東京の地図で言えば、日暮里の駅前から線路に沿って池袋に向かって走るようなものだ。

 国境線ギリギリに走って、A国の様子を探るというポーズを見せる。

 基地司令と王女が乗っていることはすぐに分かる。近いところではA国の監視哨から200メートルほどのところを走るのだ。場合によっては狙撃されかねない。

 ドーカンは国境紛争での戦闘経験も豊富で、敵の姿が見えなくても撃たれる予感がするらしい。

「予感に従って躱していけばめったに当たりません」

 ということらしい。

 監視哨には、もう一人王女のダミーが立つ。

 王女の人相はデジタル化されて、AIが、その真贋を判断する。

 ジープの方は、走行中で激しく揺れるので瞬時の判断はAIでも困難だ。レイバンのサングラスをしているし、鼻から下は砂塵よけのマフラーを巻いている。

 監視哨の方は……おっと、時間になった。

 

 ペシ

 

 ラクダに鞭を当てると、姫とわたしはB国の都を目指した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女

 

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・44『東京異常気象・3』

2023-10-11 07:13:12 | 小説7

RE・友子パラドクス

44『東京異常気象・3』 

 

 

 美麗は大使館の機密電信室に入るまで異常には気づかなかった。

 自分のあとについて入ってきたのが仲間の秀麗だったからである。

 

「美麗、収穫があったみたいね」

「そんなふうに見える? 残念ながら坊主よ、アリバイの定時報告をするだけ」

 そう言って、美麗はUSBをパソコンにかけ、気乗り薄にキーをいくつか叩いた。

「暗号化して、圧縮……」

「いつもやってることでしょ」

「左手で隠したけど、F3ボタンを押したでしょ。それは最高機密専用の変数ボタン……だわよね」

「フフ、秀麗って見かけほどバカじゃないのね」

「そうよ、美麗が谷口三佐から受け取ったのは『あかぎ』のスペックとイージス艦の配置計画でしょ」

「……そんなの知らないわ」

「エンターキーは押すんじゃないわよ。それには、とんでもないウィルスが付いてる。我が国の国防、外交に関するデータが、全部オシャカになるわ」

「やっかまないでよ、自分のノルマが果たせないからって」

 カシャ

「……あ~あ、押しちゃった。親友としての忠告だったのにぃ」

「だから、定時連絡と、アリバイのカスみたいな情報だって」

「カスを入力して、コンピューターが、そんな反応するかしら?」

 電信室の全てのモニターのスイッチが入り、大使館がこれまで営々として集めてきた機密情報が、現れては、すごい早さで消去されていった。

「こ、これは……(;゚Д゚)」

「だから言ったでしょ、全部オシャカになるって。同じことが、軍や外交部のコンピューターでもおこっている」

 カシャカシャ!

 美麗は慌てて強制終了のボタンを押した。

「あ……バカだなぁ。それ押すと消去したデータが、日本の防衛省とアメリカのペンタゴンと、世界中のプレイステーションに送られたわよ」

「こんなこと……(ºдº)

「仲間の忠告を聞かないからよ」

「秀麗、あんた……(꒪ꇴ꒪ ; )」

「日本の公安なめんじゃないわよ」

 秀麗は、顔のゴムマスクを取った。そこには、美麗と同じ顔があった。

「くそ!」

 美麗は、ルージュ形のピストルの引き金を引き、もう一人の美麗の心臓を貫いた……が、効果は無かった。

 もう一人の美麗は胸から弾をほじくり出すと、指で弾を弾いた。弾は美麗のブラジャーの右のストラップを切った。

 銃声でアラームが鳴り、武装した警備員が機密電信室に向かった。

「なにをしている!? 銃を捨てて出てこい!!」

 警備課長が怒鳴った。

「待って、出て行くから撃たないで」

 電信室からルージュ形のピストルが放り出され、美麗が出てきた…………次々と!

「ドアを閉めろ!」

 警備課長が、怒鳴ったときには、美麗は100人になっていた。そして、大使館内部の部屋からも次々に美麗が飛び出し、その数は1000人を超え、一斉に正面ゲートに殺到した。ゲ-トは、すぐに閉じられたが、大使館のゲートは、左右のフェンスごと倒された。

 そう、1000人の美麗は友子の義体が変身しテレポートしたもので、大使館を出ると四方に散っていった。

 

「リアル美麗さんは、どうした?」

 大使館向かいのビルの屋上で紀香が聞いた。

「アメリカ大使館。メイクで人相変えてるから、しばらくは分からない」

「しばらくって?」

「アメリカへの亡命が済むまでぐらい」

 友子が仮想インタフェイスを出すと、C国大使館のパニックの映像が流れていた。

「こいつを、なんとかしなきゃね」

「じゃ、こんなもんで……」

 シャララ~ン……

 陽炎のようなエフェクト付きで散った美麗たちが消えた。

 

 政府もマスコミも一連の事件を、むりやり、ここのところの異常気象のせいにした……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・056『ジュリエットの秘密とわたしの不思議』

2023-10-10 15:09:27 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

056『ジュリエットの秘密とわたしの不思議』   

 

 

 文化祭に続いて体育祭も無事に終わった十月第二週の一時間目。

 授業にやってきた杉野先生が、教壇にも立たずに教室の入り口で告げた。

「いまから、臨時の全校集会だからグラウンドに集合、すぐに移動して」

 同時に教頭先生の声で『一時間目は臨時の全校集会になります、生徒諸君はグラウンドに集合してください。下足には履き替えず上履きのままで集合しなさい』と同じ内容を放送。杉野先生はセカセカした足取りで帰って行ってしまった。

 

「一年四組の栗原恵さんが、先月の26日に亡くなられました」

 

 ええ…………!?

 

 声が上がるわけじゃないんだけど、大方の生徒たちから驚きの気が立ち昇る。

「栗原さんは、健康診断で異常が発見され病院にいきましたが、少し重篤な病気が発見されました。病院は、ただちに入院し治療にあたることを勧めましたが、学校が大好きな栗原さんは、学校に通いながら治療する道を選び、9月25日まで通学されました。ご両親やお医者様たちが懸命の治療に当られましたが、薬石功無く、9月26日早朝、ご両親に見守られながら永眠されました。学校へは、その日のうちに連絡がありましたが、文化祭体育祭を控え、生徒諸君も準備に忙しく、また楽しみにしているということで、ご本人の強い意志で体育祭が終わるまで発表を控えておりました……」

 そこまで教頭先生が説明すると、四組の列からはすすり泣きの声が上がり、中にはしゃがみ込んで立ち上がれない女子も居る。

 花園先生と保健室の村田先生が列の中に入って声をかけている。

 四組の生徒も知らされていなかったんだ。

 治るって言ってたから……戻って来るって……大丈夫だって……なんで……どうして……嗚咽しながらの声がわたしたちの列にまで聞こえる。

 花園先生がジュリエットを演ったわけが分かった。

――わたしは、もうできないけど、文化祭、成功させてくださいね――

 苦しい息の下、栗原さんは花園先生に頼んだんだ。

――先生がジュリエット演ったら、みんな喜ぶと思います……わたしも観てみたいし……――

 それで、花園先生、急きょジュリエットをやることになったんだ……体育館のギャラリーでご両親が観ていたのは、そういうことだったんだ……。

 

「それでは、栗原さんのご冥福を祈って一分間の黙とうを捧げます」

 

 1200人の生徒が居住まいを正した。

 

「黙祷!」

 

 すこし気合いの入った声で号令をかける教頭先生。

 

――細かい説明は後日にしましょう――はい、生徒たちも動揺していますんで――

 校長先生と花園先生とのやりとり、朝礼台の教頭先生にもヒソヒソと伝えられて、三人の学年主任の先生にも申し送られる。

「黙祷終わり……それでは、教室に戻って一時間目の授業になります。午前中の授業は五分短縮の45分、午後は通常の50分授業になります。では、一年生から教室に戻ってください」

 教頭先生の言葉に生指部長の若杉先生が続く。

「グランドから出る時、上履きの泥を落として、校舎に入る時も、もう一度泥に気を付けるように」

 杉野先生は、ちょっと不満そうな顔で戻っていく――ちぇ、一時間目無くなると思ったのに――あいかわらず、授業のきらいな先生だ。

 四組の女子たちは、泣きの涙、お互いに支え合いながら教室に戻っていく。

 

 ……お祖母ちゃん気が付いていたんだ……本番の時、ギャラリーに居るご両親に気付いていたし。

 

「今日は、もう自習な」

 ひとこと言うと、杉野先生は教室に入りもしないで帰って行ってしまった。

 すれ違いに花園先生が階段を上って来る。手に花瓶と栗原さんの写真が入った写真立て。

 ちょっと持ちにくそう、杉野先生、知らんふりして……あ、花園先生よろめいた!

 

「持ちます」

 

 気が付いたら、階段の踊り場まで出て花園先生を支える。

「あ、ありがとう時任さん」

「いいえ、どういたしまして」

 四組は、一日授業にならなかった……授業に来た先生たちも、そっとしておいたり、自習にしたりしていた。

 

 休み時間、職員室の前を通って愕然とした。

 先生たちの話が聞こえてしまったんだ。

 

――じゃあ、やっぱり最後まで手術しなかったんですか――

――ええ、宗教上の理由で、身体にメスを入れられなくって――

――そんなことって……――

 

 ええ!?

 

 そこだけが聞こえて、あとの会話はくぐもって聞こえなくなった。

「ちょっと、メグリン、だいじょうぶですか?」

「え、ああ、ロコか(^_^;)」

「ボーっとしてぇ、魂ぬけたみたいですよぉ」

「え?」

 あれ、職員室の前に居たはずなのに。

「あの……」

「なに?」

「一時間目も、いっしゅん消えたかと思ったら、花園先生の荷物持ってあげて前の廊下歩いてましたよ」

「あ、それは!」

「あ、ちょ……」

 佳奈子が飛んできてロコを引っ張って行ってしまう。

 窓際の席にお仲間が集まって、目が合うと「あははは(^_^;)」と困ったような笑顔を返してきた。

 

 きょうのわたし、ちょっと不思議。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)

 

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・43『東京異常気象・2』

2023-10-10 07:14:23 | 小説7

RE・友子パラドクス

43『東京異常気象・2』 

 

 

 劇団季節が大橋むつおの『ステルスドラゴンとグリムの森』をやっていたのが不幸のもとだった。

 

 全ての芸術がそうであるが、演劇もインプットとアウトプットが必要である。たまには人の芝居も観て肥やしにしなければならないということで、演劇部三人娘の友子・紀香・妙子の三人は、理事長先生からもらったチケットで劇団季節『ステルスドラゴンとグリムの森』を観ての帰りであった。

 帰りの地下鉄は混んでいた。

 芝居帰りの乗客も多かったが、その二つ向こうの東京ドームでは、これから始まるAKRのライブがあり、そこに向かう乗客が、その何倍も乗っていたのだ。

「うわぁぁぁぁ(꒪ꇴ꒪ ; )!」

 地下鉄に乗ったとたん、のんびり屋の妙子は、要領の良い友子や紀香とはぐれてしまい、車両の端のシルバーシートのところまで、押しやられてしまった。

 妙子は、情けない顔をしていたが、車両中央で妙子のポニーテールの頂が見えている友子と紀香は、半分意地悪な気持ちで寛いでいる。

 なんといっても同じ車両だ。それに妙子の周りは女の子ばかりで、痴漢の心配もなさそう……が、次の駅で若い男が緊張した顔で乗り込んできて妙子の左斜め後ろに立った。妙子は痴漢ではないかと気になったが、友子がサーチしたところ痴漢の気配はなかった。それどころか、ガラに似合わず頭の中はAKRのヒット曲がヘビーローテーションしている。

――なんだ、ちょっとイカツイけど、ただのファンじゃないの――

――しばらく妙子にはスリル味わってもらおうか――

 友子と妙子は気楽に構えた。

 三つ目の駅に着いたとき、事件が起こった。

 

「け、警察呼んで下さい( #꒪⌓꒪#)!」

 

 妙子が震える声で叫んだ。震えていても、演劇部なので声は良く通る。

 若い男は、ビックリして車両を飛び出した。妙子は男のシャツを掴んでいる。妙子はそのまま車両のドアから出てしまった。

 友子と紀香は瞬時に状況を把握して行動を起こした。

――動かないで!――

 友子は声を出さずに男を威圧した。

「だめじゃない、妙子、谷口さんを痴漢と間違えちゃ」

「「え……?」」

 二人の口から同じ声があがった。かわいそうだが、妙子の意思を友子は支配した。

「なんだ、痴漢じゃなかったんですか」

 駆けつけた駅員も、ホッとしていた。

「すみません、知り合いのお兄さんなんです」

「谷口さんだとは思わなかった、どうもご迷惑かけました」

 男は、訳が分からなかったが、ひとまず安心した。

「まあ、スタバでゆっくり話でもしましょうか……谷口三等海佐」

 谷口三等海佐はギクリとしたが、友子がかわいく掴んだ左の人差し指が万力で挟まれたようにビクともしなかった。

 直ぐ後に来た地下鉄に妙子を乗せ、友子は谷口三等海佐とスタバに向かった。

 

「考えたわね、AKRの『秋色ララバイ』がアイポッドから聞こえたら女にUSBを渡すことになっていたのね」

「な、なんの話だい?」

 谷口は開き直った。友子はテーブルの下で、谷口の足を500キロの力で踏みつけた。

「い……(>д<)!」

「これでしょ、あなたが女に渡したの」

 友子は、スマホの画面を見せた。USBの外観が現れたあと、その中身がサーっと画面を流れていった。

「建造中の『あかぎ』のスペックとイージス艦の展開予定が全部入っている。ひっかかったのねぇ……ハニートラップに。日本人として近づいてきたけどC国のスパイだった。気づいたのは体の関係ができてからね。仁科亜紀って日本名しかしらないようだけど、あいつは宋美麗ってコードネームのスパイなのよ」

「宋美麗……?」

「日本の諜報って、この程度なのね、オニイサン」

「キ、キミは、いったい(;゚Д゚)?」

「ヤダー、へんな目で見ないでよ、ただの軍事オタク少女。たまたまヒットしただけですぅ」

 

 そのころ、紀香は宋美麗のあとを着けて地下鉄のエスカレーターを上がっていくところであった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル

 

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鳴かぬなら 信長転生記 146『信長版西遊記・敦煌・1・悟空三蔵法師に化ける』

2023-10-09 15:10:39 | ノベル2

ら 信長転生記

146『信長版西遊・敦煌・1・悟空三蔵法師に化ける信長 

 

 

 砂の大海タクラマカン砂漠が東の果てで転がり落ちたところに敦煌がある。

 

 転がり落ちたところは砂まみれの崖のようになっていて、その崖に千年以上の長きにわたって石窟がが穿たれ、その数は大小合わせて七百を超える。

 五百近くの石窟には精緻な仏教壁画や仏像群が残されており、石仏の最大のものは奈良の大仏の二倍もあるという。

 

「いやあ、この月牙泉も大したものッパ!」

 頭の皿に水を補給しながら沙悟浄が感動する。

 月牙泉は、敦煌石窟群のすぐ南にあって、三日月形の泉とそれを取り巻く緑の中に殿郭と塔が聳えて、東西の街道を往来する旅人のいい目じるしになっている。

「きれいな三日月の形ブヒ」

「ああ、シルクロードの果て、三国志の玄関口。たとえ砂まみれになろうと、その美しさを保とうというのは褒めてやっていいウキ」

 俺は、物や人を見るに、その機能を第一とするが、機能を飾る設えにも大いに理解があるぞ。

 安土城の壮麗さ、正親町天皇(おうぎまちてんのう)をお迎えしての京都御馬揃えのきらびやかさは美意識にうるさい都雀や伴天連のパードレどもも舌を巻いておった。

 しかし、この敦煌はすごいぞ。

 これから足を向けようと言う石窟群も楽しみだが、目の前に広がる月牙泉もなかなかのものだ。

 陽関の城頭からも、はるかに塔の先端は見えていたが、その足もとにこれだけの緑と、その形も秀麗な三日月の泉を抱えているとは、なかなかのものだ。

「玉門関は武骨なオアシス城塞だったが、この敦煌は三国志の豊かさと奥の深さを感じさせる。西域から来た者は、さぞかし胸をうたれることだろう」

「沙悟浄、素に戻ってるブヒ」

「僅かな間だ、許せ……どうだ、この水の清冽なこと、器にすくえばそのまま飲めそうだ……兄曹操のことが片付いたら、西遊記のコスプレなど解いて訪れなおしたいものだな」

「解くわけにはいかんだろうが、少し変更したいウキ」

「「変更?」」

「ああ、玉門関から二度も三蔵……お師匠を拉致されているウキ、ちょっと手を打っておきたいウキ」

「どうするんだッパ?」

「一言主、起きておるか?」

 緊箍児(頭の金輪)の一言主に話しかけると、小さく震える。

『なんじゃぁ、せっかく昼寝をしておったというのに……』

「俺を三蔵法師にしてくれ」

「「ええ?」」

『それは造作もないが、三蔵が二人になるぞ』

「かわりに三蔵は悟空の姿にするんだ」

「「ええ!?」」

『三蔵は馬に乗ってるだけだが、悟空は歩かなければならん。場合によっては走りもするだろうし、口も利かねばならんだろうし、ギミックが多すぎてたいへんじゃぞ』

「そこをなんとかしろ、俺は先手必勝でいくんだ」

「だいじょうぶかッパ?」

「ああ、敦煌は仏教遺跡だ。坊主が一人で見学していても不思議はない。二人は宿屋で待機していてくれ」

「ああ、かまわないが、なにかあったらすぐに呼んでくれッパ」

「気を付けて行くんだブヒ」

『ではいくぞ、信長、いや孫悟空』

「ああ」

『ひの……ふの……みっ!』

 

 ボン!

 

「よし、どこから見ても三蔵法師だ。そっちは……?」

 馬の上の三蔵も見たところ悟空そのものに変化(へんげ)して、一言主も悟空の頭に引っ越している。

「おい、馬から下りて歩いてみろブヒ」

『ウキキ』

 猿語で返事するとかっこよく馬から……落ちた。

 ドサ

「まあ、なんとかやってみるッパ、悟空も気を付けていけッパ」

「ブヒ」

「じゃあ、頼んだぞ」

 

 俺は、ひとり別行動で石窟群を目指した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

 

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・42『東京異常気象・1』

2023-10-09 06:31:22 | 小説7

RE・友子パラドクス

42『東京異常気象・1』 

 


 30年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺されたが、これに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは30年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」 友子は16歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された。娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……。

 

 東京は、もう10日連続の真夏日で、学者や評論家たちが、地球温暖化のせいだと騒いでいる。

 温暖化がガセだというのは、未来を知っている友子にはフンってなもんだが、それを信じ込んでいる現代人には深刻だ。クールビズはダサイので下火気味だが、冷感繊維を利用した衣類は今年のヒット商品になってきた。
 残念ながら、乃木坂の制服は、そういう繊維でできていないので、学校に着くころにはアセビチャで、朝の教室は、耐汗スプレーや、抗菌スプレー、それに汗などものともしない男どもの臭いが混ざって一種異様な臭いがする。

 友子も紀香も義体なので、汗をかかないでおこうと思えばできるのだが、自然さを装うためにも人並みの汗はかかなければならない。先日の『ベターハーフ事件』では、うっかり汗も忘れていた友子だったが、あれから、16歳の女子高生に相応しい汗をかくようにプログラムしなおした。

 

 しかし、それが問題だった。

 

 汗というのは適度なフェロモンが含まれていて、地下鉄の中などでは、異常接近になり、男どものイヤラシイ欲望を刺激してしまう。
 友子は、なるべく普通にふるまっているので、地下鉄でも必要が無くてもつり革に掴まっている。当然脇の下は無防備になり、合成フェロモンをまき散らしっぱなしである。また、見た目には、ごく清楚な女子高生にできていて、とても10万馬力の義体には見えない。

 

 ……気づくと、お尻と右の胸を触られていた。

 お尻は大学生のニイチャン。胸は新聞で巧妙に手を隠した公務員風のオッサン。二人とも顔はあさっての方角を向いている。

 大学生のニイチャンは、彼女に振られた腹いせが原因であることが分かったが、その後ろのサラリーマンのオッサンが――うまいことやりやがって――と、羨望の目で目撃しているので、放ってはおけない。

 方や、公務員風のオッサンは、どうやらプロで、この混雑の中、友子の足の間に膝を割り込ませてきた。

 グニ! グチャ!

 同時に悲劇的な音がした。

「痴漢です! 警察呼んでください!」

 友子は両手でニイチャンとオッサンの手をひねりあげ、股でオッサンの膝を締め付けたのだ。

 ちょっとやりすぎた……ニイチャンとオッサンは手首を骨折、オッサンは膝の骨にヒビが入った。

「オッサン、よく、こんな痛む脚で……よっぽどのスケベだな」

「違う! こいつが凄い力で、オレの脚挟みやがって、イテテテ……」

「それにしても、お嬢ちゃん偉かったねえ!」

「わ、わたし、怖くて怖くて、でも、女性の敵だと思って一生懸命で(#'∀'#)」

 友子は、顔を赤くして、涙さえうかべてみせた。

「でも、大した度胸! 大した力だったよ!」

 駆けつけたお巡りさんが、あまりに褒め称えるので、つい言ってしまった。

「はあ、合気道を少々やっていたものですから……」

「ほう、自分もやっておるのですが、どこの流派で?」

 友子は、お巡りさんの心に浮かんだ流派を、そのまま口にした。

「はい……青芝流を」

「奇遇だ、自分と同じだ!」

「あ、わたしは本を読んで、ほんの真似事で……(^_^;)」

 この遣り取りが新聞に載り、SNSにも流れ、テレビでも放送したので、その影響は凄かった。

 絶滅寸前だった青芝流は入門者が引きも切らず。絶版になっていた『青芝流合気道入門』は大増刷になった。

 乃木坂の女生徒は被害者も多かったので、わざわざ全校集会が開かれ、理事長表彰を受けただけでなく、痴漢撃退の講師までやらされた。

「あ、その……わたしが掴まえられたのは、たまたまですが。犯人の手を掴まえること、それが無理なら『通報してください!』とか『警察を呼んでください!』と叫ぶことが大事です。『助けて下さい』では、一瞬意味が分からず、取り逃がすことがあります。乃木坂学院からこれ以上の犠牲者を出さないためにも、がんばりましょう!」

 パチパチパチパチパチパチ

 みんなが拍手をする中、紀香一人が笑いを堪えていた。

 

 そして、この「警察呼んでください!」が、とんでもない事件を引き起こすのだった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル

 

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RE・トモコパラドクス・41『ベターハーフ・4・神田明神男坂』

2023-10-08 11:47:09 | 小説7

RE・友子パラドクス

41『ベターハーフ・4・神田明神男坂』 

 

 

 聖橋の手前で横断歩道を渡るアズマッチ。

 

 すぐに信号が黄色になったせいか気後れしたのか、杏は渡らずにそのまま聖橋に。

 紀香と友子は、杏の後ろ、電柱一つ分空けてつけている。

「聖橋には力があるんだ」

「そうなの?」

「ああ、ここはニコライ堂と湯島聖堂二つの聖地を結ぶ橋なんだ。関東大震災の後に作られた橋だが、百年にわたって聖地を繋いでいるうちに力を持った……ほら、アズマッチ立ち止まった」

 杏も、こちら側の歩道で立ち止まり半身になって橋の下の神田川に目を落としている。

「同じ側に居たら、一気に進むんだがな……『君の名は』を知ってるだろ」

「ああ、いいアニメだったわね」

「プ、それじゃないラジオドラマの方だ」

 紀香からラジオドラマと後に映画化された情報が送られてきた。

 空襲で出会った男女が戦後数寄屋橋の上で再開し、もつれながら進んで行くラブロマンスだ。放送時間になると風呂屋の女湯が空になったという伝説の物語だ。

「そして、ニコライの鐘で啓示も与えてある。仕掛けは十分、互いに気付けば、ここから恋が始まる」

「そうか、さすがに先輩」

 

 友子はアズマッチのノッキー先生への想いにばかり気を取られていたが、逆もあるのだ。

 杏子は、一年の時に担任をしてもらって以来アズマッチに想いを寄せていたのだ。

 二年の時には担任をはずれ、授業で会うだけだったが、今年に入ってアズマッチは一年を受け持つようになって授業で会うこともできない。もう半年もすれば自分は乃木坂を卒業してしまう。

 それまでは、時どき校内で会うだけで我慢していたが、アズマッチがどうやら柚木先生が好きなんだということに気付いて、矢も楯もたまらなくなってきたんだ。

「でも、アズマッチの方は?」

「教師としては心がけのいい人だ」

「そうか……」

 

 ゴォォォォォォ

 

 上りの電車が橋の下を通過する。

 電車を追った二人の視線が絡みそうになったが、ちょうど通りかかったバスに遮られ、通過した時にはアズマッチはもう歩き出していた。

 橋を渡って、湯島聖堂脇のお茶の水公園。

 ベンチにでも腰掛ければ仕掛けもできるのだが、日常的にショートカットに使っているだけなのだろう、スタスタと公園を斜めに進んで行く。

「このままじゃ、家に付いてしまう」

 家にまで付いていく勇気は杏にはない。

 もう、どこでUターンして帰ってもおかしくない――なにやってんだろ、わたしは(-_-;)――そう思い始めている。

 公園を抜けると神田明神の大鳥居。

 鳥居横の饅頭屋の匂いに鼻をひくつかせるが、そのまま隋神門を潜って境内に。

 知り合いなんだろうか、境内を掃除している巫女さんと笑顔の交換。

 杏子の心がチリっと痛む。

――あんな笑顔、わたしに向けてくれたことはない――

 軽く拝殿に一礼すると祭務所の角を曲がって男坂。

 

 ここを下ったら一本道で、アズマッチの家だ。家にまで付いていく勇気は杏には無い。

 

 放っておいたら、ストーカーまがいのことをやった自己嫌悪で、もうアズマッチに近づくこともやめてしまうだろう。

 

「イチかバチかだ」

 

 そう言うと紀香は拝殿に一礼し、男坂を下りつつある二人の後ろに立った。

「息を合わせろ」

 同時に友子に目配せすると、二人そろって杏の背中に息を吹きかける。

 距離およそ8メートル、教室の後ろから前の黒板までの距離に等しい。

 

 フゥーーーー!

 

「あ!?」

「わ!?」

 

 突然の突風にバランスを崩した杏子は、そのまま男坂を転げ落ちる!

「ウワアア!」「キャーーー!」

 気配に気づいたアズマッチは振り返り、辛うじて受け止めたが、勢いで下の踊り場まで駆け下って尻餅をついた。

「すみません(;゚Д゚#)」「い、痛ぇ……え、え? 中村じゃないか?」

 杏は無事だったが、アズマッチは杏をかばって脚を痛めてしまった。

 悲鳴と物音に気付いた巫女さんがすぐに救急車を呼んでくれた。

 

「やっと落ち着くところに落ち着いたぁ(^_^;)」

 

 救急車を見送りながら胸をなでおろす紀香。

 

 ここに至って、ようやく思った。

 なんで、ここまで、アズマッチの恋に関わったんだろう……それも、ノッキーと中村杏限定で?

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル

 

 

 

 

 

 

 

 

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