大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 160『三蔵法師大説法会プラスアルファ・2』

2024-01-17 10:06:04 | ノベル2
ら 信長転生記
160『三蔵法師大説法会プラスアルファ・2』孫権 



 ちょっとハプニング。


 豊盃管弦楽団が、それまでBGに奏でていたビバルディ―をファンファーレとドラムロールに切り替えて、大橋姉さんが主催者挨拶をやった。

「……と云うような書籍範老人はじめ、豊盃のみなさんの熱意と努力のお蔭で、三蔵法師さま御一行をお招きすることができました。快くご支援いただいた豊盃評議会はじめ関係各位に感謝申し上げ、ただいまより『三蔵法師大説法会プラスアルファ』を開催いたします。まずは、三蔵法師さま同様に皆様が期待に胸を膨らませておられた、豊盃の舞姫リュドミラのパフォーマンスをお楽しみいただきます! 我らが舞姫、リュドミラ! はりきってどうぞ!!」

 ダラララララララララララ

 ドラムロールが鳴り響き、スポットライトが三つも四つもグルグル回って、舞姫登場の雰囲気を盛り上げる!


「無理ぃ……ぜったい無理ぃ……ぜったいぜったい無理無理ぃ……」


 いざ登場の間際になって、リュドミラは袖幕の陰に隠れ、耳を塞いでしゃがんでしまった。

「リュドミラぁ……」

 ボクは人をのせるのが好きだし、けっこううまいと思っていたけど、今のリュドミラには手の打ちようがない。

 ボクは思い知った。ボクは、人が1とか2のレベルで人が持っている希望や期待やらを膨らませるのはできるけど、0の人間の心を動かすことは苦手なんだ。貝のように閉じてしまったリュドミラには手の打ちようがない(;'∀')。

 ダラララララララララララ

 ドラムロールは断頭台に処刑者を急き立てるように、スポットライトは脱走犯を追い詰めるサーチライトのようにせわしくなり、ステージの大橋姉さんの笑顔も引きつり始めてきた。

「た、頼むよぉリュドミラぁ……」

 もう、リュドミラと二人ほんとうに貝になってしまうのかと思った時、僕らの頭を超えて一つの影が飛んだ! 反対側の上手からも、舞台の上からも影が飛んできて一瞬の決めポーズ。

 孫悟空 猪八戒 沙悟浄の三人だ!

 ターンタカ タンタンタン タカ タンタカターン……

 リュドミラが踊るはずだったボレロのリズムに合わせて踊り出し、八小節ほど進んで勢いを増したところで……

 オオ!

 なんと三蔵法師さままで加わって、悟空たちはバックダンサーになった。

 三蔵法師さま御一行はシルクロードを往復して天竺の経典と仏の教えを持ち帰られた。その間、往復共に歩かれて、シルクロードの文化に触れられ、その中には本場の胡旋舞も入っている。単に見てこられただけじゃないんだ!

 三人プラス三蔵法師さまの舞は、リュドミラに勝るとも劣らない動きとリズムだ!

 ギリギリ……なにか軋んだかと思うと、リュドミラの歯ぎしりだ( ゚Д゚)。

「坊主ごときに負けてられるかぁ!」

 一声吠えると、豊盃一の舞姫は舞台の中央に躍り出て、三蔵法師と並び、まるで決闘をするような気迫で舞い始めた。

 


☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第53話《一発でOKが出た》

2024-01-17 07:21:10 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第53話《一発でOKが出た》さくら 





 コップの氷がコトリと音をたてて、それが合図だったように由香が切り出した。


「はるかぁ、あんた東京に戻りたいんとちゃう?」

 お母さんのパソコンの音が一瞬途切れた。わたしは完ぺきな平静を装った。

「どうして?」

「……ああ、あたしの気ぃのせえ。はるかと居ったら、いっつも楽しいよって、楽しいことていつか終わりがくるやんか。お正月とか、クリスマスとか、夏休みとか、冬休みとか」

「アハハ、わたしって年中行事といっしょなの?」

「ちゃうちゃう。せやから、あたしの気ぃのせえやねんてば。演劇部も楽しかったけど、行かれへんようになってしもたさかい。ちょっと考えすぎてんねん」

「うん、ちょっとネガティブだよ」

 その時ケータイの着メロ。名前を確認して、すぐにマナーモード。

「ひょっとして、吉川先輩から?」

「え、どうして?」

「ちょっと評判になってるよ。時々廊下とか中庭とかで恋人みたいに話してるてぇ」

 由香は声を潜めた。

 逆効果よ! 

 お母さんパソコンの画面スクロ-ルするふりして聞き耳ずきんになっちゃったし、タキさんはモロにやついてタバコに火を点けるし。

「ただの知り合いってか、メルトモの一人だよ。タロちゃん先輩とか、タマちゃん先輩みたく。話ったって、立ち話。由香の百分の一も話なんかしてないよ」

 ああ……ますます逆効果。お母さんのスクロ-ルは完全に止まってしまった。



「OK!」



 一発でOKが出た。

「間と距離の取り方が、グッとよくなった。さくらちゃんの吸収力ってすごいよね!」

 監督さんも激賞してくれた。

 ゆうべは、あれから一日同級生の佐藤さんの家に泊めてもらい、お友達なんかも来て、遅くまでしゃべった。

 佐藤さんのプライバシーにかかわることもあるので詳しくは言えないけど、同世代なので、いつの間にか、あたしも話の中に入って真剣に話していた。で、真剣に話すうちに付け焼き刃なんだろうけど、大阪の高校生の間と距離の取り方が分かったんじゃないだろうか。その中味は『高安女子高生物語』で読んでください。

「ようし、この調子で由香のシーン全部いくぞ!」

 全部と言っても、あと、三つ。オーシ、力いれて頑張るぞ!



「あら、映画行ったんじゃないの?」

 お皿を洗う手を止めて、お母さんが聞いた。受賞記念に映画でも観なさいと五千円もらっていた。

「うん、映画だと着替えて行かなきゃなんないし。たまにはお客さんで来ようって」

「こんにちは、おじゃまします」

 わたしは映画をやめて、由香を誘って、志忠屋へ初めてお客としてやってきた。

「シチューは、もう切れてるけど日替わりやったらあるで。ほい。本日のラストシチュー」

「ごめんねぇ、わたしがラストのオーダーしてしもたから」

 キャリアっぽい女の人が、すまなさそうに言った。

「いいえ、わたしたち日替わりでいいですから」

「このオバチャンやったら気ぃ使わんでええから」

「気ぃも、オバチャンも使わんといてくれます」

 と、キャリアさん。

「紹介しとくわ、これがさっき噂してた文学賞のホンワカはるか」

「トモちゃんの娘さん? 今、作品読ませてもろてたとこよ」

 もう、お母さんたら。ただの佳作なんだよ、佳作っ!

「で、ポニーテールのかいらしい子が、友だちの由香ちゃん。黒門市場の魚屋さんの子ぉ」

「ども……」

 カックンと二人そろって頭を下げる。このキャリアさんはオーラがあって気後れしてしまう。カウンターの中から「よろしく」って感じで、お母さんがキャリアさんに目配せ。

「この、オバ……ネエサンは、大橋の教え子で叶豊子。通称トコ」

 それから、しばらく大橋先生をサカナにして、五人は喋りまくった。

 トコさんは、話しているうちに高校生みたくなってきて、ちょっと上の先輩と話しているような感じで番号の交換までしちゃった。

「はるかちゃん、台本見せてくれる」

「はい、これです」

「わあ、ワープロや! 昔は先生の手書きやった」

「そら、読みにくかったやろ」

 タキさんが、チャチャを入れる。

「あ、はるかちゃんの、カオル役はお下げ髪やねんね」

「はい……それが?」

「先生、お下げにしとくように言わはれへんかった?」

「いいえ」

「昔、メガネかける役やったんやけど、一月前から度なしのメガネかけさせられたよ。役はカタチから入っていかなあかん言われて」

「うん、やってみよう。はるかのお下げなんて、小学校入学以来だもん!」

 お母さんまで、はしゃぎだした。あーあ、わたしはリカちゃん人形かよ……。

「はい、できあがり」

 と、お下げができたとき、トコさんのスマホが鳴った。

「……はい、了解。ううん、ええんですよ。こういう仕事やねんから。ほんなら、また。あたし木曜日が公休で、月に二回ぐらい、ここにきてるさかい、また会いましょね」

 トコさんは、キャリアの顔に戻って、店を出て行った。

 かっこいい……。

 わたしの網膜には、しばらくトコさんの残像が残った。

「あいつも、損な性分や」

「トコさん、なにしてはるんですか?」

「理学療法士……のエキスパート」

「ああ、リハビリの介助やったりするんですよね?」

「あいつは、訪問で、リハビリもやって、病院勤務もやって、非常勤で理学療法の講師までこなしとる。今日も休みやねんけどな、ああやって言われると、救急車みたいにすっ飛んで行きよる。で、月に二度ほど、ここに来て毒を吐いていくいうわけや」

「今日は、あなたたちが毒消しになったわね」

 と、毒が言った。



「よーし、OK!」



 このシーンも一発でOKが出た。

 で、監督が困った。

「あと、はるかがお下げにするシーン撮ったら、夜まで空いちゃうなあ」

「すみません」

 思わず謝ってしまった。

「謝ることはないよ。上手くいってるんだから」

「監督、商店街と中之島公園までの撮影許可は取ってありますけど」

 助監督の田子さんが言った。

「でかした田子作、商店街からいこう!」


 実は、昨日の縁でOGHの生徒さん達が見学にきていた。ちょうど前のシーンが終わったところなので、このままでは、何も見ないで帰ってしまうことになる。で、急遽天神橋筋商店街のシーンを撮ることになった。


「昨日、あんた、ラブラブシートやってんてな」

「ああ、あれか」

「あれかて、あんた……」

「そんな怖い顔しないでよ」

「なんかもろたやろ。吉川先輩が、えらい真剣な顔で渡してたて、評判やで」

「もらったんじゃないよ、見せてもらったの。『ジュニア文芸』よ」

「ふーん……」

「言っとくけど、ただのワンノブゼムだからね」

「そやけど……」

「わたしは、吉川先輩の心に住民登録した覚えはないからね。あそこはまだ空き地。強引に住んじゃえばいいよ。犬も三日も居着けば情が移るっていうよ」

「あたしはワンコか!」

「そういう意味じゃなくって」

「そやけどなあ……あ、今度先輩のコンサートあるねん。知ってるやろ。先輩がサックスやってんのん?」

「コンサートのことは知らないよ。サックスやってんのは知ってるけど」

「え、うそ!?」



 ここは、ランスルーとカメリハのあと、本番。で、本番前に助監督の田子さんが提案した。 

「監督、OGHの生徒さん達カバン持ってきてますから、エキストラで入ってもらいませんか?」

「あ、いいな。この時間帯高校生通ってないから、それ、いこう!」

「OGHの生徒さん達、上着脱いでくれる。このシーン夏の設定だから」

 タイムキーパーさんが叫んで、何人かは他のエキストラさんに混じって私服で入ってもらった。

 このシーンは、二回撮ってOK。そのあとは、中之島まで、はるかと二人で歩きながら歌うシーンのリハーサル。

 まあ、本番は改めて六月に撮るので、OGHのみんなへのサービス。でも、ちゃんとカメラは回っている。チャッカリ、メイキング用の映像にするらしい。

 流行りのAKBやももクロを、みんなで歌って盛り上がった!



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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やくもあやかし物語2・025『お風呂に現れたデラシネ』

2024-01-16 09:55:07 | カントリーロード
くもやかし物語 2
025『お風呂に現れたデラシネ』 




 え、ボディーソープだ!


 頭を三回ガシガシやって気が付いた。

 まだ馴染み切っていないボディーソープを拭ってお湯で流して、シャワーをジャブジャブ。
 子どものころ――ま、いいや――と思って、そのままシャンプーして髪がバサバサのガシガシになったことがある。
 だから、もったいないけど流してやり直し。

 両横にはネルもハイジもいるんだから言ってくれればいいのに……と思うのはわたしの我がまま。人が掴んだのがシャンプーかボディーソープかいちいち見てないよね。

 やっと洗ってシャワーで流すと……え、誰も居ない。

 振り返ると浴槽にも洗い場にも人の姿が無い。

 え……?

 ネルとハイジの他にも五六人は居たはずなのに。

 耳を澄ますと、隣の男風呂の方にも脱衣場の方にも人の気配がない。

 日本ではさんざんあやかし達に出会ったので、その経験から騒いだりはしない。こういう時にうろたえると、事態はややこしくなるばかりだからね。

 ザップーーン

 しばらくすると大きい方の湯船に水柱が上がってデラシネが上がってきた!

「チ、なんで落ち着いてんだぁ!」

「いったい、どこから?」

 福の湯は四方に結界が張られて、あやかしは入って来れないはずだ。

 それに、人が居なくなってるし。

「あたしを完全に封じることなんかできないのよ」

「それにしては時間がかかったわね。福の湯が開業してから一週間も経ってるわよ」

「こっちにも都合があるんだよ」

「で、なんの用?」

 いずれは現れると思っていた、会いたいわけじゃなかったから、少し邪険にしてさっさと済ませるにかぎる。サッと立ち上がって浴槽に浸かる。

「いさぎいいな」

「いやなことはサッサと済ませる主義なの」

「お、おう」

 横に並んでやると、微妙にたじろぐデラシネ。

「さっさと言いなさいよ、長風呂は嫌いなんだから」

 体格は、わたしの方が微妙に大きい。こういう時は居丈高に出て、先にマウントをとる。
 
 すると敵は半分お湯に隠れたわたしの胸を見る。

 ジィィィィィィ(¬_¬)  

 いっしゅんたじろいだけど顔には出さない。わたしの方が微妙に大きいのを知っているからだ。

「おまえ、胸を手術したな」

「え、そんなのしてないよ」

 胸を隠したくなる衝動をなんとか堪える。

「オッパイじゃない、中身の方だ」

「え?」

「ソウルコードが移植されてる」

「それがどうしたの」

 ソウルコードって、言葉の意味さえ分からないけど、ここで「なにそれ?」なんて聞いたらマウントをとられてしまう。

「ヤクモ、お前のソウルは規格外だ。だから、それを繋ぎとめておくコードは並のものではもたないんだと思う。だから、ここ一年くらい前に丈夫なコードに入れ替えられている……日本語では、たしか『タマノオ』だ……おまえが強いのは、これが原因……ほんとに記憶にないのかぁ……大手術だったはずだぞ」

「知らないわよ」

「まあいい、実は仲直りして頼みごとがあったんだけどな。その傷を見てしまった、出直すよ」

 そう言うと、デラシネはゆっくりお湯に浸かって姿をくらました。


 脱衣場に上がると、ハイジやネルたちがスゥエットやパジャマで、髪を乾かしたりコーヒー牛乳を飲んだり寛いでいる。

「長湯だったなヤクモ」

「え、ああ、シャンプーとボディーソープ間違えちゃって」

「え、そんなのどっちでもよくね?」

「みんな、ハイジみたいな野生児とは違うんだよ」

「なんだってぇ!」

 髪を触ってみると、頭頂部のとこだけ少しパサついている。

 タオルで拭くふりをして胸を見ると、やっぱり傷跡なんかは無かった。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第52話《半日留学》

2024-01-16 06:23:35 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第52話《半日留学》さくら 




 コップの氷がコトリと音をたてて、それがスイッチのように由香が切り出した。

「はるか、あんた東京に戻りたいんとちゃう?」

「カットォ!」


 ああ、これで四度目のNGだ(-_-;)。


 大阪弁は方言指導の先生も入ってくださって「完ぺき」のお墨付きをいただいたが、雰囲気が大阪の高校生ではないという難しいダメだった。監督やら原作者が何か相談している。身の縮む思いだよ。

「由香のシーンは、明日まとめ撮りします。さくらちゃんは、ちょっと大阪のお勉強しましょう」

「すみません(◞‸◟)」

 わたしは頭を下げるしかなかった。


「まあ、ゆっくり大阪を楽しんできてよ」


 はるかさんの慰めの言葉をあとに、わたしは、マネージャーと大橋先生に連れられて、タクシーに乗り込んだ。

 これは、心斎橋とか道頓堀とか、コテコテの大阪の街の探訪かと思った。


「え?」


 着いた先は、タクシーで十分ほどの府立高校だった。


「大阪グローバリズムハイスクール。略称OGH。名前はハイカラやけど、大阪では標準的な高校」

 と、一言だけ説明を受けて応接室に通された。いかつい顔の先生がいた。

「2年3組の担任の岩田です。四時間目から入ってもらう準備ができてます。制服は11号でいけるでしょ。これです」

「じゃ、さくら。隣の部屋で着替えて」

 なんだか分からないうちに、あたしは他の生徒と同じナリにさせられた。

「うーん、やっぱり、大阪の……少なくとも、うちの生徒には見えまへんなあ」

 着替えたあたしを見て、岩田先生が言った。

「まあ、とにかく教室入ってもらいますか」

「お願いします」
 
 わたしは休み時間が終わろうとしている校内を2年3組の教室に案内された。

 廊下で出会う生徒がチラ見していく。わたしも目の端で生徒を見る。

 どことは言えないけど、わたしの学校とは様子が違う。公立と私学、女子高と共学校の違いを超えた、えと……なにか根本的なところが違う……としか言えない。

「みんな、注目。急な話やけど、4時間目から放課後まで、特別転校生が入ります。佐倉さくらさん。数時間の付き合いやけど、みんな、よろしくな。ほんなら佐倉さん。挨拶を」

 この時点で、何人かには正体がばれていた。

「えー!?」「いま売り出し中の!?」「さくらちゃん、ちゃうん!?」「ソックリさん?」「ホンマもんや!」など、教室がかまびすしくなってきた。

「えと、もう正体ばれてるみたいですけど。佐倉さくらです。いま『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』の撮影で大阪に来てます。大阪の高校生の役なんですけど、どうも大阪の匂いがしないってことで、半日みなさんに教えてもらうことになりました。なにをするのか、あたしにもよく分かってないんですけど、よろしくお願いします」

 パチパチパチパチ! ヒューヒュー!

 拍手と歓声が上がった。クラスのみんなが吉本なんじゃないかってぐらい、ノリがいい。

「一応、お世話係決めとくわな……」

 先生が言い終わらないうちにスズメの子のピーチクみたいに手が上がる。

 ハイハイハイハイハイ!

「じゃかましい! オレが指名する。佐藤、お前がお世話係。出席番号も、お前の前やし、演劇部やさかい、ちょうどやろ」

「任務は虫除け!」

「その通り」

「ラジャー('◇')ゞ!」

 まだ学年が始まって間がないんだろうけど、先生と生徒は阿吽の呼吸のようだ。簡単にいうとツーカーの仲。

 わたしの世話係というのは、佐藤明日香という子で、偶然にもはるかの住んでいた高安に家がある。で、放課後は佐藤さんの家に泊めてもらうことが急に決まった。

 教科書やノートもあっという間に一人前がそろった。

 授業の始まりからタマゲタ。

 国語の授業だったけど、先生のノリがいいのか、これが普通なのか、みんなで写真を撮るところから始まった。クラスのみんなとは、顔を合わせて十分ほどしかたっていなかったけど、もう入学以来の知り合いのノリ。男女を問わず距離を詰めてくる。もう、なんだかモミクチャのうちに何百枚と写真が撮られた(^_^;)。

「ほんなら授業!」

 先生の声で、みんなは一応席につくけど、ざわつきは収まらない。

「佐倉さんの出てた『限界のゼロ』やけど、あの『覚悟はできていますか』いう佐倉さんの一言で映画が締まった。あれはアドリブやそうで……せやな、佐倉さん?」

「あ、まあ……」

 また話のサカナにされるのかと思うと、ちょっとやな気がした。

「人生において大事なことが、ここにあります。臨機応変ちゅうか空気を読むいうこと。それが佐倉さんにはできる。で、こうやって女優をやってる。で、その佐倉さんをもってしてもどないにもならんのが、大阪の空気や!」

 どっと笑いがおこる。

「その空気が読めたんが兼好法師。教科書41ページ。『仁和寺の法師』佐藤読んでみて」

「はい」

 バラエティー並に段取りがいい。みんなを程よくのせておいて、いわゆる「つかみ」をしっかりやり、動機付けもちゃっかりやって授業に入る。で、ノリと流れがいいと、みんなも素直に授業に入っていく。

 ちょっとだけだけ、大阪が分かったような気がした。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・074『宮之森連隊戦友会』

2024-01-15 12:07:04 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
074『宮之森連隊戦友会』   




 震度5という地震は初めてだ。


 三つになるかならないかで東日本大震災に遭ってるんだけど記憶がない。

 まあ、たかだか16年の人生だからね。

 震源地の能登半島ではかなりの被害が出て、輪島では火事が起こった。

 道路は寸断されて、駆けつけた消防団は二つしかなくって、おまけに陸地が隆起して川や海から水を取ることも難しく、ほとんど自然に燃え尽きるのを待つしかない状態だったってニュースでやっていた。

「お祖母ちゃん、魔法少女は地震を防いだりとかはできないの?」

 テレビの中継を観ていて、思わず聞いてしまった。

 お祖母ちゃんは、それには応えずに、肩を寄せて十年ぶりぐらいに頭を撫でてくれるだけ。

 自分でも分かってる。これは質問じゃなくて、ほとんど悲鳴だったんだ。

 明くる二日には羽田空港で日航の飛行機と海上保安庁の飛行機が衝突。

 空港のカメラとかが撮っていて、まるで映画の特撮シーンみたいに鮮明で、それが何度も何度も流されて、ちょっとトラウマ。
 日航の300人以上の人たちは奇跡的に全員無事、海上保安庁の人たち5人が亡くなった。


 四日の日には橋を渡って1971年でアルバイト。


 写真館のアルバイトも、もうニ十回以上。そのほとんどが結婚式場の撮影。
 時々、お葬式や会社とかの行事の記念写真。

「今日はね、戦友会の記念写真だよ」

 ホンダZのハッチバックに機材を載せながら直美さん。

「戦友会?」

 ちょっとピンとこない。

「うん、宮之森連隊の」

「宮之森レンタイ?」

「うん、伯父さんが居た連隊なんだけどね、その縁で毎年呼んでもらえるの」

「えと、レンタイって?」

「え、ああ、そこから分からないか(^_^;)」

 レンタイと言われると連帯という漢字に変換してしまう。アクセントでは変態と同じだもんね(^・^;)。

 会場の大浜の旅館に着くまで「わたしも詳しくないんだけどねぇ」と言いながらあれこれ教えてくれる。
 その伯父さんの上にもう一人伯父さんが居て、上の伯父さんは海軍でパイロットをやっていたそうだ。


「いやあ、直美ちゃん、今年も世話になるよ(^▽^)」


 応対に出てきた幹事のオジサンは、まだ五十がらみで頭もフサフサ。
 まだ、戦後26年だから、そんなものなんだけど、令和で生きてると戦争にいった人って若くても90代後半だから、勘が狂う。

「じゃあ、お酒が入る前にシャンとしたところを撮りましょう!」

「アハハ、去年は揃うの待ってから撮ったから出来あがっちゃってたからねえ。おーい、みんな先に撮るぞぉ!」

 中に呼びかけて、大広間に100人近くのオジサンが集合。

「まず、黙祷します。三列横隊、並べ!」

 オジサンが掛け声をかけると、意外な機敏さで並ぶ。右手を腰に当てチマチマと間隔を正していくところなんか、軍隊式なんだろうけど、ちょっと可愛い。そして、並んだ向きは、なぜか斜め。

 それで、なんと黙祷は二回行われた。

 最初は、戦死した仲間たちと戦後病気とかで亡くなった仲間たちへの黙祷。

 斜めなのは靖国神社の方角を向いているからなんだそう。なるほど。

 あれ?

 二回目はオジサンの号令で、全員回れ右。

「三河地震犠牲者の霊に黙とうを捧げます……黙祷!」

 え、三河地震?

「じゃあ、お写真撮らせていただきます」

「写真撮影隊形に並べ!」

 これもオジサンの号令でキビキビと並んで、結婚式場の撮影よりも早く済んだ。


「三河地震ってなんですか?」


 いっしょに飲んでけと言われ「いやあ、まいったなあ」と笑顔で一杯だけビールで乾杯……と思ったら、ほとんど一本と日本酒に付き合う直美さん。わたしは、さすがにオレンジジュース。
 
 これは運転代行頼まなきゃ……と思ったら、まさかの飲酒運転!?

 この時代は少々のアルコールは平気みたい(^_^;)

 で、車が走り出してから聞いた。

「うん、終戦の年の1月13日に三河地震があってね、大勢人が亡くなったのよ。戦時中だからいっさい報道はされなかったんだけど、宮之森の兵隊さんたちはみんな救援に駆り出されたんだって」

「そんな地震があったんですか?」

「うん、前の年の昭和19年にも大きな地震があって、戦災もあって、ここいらは踏んだり蹴ったりみたいだったって言うわよ」

「そうだったんですかぁ……」

「東京から疎開に来て、東京の家は無事だったけど、地震で亡くなった小学生とかね……」

「そうなんですか……」

「教頭先生居たの気づいたぁ?」

「え?」

「教頭先生、兵隊だったのよ宮之森連隊の」

「え、そうだったんですか!?」

「メグッチ、公式にはバイトの許可とってないでしょ」

「え、許可いるんですか!?」

「生徒手帳に書いてある」

「そうだったんですかぁ」

 ちょっとヤバイかなあ。

「アハハ、守ってる子なんて半分も居ないけどね。まあ、気づかれなかったってことよ。めでたしめでたしぃ(#^_^#)でOKよ!」

 あ、酔ってる。

 帰り道は、なんと交番のお巡りさんにも挨拶するしぃ。

 いやはや、昭和の宮の森は平和に年が明けた。
 


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第51話《クランクイン》

2024-01-15 08:58:19 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第51話《クランクイン》さくら 





 クランクインは大阪だ。


 まあ、舞台の大半が大阪なんだから、当たり前。


 最初は鶴橋駅でのシーンから。


 はるかが初めて母といっしょに鶴橋の駅経由でアパートに帰る道すがら、ホームにまで立ちこめる焼き肉の匂いに母子もお腹の虫もびっくりするところ。

「日本で一番おいしい匂いのする駅だ」

 はるかの独白から始まる。で、エスカレーターの乗り方が東京と逆で、歩く人のために左側を空ける。それを知らずに左側に立ち、邪魔になってオッサンに怒鳴られる。

「大阪っておっかなーい」

 この十数秒のカットと、他に5カットのために、終電が出たあとの鶴橋駅を借りる。エキストラは50人だけど、CG処理で、数千人に見せるそうだ。で、この撮影に、あたしは参加していない。鶴橋駅では出番がないから。


 二日目の志忠屋の撮影から参加した。


 志忠屋が実在の店であることは知っていたけど、15坪15席の店内が、広く見えるようにレイアウトしてあるのにはビックリ。撮影用じゃなくて、普段からそうだと、マスターの滝川さんに聞かされて感心した。
 マスターの滝川さん役は、監督と作者の大橋先生が相談して、リアル本人にやってもらうことになっている。

 おお( ゚Д゚)

 本人を見て納得した。シェフのナリをしていなかったら、どう見ても、その道の玄人。子分の百人もいようかという風格。それに若い頃は役者の真似事もやっていたようで、芝居もお上手らしい。


「お、はるか……ちゃんやな?」

 これがマスター……がっしりした上半身がカウンターの中で、ロバート・ミッチャムの顔をのっけて振り返る。でもってチョンマゲ!

「母がお世話になっています。ご……坂東はるかです。マスターさんですか?」

「まあ、お座り」

「あ、はいっ!」

 すると、奥のトイレからジャーゴボゴボと音をさせて、お母さんが出てきた。

「あ、はるか。思ったより早かったじゃない」

「初日だもん。でも中味は濃かった!」と、立ちかける。

「タキさん。トイレ掃除完了。あとやることあります?」

「ないない、トモちゃんも落ち着こか」

 タキさん、トモちゃん……初日から、もうお友だちかよ。

「お母さん、これから教科書と制服いくんだよね……!」

 ドアに向かう。

「え、ああ、あれね……」

 あ、また忘れたってか……!? 自動ドアに挟まれそうになって止まる。

「あれ、行かなくってもいいことになった」

「え、どういうこと(まさか、また学校替われってんじゃないでしょうね)!?」

「送ってもらうことにしたから。今夜には家に着くわ」

「だったら、言ってよ。わたし友だちのお誘い断ってきたんだからね!」

「あら、もう友だちできちゃったの!?」

「さすが、トモちゃんの娘やなあ」

「原稿の締め切り迫ってるからさあ……」

「まあ、昼飯にしよ。はるかちゃんも、口さみしいやろから、これでも食べとき。それから、オレのことはタキさんでええからな」

 タキさんは、サンドイッチを作って、オレンジジュ-スといっしょに出してくれた。

 そして、タキトモコンビの前には、毛糸にしたら手袋一個と、セーター一着分くらいのパスタが置かれていた。想像してみて、セーター一着ほどいた毛糸の量のパスタを!!

 ここで怒っても仕方ないので説明。

 目の前で、アッケラカンとパソコンを叩いている坂東友子。つまり、わたしの母は、つい一週間前に離婚したばっか。

 離婚の理由は、長年夫婦の間に蓄積されてきたもので一言で言えるようなもんじゃない。

 でも、離婚に踏み切れた訳はこのパソコン。

 わたしが、まだお腹の中にいたころに暇にまかせて書いた小説モドキが、ちょっとした文学賞をとっちゃって、以来、この人は作家のはしくれ。

「ハシっこのほうで、クレかかってるんだよね」

 そう言って、怖い目で見られたことがある。だって、本書きたって年に二百万足らずしか収入がない。
 最初はよかった。お父さんはIT関連の会社を経営していて、お家だって成城にあって、住み込みのお手伝いさんなんかもいた。

 でも、わたしが五歳のときに会社潰れて、お父さんは実家の印刷会社の専務……っても、従業員三人の町工場。で、そのへんからお母さんの二百万足らずが、我が家にとって無視できない収入源になってきて、あとは、世間によくある夫婦のギスギス。

 かくして夫婦の限界は、先週臨界点を超えてしまい決裂。

「よーく分かったわ。はるか、明日この家出るから、寝る前に用意しときなさい」

 二人の最後の夫婦げんかは、明日の天気予報を確認するように粛々と終わっていた。わたしも子どもじゃないから、ヤバイなあ……くらいの認識はあった。でも、こんな簡単に飛躍するとは思っていなかった。

 そして、まさか大阪までパートに来るとはね……。

 作家というのは意表をつくものなんですなあ……って、タキさんもなんか書いてる!?

「ああ、これか……おっちゃんも、お母さんと同業……かな」

「タキさんは、映画評論だもん。ちょっと畑がちがう……」

 カシャカシャカシャと、ブラインドタッチ。

「せやけど……それだけでは食えんという点ではいっしょやなあ……」

 シャカ、シャカ……と、老眼鏡に原稿用紙……なんというアナログ!

「おれは、どうも電算機ちゅうもんは性に合わんのでなあ」

 ロバート・ミッチャムはポニーテールってか、チョンマゲをきりりと締め直した。店を見回すと、壁のあちこちに映画のポスターやら、タキさん自筆のコメント。

「……ところで、はるか、学校はどないやった? もう友だちはできたみたいやけど……」

 百年の付き合いのような気安さで、タキさんが聞いた。

「うーん……ボロっちくって暗い。でも人間はおもしろそう。今日会ったかぎりではね」

「どんな風にボロっちかった?」

 原稿用紙を繰りながら、横目でタキさん。

「了見の狭い年寄り。ほら、こめかみに血管浮かせて、苦虫つぶしたみたいな」

「ハハハ、ええ表現や。たしか真田山やったな?」

「あ、わたし演劇部に連れてかれちゃった!」

「え、はるか、演劇部に入んの!?」

 お母さんが目を剥いた。

「図書の先生がね、演劇部の顧問。でね、本を借りたら、そういうことになっちゃって」

「演劇って、根性いるんだよ。その場しのぎのホンワカですますわけにはいかないんだよ」

「なによ、その場しのぎのホンワカって!」

 当たっているだけに、むかつく。ちなみにホンワカは、東京以来のわたしの生活信条。

「はるかは、本を読んではおもしろがってるしか、能がない子なんだよ」

 あ、暴言! それにはるかの苦労は、あなたが元凶なんですぞ。母上さま……!

「で、どや、おもしろかったんか?」

「大橋っておじさんがコーチ。変なオヤジかと最初思ったけど、わりとおもしろそう」

「大橋て、ひょっとして大橋むつおか? 字ぃのへたくそな」

「うん、有名な人なの?」

「オレのオトモダチや」

「「え!?」」

 母子は同時に驚いた。



 これだけのシーンが、ランスルー、カメリハ、そして本番は一発で決まった。

 あたしは、次のシーンに備えて見てるだけだったけど、このシーンの柱になっているのがタキさんだということがよく分かった。

「いやあ、タキさんは若い頃から、極道寸前の人生やったから、並の役者では味が出えへん」

 大橋先生の弁。いや、おっしゃる通りです。

 大橋先生は、見学に、新幹線で出会った車内販売の岸本というオネーサンを連れてきていた。先生は、とっくに現役の教師は辞めていたが、アフターサービスの行き届いた人だ。休憩中なんかには、岸本さんの話をよく聞いていた。どうやら、夫婦関係で悩みがありそう。

 気になったあたしは、午後の休憩で聞いてみた。

「あの、岸本さん、夫婦関係の悩みだったんじゃないんですか?」

「せや。でも撮影現場見て決心しよった」

「どんな風に?」

「別れよる」

「別れさせたんですかぁ!?」

「あいつは最初から結論持っとった、俺は後押ししただけや。年寄りの仕事。しかし、さくらも、人間に興味があるようで結構や。役者は、こうでないとな。せやけど、今の話は内緒な」

 知り合って、まだ三回しか会ったことのない先生だけど、もう百年の知り合いのよう。はるかさんの人生は、こういう距離感の取り方の人たちの中で決まっていったんだ。

 自分の鈴木由香という役が一歩近くなったような気がした。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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銀河太平記・199『劉宏のファッション』

2024-01-15 07:39:35 | 小説4
・199
『劉宏のファッション』越萌マイ 




 アポロキャップにポニーテール。

 オーバーオールの下にはチェックの赤シャツ、首にはブルーのバンダナ巻いて、足もとはカーキのバッシュ。

 妹がお姉ちゃんのお下がりを貰ってようやく身についたという出で立ちは、ファッションとして斬新なものではないけど、この似合い方は新鮮だ。

 レトロ……モダン……トラディッシュ……カジュアル……カントリー……

 相応しい形容詞が浮かぶけど、どれも不十分、全て合わせるとレトロモダントラディッシュカジュアルカントリー……なんと長ったらしく陳腐なことか。

 いっそ、そのまんまにリュウコウ……うん、流行にも通じてぴったりだ。

 リュウコウルック リュウコウファッション 

 さて、どっちがいいか……メイに教えてやったらシマイルの商品開発に役立ちそう。まずは観察させてもらおう。


 オイドから降りてきた劉宏はPIして王春華のボディーになっている。


 王春華とは昨年、ちょうどこの場所で戦った(157『邂逅する者たち・5・王春華』)

 あの時の印象は、完ぺきな女性型ロボットファイター。わたしのコスモスボディーよりもスペックが高く、こっちの経験値が高くなければ危ないところだった。

 視覚的な印象が一回り小さい。

 戦闘モードではないこと、ソウルが劉宏に置き換わっている、劉宏の巧みな自己演出のなせる業かもしれない。
 
 まあ、もうしばらく、このお岩食堂の物干しで観察だ。

 劉宏の視察を知った島民や兵隊が続々と集まりつつある。しばらくは気が付かれないだろう。


「大統領、本日の視察まことに名誉なことで、連絡所隊員一同感激に耐えません!」

 所長の中佐がカチカチの敬礼をする。

「いやぁ、済まない。別の視察が中止になって思い付きでね、視察とは名ばかりの骨休めみたいなものだから、どうか、気を遣わないで。軍服も着てないしね(^_^;)」

「ハ、承知しております。自分は不器用な職業軍人ですので、以後の案内は広報担当の胡盛媛中尉にいたさせます。中尉!」

「ハ、ハイ!」

 所長以上に緊張して敬礼する胡盛媛中尉、いやフーちゃん。

「ああ、キミがフーちゃんかぁ」

「はい、胡盛媛中尉、本日大統領閣下のご案内役を務めます」

「お世話になります、ナイショで来ようと思ってたんだけどね、バレてしまって(๑´ڤ`๑)テヘ 」

「い、いいえ、大統領閣下のご案内を承り、胡家末代までの栄誉であります!」

「そうだね、お父さんは、ここで戦死されたんだよね……あ、ごめん」

 フーちゃんは答礼してもらえないので敬礼のしっぱなし。ようやく気付いた大統領が、そこだけビシッと敬礼を決めて、元の笑顔に戻る。

「まず、所員一同をご紹介します」

「うん」

 後ろで並んでいる所員を一人一人紹介、これにはファッション寄りの柔らかさで応える。

 次に劉宏は氷室神社に向かう。ちょっと意外。

「うわ、ちょ、爺ちゃん! うちの神社に行くよ( ゚Д゚)!」

 ハナが慌ててエプロンと襷を外し神主のシゲ老人を引っ張っていく。

 型通りきれいに拝礼し、シゲ宮司の挨拶を受けると、振り返って手を振った……え?

 視力を光学八倍に上げると、その視線は、ハッキリとわたしの顔を向いていた。

――いまから行くよ(^▽^)――

 口の形で気持ちを伝えると、スタスタとこっちに向かって来る。

 今度は、わたしが慌てる番だった!

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第50話《予想通りの間抜けた顔》

2024-01-14 07:32:16 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第50話《予想通りの間抜けた顔》さくら 




 大阪で主要キャストの顔合わせと記者会見をやって新大阪からの新幹線。

 記者会見で話題の出た銀熊賞をとった女優さんの話で盛り上がっていると、なんと、原作者が京都駅から乗り込んできた。予想通りの間抜けた顔だったが、なぜか喪服……。


「あ、どうしたんですか、その喪服?」


「大橋先生!」「お、はるか!?」の驚愕の声の後に、はるかさんが聞いた。

「今日は、オカンの納骨でな。ついでに東京の出版社にいくとこ」

「なんか、とんでもないついでですね(^_^;)」

「あ、このナリか? それとも京都から東京はついでにしては遠すぎてか?」

「「あ、両方」」

 あたしと、はるかさんの声が揃った。


 大橋先生は、そのまま、あたし達の横の空いている席に居座った。


「出不精やさかいなあ。なんかキッカケでもなかったら、箱根の向こうになんか行かれへん」

「新幹線の中で二人が出会うの二回目ですね」

 原作を読んだ知識で振ってみる。

「ああ、はるかが、みんなだまくらかして、南千住に行った時以来やな」

「その節はお世話になりました」

「しかし、まあ、離婚したお父さんを東京まで説得に行こういうのは、はるからしいスットコドッコイやったけどな」

 この会話だけで、はるかさんの苦しかった高校生活が偲ばれる。

 親の離婚で、名門乃木坂学院を辞め、大阪のありきたりの府立真田山学院高校に転校。
 読者の中には、お父さんといっしょに南千住に残っていた方が、両親の復縁には効果的ではなかったかと言う人もいる。

 でも、はるかさんは見抜いていた。お母さんは別れてしまったら、それっきりのサバサバした性格。だから、お母さんに付いて大阪に来た。そのほうが、自分が両親の接着剤になれると思ったから。

「はるかの『運命に流されない!』いう片ひじの張り方は好きやで。で、片ひじ張りながら、結局は流されて。空振りになってしまうんやけど……」

「もう、言わないでくださいよ」

「そやけど、その空振りが、トンでもない運命のボールをかっ飛ばす。せやろ、お父さんは、さっさと再婚決めてしもて、はるかは荒川の土手で大泣きするしかなかった。せやけど、それがお父さんと奥さんの秀美さんを、ごく自然なカタチでお母さんとお父さん夫婦の縁を作った。そんで、その時の痛手が、演劇部の芝居に活きて、あっという間に、女優さんや」

「まぁ、それはそうですけど。そのときそのときのわたしは、とても苦しかったんです……でも、そうですよね。苦しみの無い青春なんて、サビ抜きのお寿司みたいなもんですもんね」

「いいや、ネタ抜きの寿司ぐらいにちゃう」

「どうも、でも、今のはるかがあるのは先生のお陰です」

「そら、ちゃうで。はるかは、俺と出会わんでも、いつかは、だれかの目に留まってたと思う」

「いや、やっぱり『すみれの花さくころ』に出会ってからですよ。あれが無かったら、お父さんとの『さよならだけどお別れじゃない』は活きてきませんでしたから」

「そら、かいかぶり。はるかにはそれだけの力があったんや。銀熊賞とった桃木華も、別に、あの高校やら短大行かんでも芽の出た子ぉやと思う。ただ、そういう縁を大事に思てくれるはるかは好きやし、はるかの値打ちやと思うで」

 グゥ~~

 そこで、あたしのお腹が鳴ってしまった(n*´△`*n)。

「お、もう飯時やな。自分ら美味そうな駅弁持ってんねんな」

「あ、これはさくらが選んだんです」

「はい、選びすぎて乗り遅れ寸前でしたけど」

「はるか、列車の入り口で振り返っとったやろ」

「ええ、なんで分かるんですか?」

「こいつは、そういう乗り遅れた人間に気を遣いよる。ええ顔しとったやろ」

「はい。お話の中で、お父さん達を見送ったときの顔でした」

「うそ、ほんと?」

「はい!」

 あたしが返事すると、大橋先生が手を上げた。車内販売のオネエサンを見つけたようだ。

「これと同じ弁当……は、あれへんねんなあ。ほんなら幕の内」

「はい、幕の内でござい……あ、大橋先生やないですか!?」

「え……ああ! イケイケネーチャンの岸本!」


 オネーサンの目に、みるみるうちに涙が溢れてきた……。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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RE・かの世界この世界:224『玄室・2』

2024-01-13 10:28:13 | 時かける少女
RE・
224『玄室・2』ブリュンヒルデ 




「あれほど約束をしたのに……来てしまったのね……」

「すまない、しかし、これ以上国生み神生みを遅らせることはできないんだ」

「それは現世の理り。ここは幽世のどん底、黄泉の国。黄泉の国には黄泉の国の理りと時の流れがある、それを蔑ろにして……」

「それも重々承知のこと、役目が終われば、このイザナギも共に黄泉の国の民に成ろう。どうかイザナミ、いま一度わたしのところに……」

「戻れと言われるか……しかし、しかしそれならば、なぜ、この妻の顔をご覧にならぬ。目と目を合わせ、心の底からお頼みにならぬ。それに、なぜに異世界の者たちがいっしょなのじゃ、異世界の者に恥を晒されるのじゃ……」

「ここにいるのはブリュンヒルデ殿とその警護の者。ヒルデ殿は、我々の国生みを陰に陽に見守って助けてくれたお方です。向こうには、同様にオノコロジマから助けてくれているテルさんを始め、旅の途中で仲間になってくれた人たちも控えています。みんな心配し、力になろうと……」

「力になろうと……ならば……なぜ、顔を、妾の顔を見てお話にはならぬのじゃ? わたしは、それを先に問うたぞ」

「ならば……」

 しっかと面を上げるイザナギ殿。わたしはタングニョーストと共にわずかに頭を上げるのみ。ここは、腹を割った夫婦の会話であろうと思う。

「なぜに、そのように平然と笑顔を向ける?」

「だって夫婦ではないか」

「異世界の姫は、正直に面を伏せたままではないか……膿み腐れた者に対しては、そちらこそ、正直な反応……イザナギ殿、その笑顔は偽善じゃ、偽りじゃ!」

 顔を見ろと言ったのはイザナミの方ではないか、鳥頭か、こいつは……つい顔を上げてしまう。

「見るな! 夫に見られてさえ、このように腹が立つ、異世界、蛮族の姫ごときにコケにされる謂れはない! 立った腹が弾けてしまいそうじゃあ!」

 !!

 いかん、ほとばしる怒りと殺気の前にタングニョーストが身構える。軍人としてのあるべき反射行動なのだろうが、ここは拙い!

「おのれえ、やはり妾を愚弄するか! 害そうとするかあ!」

 ゾワゾワゾワ!

 イザナミのオーラが騒めいたかと思うと、その騒めきは一瞬で数十の鬼を生み出した。

「イザナミ!」

 イザナギ殿は、叫びながら鬼夜叉と化した妻を抱きしめようと身を乗り出す!

「「危ない!」」

 タングニョーストと二人、男神を引き留め、同時に剣を抜き矢をつがえる。

「もう話にならない、ここは退こう! タングニョースト、イザナギ殿を!」

「ここは、わたしが食い止めます! 姫こそ……」

 言い終る前に五本の矢を放ち、ソードを抜いて三匹の鬼の首を払った!

 ビシュ! ドガ! シュビビ! バシュ! ビシュ! バシ!

 わたしも、ソードを抜いてたちまちのうちに七匹の鬼を切る。

 間近で見る鬼は、その体つきから女の鬼だと分かる。

「女だと舐めるではない、この鬼どもは黄泉醜女(よもつしこめ)、数においても力においても汝(うぬ)らの敵う相手ではないわ、それえ!」

 ゾワゾワゾワ

 イザナミが袖を振ると死臭とともに打ち倒した以上の黄泉醜女が湧いて出て、その一部は退路を断とうと後ろに周り始める。

「囲まれます!」

 そう叫ぶと、両手でわたしとイザナギ殿を羨道方向に突き飛ばし、振り返りながらフレームレート100以下では描画できないほどの早業で黄泉醜女どもを切り伏せるヒルデの忠臣。

 タングニョーストオオオオオオオオオオオ!!

 羨道を半ばまで戻って戻る途中では玄室からの雄たけびや剣戟の音や閃光がしていたが、元の通路に達した時には間遠になり、やがては途切れてしまった。



☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第49話《勢いで頷いてしまった》

2024-01-13 06:59:51 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第49話《勢いで頷いてしまった》さくら 





 ワケてんの台本がきた。


 正確には『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』という。

 はるかさんの高校時代、ドラマチックな青春の7カ月を描いた前評判十分な小説の実写版。

 四月の下旬には本屋さんの店頭に並ぶんだけど、前評判が高いので、夏に封切りの予定で映画化することになり、はるかさんの推薦で、わたしは、はるかの親友・鈴木由香の役をやらせてもらうことになった。


「さくらもいっしょにね」


 まるで、コンビニに行くような気楽さで言われた。撮影の休憩時間、窓から見える桜がきれいなんで「ちょっと桜見てきま~す」と誘われた。

「あ、はい」

 と、軽く返事した。正直頭の中は花より団子で、このあとどこでお昼にしようかと思案中だった。

「……え、『ワケてん』映画化するんですか!?」

「うん、ちょっとハズイんだけどね。ピュアな青春映画……大昔の日活青春ドラマじゃあるまいし……とは思ったんだけどね……けどね」

「『けどね』が多いですね」

「だって、自分が主人公の映画だよ、正直不安。で、キャストの一部を、わたしが選んで良いって条件で引き受けた」

 この時点では、舞い散る桜の花びらみたくエキストラに毛が生えたような役だと思っていた。

 多分、東亜美とか住野綾とかの、はるかのイジメ役。ラストで和解して、ちょっと仲良くなる。その程度の役だと思っていた。

「鈴木由香をやってもらいたいの」

「ギョエー( ゚Д゚)! 由香ってはるかの親友じゃないですか!」

「ハハ、ギョエーは、わたしよ。ワケテンて、まるっきりわたしの話だよ」

 そう言って、はるかさんは、まわりに一杯いる家族連れに目をやった。

「みんな仲の良い家族に見えてるけど、家族の絆って、案外もろいんだよね。高校生のころのわたしは気づかなかった。それだけの話なんだけどね」

 それだけなんてもんじゃない。

 あたしは原作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』を読んでいるから分かっている。

 元は成城にお家があったIT関連会社の社長の一人娘。それが会社の倒産で、実家の南千住にある従業員三人の印刷会社の名ばかり専務の娘……要は下町の女の子になった。

 そして、高校二年になったばかりで両親が離婚して大阪へお母さんといっしょに引っ越し。そこから、さらに苦労が……そこまで思い出していると、はるかさんが後を続けるように語った。

「わたし、時間と努力があれば家族って、取り戻せると思ってた。だから、お金貯めたり借りたりして南千住にもどったら、お父さんには秀美さんて、新しい奥さんがいた……」

「あの荒川の河川敷で大泣きするシーン、感動的でした!」

「あそこ一番ハズイのぉ。普通の子だったら、親が別れたら、『あ、そう』てなもんらしいのよ」

「でも、あれがあったから、みんなの絆が強まったんじゃないですか」

「結果的にはね。わたしは、そんな自覚なんにも無かったけど」

 で、あたしは、核心に入った。

「だからこそ、今時貴重な愛の物語に……鈴木由香って、それに大きな影響あたえるんですよね?」

「そうよぉ。カレはもってかれちゃうし、シバキ倒して、わたし停学になっちゃうし。でも、心の友なのよね」

「あれって、カレの吉川裕也をシバキ倒そうとしたら、止めに入った由香を、シバいてしまうんですよね」

「うん、あの痛みは今でも覚えてる」

「は……?」

「ひとをシバクとシバいた人間も痛いんだよ……」

 はるかさんは開いた右手を数秒見つめると、ズイっと手を差し出した。

「この役はさくらじゃなきゃ務まらないから。ま、よろしくね」

「は、はい」

 勢いで頷いてしまった。

「ああ、お腹空いてきた。お昼にしようか!」

「はい、ちょっと適当なお店検索してみますね」

 スマホ出してスイッチ入れたら、はるかさんが、その手をさえぎった。

「お昼は手配済みだから」

 公園の向こうから、お弁当のデリバリーのオニイサンがやってきた。

 ま、こんな調子でハメられた。

 由香の役は正直重い。


 なんたって、全編大阪弁なのよ!


 それに、明日からは高校二年生。あたし自身将来のこと真剣に考えなきゃ。

 わたしは、まだ女優を専業にする覚悟はできていなかった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第48話《ドゴール空港着陸》

2024-01-12 07:16:34 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第48話《ドゴール空港着陸》さつき 





 最初の原因は機長の病気だった。


「機長に突発的な脳障害がおこって暴れだし、それを制止しようとした副機長が突き飛ばされて頭を打ち、おそらく脳内出血をおこし意識不明になったようです。一応機長には麻酔を打っておいたから、暴れ出すことはありませんが、二人とも命の危険があります」


 乗客の中に居合わせた医者が、機長と副機長の面倒をみている。他に、ナースやCAなどで777のコクピットはいっぱいだ。


「この二人は動かせないよ。命にかかわる」

「しかたない。一佐は副操縦士席に、さつきさんは……」

「あなたの後ろにいます」

「じゃ、そこのエキストラシートに。あとの人たちは出てください。ドクター、多少揺れるかもしれませんので、気を付けてください」

 レオ君はヘッドセットを付けると、ドゴール空港のスタッフと連絡をとった。

「わたしは、タクミ・レオタール。日本の自衛隊員です。777はシミレーションでの飛行経験が200時間ほどあります。実機は初めてですが、なんとかやります」

『君の腕を信じよう。滑走路は君たち専用に空けてある。好きなように着陸したまえ。万全の準備を整えて待っている』

「ありがとうございます。こちらも万全を期します」

『きみの英語にはフランス語なまりがあるね。苗字もフランス人みたいだが?』

「父がフランス人で、空軍のパイロットでした」

『ほう、じゃ、君もパイロットなのかい?』

「残念ながら、陸上自衛隊です。施設科……工兵ですが、兵科の中では何でも屋です。なんとかしますよ。ちなみに、横には連隊長の小林大佐が、後ろにはガールフレンドがいます。いいところを見せないわけにはいきません。では、ただ今より手動に切り替えます。乗客のみなさん。これから操縦は日本の自衛隊のパイロット、タクミ・レオタールが行います。軍人の操縦なので、多少荒っぽいかもしれません。シートベルトをお忘れ無く』


 レオ君は三カ国語で機内放送をしたあと、手動操縦に切り替えた。


 で……多少ではなく揺れた(^_^;)。


「操縦桿の具合をみるために少し揺れましたが、単なるテストです。ご心配なさいませんように」

「これが成功しても、空自に鞍替えなんかせんだろうな?」

「はい、でも、フランス空軍からオファーが来たらどうしましょう?」

「今や、レオタールは、自衛隊の防衛機密だ。職権で、わたしが断る」

「わたしの交友機密であることもお忘れ無く。それもファーストシートだから」

「ハハ、エコノミーに落とされないようにがんばるよ。じゃ、着陸態勢に入ります。一佐、よかったら命令してくれませんか。その方が気合いが入ります」

「よし、レオタール。着陸仕方ヨーーイ……かかれ!」

「了解! 機速150ノットへ、ギア降ろし方用意……フラップ全開」


 速度の落とし方が、やや早かったので、一瞬エレベーターが降下したような浮遊感があったけど、フラップが効いて姿勢が安定した。


「着陸姿勢、右に三度修正……」


 わずか三度の修正でも、大きな機体は反応が大きい。左側にGを感じた。


「ようし……軸線に乗った。機首上げ三度……高度100……80……50……30……10……ランディング。エンジン逆噴射!」


 思ったよりも、ずっとスム-ズに着陸できた。客席から拍手と歓声があがる。


「やったね、レオ!」


 あたしは、思わずシートベルトを外して、シートごとレオ君にしがみついた。レオ君が汗ビチャなのに気づいた。


「レオタール、ブレーキをかけたほうがいいんじゃないか?」

「あ、忘れてた!」


 777は二百メートルオーバーランして止まった。


 あたしの交友機密のファーストクラスにレオ君は、消えないインクで記載された……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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くノ一その一今のうち・93『奥つ城』

2024-01-11 12:15:16 | 小説3
くノ一その一今のうち
93『奥つ城』そのいち 




 忍者に教範とか教科書めいたものはないけど、もし教範を作って『忍者の基本姿勢』というページがあったら、忍者の待機姿勢の見本に使えそう。

 そんな感じで蹲っている多田さんだけど、次の行動が読めない。

 重心の位置、筋肉の緊張、そして滲み出るオーラ、そういったもので七割がたの予測はつく。
 しかし、トラスの重なりの向こうの多田さんには、そう言うものはない。
 
 ひょっとしたら傀儡(人形)かと疑うほどだ。

 深夜に田舎の道を走っていると、急に警察官が見えることがある。本物じゃない。長方形のパネルに蛍光塗料でひしゃげたL字が描かれている。それが夜道では警察官の帯革に見えるのだ。お祖母ちゃんは「忍者の知恵だ」と言っていた。その類かと思った。

 思った瞬間、わずかに笑って多田さんは姿を消した。

 ……もう、多田さんが姿を現すことは無いような気がした。

 
 外周警備本部の屋根裏を抜けて奥つ城に向かう。


 ついさっきまで内城の街を歩き、その直前には外城の外も一周した。えいちゃんが観察した上空からの情報も頭に入っている。
 
『カメラの位置は、あそこと、あそこと……』

 えいちゃんが監視カメラの位置を教えてくれて、避けられるものは避け、避けきれないカメラには目つぶしをかける。

 奥の方で人の出入り、警備の厳重なところを見ると作戦指導の施設。独裁国家だから、統帥権は国王、実質は王子が握っている。その王子は猿飛佐助が化けているか、あるいは傀儡にしている。

 機甲旅団の不始末はとっくに知られて当面の対策はとられている。外周警備本部は、機甲旅団の生き残りの収容と警備の強化に忙しくしていたしね。

 城内の街にも混乱の様子は無かったし、内城もアンテナが立っているエリアを除いては落ち着いている。
 
 作戦の失敗というイレギュラーな状況でも、いたずらに混乱させない。

 さすがに中央アジアに覇を唱えようとする国だ。

 王子の指揮能力、人心収攬の技はなかなかのものだ。
 
 堀を超え宮殿奥の王子執務室、ドアの前に警備兵が二名小銃を持って立っている。

 小さな石ころを拾って壁に当てる。

 チャリ

 二人とも小銃を構えて音のした壁に寄っていく。

『中に王子はいませんね』

 えいちゃんの言う通りだ、こういう場合、最低でも一人はドアに張り付いて動かないのが警備のセオリーだ。

 このエリアの概要を思い浮かべる。

 建物の向こう、外とは二重の塀で隔てられた庭がある。おそらくは、執務に疲れた王子が休憩をとるためのプライベート庭園だ。

 多分、そこだ。

 プライベート庭園といっても小学校のグラウンドほどの広さに明治神宮にありそうなたくましい木々があって、その中ほどに二つの四阿(あずまや)と温室がある。

 目を凝らすと、四阿のベンチで王子が居眠っている。

 作戦指導に疲れて、しばしの微睡……のように見える。

 しかし違う。

 四阿の裏には、もう一人の王子が月を愛でるように顔を上げているのだ。

 ちょっとシュール。

 
☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
 
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第47話《コクーン・4》

2024-01-11 08:46:44 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第47話《コクーン・4》さつき 




――Y a-t-il quelqu'un qui peut piloter un avion de ligne à réaction ? ――


 英語と日本語の後、フランス語でただならぬことをアナウンスした!


「どうしたんでしょ?」

「……これから詳しい事を言うだろう」

 小林一佐の言うとおりだった。数秒の沈黙のあと、別のCAがフランス語で喋り始めた。

『機長と副機長が二人とも身体的な理由で操縦ができません。自動操縦で飛んでおりますので、今すぐ危険だというわけではありません。ただ、このままでは着陸ができませんので、どなたか操縦できる方を探しております。出来る方がおられましたら、近くのキャビンアテンダントまでお知らせください』

 早口で、少し聞き取り辛かったが意味は分かった。フランス語の分かる少数の乗客に動揺が走った。続いて英語、日本語、そして中国語と別のCAがアナウンスした。

「いかん、クルーがパニック寸前だ。母国語を喋るCAが、それぞれ話しているぞ」

 あたしたちのビジネスクラスにも動揺が走った。女性のCAが、こわばった笑顔で通路を歩く。

「どなたか、操縦出来る方……」

 かえって乗客の不安をあおっている。

「大丈夫、これはボーイング777だ、400人以上乗っている。一人ぐらいいるさ。落ち着いて」

 小林一佐が、CAの手を取り、優しく言った。軍服の力だろうか、キャビンは少し落ち着いた。しかし15分が限界だった。CAが三度目にやってきたときには、またキャビンに動揺が走り出した。

「さっきの軍人さん。あんたら出来んのかね!?」

 アメリカ人らしいオッサンが、小林さんに言った。

「申し訳ない、わたしはアーミー(陸軍)でね。いや、きっと経験者がいますよ。今頃手を上げるタイミングを計ってるでしょう」

「ああ、きっとル・モンドが注目するのをね」

 アメリカのオッサンは、こんなときにもユーモアを忘れない。ル・モンドとは、フランス最大手の新聞社だけど、直訳すれば「世界」だ。そんなことを思いながらも、あたしは手足が冷たくなって行くのを感じた。

「そんなに寒がらなくてもいい。ボクがなんとか……してもいいですか、サンダース?」

「君がか、レオ?」

「父はフランス空軍のパイロットでした」

「で、君は、陸自の施設科だぜ」

「施設科のモットーは、利用できるモノはなんでも利用しろ。そして、最後まで諦めるなです。大丈夫、777はシシミュレーターで何度もやっています」

「実物は?」

「自衛隊でもシミュレーターのあとで、本物に乗せてるじゃないですか」

「じゃ、この777のコクーンは君が預かれ」

 一瞬真剣に目を見交わしたあと、レオタード君が立ち上がった。

「ボクが操縦します。交通違反で免停中ですが、腕は確かです」

 レオタード君は、三カ国語で話して、乗客の人たちから拍手をもらった。

「責任上、わたしが上官として立ち会います。そして、精神的なサポーターとして、このさつきさんにも付き添ってもらいます」

「え……」

「無事成功の暁には、連隊長であるわたしが、二人の仲を公認いたします」

 小林一佐が、とんでもないことを言った。

「この特別なオペレーションとカップルの出現に、元アメリカ海兵隊大尉として立ち会えることを光栄に思います。大佐!」

「サンキュー、メルシー、ありがとうございます」

 レオタード君は、三カ国語で礼を言って、あたしの肩に手を回した。その手が震えていることは、あたしの生涯の秘密にしようと誓った。

「大佐、よければ、このオペレーションに名前を付けさせて下さい」


 アメのオッサンが言った。


「ほう、オペレーション・トモダチ・2とか?」

「いいえ、『オペレーション・コイビト』であります」

 パチパチパチパチ!

 キャビン中から前にも増す拍手が起こった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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鳴かぬなら 信長転生記 159『三蔵法師大説法会プラスアルファ・1』

2024-01-10 12:21:33 | ノベル2
ら 信長転生記
159『三蔵法師大説法会プラスアルファ・1』孫権 




 ドォォォン パチパチパチパチ ドォォォン パチパチパチパチ


 豊盃一番の大慶公園の空にいくつも花火が上がる。

 打ち上げる音は抑えてある。街の真ん中だということもあるし人を脅かすのが目的じゃないからね。普通の花火なら――ドゴオオオオン!――ぐらいの音になる。
 孫策兄さんの即位式は、この――ドゴオオオオン!――だった。まだ小さかった僕は、写真を撮るどころじゃなくなって、耳を押えてオシッコを漏らさないようにしているのが精いっぱいだった。

 でも、200メートルの上空に差し掛かって爆ぜる音はポップコーンのように大きくて陽気だ。
 昼間の花火なので、色薬が仕掛けられて、青・黄・赤・白・樺(橙)プラス輝きとメチャクチャ華やか。
 輝きを含む六色は仏教のシンボルカラーだ。仏陀の体からは、常にこの六色の光が発せられていたという伝説に則って仏教のシンボルカラーになっている。

 で、なんで、豊盃一の公園を借り切り、朝から花火を打ち上げているのかというと、三蔵法師さま御一行がやってくるから。


 そうなんだ、大橋姉さんは、とうとう三蔵法師さま御一行とコンタクトをとることに成功して、この豊盃の街に招いて説法会を開くのに成功したんだ!

 三蔵法師さまを招へいするのにはパサージュの中央路で書店を出していた書籍範のお爺ちゃんが骨を折ってくれた。

 わざわざ西安まで行ってくれて、西安からはラクダに乗って御一行と接触してくれた。
 
 三蔵法師さま御一行は、途中さまざまな難儀に出会われた。たいていは土地の妖怪たち。最後には始皇帝の兵馬俑たちまで現れて危機一髪だったんだけど、毘沙門天を兜に頂いた将軍が少数の部隊で兵馬俑たちを翻弄、始皇帝自身も重傷を負って御陵に引き返した。

 この将軍は扶桑の上杉謙信という美形の女将軍らしい。

 女将軍は、始皇帝たちが三蔵法師さまに手出ししない、できないことを見届けると、そのまま長城を超えて扶桑に帰って行った。

 その爽やかさと、我らが三蔵法師さまを救ってくれたことで、異国の越境軍であるのにもかかわらず、非難する声はない。

 そして、無事に三蔵法師さまを豊盃にお招きし、豊盃一番の大慶公園を借り切って、大説法会プラスアルファを開く段取りになったんだ。


「ちょっと、孫権、あんたの差し金か!?」


 花火のキラキラを撮っていると、突然うしろから怒られた。

 カメラマンの性で、ファインダーを覗いたまま振り返ると、フレームいっぱいに、三白眼のジト目さえ止めれば大橋姉さんの次に美少女の劉度姐。

 パシャパシャパシャ

「ちょ、人が真剣に怒ってるとこ撮るんじゃないわよ!」

「あ、ごめん(^_^;)」

「あのさあ、なんで、偉い坊さんの前座で踊らなきゃならないわけ!?」

「え、あ、それは……」

「出店とかもいっぱい出てるしぃ。元々スナイパーだから仏教とか宗教には興味ないけど、どうかと思うわよ。仏具屋とか本屋の出店はともかくさ、三蔵饅頭、三蔵クレープ、三蔵煎餅、なによ、まったく! あっちなんか、フィギュアまで売ってるし!」

「みんな好きだからねぇ、じっさいスゴイよ、たった二週間で作っちゃうんだから。1/12 1/8 1/6とサイズもいろいろだし。三蔵法師さまだけじゃないよ、悟空・八戒・沙悟浄も出てるし、兵馬俑のとかも、ほら……あっちのショップじゃ毘沙門天とかも。ほら、これ見てよ」

「写真に興味はない」

「いや、望遠で撮ったんだけどね」

「隠し撮りぃ~?」

「いや、業者が荷下ろししてるとこ撮ったんだけどね」

「なに、マネキン?」

「半分布で隠れてるけどね、この腰の捻り方とか右肩の上げ具合」

「腕と首は付いてないっぽいけど」

「リュドミラ、これは君のフィギュアだよ。フィニッシュの決めポーズの時の」

「え、ええ(# ゚Д゚#)!?」

「売り物じゃないよ、リュドミラのことリスペクトして作った参考作品だ」

「え、いや……だってぇ!」


 リュドミラは真っ赤になって立ち尽くした。

 僕は嬉しい。

 出会った頃のリュドミラは、俯いているか睨んでいるかしかできない子だった。
 それが、人前で踊るようになって、たとえ不満があってプンスカ怒っていても、こんなにたくさん喋って頬を赤らめて。

 僕は大橋姉さん小橋姉さん、それに魏の茶姫姉さんが好きだ。美人で行動力があって、少々の苦難にはへこたれずに笑顔で前を向いている。

 でも、コミュ障で言葉足らずで、口より先に引き金を引いてしまいそうな子だけども、こんな風に女の子らしさを取り戻していくリュドミラを見ているのも好きだ。

 さあ、いよいよ三蔵法師大説法会with豊盃フェスティバルが始まるよ。



☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第46話《コクーン・3》

2024-01-10 08:47:51 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第46話《コクーン・3》さつき 





 なんと陸自のレオタール君がシート脇の通路でニコニコしている!


「え、どうしてレオ君が?」

 あかぎの見学から名前を約めて呼んでいる。

「仕事だよ。幹部の通訳で付いていくんだ。一佐、お席はこちらです」


 CAのオネエサンと話していた制服のエライサンがこちらにやってきた。


「おや、このお嬢さんは、君の知り合いの方かい?」

 一佐の階級章を付けたエライサンがにこやかに聞いた。

「渋谷案件の相手の方です」

「ああ、あのときの……その折りは、ご迷惑をかけました。また、しっかりした対応をしていただきましたので、部隊としても大変助かりました。申し遅れました、連隊長の小林です」

「小林イッサ……ですか」

 世界の常識で言えば小林大佐なんだけど、自衛隊独特の呼称がユーモアを呼ぶ。

 シートベルトを外すころには、三人の会話はいっそうフレンドリーになっていた。

「ほう、お兄さんは『あかぎ』に乗っておられるのですか」

「はい、砲雷科で班長やってます。こないだはレオ……レオタールさんに来ていただいて兄も喜んでいました」

「あれが、新聞とSNSに出たことが、今回のことを円満に解決してくれました。お兄さんにお礼を言っておいてください」

「言い出したのは父なんです。昔は兄が防衛大学に入るのにも反対してた人なんですけど」

「自分も一度お目に掛かりましたが、とてもご理解のあるお父さんでした」

「わたしのフランス留学には反対なんですけど。なんてのか、心で反対、頭では賛成なんです」

「それが、親心というもんでしょうねぇ。わたしにも娘がいますが、素直には賛成しないでしょうね」

「けっきょく、コクーンなんです」


 このコクーンという言葉に小林一佐も、レオ君も反応してくれた。


「家庭がコクーンだという発想は正しいと思うな。コクーンに居る限り身の安全は保証されるけど、コクーンの中に居る限り成虫にはなれないもんね」

「だからレオタールは、コクーンを飛び出すために、アメリカの大学に行ったり、北海道で牛の世話とかしていたんだな」

「サンダースは、そこまでご存じだったんですか?」

「ああ、新入隊員の人事標は全部目を通すからね。君のは特に面白くて印象に残っているんだ」

「あの、サンダースってのは……懐かしの『コンバット』なら、軍曹だと思うんですが?」

「ああ、ケンタッキーの方ですよ」

「え、カーネルサンダース……ですか?」

「あれ、サンダース大佐って意味。なんか、一定の雰囲気になると、うちではサンダースって言うんだ」

「私服のときなど、業界用語ははばかられる場合もありますからね」

「他の部隊じゃ、オヤジとか言うんだけどね。なんか普通で面白くないじゃない」

「あ、これ、レオ君が考えたんでしょ!?」

「あ、その、変なことは、みんなボクみたいな言い方は止してくれる(^_^;)」

「ハハ、うちの娘ですよ。二佐の時に『今度進級したら小林イッサになっちゃう。イメージ壊れるから、他のにする』で、サンダース。これをある幹部に話したら機密保持ができんやつで、いつのまにか部隊中に広まりましてね」

「ハハ、面白い娘さんですね」

「いや、あなたもなかなかのものだ。フランスにいったらがんばってください」

「はい」

「で、気が変わったら、いつでも自衛隊に。ま、自衛隊も有る意味コクーンかもしれませんがね」

「サンダース。それは本人の心の持ちようだと思いますが」

「ハハ、そういうとこで突然真っ直ぐになるのも、レオタールのいいとこだ」

「え、ええ、そうですか?」


 レオは、わたしでも分かるコクーンとしての自衛隊の意味が分かっていない。こういうボケたところが、なんとも若者としてはおもしろい。自衛隊員としては……小林一佐の前なので、あたしは言うのを控えた。


 それは、シャルルドゴール空港に着く一時間ほど前のことだった。


『attention, please! attention, please!  Is there anyone who can fly a jet airliner?  どなたか、ジェット旅客機の操縦が出来る方はおられませんか!?』


 機内放送が、英語と日本語で喋り始めた……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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