大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・トモコパラドクス・57『友子の夏休み in 東京・3』

2023-10-24 07:13:58 | 小説7

RE・友子パラドクス

57『友子の夏休み in 東京・3』 

 

 

「ヌフフ、薬漬けにしてマカオあたりに売り飛ばしてもよかったっすね……」

 友子が沈んだあたりの海面を見つめながら手下が笑う。

「自分のモノにしたあとにだろ、変態ヤローが」

 女の手下は容赦がない。

「王清香の娘だ、どんなオマケがついているか知れやしねえ。始末するしかねえのさ」

 友子のハッタリを信じている朱元基は、一口吸っただけの煙草を、海に投げ込んだ。

 ポン! パチパチパチ……!

 すると海に落ちるまでに爆竹のような音がして、空中に文字が現れた

 

―― このお礼は百倍返し! 王清娘 ――

 

 ヒエーーー(,,꒪꒫꒪,,)!!

 花火の文字がうかびあがり、朱元基たちは、オゾケをふるってキャビンに戻った。


 友子は、海底に着くと、コンクリートの固まりを足に着けたままドルフィンキックで船を追いかけた。そして、船底に近づくと、勢いを付け十万馬力の力で船底を蹴り上げた。

 ドッカーーーーーン!!

―― 大変だ、機関室に浸水! すごい勢いだ! ――

 機関長は船内電話で叫ぶと、さっさと機関室を放棄した。

 衝撃音で、みんな気づいてはいたが、それからの展開までは読み切れなかった。

「機関室はロックしてきただろうな。あそこだけなら沈没することはねえ!」

「そこにぬかりはねえ。海保が来る前にヘリ呼んで、ブツだけでも運び出そうぜ」

「陳頼、ヘリを……」

 ドッカーーーーーン!!

 朱元基が命じきる前に、今度は右舷側に衝撃を感じ、船はゆっくりと傾いていった。

「王精香の娘のタタリだ(;'∀')!」

 気の弱い手下がパニックになり、図体がデカイので手が付けられない。

「この薬を飲みな、気分が落ち着く」

「す、すまねえ、アネサン」

 その手下は、数秒で落ち着いて海に飛び込んだ。

「あのバカ、カナヅチなんだぜ」

 救命具を投げてやったが、届かなかった。その間に残りの手下は救命胴衣をつけ、女の手下から薬をもらっていた。

「ボス、あんたも」

「オレは海には強いんだ。それより、あの絵を……み、見あたらねえ(;゚Д゚)!」

 絵は、友子が海に投げ入れられたとき、原子にまで分解されていた。

「早くしな! もうもたないよ、この船は!」

 仕方なく、朱元基は海に飛び込んだが、その瞬間、首に微かな痛みを感じた。だが、とにかく沈み行く船に巻き込まれるので、船から離れることに懸命だった。

 友子は、海上にに姿を現して脅かしてやろうとも思ったが、陸(おか)を目指して泳いだ。

 なんせ、船内で下着まではぎとられている。ヨットハーバーに泳ぎ着くと、無人のクルーザーを選んで乗り込み、シャワーを使わせてもらい、とりあえず着る物を拝借し、そのまま家を目指した。

「お帰り、あら、服が替わったのね?」

 母であり義理の妹である春奈が聞いた。

「ああ、工事現場の横通ったらペンキの缶が落ちてきて。で、借りてきちゃった」

「え、ペンキぃ! もうおしゃかでしょ!?」

――しまった、あれは春奈が買ってくれたお気に入りだった( ゚Д゚)!?――

 クルーザーの中で分子変換して再生しておけばよかったと思った。春奈の記憶を上書きして服など買ってもらわなかったことにもいいのだが、それはできない。あれは期末テストで不注意に全教科100点をとった記念に買ってくれたものだった。春奈は、日常はほとんど義体であることを忘れて、ほんとうの娘のように接してくれている無下には出来ない。

 テレビを点けると、さっそくニュースになっていた。

 悪のご一統さんは、なぜか、みんなヘロイン中毒で、事情聴取もできないようだ。あの女の薬と朱元基に刺した注射のせいだと思われた。

 ただ、ボスの朱元基よりも偉そうだった女の手下が発見されていないことが気になった。

――あたしにも心を読ませないなんて、たいしたやつね……ま、いいや――

 夏休みも、とっくに後半。あとは、当たり前に女子高生をやってみようと思う友子であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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やくもあやかし物語・2・012『お風呂掃除の点検とデラシネ』

2023-10-23 15:53:06 | カントリーロード

くもやかし物語・2

012『お風呂掃除の点検とデラシネ』 

 

 今日はイース棟の子たちがお風呂掃除の当番だった。

 

 えと、寄宿舎は二つある。

 寄宿舎は校舎である本館と、本館とは渡り廊下で繋がってる寄宿舎棟があるんだ。

 寄宿舎は西と東に分かれていて、東をイース棟、西をウェス棟っていう。

 魔法学校だったころは別の名前だったんだけど、民俗学学校になった時に改められた。

 真上から見ると、横倒しになったFの形。二つ出っ張ってるところが寄宿舎棟。

 この形から分かると思うんだけど、イース棟とウェス棟は、どことなく疎遠。

 だから、お風呂掃除の要領を教えても――分かってんのかなあ?――というところがあって、ちょっと心配だから見に行くんですよ。

 

 お風呂は、前回で言ったけど露天風呂。

 

 脱衣のある所だけ屋根があって、表の札は『準備中』になっている。

 ちゃんと掃除が済んでいるというシルシでもある。

 さてと……

 まだ温もりの残っている脱衣場は床の水滴も拭かれ、マットも立てかけて乾かしてある。

 脱衣棚もチェック、パンツの忘れ物も濡れタオルも残っていない。

 

 続いて露天風呂に出る。

 普通は「浴室に入る」が正しいんだろうけど、天井の無い露天風呂だから「出る」になってしまうよ。

 

 モワ~~っと湯気が立ち込めていて、半分くらいしか見えない。

 まずは洗い場から。

 シャンプーもボディーソープも所定の位置、オーケー。

 湯桶もお風呂椅子も、端っこにまとめて重ねられてる、オーケー。

 さて、次は浴槽だ。

 

 え?

 

 浴槽の奥に人の気配。

 よく見ると、見覚えのあるウェス棟の女生徒がお湯に浸かっている。

「あ、ごめんなさい(;゚Д゚)!」

 ひとこと言って、脱衣場に逃げる。人が裸で入ってるお風呂に服を着たまま入るのは、とっさには恥ずかしいよ。

 でも、考えたら、もうお風呂の時間は終わってるわけだし、あたしは点検に来たわけだし、謝る理由はない。

 それに……脱衣場には、その子の脱いだものや着替えとかが無い。

 入り口のところに靴も無かった……

 

 ちょっと変だ。

 

 もう一度出てみる。

 

 ザザァ

 ちょっと意表を突かれた感じで水音。

――気づかれた――

 ちょっと棘のある思念が飛び込んできて身構えてしまう。

 

 シャーー!

 

 その子はマッパのまま、空中を飛んできた!

 しゅんかん見えた足の間からはしっぽが見えている、爪も伸びてるし牙も剥いてるしぃ!

 

 バシ!

 

 思わず腕を回したら手応え。

 その子は、左のホッペを押え、ちょっとビックリした顔でこっちを睨んでいて、睨んだ目には白目が無い。

 もう一つビックリした。

 自分の右手が鬼の手を握っている。

 ほら、前のシリーズで、俊徳丸を手伝って酒呑童子をやっつけた時にもらった鬼の手。

 

「あ、あ、ごめん、そんなつもりじゃ(;'∀')」

 

 そう謝って鬼の手を背中に隠したんだけど、その子には完全に敵認定されたみたいで、いっそう牙を剝いてくる!

 

「させるかぁ!」

 

 空から声が降ってきたと思ったら、目の前にパジャマ姿のネルが耳をピンと立ててガードしてくれている。

 

 シャッ

 

 旋風が吹き抜けたような音をさせて、そいつは消えてしまった。

「だいじょうぶだった!?」

「う、うん」

「目が覚めたらベッドにいないし、露天風呂の方から凶暴な気配がしたし、飛んできたんだ」

「あ、ありがとう」

 ルームメイトのネルは尖がった耳を70度くらいにピンと立ててあたりを警戒して、安全だと分かるとやっと耳も目尻もニュートラルにした。

「それで、こんな時間に風呂に来てなにしてんの、ブラでも忘れたかぁ?」

「ち、違うよヽ(`Д´)ノ! お風呂掃除ちゃんとできてるかなあって気になって、今日はイースの当番だったし」

「責任感つよすぎ、で……その孫の手みたいなのは?」

「え、あ、これは!」

 ビックリして、いっしゅんで鬼の手を消してしまう。

「え、ヤクモ、魔法が使えんの!?」

「あ、これはちがくてぇ……(;'∀')」

 口下手なあたしは、鬼の手の説明をするのに日本に居たころの物語を朝までかかって説明することになった。

 それから、さっきお風呂に居たのはデラシネと言って、ちょっと厄介な妖精なんだとも教えてくれたよ。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
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RE・トモコパラドクス・56『友子の夏休み in 東京・2』

2023-10-23 06:33:14 | 小説7

RE・友子パラドクス

56『友子の夏休み in 東京・2』 

 

 

 友子は悩んだ。泣き叫ぶべきか、青ざめて震えることにするか……。

 で、一度やってみたかった『誘拐された可憐な少女』というのをやってみることにした。

 

「深入りしすぎたなお嬢ちゃん。お前が別荘から、この絵を持ち出しているのは、あちこちの防犯カメラに写っていたぜ」

「ということは、この絵について何か知ってしまったということだ。王(ワン)のジイサンのとこまで行くくらいだからな」

「そ、そんなんじゃ、あ、あ、ありません(*´□`*)……あ、あの絵を持ち出す、よ、ように……(*´〇`*)

「言われただけなのかい?」

「そんなヨタが通じるほどアマちゃんじゃねえんだぜ。その絵ちょろっと見てみろ」

「それはただのフェルメールの複製です。お、お礼に頂いたんです(˚ ˃̣̣̥˂̣̣̥ )

「……なるほど、表面はフェルメールだが……ほうら、端の方をめくると、別の絵が出てくる」

「そ、そんなの知りません。ただの……( ;; )

「同じサイズの絵なんか、お礼に渡すかしら、女子高生に?」

「とりあえず、アジトに行ってから、洗いざらい喋ってもらおうか」

 むろん絵は、友子が電子分解して、フェルメールの下に作った精巧なレプリカだ。友子は、戦闘中でもアバターやガジェットを複製する能力がある、絵のレプリカなど造作もない。

 友子の狙いは当たりつつある。

「あ、あ、あたし気分が悪い……(;ˊˋ)

「ちゃんとエチケット袋があるから、ここに吐きな」

「ワプ!?」

 友子の口にビニール袋があてがわれる。

 友子は、かなり加減して百馬力で運転手の後頭部目がけてヘドを噴射した。

 ヘドは袋もろとも運転手の手下に命中。手下は気絶し、助手席の男がブレーキを手で押さえ込む。下っ端の工作員とはいえ、かなり訓練はされているようだ。

「チ、なんて馬力でヘド吐くのよ! 李、林と代わって!」

 素早く、李という男は運転手の林といれ代わった。そのどさくさに、友子は残りのヘドを道路に吐いた。

「大丈夫ぅ、あなたたち、車に弱いんだから……」

「なんで、そんなに優しい声なんすか?」

「見える範囲に防犯カメラが三台もあるのよ!」
 
 そう、友子は、ちゃんと場所を選んで事に及んだのだ。そして、車が再び動いて道路を離れ、角を曲がったところで、友子のヘドは濛々と赤い救難信号の煙を吐き出した。警察は、それを見て非常線の網を張った。

 しかし、彼らも周到に代車の大型トラックを用意していた。

 そのために、張られたばかりの非常線にかかることもなく友子を連れた工作員たちは、アジトに着くことができた。

 

 友子は、別室に監禁され、その間に工作員たちは絵の真贋を確認している様子だ。

 

「間違いない。福の逆さ文字が浮かび上がる」

「当たりましたね」

「あの娘を連れてこい。もう少し聞き出せるかもしれない」

 部屋に連れてこられると、裸にされて椅子に括りつけられた。足はなぜかブリキ缶の中だ。

「おまえの選択肢は二つだ。楽に死ぬか、苦しんで死ぬか」

「知ってることを全部喋れば楽に死なせてあげる」

「こ、このブリキ缶はなに(#°◇°)? で、ど、どうして、あたし裸にされたの(°Д°#)?」

「そのブリキ缶にはセメントを詰めるの、ゆっくり海の底で眠ってもらうためにね。裸にしたのは身元がバレないように。今日日は下着のかけらからでもメーカーや販路が分かってしまうからね」

「し、死ぬのね……あたし(#°Д°)」

「まあ、いずれは死ぬんだから。知ってることみんな話してくれたら、この注射で眠るように死なせてあげる。イヤなら、生きたまま海に沈んでもらう」

「じゃ、生きたまま沈めてくれる。その代わり、その絵がなんの役に立つのか教えてもらえる。こう見えても王一族の王清香の孫娘、王清娘なのよ(;゚Д゚)」

「あ、あんたが王清香の……」

 これは、ハッタリである。彼らが一番恐れている王一族の女傑の名前を出しただけである。今は生死も明らかではないが、その存在は彼らの伝説的な恐怖になっている。ただ清香に孫がいても、四十代にはなっているのだが。

「清香の娘なら敬意を払わなくちゃな。この絵には清朝の隠し財産の在りかが描かれている。並の技術では解けない手法でな。日本円で五十兆の価値がある。元を質せば漢族の王朝である明から簒奪したもの、それを正統な子孫が人民のために使おうという遠大な計画だ」

「で、あんたの名前は?」

「冥土のみやげに聞いておけ、朱元基だ」

 

 ここまで聞けば十分だ。

 

 彼らの思念から全てのことは分かっていたが、第三者が確認できるような証拠を握ることが大事だった。

 友子は、この部屋に入った時に、口から極小カメラを二台、音速で吹きだし天井と壁に仕掛けている。

 友子は、そのあと足を速乾性のコンクリートで固められてバンに乗せられ、そのまま船に乗せられた。同時に残した超小型カメラに位置情報と映像の内容を警視庁に転送した。むろん自分の裸にはモザイクが入るようにしてある。

 

 ドッポーン……!

 

 友子は、東京湾の真ん中で海に放り込まれた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 


 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・058『第二回MITAKA(みんなで楽しく語る会)』

2023-10-22 17:28:21 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

058『第二回MITAKA(みんなで楽しく語る会)』   

 

 

 え、ストーブ?

 

 思わず出た声は微妙に非難がましく聞こえたのか、セッティングしながら10円男が機嫌悪そうに背中で応える。

「仕方ないだろ、応接室は北向きで冷えるんだから、女子は冷やしちゃダメだろ」

 いや、そういう意味じゃないんだけどね。

 自動販売機かっちゅうくらいに大きなエアコンが据え付けてあるのに、なんで、暖房に切り替えないでストーブにしてるんだと思うんだよ。北向きにある応接室はマジ寒いんで暖房することに意義はない。

 あーーそうか。

 冷静に考えると、昭和45年というのはエアコンが普及していない。PTAの好意で据え付けられてるのは単なるクーラーなんだった。

 ボン

 ちょっとした爆発音をさせてストーブが点く。

 ポリバケツを逆さにしたぐらいの円筒形で、ちょっと鳥かご的。鳥かごの中に鳥は居なくて、いっぱい穴の開いた素焼きの筒が立っている。

 その筒がチリチリ音を立てながら穴の縁を朱色に染めていく。

「小学校のストーブよりはマシだろ」

「え?」

「ダルマストーブだったろ」

 ダルマのストーブ?

「先生しか点けちゃいけなかったし、石炭取りにいかなきゃならなかったし、臭いもひどくて温もるの遅かったしなぁ」

「あ、ああ、そうだよね(てきとうに合わせておく)。でも、よく借りられたねえ、教室は暖房12月からでしょ?」

「ああ、それについては栗原さんに感謝だな」

「あ、ああ……」

 栗原さんは、最初風邪の症状だったらしい、それが命に係わる病気だって分かったときには手術以外に手が無くって、宗教上の理由で手術できなくって命を落とした。

「教師集団はMITAKAには警戒してるけど、生徒の健康に関わるとなると弱い。だから『生徒の心の火と健康の火を消さないでください!』と迫って一発で貸してくれた」

 なるほど、心の火はMITAKAで、健康の火はストーブというわけか。10円男もたまにはいいこと言う。

 

 嬉しい、ストーブ点いてる!

 

 入って来るなり真知子も感嘆の声を上げてストーブ守に加わる。

真知子:「加藤君には、そういう才能あるって、わたしは踏んでいたのよ。ありがとうね(^▽^)」

10円男:「い、いや、MITAKAは、まだ緒に就いたばかり、一回一回大事にしなきゃなあ(#'∀'#)」

巡:「あ、赤くなってるぞぉ」

10円男:「ああ、ストーブもころあいに温もってきたからな(;゚Д゚#)」

真知子:「ほんとだ、スケルトン赤くなってきたね」

 スケルトン……10円男かわいそう(^_^;)

真知子:「スケルトンって、中の筒みたいなのよ」

巡:「え? あ、ああ、そうかぁ!?」

10円男:「し、失敬な! 俺のことだと思ったのかぁ!?」

巡:「アハハ、めんごめんごぉ」

 

 バカを言ってるうちに、他の参加者も集まってきて、第二回MITAKA(みんなで楽しく語る会)が始まった。

 

 やっぱり話題は栗原さんのことになる。

 

たみ子:「基本的にはお家のことだし、宗教のことだから、あまり深くは言えないけど、考えなくちゃだよね」

 たみ子が切り出すと、四組から参加している子たちが俯いてしまう。

真知子:「あ、誰かを責めようって話じゃなくて」

たみ子:「ごめん、言い方悪かったぁ」

佳奈子:「うん、わかるよ。あたしセッターやってるけど、セッターの肝は仲間の気持ちを汲むことだからね。繋げる球を上げて繋ぐのに似てる」

四組女子A:「栗原さんのこと、ちっとも知らなくって」

真知子:「いいのいいの、誰かを責めようって話じゃないんだから」

四組女子B:「いいのって、栗原さん帰ってこないのよ」

ロコ:「この話は、またにしませんか」

真知子:「そうね、ごめんなさい」

四組女子A:「うん、でもクラスが違っても気にかけてくれて嬉しい。ね、B子」

四組女子B:「う、うん、それはそう。ごめん、変な言い方して」

 それから真知子は文化祭と体育祭のことに話題を振った。

たみ子:「接近しすぎてるのよ体育祭と文化祭」

四組女子A:「うん、文化祭の前に体育祭の練習とか準備とかでかり出されると、劇とかやってると大変困る」

 うんうんと頷く者が多い。

 初参加の二年生が手を挙げた。

二年男子:「演劇部なんだけど、うちは、体育祭もそうだけど、クラスの取り組みとかにも人をとられて、ほんとうに稽古できなくて困った。一度、学校行事の有り方とか考えた方がよくないかなあ」

10円男:「異議なし!」

真知子:「そうね、まずぶっちゃけようか。深堀はまたにして」

 異議なし! うんうん! 賛成! 

社研男子:「文化祭前日は泊まり込み可にしてほしい」

一年女子:「消耗品とか買うのに、見積もりとってからというのは勘弁して」

二年女子:「模擬店の規制緩めて欲しい」

10円男:「模擬店やったら全員検便はナンセンス!」

 模擬店をやった女子が顔を赤くする、よく言った10円男!

ロコ:「文化祭の最後にファイアーストームやらせてほしいですね」

 異議なし! いいねぇ(^▽^)/ 賛成!

巡:「体育祭の時ぐらいブルマやめてほしいです」

 おお……( ゚Д゚)

 普通のことを言ったのに、みんな目からウロコって顔になる。

二年女子:「うんうん、男どもの視線ヤラシイものね!」

たみ子:「ああ、そういや、サングラスの先生とかいたよねえ」

 ああ……!

 で、調子にのってしまった。

巡:「もう、ブルマなんて廃止すべき! ぜったいセクハラです!」

 セクハラぁ?

 え、通じない?

ESS女子:「それって、セクシャルハラスメントのこと?」

巡:「え、あ、うん、そうだけど」

ロコ:「メグリン、英語すごいですぅ。で、どういう意味ですか?」

ESS女子:「セクシャルは性的な、ハラスメントは……(すごい早さで辞書を引く)嫌がらせという意味」

ロコ:「性的イヤガラセ(#^_^#)」

巡:「え、あ、いや、そんなことないよ」

ESS女子:「セクシャルハラスメントなんて、ネイティブでなきゃ言わないわよ」

巡:「いや、たまたまよ、たまたま(^_^;)」

真知子:「いやあ、いろいろ出てくるわねえ(^▽^)」

10円男:「熱くなってきたなぁ」

ロコ:「足もと寒いかなあ……」

10円男:「これで目いっぱいなんだけどなあ」

四組女子A:「そこの扇風機まわしたら?」

ロコ:「え、扇風機?」

佳奈子:「そうか、かき回したら均一になるか」

四組女子B:「いくよぉ」

 ブゥゥゥ~ン

たみ子:「ちょっと空気も入れ替えよう」

 

 空気を入れ替えたら、熱気まで冷めてしまうんじゃないかと思ったけど(中学までの経験だと、たいてい冷める)、それからも下校の放送がかかるまで熱く語り合った。

 みんなで高校生集会というのに行くことが決まる。

 高校生集会……よく分からない。

 でも、聞いたら恥っぽいので聞かなかった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)

 

 

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RE・トモコパラドクス・55『友子の夏休み in 東京・1』

2023-10-22 06:57:18 | 小説7

RE・友子パラドクス

55『友子の夏休み in 東京・1』 

 

 

 ム…………


 古風な丸眼鏡を掛けた梨花の祖父王貞勇は、友子が持ってきた絵を見るなり、言葉を失ってしまった。

「芳子さん、少しの間、このお嬢さんと二人きりにしてくださらんか」

 かろうじて、秘書の川島芳子に笑顔を向けると黙り込んでしまった。

 

 コトリ

 

 アイスティーの氷がでんぐり返ったのを合図であったかのように、貞勇翁は口を開いた。

「この絵が残っていたとは……いやはや、感謝のしようもありません」

「いえ、わたしにもよく分からないんです。別荘を出る朝に『あの絵を持ち出さなきゃ』それだけ思って、あとは、気が付いたら、ここにお邪魔していたって感じなんです」

「ほんとうですか……」

「はい」

「やはり、この絵の伝説は本物だったんだなあ……」

「本物……ですか?」

「これは、わたしの爺さんの孫悟なんです。孫文先生に心酔していましてね。苗字まで孫にしちまった。もっとも、オヤジの代で帰化したときに、もとの王にもどしましたがね」

「あの、どこも傷んでいませんか。そんな大事な絵とは知らずに運んでしまったもので」

「いや、大丈夫。大切に扱ってくださった」

 その暖かい笑みは友子への気遣いだけとは思えなかったので、友子は貞勇翁の心を覗いてしまった。

 どうやら、眼鏡に秘密があるらしく、サインのところを見ると書かれていない中華の二文字が浮かび上がり、その真贋が分かる仕組みになっているようだ。そして、この絵は、精巧なダミーが作られていて、ダミーの方は銀行の貸金庫の中に隠され世間では本物とされている。中国の秘密組織は、そこまでつきとめて別荘を襲撃したようだ。

 でも、なぜ自分が、それを予測して、この絵を持ち出したかは思い出せなかった。

 ただ、翁の思念を探って絵自体ではなく、絵の中に隠された暗号のようなものこそが重要であることが分かった。しかし、その暗号が、どのように重要なのかまでは、翁にも分からないようだった。

 

「梨花は、少しは変わりましたか?」

 

 お爺ちゃんの、もう一つの心配は直接口をついて出てきた。

「はい、眠くなると、人前でもアクビができる程度には」

「おお、それは大進歩だ。小さなころから行儀作法は仕込んだが、年頃に相応しい感情表現が苦手な子になってしまったようで、貴女たちお友だちに期待しておったんですよ」

 友子は、旅行中の梨花のほどよくリラックスした写真を見せた。

「おお、この無防備な大あくびが良い。わたしのスマホに送ってくださらんか。いいや、本人には見せやしません。孫の成長を陰ながら見られればいいんです。もっとも、本人が、これを見ても笑って済ませられるぐらいに成長したら……そうだ、結婚式のスライドにしてやろう!」

「ハハ、それまで、梨花のこと、もっと鍛えておきます」

「あなた方なら安心だ。ぜひよろしく」

「ところで、お爺様。この絵と同じサイズの絵があったら、頂けません?」

「かまわんが、どうしてかね?」

「敵は、どこかで、あたしがこの絵をここに持ち込んだことに気づいていると思うんです……」

「囮になるつもりなのかね!?」

「任せてください、鬼ごっこには自信がありますから」

 ここで、友子は軽い催眠術を翁にかけた。そうでもしないと、このお爺ちゃんは、女子高生に危ない真似など、絶対にさせないからだ。

 こうして、友子は同じサイズの絵を元の紙に包んで、王交易公司をあとにした。

 

 そして、地下鉄の駅の近くで、予測通り四人組の男女に拉致させてやった……。 

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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銀河太平記・186『ゾンビの秘密』

2023-10-21 14:14:59 | 小説4

・186

『ゾンビの秘密』ツナカン 

 

 

「「なぜ?」」

 

 岩陰に身を潜めたところで、同じ言葉が出てしまったっす。

 ノッシ……ノッシ……ノッシ……

 二人の動きに動体視力がついていけないゾンビどもが岩の向こうを通過するのを待って、やっと二の句を継いだっす。

「拙者は」「自分は」

 応えも重なりかけると――そちらから――とうなづくサンパチ殿。やっぱり、内親王殿下のガードだけあってゆかしいっす。その感動にワタワタしてると、はにかんだような顔で口を切るサンパチ殿っす。

「拙者は、この序盤戦の様子を探っておるのでござる。ツナカン殿は?」

「自分もっす」

「アルルカン殿は、参戦されるのでござるか?」

「とんでもないっす、アジトも引き上げて姿をくらますっす。でも、この戦争の性格を知っておきたいって船長が言うもんで、自分が偵察に出てきたっす」

「アルルカン殿は火星を出られるのでござるか?」

「そうっす。取りあえずは周回軌道のヒンメルに退避っす、それからどこに行くかは、自分にも分からないっす」

「さようか……ツナカン殿の報告次第というところでござるな」

「サンパチ殿は?」

「殿下の安全を図るためでござる」

「安全……」

「事と次第によっては扶桑を……あるいは火星を出ていただかなくてはならぬでござる」

「殿下の御命令っすか?」

「独断でござる。ろくに並列化もできぬ作業機械でござる、拙者は自分の目で見た情報を報告するまででござる。お決めになるのは殿下ご自身でござる。それゆえ、確度の高い情報を得るため、時には敵中に身を置いて強行偵察もいたすのでござる」

「さ、サムライっすねえ!」

「そうでござるか?」

「ござるっす。あっしの場合は船長が決めていて、シャケカンやアルミカンとジャンケンして、負けて来たっす」

 どっちかって言うと気の進む仕事じゃないっす(-_-;)。

「よいではござらぬか、アルルカン殿は、一見抜けたように自己演出され、とても軽やかに明るく人を動かされるのでござるよ」

「そ、そうっすかね(^_^;)」

「ああ、殿下共々ヒンメルに拉致されもうした時に観察して、そう感じたでござる。良き総帥でござる」

「え、そうなんすか?」

「ああ、あのパンツが破れたところやブーツでずっこけたところ(122『ずっこけアルルカン』)など、心憎いまでの演出でござった」

「ああ……」

 あれは、船長もクルーもガサツなだけなんすけど(;'∀')。

 

 ノッシ……ノッシ……ノッシ……

 

「あんなゆっくり動いていては、ビシバシやられるだけじゃないっすかね?」

 ビシビシビシビシ!

「うわ!」

 岩のすぐ後ろを進んでいたゾンビがパルス機関銃の斉射をうけてミンチになったっす!

 ビチャビチャビチャガチャビチャガチャ

「うッ」

 粉砕されたロボットのパーツや生体組織が混ぜこぜになって飛んでくるっす!

「さすがに惨いものでござる」

 言いながら、平然とパーツやら肉片を見つめるサンパチ殿。外見が小柄な美少女なんで、なんか壮絶っす。

「こういう時は、少し気持ち悪くなるくらいがバランスがとれて良いでござるよ」

 エヅキそうになっているあっしを労わってくれるサンパチ殿は、やっぱサムライっす。

 壊死して時間が経っているので、見た目以上にグロテスクで、思わず解析してしまうっす。

 ジジジジジジジジ…………

 サンパチ殿も同じく解析、二人とも念入りの重層解析をやるもんで、解析波が共鳴して虫が鳴くような音がするっす。

 

「「まずい!」」

 

 同時に叫んで飛びのいたっす!

 ロボットの肉片や腐敗した体液にはパルス菌が繁殖しかけていたっす!

 パルス菌は開拓時代に地球から持ち込まれた感染菌が火星で変異したものっす、150年後の今でも完全な対策がないっす、人間が罹れば致死率は70%っす。ロボットでも粘膜や生体組織の傷口から入って来られたら生体組織がやられて無残な姿になってしまうっす!

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・54『友子の夏休み 軽井沢・6』

2023-10-21 06:51:09 | 小説7

RE・友子パラドクス

54『友子の夏休み 軽井沢・6』 

 

 


 友子は、休ませていた機能を一発で稼動させ、ベッドから起きあがるとリビングへ下りて残留思念と向き合った。

 これを普通にいうと、ただならぬ気配に目が覚めた友子は、月明かりだけが差し込むリビングで、幽霊に会ってしまった……ということになる。

 

 並の女子高生なら、悲鳴をあげて卒倒しているところである。

 しかし、友子は義体の感覚で見ているので、悲鳴を上げることもなく、卒倒することもなかった。

『やはり、君は、ただの女の子じゃないね』

 これには驚いた。残留思念とは空間や場の記憶であり、それが現実の存在に声を掛ける事などあり得ないからである。万平ホテルのジョンレノンや、軽井沢大橋の幽霊などが、そうである。

 だが、この孫文に似たオジサンの残留思念は語りかけてくる。

『わたしは、義体なんです』

『義体?』

『つまり、義足や義手の全身版です。とんでもなく高性能ですけど』

『でも、感じるのは人の心だよ。ロボットというわけでもないようだね』

『ええ、心は人間のままです。でも、三十一年年前の十五歳だから、見かけよりは歳をとってますけど』

『そのせいだろうね、もう一人の似た子より、君を選んだのは』

「孫文」さんは、月明かりを浴びながら、カウチに腰を下ろした。こんなに人間として据わりの良い人に出会ったのは初めてだった。友子も誘われるようにソファーに腰を下ろした。

『不思議、人にしろ残留思念にしろ、思いは読み取れるんだけど、あなたの心は読めない』

『そういう風にできているからさ。中国四千年の不思議とでも言っておこう』

『で、あたしを選んでくださった理由というのは……?』

『…………』


 そこで友子の記憶は途切れた。


「さあ、最後の朝だぞ。ボリボリ食って、バリバリ働こう!」

 紀香の元気な声で起こされた。

 紀香がサッと開いたカーテンからは夏の朝日が容赦なく照りつけて、みんなは仕方なく、朝ご飯を食べて、帰り支度にとりかかった。

 バニラエッセンズの取材で一日分遅れた薪割りは、十分で片づいた。紀香と友子が人間業と思える限界のスピードで、やり遂げたからだ。

「ねえ、夕べ一時間ほど、あたしの記憶がとんでんだけど、友子は?」

 シャワーを浴びながら紀香が聞いた。

「あたしも、こんなの」

 友子はデータを紀香に送った。友子は「孫文」さんに出会った記憶も消えていた。

「変なのぉ……ま、芝居の稽古も進んだし、親交も深まったことだし、有意義な一週間ではあったね」

 確かに、お嬢様然としていた梨花も気楽に話せるようになったし、眠ければ人前でもアクビができる子になった。麻子にいたっては、コーラのゲップ以外にも、眠りながらオナラまでするようになった。

「さ、じゃあ、閉めるわよ」

 ガチャリ

 別荘中の点検を終えた後、梨花がセキュリティーをオンにし門扉をロックした。

 竹内セガレグル-プも、最初の印象とはまるで違う好青年ぶりでマイクロバスで待っていてくれた。

 友子は平べったく大きな包みを抱えていたが誰も気にしなかった。実は友子が、そういう暗示をみんなにかけているのだが、かけた本人にも自覚は無かった。

 

 そして……竹内セガレグル-プに駅のホームで見送られてから30分後、梨花の別荘は大爆発を起こした。

 

 山をいくつも隔てたトンネルを通過中だったので友子も紀香も気づかなかった。

 東京に帰ってから、ニュースで知って驚いた。

 別荘は跡形もなく吹き飛んでいた。

 そして焼け跡から、性別不明の爆死体が四人分出てきた。

 

 この仕掛けをしたのが、自分であるとは、友子の電脳は99・9999%忘れていた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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RE・かの世界この世界:211『中海沿いを西に進む』

2023-10-20 13:35:45 | 時かける少女

RE・

211『中海沿いを西に進む』テル 

 

 

 中海(なかうみ)を右手に見て、山陰本線の鉄路に沿いつつ西に進む。

 

 中海のその向こうに日本海が広がっているのだが、間に島根半島が立ちふさがり左には山陰の山々が迫って……隠国(こもりく)の気が立ち込めている。

ヨネコ:「ふふ、そうですね、立ち込めていますね」

 後部座席でヨネコが笑う。

 ランドセルを抱えているので、なんだかランドセルの妖精のようだ。

テル:「ヨネコは人の心を読むのか?」

ヨネコ:「いえいえ(^_^;)」 

 ハタハタと両手を振るとランドセルもワシャワシャ揺れて、ますます妖精のようだ。

ヒルデ:「隠国のところは口にしていたぞ」

テル:「そ、そうか(;'∀')」

ヨネコ:「タングニョーストさんは、リュックだっこしないんですか?」

タングニョースト:「フフ、リュックの中身が恥ずかしがり屋なんでな」

ヨネコ:「?」

ケイト:「海のそばを走ってるから、瀬戸内を走ってるみたいだな」

雪舟ねずみ:「朝方に来ると、霧が立ち込めてることが多いです。雪舟さんは、お好きでしたね」

ヨネコ:「想像力を刺激するんです、水木しげるさんも小泉八雲さんも、朝霧の中にあやかしやもののけを見たんです」

桃太郎二号:「鬼とかもいるのか!?」

ヨネコ:「居たらどうするんですかぁ?」

桃太郎二号:「退治すんだよ、退治してお宝ぶんどって、男を上げるんだ! いつまでも二号なんて言わせねえ、俺さまこそがシン桃太郎だってな!」

イザナギ:「よかったですね。もうじき、黄泉比良坂、鬼は掃いて捨てるほどいます」

桃太郎二号:「そ、そうか、腕が鳴るなあ(;'∀')」

ケイト:「どんな鬼がいるんだ?」

ヨネコ:「男を食うやつとか女を食うやつとか、子どもばっかり食うやつとか、赤ん坊専門に食うやつとか、家ごと食うやつとか、鬼を食う鬼とかもぉ」

桃太郎二号:「く、食うやつばっかしだな……」

ヨネコ:「食わないのもいるよ、ノッペラボウとか雪女とかねずみ男とかぬらりひょんとか一反木綿とか、人間的なやつなら平家の幽霊が耳を引きちぎっていくやつとか! それとか……」

 

 キーーーーー!

 

 ヨネコが絶好調になりかけた時、雪舟ねずみが急ブレーキをかけた。

桃太郎二号:「イテ!」

ケイト:「グ……頭ぶつけた!」

イザナギ:「ヨネコさん、だいじょうぶですか?」

ヨネコ:「うん、ランドセルがクッションになったから(^_^;)」

雪舟ねずみ:「すみません、与一さんが停まれの合図をしてこられたものですから」

 フロントガラスに目を向けると、数メートル先で後姿のまま与一殿が手を挙げて、あたりは、いつのまにか深い霧に覆いつくされている。

 

 ガチャ

 

 ただならぬ気配に、ヒルデとタングニョーストが外に出て、わたしも続いた。

ヒルデ:「なにごとだ、与一殿」

与一:「怪しの気配に満ちている、すぐに危害を加えてくることは無いでしょうが、少し危険です」

イザナギ:「黄泉比良坂は、もうすぐそこです、無駄な戦闘は避けたいですね」

与一:「おっしゃる通りです。ここは鳴弦で凌いでおきましょう」

ケイト・桃太郎二号:「「メイゲン?」」

テル:「鳴る弦と書いてメイゲン、弓弦をビョンビョン鳴らして、その響きで邪気を追い払う方法だよ」

ヨネコ:「ああ、月からの使者がかぐや姫を迎えに来た時に侍たちがやったやつですね」

 

 グググ ゾロゾロ ワシャワシャ グチャグチャ……

 

ケイト・桃太郎二号:「き、来た」

与一:「本来なら桃の木の弓を使うのですが、これも歴戦の強弓、効き目はあるでしょう」

ケイト:「あたしもアーチャー(弓兵)だ、いっしょにやろうか!?」

与一:「弓を見せて」

ケイト:「うん、これだけど……」

与一:「……力のある弓です、得意な技はあるかい?」

ケイト:「うん、カイナティックアローとか……」

与一:「力のある技のようだ、いっしょにやろう」

ケイト:「うん!」

 

 与一殿は、大きな所作で弓を構えると、ビョンビョンと弓の空打ちを始めた。

 ケイトも、それに倣い、ピュンピュンと少し高い音をさせて魔を封じはじめた。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ

 

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RE・トモコパラドクス・53『友子の夏休み 軽井沢・5』

2023-10-20 07:17:15 | 小説7

RE・友子パラドクス

53『友子の夏休み 軽井沢・5』 

 

 

 軽井沢大橋に行ってみよう!

 

 簡単に決まってしまった……。

 軽井沢大橋とはご大層な名前で、巨大な橋を連想するが、湯川ダムから続く渓谷の上に渡された小ぶりなアーチ式の橋である。

 これに(大)の字が付くのは、地元のリゾート開発にかける心意気なのだが、今では特別な響きがある。

 いつのころからか、ここは自殺の名所になり、軽井沢の心霊スポットの一つになって、著名な作家が推理小説の舞台にしたり、怪奇系ドラマのロケに使われたりしている。
 
 地元の人間は行かない。行くのはたいてい、夏の避暑にやってきた若者達である。そこを見越して友子は竹内興産のセガレグループに頼んだ。

「ねえ、軽井沢大橋に連れてってよ!」

 セガレグループはたじろいだが、リーダーの秀哉に目が集まると、秀哉は顔を青くしながらも作り笑顔で頷いた。

「お、おう、任しとけ(((( ;゚Д゚)))」

 秀哉の車を先頭に三台の車とロケバスが続いた。

 

 国道176号線を右に折れて、三百メートルほど山道をいくと、それはあった。

 

 橋の欄干の上には二メートルほどの鉄柵が付けられ、さらに、その上には三段の有刺鉄線が内向きに傾けて取り付けてある。よほどの決心と、実行へのエネルギーがないと、乗り越えられないシロモノで、それだけのエネルギーがあれば、実行など思い立たないだろうという仕掛けになっている。

「街路灯が薄青いだろ……」

 秀哉が、マイクロバスの運転をしながら呟いた。

「ほんとだ、普通白色か、オレンジ色だよね……」

 純子が、さらに低い声で応える。

「あの色はな、一番心が落ち着いて、自殺を思いとどまらせる効果がある……そう……だ……」 

 秀哉の声は落ちるとこまで落ちて、語尾はほとんど聞こえなくなった。

「じゃ、降りて見学しようか!」

「「「「「ええ(;'∀')!?」」」」」

 紀香が脳天気な大声を出すので、みんなびっくりし、各人各様の悲鳴をもらした。友子は、わざとだったし、テレビのスタッフたちは見上げたもので、表情一つ変えなかった。

 バスを降りて、テレビスタッフ、結衣たちバニラエッセンズの三人に友子たち六人は徒歩で橋を渡り始めた。

 テレビのクルー達が九十メートル下の渓谷を写す。しかし、中継用のライトでは、谷底までは届かず、ただ上流のダムから流れてくる川の音を轟かせるだけであった。

 橋を渡り終える……と……気配に振り返った。

 すると、橋の中央当たりに、白いワンピースの女の人の姿が見えた!

 友子には予想外だった。本番は、もう少しあとで出す予定であった。

「で、出たー!」

 秀哉が叫ぶとセガレグループは逃げ散って姿が見えなくなってしまった。

 元幽霊の結衣まで怯えているのはおかしかった。

 テレビクルーは震えながらも、しっかりと映像と音声を撮り続けている。時間にして数十秒、白いワンピース姿はフェードアウトしていった。

 みんなは幽霊と思いこんでいるが、友子と紀香には分かった。

 

 これは、場の空間が覚えている残像である。

 

 強い想いや事件があると、空間自体が網膜が強い光を残像として残すように記憶してしまう。たまたま、ここの空間は、そういうものを残しやすい時空的な構造にになっていたのだ。思い詰めた人は、その残像を見て誘い込まれるようにして飛び込んでしまうのだ。結衣の元の水島クンのような本物の幽霊もいるが、ここは、どうやら時空の問題のようだった。

 友子は紀香ともども義体の因果さを思った。

「男の子達がいないよ(;゚Д゚)!?」

 麻子が気づいて騒ぎ出した。

 友子は、紀香に目配せされて、仕方なく偶然を装ってセガレグループを捜した。四人は、ほとんどひとかたまりになって、林の中で震えていたが、秀哉の姿が見えない。

―― この斜面の下、気づかない? ――

 紀香から思念が送られてきた。

―― ケガはしていないわ。とりあえずパルスショックをおまけ付きで送っとく ――

「キャ~~~(。>д<)!」

 どう聞いても男らしいとは言えない悲鳴を残して、秀哉が崖を駆け上がってきた。

「い、いま、白い服着た、お、お、女に、い、息吹きかけられたぁぁぁぁぁlll゚Д゚lll!」

 秀哉は、短パンの前を濡らしたことも気づかずに叫んだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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くノ一その一今のうち・80『B国潜入』

2023-10-19 09:31:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

80『B国潜入』そのいち 

 

 

 何度かたとえてきたが、高原の国のポジションは日暮里から西の山手線内側に似ている。

 

 北方の埼玉県が、すでに、その軍門に下っている足立・葛飾両区を前に立て、まだ旗色を明らかにしていない台東区・荒川区を嚇し日暮里・鶯谷の崖を駆け上がって山手線の内側に攻め入ろうとしている。

 位置的にA国は荒川区、B国は台東区にあたる。

 A国はほぼ高原の国に取り込まれそうになっているが、B国は踏みとどまっている。

 高原の国の王妃はB国王室の出身で、B国皇太子はアデリヤ王女の従兄弟に当る。

 

 その血の繋がりに掛けて、王女とわたしは日暮里の崖を下ってB国を目指している。

 

 A国との国境には国境警備司令のドーカンが王女のコスを着た女性兵士を載せ、ジープで牽制に向かっている。司令部の監視哨には帝キネのポスターから抜け出てきたえいちゃん(長瀬映子)が二次元の身でありながら王女に扮装してA・B両国の目を惑わしてくれている。

 わたしと本物のアデリヤ姫は遊牧民のナリでラクダに跨ってB国の草原に紛れ入っている。

 早朝の爆発騒動は、そのA・Bどちらか、あるいは別の勢力によるものか明らかにならないまま収まって、遊牧民たちは逃げ散った羊やラクダを集めにかかっている。その中に紛れているのだ。

 

「よし、ここらでいいだろう」

 

 ラクダを下りると鞍や装具を外して放してやる。

 尻をペシペシ叩いてやると、ラクダは振り向きつつも北に向かって歩きはじめる。

「ラクダで足がつかないのですか?」

「だいじょうぶ、元々A国の草原から迷い込んできたラクダだから。じゃあ、行くわよ」

「はい」

 装具のリュックを背負って街道に向かう。

 

 三十分ほど歩いたところの臨時の検問所で誰何される。

 

「待て、おまえたちは何処へ行く」

「トゥテシ村から逃げてきたの、また、あんな爆発騒ぎがあったらかなわないから。男たちは残ってるけど、女子供はね……」

 他にも国境付近から逃げてきた者がチラホラ、見た目にも十代の少女の二人連れなので難なく通してもらえた。

「ありがとう、兵隊さん」

 リュックを揺すり上げた手には日焼け色の迷彩ドーランを塗った上に砂をまぶしてある、パッと見には分からない。

「あら」

 検問所の裏に王室のトラックが停まっている。荷台には『救護移送』の横断幕がかけられている。

「これで、避難キャンプに行けるみたいですね」

「時間が稼げる」

 荷台には、少し余裕があったけど、避難者十数名を載せてトラックはエンジンをかけた。

 荷台のスピーカが、諸注意をする。

『走行中は立ち上がらないこと、緊急の時はドライバーの指示に従ってくれ。緊急事態の時は、スピーカー横のインタホンで伝えること、行先は王室牧場、到着までは三時間だが状況しだいでは変更がある。それから、この緊急措置は皇太子殿下の発意であるから感謝すること。では、出発する』

 ブロロン……

 十分も走ると、朝から歩き詰めだった者も多く、大方の者が荷物を抱いて居眠りし始めた。

 わたしたちも、眠った風を装って二人でもたれ合う。

「王室牧場は、ちょっと王宮とは離れすぎてませんか?」

 闇語りに近い小声だけども、王女には伝わるようだ。下を向いたまま小さく応えた。

「サマルは気が小さい、おそらくはキャンプに来ている」

「それはラッキーです」

 なぜ、気が小さいとキャンプに来ているのかは分からないが、わたしの質問は姫の精神状態と健康状態を探るためのものなの。しっかりした返答をしてもらったことで十分だ。

 もう一言聞いてみようかと思ったら、姫は、ほんとうに眠ってしまっていた。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女

 

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RE・トモコパラドクス・52『友子の夏休み 軽井沢・4』

2023-10-19 06:01:59 | 小説7

RE・友子パラドクス

52『友子の夏休み 軽井沢・4』 

 

 

 バニラエッセンズがやってくることになった!

 

 バニラエッセンズとは、この春まで東京ドームの横っちょでヘブンアーティスト(東京都が発行している路上アーティストの許可書)で、ディユオをやっていたコンビ。そこに、わが乃木坂学院に長年住み着いていた幽霊の水島君が、宇宙人マイの戦争のお手伝いしたお礼に、かわいいアテンダントの義体をもらって女子高生として、この世に復活。そして、このデュオが気に入って仲間入り。名前もバニラからバニラエッセンズと改名、いまでは「いきものがかり」にならぶ男女混成ユニットとして有名になってきた。

 で、水島……いや、清水結衣の夏休みとして、ボーカルの結衣が友だちの夏休みにお邪魔するという企画が急に決まったのだ。

 

「お早うございます!」

 

 にこやかにやってきた結衣の後ろには、メンバーの岩崎と西川、そして画面には映らないが、カメラや音声、スタッフの面々がゾロゾロ。で、その後ろには、軽井沢に避暑に来ている老若男女がゾロゾロゾロゾロ……。

 何も聞いていない梨花たちはオロオロ、その能力で、あらかじめ知っていた友子と紀香はオロオロのふりをしながら、スタッフに混じって、場内整理にかかった。で、この際、社会的なマナーを身につけさせてやろうと竹内興産のセガレグループも呼んでやったのだ。

 最初は結衣を中心にして、デビュー前の思い出、乃木坂駅前のパンケーキ屋さんの話なんかに花が咲き、なぜか用意されていたパンケーキをみんなで食べ、ヘブンリーアーティスト時代の苦労話。そんな中、毎日岩崎と西川の演奏を聞きに来た結衣との運命的な出会い。それぞれの学校時代、結衣は、まだ現役の女子高生だけど、そんな話に発展し、この軽井沢がジョンレノンにゆかりの地であることに話題が移った。

 

「それでは」

 

 ということで、バニラエッセンズが即興でビートルズやジョンレノンの曲にチャレンジしてみせるという、まるでアドリブのような構成台本通りに進んだ。

 結衣には、もう幽霊時代の記憶はない。三月前以前の記憶は作られたものだが、それだけに美しかった。

 宇宙人マイが作った結衣の経歴はドラマチックであった。

 中学のころは新聞配達のバイトで母子家庭の家計を助け、高校授業料無償化のおかげで、思いもかけず乃木坂学院に入学。気後れから、なかなか友だちが出来ず、ようやく友だちになってくれたのが、この軽井沢に来ている友子たち、そして生まれもった音楽の才能を開かせてくれたバニラの二人。

 友子は気づいていた。

 プロダクションは、あたかも偶然のように見せかけて、次のアルバムでジョンレノンの曲をカバーさせようと狙っていること。そして、結衣が自然にジョンレノンやビートルズに触発されるように演出していることも。

 少し手の込んだヤラセなのだが、友子も結衣には自然な跳躍になると、進んで協力した。

 竹内興産のセガレグループを運転手と案内人に仕立て、紳士的に軽井沢を案内させた。

 そして、これは予想外だったけど、メンバーの西川君が、雰囲気にイマジネーションをうけ、『軽井沢の思い出』という曲を休憩時間に創ってしまった。まだ、詩はできていなかったので、結衣はスキャットで合わせて、もう、それがジョンレノンへのオマージュになっていた。

「良い曲だなあ……( ノД`)(゚´Д`゚)(*´□`*)

 竹内興産のセガレグループは本当に感動の涙を流し、昨日まで、あんなに嫌がっていた純子たちもホロリときた。

 

――うまくいった……けど、ちょっと面白くないぞ。思わないかい、友子ぉ?――

――うん、美談すぎぃ――

――美しすぎる思い出はからだにわるいぞ――

――毒だよねえ――

――じゃあ、もう一つ夏の思い出つくってやるかぁ――

――とびきり楽しい思い出をね――

 

 ウシシシシシ(*`艸´)( ´艸`)

 

 いいところ持って行かれそうになった友子と紀香はある企みを企てるのであった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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鳴かぬなら 信長転生記 147『信長版西遊記・敦煌・2・美人菩薩』

2023-10-18 15:13:18 | ノベル2

ら 信長転生記

147『信長版西遊・敦煌・2・美人菩薩信長 

 

 

 いやはや恐れ入ったものだ。

 

 タクラマカン砂漠を大海に例えるならば、この莫高窟(ばっこうくつ)が穿たれている鳴沙山(めいさざん)は三国志の中華に打ち寄せる大波。だとしたら、この奇観は、その大波が神か悪魔の力で石化したものに違いない。

 石化した大波には七百余の石窟が穿たれ、その五百近くの石窟には絢爛たる壁画や仏像が残されている。

 石窟は三層、高いところでは五層になり、1600メートルも連なって、初めて見た転生学院の校舎の連なりよりも迫力がある。

 見ようによっては城壁なのだが、城壁に有りがちな『防御』という拒絶を伴う単純な属性はない。

 ここには人をゾクゾクひれ伏させる酒精を帯びた攻撃性がある。

 壁画や仏像は仏教という理屈の密林に人や国を迷い込ませひれ伏させるための象徴、いや呪物だ。

 上手く利用すれば、見た目の凄さで人を酔わせ、刀槍を用いずして天下を支配する。この攻撃性と世俗の権力が一つになれば天下が取れるのかもしれない。

 俺はやらない。

 これは、俺がぶちのめした比叡山の禍々しさに通じるものだ。

 力とは、秩序と豊かさだ。安心安全に日々の暮らしが成り立ち、作物が成り、ものが作られ、迅速確実な物流に載って売り買いが出来ることだ。コケ脅しの呪物でひとの目を眩ますものではない。

 おっと、信長に戻ってしまってはことを仕損じる。

 俺は玄奘三蔵を天竺から連れ帰る一番弟子の孫悟空、今は妖怪どもを平らげるために自ら三蔵の姿に化けて妖どもの注意をひきつけているところなのだ。

 

 ウキ!

 

 見通しただけで、千余の聖俗どもがチョロチョロと巣穴に出入りする蟻のように窟壁を出入りしている。石窟の中や市内に居るものを含めれば万を超える者たちがこの西域のほとりの街に蠢いているだろう。

 石窟群の前には、安土の楽市を思わせる大小の露店が並び、道を挟んで常設の店や公司、その甍のむこうには敦煌の家並がひしめいている。

 おそらくは、この賑わいに隠れて何者かが居る。

 

 まずは三蔵らしく石窟群の見学をしよう、俺の鍛え上げた勘は、ここに何かが居ると囁いている。

 

 最初の石窟に入って、クラクラしてしまう。

 四方の壁はおろか、天井や柱にまで仏画が描かれている。

 そのほとんどがハガキ大の仏のバストアップ。一つ一つは驚くほどのものではないが、数の迫力。数万の人間に見つめられているようで気持ちが悪い。

 

 次の石窟も、細密に描かれた仏たちの絵で埋め尽くされてはいるが、正面に三尊像。

 印を結んだ釈迦を中心に、菩薩と観音、脇には羅漢たちが人間的な表情で立っている。さらに外側の脇には金剛力士像。憤怒の表情ではあるが、どこかユーモラスだ。元来は仏の守護神なのだろうが、大衆受けするためには取っつきやすい方がいい。こういう合理的な解釈は好みだ。坊主らしく合掌して次へ……

 

 第57窟。

 ちょっと人が多いのでパスしようかと思ったのだが、運よく人波が切れたので覗いてみる。

 おお……!

 思わず唸ってしまった。

 絵の主題は樹下説法図、菩提樹の下で釈迦が説法しているのを菩薩や観音や仏弟子たちが聞きいっている図だ。

 主役の釈迦は絵の具の劣化か黒ずんでいるが、それを差し引いても凡作だ。

 しかし、その向かって左で緩やかな姿勢で立っている菩薩は見事な美形だ。

 仏は両性具有とか性を超越したものだと言われるが、こいつは完全に女だ。ごく緩いS字に撓らせた姿勢、媚びるほどではないが顎近くまで寄せられた左手の甲、なよやかな胴は頭よりも細く腰はひきしまり、コスと髪型を変えればアルテミス沐浴の図だ。

 これを目にしたアクタイオーンは牡鹿の姿に変えられたという。そのエピソードを知っている西域の画工がアルテミスをモチーフに描いた……そんな菩薩像だ。

 釈迦を描いた画工と菩薩像を描いた画工は違うのではないか。

 釈迦が親方ならば菩薩の方はその弟子か……親方はともかく、弟子の方は仏画を描いた意識などはないだろう、己の記憶の中で――美しい――と時めいたもののエッセンスを纏めて昇華した憧れなのだ。

 いかん、これに見入ってしまっては、平山郁夫のように模写するために通い詰めるハメになる。井上靖のように長編小説を書くことになってしまう。

 

 俺は、ちょっと格好をつけ坊主らしく合掌して次の石窟に移動した。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

 

 

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RE・トモコパラドクス・51『友子の夏休み 軽井沢・3』

2023-10-18 07:06:11 | 小説7

RE・友子パラドクス

51『友子の夏休み 軽井沢・3』 

 

 

「おはよう……あれ?」

 朝、ダイニングのテーブルに着くと、いちおうの用意はできているがパンのバスケットが空で「ちょっと待ってて!」のメモが貼り付けてある。そして、今朝の食事係りの妙子の姿が無い。

 

「妙子、どうしたの?」

 もう一人の朝食当番の純子に聞いてみる。

「ごめんなさい、わたしがいけないの」

 なぜか純子が謝った。

「なんか、あった?」

「ジョンレノンが、毎朝パンを買いに行ってたお店のこと話したの……」

「あ、わたしのせいだわ! 夕べ……ジョンレノンの朝食はフランスパンだったって、お話したの(^_^;)」

 梨花がフォローにまわった。

「それで、朝食の用意しながら、そのパン屋さんの名前教えたら、自転車で、妙子がすっとんでった」

「え、そこって、どのくらいかかるるの?」

 紀香が分かっていながら聞く。

「旧軽銀座通りにあるパン屋さんで、往復で四十分ばかり」

 その間、妙子を悪者にしてやってはかわいそうなので、ジョンレノンのことを話題にして、梨花のお父さんが大事にしているアナログのステレオでジョンレノンの曲をかけた。

「これ、三日も続けたら、ジョンレノン聞いただけでヨダレの出る子になりそう(^_^;)」

「アハハ、パブロフの犬」「パブロフの麻子!」「ワンワン!」

 お腹は空いたが、楽しい朝のひと時。

 

『スタンド・バイ・三―』が『ラブ』に替わって『ウーマン』『イマジン』と続いたところで玄関が騒がしくなった。

 

「ごめん、遅くなって! 今、パン切るからね!」

 

『イマジン』が流れるなか妙子が帰ってきて、大急ぎでフランスパンを切ってお皿に盛りつけてきた。

「はい、お待ち!」

 大皿に、ドーンとフランスパンが載っけられ、テーブルに鎮座した。

「妙子、ご厚意はありがたいけど、汗ビチャじゃん」

「走ってる間は、平気だったんだけど、やっぱ、軽井沢も夏なのねぇ」

 妙子は、サマージャケットを脱ぐとタンクトップ一枚になった。

「朝ご飯食べたら、シャワーの浴び直ししといでよ」

「そのあと、ジョンレノンゆかりの地を回ろうって、話がついたとこだし」

「うん、グッドアイデア! あ、ジョンレノンがかかってる!?」

 今頃気づいた妙子であった。

 

「キャー!!」

 

 日頃の発声練習からは思いもつかない妙子の悲鳴がバスルームに響いた。

「どうしたの妙子!」

 急いでバスルームに向かい、ドアを叩いた。

「変な男達が、そこの窓の隙間から覗いてた!」

 妙子は、勝手に欠点と思っている胸を懸命に隠して声を震わせた。

 友子と紀香には、声の主は分かっていた。軽井沢に着いた早々、邪魔してくれた竹内興産のセガレどもだ。

 仲間で一番先に目が覚めた友子は、一番にシャワーを使った。その時からヤツラの存在には気が付いていたが、微妙に自分の立ち位置を変えて、裸が見えないようにし、うまく物置の上に昇った彼らが物置の上から落ちる位置に誘導したので、彼らは揃って屋根から落っこちた。

 でも、若さとは凄いモノで、その物音に気が付いたのは、同じ義体の紀香だけで、みな爆睡していて、だれも気づかなかった。

 敵も敵で、性懲りもなくまたやって来てくると予想していたので、紀香と友子はすぐに庭に回った。

「懲りないわね、あんたたち!」

「ちょっと痛い目にあってもらおうか……」

 紀香と友子は、ものすご~く手加減してニイチャンたちの相手をしてやった。骨折はしないが、二三日は痛みの残る程度に。

「あんたたちの様子は防犯カメラでバッチリだからね。それから、全員のスマホ預かったから」

「あ、おれ達のスマホ!」

「くそ、いつのまに!?」

「中の情報は全部コピーしといたから」

「そ、そんなこと出来るわけないだろ!」

「竹内興産は、経産省と仲ががよろしいようで……先月の初めにも、お父さん霞ヶ関に行って、いろいろなさってるみたい」

「そ、それは!」

「分かってもらえた? あたしたち、こういうのには強いの。ほら」

 友子は、全員のスマホを投げて返してやった。

「あたしと友子の番号は入れておいて上げたから。軽井沢にいる間仲良くしてあげるわ(^〇^)」

「懲りずに、またおいでぇ(^▽^)」

 ヒエエエエエ~!

 男たちは、悲鳴ともののしりともつかない声を上げて逃げて行った。

 

「うわー、さすがジョンレノンが泊まったホテルだ!」

 

 朝食の片づけが終わると、みんなでジョンレノンゆかりの地を見て回った。例のパン屋さんを回った後、ジョンが定宿にしていた万平ホテルにまわった。起源は江戸時代にさかのぼるというホテルには気品さえ漂っていた。

 そして……ラウンジではジョンレノン親子がくつろいでいる姿が見えた。

 むろん幽霊ではない。この万平ホテルの空間が記憶している姿で、時に勘の良い人には、これが見えて幽霊騒ぎになることもある。友子のパッシブセンサーはこういうものも見えるようにアップグレードしている。みんなにも見せてやりたいと思う友子だが――きっと大騒ぎになる――紀香の忠告で自重した。

 

 しかし、この能力は数日後、思わぬところで役にたつことになるのだった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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RE・トモコパラドクス・50『友子の夏休み 軽井沢・2』

2023-10-17 05:55:02 | 小説7

RE・友子パラドクス

50『友子の夏休み 軽井沢・2』 

 

 


 五百坪はあろうかという敷地に一同は驚いた。

 

「町の中心部からは離れているけど、この方が落ち着けると思うの」

 タクシーの支払いをカードで済ませた梨花は言い訳のように言う。

「でも凄いよ梨花さん。うちんとこの町内が丸ごとおさまっちゃう。ゲフ!」

 コーラを半分ほど飲んで、麻子はゲップと感嘆詞をいっしょに吐き出した。

「お庭もきれい!」

「助かったような残念なような(^_^;)」

 妙子が感心し、紀香は少し残念そう。

「広いだけじゃないわ、趣味がいいし、手入れが行き届いている。わたし、庭のお手入れ覚悟して軍手もってきちゃった」

 同じ軽井沢に別荘を持っている純子が、残念なような嬉しいような様子で軍手を振り回した。

「軍手は正解よ。ほら、裏に周ると……」

「「「「「ああ」」」」」

 表から見えないところは、ちゃんと刈り残してある。150坪分ほどはありそうだ。

「表の方は見本なんだね」

 妙子が真面目に解釈する。

「アハハ、半分はドッキリだね(^▽^)」

「あと、水やり。四カ所に水道があるから、明日からがんばりましょう。それから、あそこに積んである丸太は一日十本ずつ、冬用の薪割りをしなくちゃならないみたい……よろしくね」

 梨花が、済まなさそうに言って中に入る。

 

 建物はロッジ風の二階建てで、それほど巨大には見えないが、スッキリしていることと、建具が標準よりも大きいので、中に入ると広いと友子は思った。

 

「うわー、外から見るより広いね。ゲフ!」

 麻子が、残りのコーラを飲みきって感動した。

「うちよりステキ……」

 純子がため息、

「でも、よーく見て」

 梨花が視線を低くしたので、みんなもそれに習った。

「オー、ホッコリだーらけ!」

 分かっていながら紀香が、おどけるように言った。

「まあ、自助努力の教育よ。がんばろう!」

 義体の能力を封印して、友子が宣言した。

「じゃ、とりあえず部屋に行きましょ。わたしたちが使うのは二階のゲストルーム」

「ヤッホー!」

「六人の大部屋のほうだけどね」

「いいじゃん、修学旅行みたいで!」

 ゲストルームだけは、掃除が行き届いていた。で、それぞれのベッドの上には、掃除用のツナギ、帽子、マスクなどが揃っていた。

 部屋だけ掃除して、廊下は、ちゃんとホコリが積もっている。梨花の両親の気合いの入れ方がよく分かった。

 家具に掛けられたカバーを取ると、いっそうホコリが舞い立ったが、そこは若さ、キャーキャー言いながら掃除にかかった。

 

 あらかた終わったところで、梨花が遅い昼ご飯を作りに厨房に入った。

 

「手伝おうか?」

「じゃ、食器を適当に並べてくれる?」

「お料理の方は?」

「あ……もうやりかけたから、わたしがやるわ」

「なんだか、あたしたち、お料理ヘタクソのオジャマ虫みたいじゃん。梨花」

「いや、そういうわけじゃないんだけどね(^_^;)」

 たしかに、梨花の手際の良さは手伝うと邪魔になりそうだ。

「なんだか悪いねえ」

 妙子の言葉が、すまなさそうだが友だち言葉になっている。みんなで労働したことで距離が縮まって仲間意識が芽生え始めたのだろう。

 ジュワー!

 野菜を炒める盛大な音、見事なフライ返し。みんな、ひたすら、フクロウのように「ホー、ホー!」であった。

「三把刀(サンバーダオ)の華僑って聞いてはいたけど、梨花ちゃんもたいしたもんね」

 紀香が先輩面で言う。もっとも昼ご飯の天津飯と唐揚げを最初に平らげたからではあるが。

「なんですか、その三把刀(サンバーダオ)ってのは?」

 友子が、分かっていながら後輩の顔で聞く。

「仕立て屋、調理、理容、この三つの技術があると、華僑の人たちは世界中どこでも食べていけるって、たくましさと覚悟を同時に表現した言葉。でしょ、梨花ちゃん?」

「ええ、わたしなんか、まだまだですけど」

 奥ゆかしく恥じらう梨花は、清楚な中にタクマシサを感じさせて、友子には好感であった。

「ね、あの油絵の男の人って、孫文さん?」

「あ、それは、わたしの大叔父のお父さんなの」

 友子は、たいがいのものからはその情報を読み取ることが出来たが、この絵を描いた人は気迫以外は、みんな消し去っている。人間にこんな事ができるのかと感心した。

 そして、この先、この絵が呼び込んだとしか思えない事件……それは、この旅行の少し先に起こることであった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士

 

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やくもあやかし物語・2・011『みんなで温泉』

2023-10-16 10:50:14 | カントリーロード

くもやかし物語・2

011『みんなで温泉』 

 

 

 ヨロレイヒーーーーー!

 

 高らかにヨーデルを吠えると(ヨーデルって、動詞でどう表現するんだろ、歌う? 奏でる? つま弾く? どれも合わない。でも、ハイジのヨーデルは、まさに『吠える』だよ(^_^;))勢いよく露天風呂の浴槽に飛び込んできた。

 ドップーーーン!

オリビア:「キャ!」

ネル:「ハイジも女なんだからさぁ、マッパで飛び込んだりするなよ!」

ハイジ:「だって、温泉てば日本だろ、日本てば風呂はマッパだろ、アニメでやってたぞ(^▽^)」

ヤクモ:「日本でも前ぐらいは隠すよぉ(#^_^#)」

ハイジ:「え? アニメだったら湯気とか水しぶきで隠れてんじゃん、そうなってっだろ?」

ヤクモ:「あれはアニメだから」

ハイジ:「ええ、じゃあ、丸見えだったのかぁ(ºº; ; )!?」

ロージー:「かわいいお皿だったな」

ハイジ:「お皿いうなあ(;>∀<)」

オリビア:「オサラってなんですの?」

ハイジ:「あーもー、なしなし!」

 アハハハハハ((´∀`*))

 

 開校してからも、学校のあちこち、内側も外側も工事が続いてる。

 

 なんせ、八十年前に閉鎖した建物に手を入れただけの校舎や寄宿舎。じっさいに人が入って活動が始まると、あちこち不具合や手直しするところが出てくる。

 その一つがお風呂。

 古いお風呂は各部屋に付いているんだけど、五部屋以上が同時に使うと水圧が下がるし、お湯の温度は上がらないし。

 とうぜん修理に入ったんだけど、王女さまの発案で日本風の大浴場を作る工事に入っていたんだよ。

 一から大浴場を作るのは大変なので、廃業した日本の銭湯をまるまる移築している。

 移築と言っても大きな銭湯なので完成は、もうちょっとあと。

 その移築工事の横に塀で囲ってあるところがあって、てっきり資材置き場だと思っていた。

 なんと、塀の内側では、ずっとボーリングをやっていたんだよ。

 ボーリングと言っても、玉を転がすスポーツじゃなくて、穴を掘って地質とか調査するやつね(^_^;)。

 その甲斐あって、温泉が湧いてきて、でも、みんなをビックリさせてやろうという王女さまの指示で完成までは秘密にされていた。

 そして、お昼休みに発表されたんで、お仲間で入り初めをさせてもらっているというわけなのよ。

 

 入り初めには条件がある。

 

 水着とかは着用してはいけない。浴槽に浸かる前に体を洗うこと。タオルを浴槽につけてはいけない。浴槽で泳いだり遊んだりしてはいけない。

 つまり、日本のルールなんだよ。

 なにも日本趣味を押し付けようというんじゃない。お風呂を清潔に保ち、みんなで楽しむのは、このルールがいちばんいいんだよ。

ヤクモ:「だから、飛び込むのは禁止だよ」

ハイジ:「うん、わかった(#*´ω`*#)!」

ロ-ジー:「ネル、耳にお湯が入ったりしないのかぁ?」

ネル:「え、あたし?」

 たしかに、エルフの耳は水とか入りやすそう。

ネル:「こうやるんだよ」

 プルプルプル

 なんと、耳だけが別の生き物みたく、プルプルして水滴を弾き飛ばした。

ネル:「真剣に潜る時は、こうだ……えい!」

みんな:「「「「おお!」」」」

 なんと、耳たぶを器用に丸めて耳の穴を塞いだよ!

ネル:「でも、こんなに気持ちいいと、森の妖精たちが面白がって入って来るかもな」

みんな:「「「「ああ……」」」」

 学校が始まって三カ月、みんな、不思議なことの一つや二つに出くわしている。

 先生たちも注意してるんで、害を及ぼされるようなことはないんだけど、ちょっとマジにはなるよ。

 

 ガラ

 

 脱衣所の戸が開く音がして、みんなビックリ!

「ごいっしょしますねぇ……」

 振り向いて、ビックリした。

 なんと、王女さまがタオルで前を隠しただけのお姿でお立ちになっておられるのですよ!

王女:「一番乗りを狙ったんですけど、先を越されましたね」

ハイジ:「ウキ!」

みんな:「「「「し、失礼しましたぁ!」」」」

王女:「かしこまらないでください(^_^;)」

みんな:「「「「イエス、マム!」」」」

王女:「さっさと洗っちゃいますから、入るまで居てくださいね」

みんな:「「「「はい」」」」

 王女さまは五分もかからずに、髪と体を洗うと、わたしたちの真ん中に入ってきた。

オリビア:「殿下、慣れていらっしゃいますわねえ」

王女:「中学や高校では合宿とかで、みんなでお風呂入ってましたし、子どもの頃、家のお風呂が工事中の時は銭湯にも行ってましたよ」

ハイジ:「王女さま、えらい!」

王女:「そうそう、えらいんです。それで、お風呂も学校施設の一つなんで、教室同様に、みなさんで掃除していただきたいんですけど、みなさん、こういう大きいお風呂って掃除の経験ないでしょ」

ハイジ:「お湯を抜いて乾かしときゃいいんじゃね?」

王女:「だめですよ、汚れとか水垢とか取らなきゃダメなんですよ」

ハイジ:「そ、そうなのか?」

ネル:「エルフは泉の沐浴ですましてたしぃ」

オリビア:「うちはメイドたちがやってましたし」

ロージー:「うちは手下……従業員がやってたしぃ」

王女:「そうですか……」

ヤクモ:「あの……お風呂掃除なら毎日やってたんで、あ、大きくても要領は変わらないと思うんで……」

王女:「まあ! じゃあ、小泉さん、みんなに指導してあげてくれます!?」

ヤクモ:「あ、はい」

 

 パチパチパチパチパチパチ(^▽^)

 

 みんなが拍手して、風呂掃除委員長になってしまった(^_^;)

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ

 

 

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