大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!23『知井子の悩み・13』

2024-10-07 08:32:36 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
23『知井子の悩み・13』 




 人があわてふためくってのは、見ていて気分のいいもんだ。

 16人の合格者を、いきなり48人全員の合格にしちまったんからHIKARIプロのスタッフは慌てやがったぜ。

 とりあえず、合格者全員を控え室で待機ということにしやがった。

「でも、さすが光ミツル。決め方もすごいけど、アイデアもすごいわ!」

 矢頭絵萌ってのが興奮気味に言いやがる。高校二年ぐれえに見えるけど、まだ中二だ。発育がいいんだろーけどよ、自信てのは人を飛躍させるって見本みてえなガキだ。

「ハァァァァ……これから大変な競争が始まるわけよね!」

 服部八重って二十代の最年長が、闘志の混ざったため息をつきやがる。こいつ、最年長ってだけで歳が読めねえ。
 なんかの呪いかと思ったら、自分の意思で実年齢を意識の底に沈めてやがる。最年長ってことも溜息を吐いた心の隙間から覗けただけだぜ。

「そりゃあ、48人だもん、厳しいよね」

 知井子が、かわいく鼻を膨らませながら言う。

 こんなに自信を持って戦闘的になった知井子を見るのは初めてだ。学校でピョンピョン跳ねながら黒板を消して、ルリ子たちに冷やかされてる知井子とは別人のみてえだ。

「知井子、鼻がふくらんでるぞぉ」

 冷やかしてみる。

「や、やだあ、それじゃルリ子といっしょじゃんよ(;'∀')!」

 知井子は、慌てて鼻を隠しやがる。

「ルリ子は人をせせら笑ったときに鼻がふくらむけど、知井子はガンバローって思ったときにそうなるんだ。ぜんぜんちげーよ」

「そ、そう……」

 自分のことを言われる時は、いつも冷やかしだったので、多少褒めても素直にはうけとめねえで口を尖らせやがる。

「ああ、その表情好きだなあ! それっていいわよ。チャーミングファイターって感じ!」

 大石クララが自然にフォロー。こいつなかなかの人物みてえだ……と思ったら、服部八重やら矢藤絵萌にも自然に声をかけて、早くもサブリーダーの片鱗を見せ始めていやがる。


 一方、リーダーの拓美は暗れえ。


 覚悟は決めていやがる。マユに頼んで一回だけ皆の前で唄わせて欲しい。マユの魔法で叶えてやった。

 もう思い残すことはねえ。

 でも、選抜メンバーのリーダーに選ばれちまった。

「マユさん、ちょっと」

 拓美は、マユの腕を掴むと、廊下に出て非常口を開けた。

 拓美と屋上に出たぜ。

「もう耐えられない。今すぐに消して! あの世に送って!」

「拓美……」

 マユには、拓美の気持ちが痛いほどに分かった。だから、とても可愛そうで、なかなか拓美を消すことができねえ。拓美の目から涙が止めどなく流れていくのを見てるばかりだ……。

 ザワワ

 屋上から見下ろせる公園の色づいた木々が、近づいた木枯らしを予感させるように震えた。

 一瞬、風が強く吹き、朽ち葉たちが風に流され、屋上の二人を促すように舞っていった。その朽ち葉の一枚が拓美の目元をかすめやがって、溢れた涙が血に染まって拓美の頬に一筋の赤い線が伝う。

 痛々しくて、マユは黙ってハンカチを差し出すしかなかった。

「いいの、このままで……」

「そうか……」

 マユは唇を噛みしめ、ゆっくりと、両の手を円を描くように回し、右手で天を、左手で地を指した。

「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……」

 マユは、渾身の力で呪文をとなえた……。


 階段を降りて、控え室に戻ってきたのはマユ一人だ。


「どこへ、いってたのよ。今から、また全員集合だよ♪」

 知井子は、楽しげにたしなめやがる。

 知井子の悩みは、どうやら克服されたみてえだ。

 しかし、新しい問題が待ち受けていた。

 たったいま、皆の記憶から完全に消された浅野拓美の問題がよ……。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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連載戯曲・クララ ハイジを待ちながら・3・クララのいたずらリテラシー

2024-10-06 18:06:31 | 戯曲
クララ  ハイジを待ちながら    

大橋むつお 
 
※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます




3 クララのいたずらリテラシー

時   ある日
所     クララの部屋
人物    クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)




 シャルロッテが口を押えながらやってきて、部屋に入った堰を切ったように途端笑いだす。


シャルロッテ:アハハハハ、ああ、おっかしい! アハハハハ……お嬢様、今の最高でしたよ!

クララ:シャルロッテ、あなた見てたの?

シャルロッテ:ええ、おっかしくって。ここまで来るのに、笑いこらえるの必死でした!

クララ:でも二度目じゃね、インパクトないわよ。

シャルロッテ:いいえ、ロッテンマイヤーさん、三十秒はオロオロなさってましたわ。

クララ:え、すぐに気づいたんじゃないの?

シャルロッテ:いいえ、受話器たたいたり、電話線ひっぱったり。わたしはなんのことやら……でも受話器のポッチのとこにセロテープ貼っとくなんて、よく考えつきましたわね。あれじゃ、いくら受話器とっても鳴りやみませんものね。

クララ:ハハ、そうなんだ。シャルロッテ、今度はもっとすごいこと考えてんのよ。

シャルロッテ:どんなことなんですか?

クララ:新案特許よ。トイレの便座の一番下のとこにね、ラップを張っておくの。わかる? トイレで用を足そうとして一番上のフタを上げるでしょ、そして座って、なにをね、しようとしたら……。

シャルロッテ:まあ、それって……。

クララ:シャルが最初にひっかかったら、かわいそうだから言っとくね。あ、まだ実行するってとこまでは思い切ってないから(モニターに)アナタも、そう思う「やりすぎ」だって……う~ん……わたしの心の中にも、そう、心理的にね「いたずらリテラシー」ってのがあってね。今、審理中なのよね、ただ単なるドッキリの追求でもだめだしぃ、そこには審美的な要素もね、だからね、わたしの中で悪魔と天使が審理中……。

シャルロッテ:ウフフ……。

クララ:え、なにかおかしい?

シャルロッテ:だって、心理と審理と審美をかけたシャレでございましょう?

クララ:アハハ、あのね……。

シャルロッテ:あ、もう行かなくっちゃ。ロッテンマイヤーさんに叱られます!(いったん袖に駆け込む。派手に階段を転げ落ちる音と悲鳴。少し間を置き、腰をさすりながら登場)おトイレ入るときには気をつけますね(去る)

クララ:ああいう子なの。フィーリングはいいんだけど、わたしのことソンケーしすぎ。偶然にゴロが合っても、わたしのウィットだと思ってくれちゃうの。
 あ、こないだのアナタのホメゴロシ、ちょっとムズイよ……え、相手には通じた?そりゃ、相手は専門のローリング族だもん「さすがはセダン。ゆっくり走ってもサマになる」通じて大爆笑でしょうけど、車のこと知らないと、ちょっとね……なによ、ちょっと顔がたそがれてるわよ……え、「なんでもない」?
 フフ……こんなことばっかやってる自分が、ちょっと虚しくなってきたんでしょ。
 だめだよ。引きこもっててもハートはちゃんとチューンしとかなきゃ。いつかは、外へ出なくっちゃいけないんだからね。
 ……そうね、今日はわたしがお話する番だったわね(パソコンを操作する。ホリゾントに映像が出るといい)これがアルムのオンジのお家。後ろにあるのがモミの木。
 そう、有名な『アルムのモミの木』よ。ここでわたし歩けるようになった……すてきなわたしの思い出……ううん、ジャンプ台……わたし、自分が歩けるようになるなんて思いもしなかった、ほんとよ。
 自分の足で立てることさえ夢だと思っていた……そう、みんなハイジのおかげよ。そこまではアナタも普通の人でも知ってるでしょ。
 ……え、アハハハ、そんな学校の読書感想文みたいなこと言わないでよ。「ハイジを育てたのはスイスアルプスの豊かな自然だった。その自然とそこに育つ心こそがクララを立たせ、歩かせた!」
 そりゃそのとおりだけどね。あなたの国の憲法の前文みたいなものよそれって。「平和を愛する諸国民の公正と真義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した……で、国際社会に名誉ある地位を占めたい」アナタも覚えてんだここ……え、ハハハ……停学になったとき課題で十回も書かされた?
 なんで停学になったの……え、先生に「こんにちは」って挨拶しただけ……なんで……側にいた友だちがタバコ喫ってた……それで、ソバテイ? おソバの定食? おソバと五目ご飯がいっしょになってるような……え、同席規定……タバコ喫ってる友だちの側にいただけで停学に。
 そうなんだ……「喫うな、喫わすな、喫ったら離れろ」……なんだか火の用心の標語みたいね。
 あ、あのね、アルプスの自然は豊かじゃないの。言うたかないけど……わかる? あ、笑った! おやじギャグなんかじゃないのよ、韻を踏んだのよ韻を……あのね、同じ音を重ねることによって、言葉や、文章にリズムが出てくるって、格調高い表現なのよ。
 さっきの偶然のゴロ合わせのほうがおもしろい? ええと、なんだっけ……そうそう、アルプスの自然は言うたかないけど、豊かじゃないの。つまり食えない国だったのよ。
 ……その「くえない」じゃないわよ。スイスって、したたかでくえない国だけど、それは食えない国だったから……つまりね、昔は貧しくって食べていけない国だったの。
 そう、文字通りよ。だから昔から男が体を売って……って、へんな想像しないでよね。
 ……そう、一種の出稼ぎ。傭兵よ、傭兵。外国に雇われて、兵隊になること。アナタの国にもいるでしょ、外国から来た人が介護士やら、看護師やってんの。あれの兵隊版。
 そう、かっこよく言えば外人部隊。時にはスイス人同士が敵味方に分かれて戦うこともあったのよ。
 フランス革命でバスティーユ牢獄が襲撃されたとき、バスティーユを守っていたのもスイス人の傭兵たち……え、世界史の授業みたい? 
 我慢して聞きなさい。この傭兵制度は1874年の憲法改正で、禁止されたんだけどね。
 あ、バチカンだけは例外。ローマ法王がいらっしゃる世界最小の国。サンピエトロ大聖堂ってのがあって、今でもここの兵隊さんだけ、例外的にスイス人のオニイサンがやってるんだけどね。
 まあ、それだけスイス人傭兵って信用があったのね。で、ハイジんとこのオンジがね若い頃やってたらしいの。オンジって分かるわよね。ハイジのおじいさん。へんくつ者で通ってたけど、オンジには、そういう背景があるのよ。
 でも、その心の奥には責任感と、人と自然への豊かな愛情があるの。ハイジにはそのオンジの血が流れてる……その心に支えられて、このクララは立って歩けるようになった。ちょっとお茶を淹れるわね。

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やくもあやかし物語2・075『魔王女トバリ』

2024-10-06 11:27:11 | カントリーロード
くもやかし物語 2
075『魔王女トバリ』 




「あたしが魔王女、トバリ姫よ。見知りおきなさい」

 グ

 思わず息をのんだ。

 そいつ、トバリ姫はフレアの効いたロン毛で、はっきりした目鼻立ちといい、スタイルの良さといい、等身大……よりもちょっと小さいドールのように見えた。しゃくだけど、ちょっと可愛い。

「……わたしのこと小さいと思ったでしょ?」

「あ、それは……(;'∀')」

「まあいいわ。可愛いとも思ってくれたみたいだし」

「そのトバリが何の用だ!」

 メイソンが男らしく前に立ってくれる。御息所はいつものようにポケットに隠れてしまっている。

「フフフ、辛いわね。没落貴族とはいえノブレスオブリージュ。こういう時には前に出なくちゃならないんですものね」

「用件を言え!」

「用件は知れたこと、あなたたちを抹殺することよ。キーストーンを取り返そうだなんて生意気すぎるもの」

「そうはさせん、お前も魔王子も打ち倒して先に進むだけだ」

「おお、勇ましい。それでこそ英国騎士、相手になってあげるわ!」

 ピシ!

 鋭い音がしたかと思うと、トバリの髪が静電気を帯びたみたいに四方に広がり、先っぽの方がピリピリとスパークを放ったよ!

『気を付けなさい、あいつ、ここいらの悪霊を呼び集めてるわよ』

 御息所がふつうの言葉で注意する。こういう時の御息所はあてにならない。

「やくも、囲まれている!」

 メイソンが庇いながら注意してくれる。見渡すと四方八方にモノクロで半透明なあやかしめいたのがウジャウジャとわいている。

「やくもも戦う!」

 いっしゅん迷って近衛の剣を手にして、手近のあやかしに切りかかる。

 ブン! ブブン! ブン!

 剣はむなしく空を切るばかりで、ぜんぜんヒットしない。メイソンは討ち漏らしたあやかしをどんどん切っていく。

 申し訳ない、わたしのリカバーばっかし(-_-;)。

 気を取り直して思い槍に持ち換える。

 ブン! ドシ! ブブン! ザク! ズサ!

 空振りも多いけど、リーチが長い分、そこそこにヒットする。メイソンも少しだけわたしのそばを離れて敵をぶちのめしていく。

 すこしは冒険者らしく戦えているかも(^_^;)。

 あ!?

 ちょっと油断した。斧を持ったあやかしが打ちかかってきて、さばききれずに尻もちをついてしまったよ!

『慮外者め!』

 お局言葉がしたかと思うと御息所があやかしの脳天をミチビキ鉛筆で刺し貫いてやっつけてしまう!

「ありがと、御息所!」

『貸じゃからな!』

 さっさとポケットに戻ってしまう。

「え、一回だけぇ?」

『あとはがんばりなさい』

 チ

『舌打ちすんな!』

 それだけ言うとまた引っ込む。

「メイソン、がんばって!」

 それから、メイソンと二人で暴れまわって半分ほどやっつけられて、残りの半分は分が悪いと思ったのか消えてしまった。


「少しは歯応えがありそうね」


 トバリが現れる。憎たらしいけど余裕の表情だよ。

「じゃあ、そろそろ本気でやらせてもらおうかしらぁ」

 そう言うとトバリは両手でスカートの裾をつまんで、お姫さまらしく挨拶したよ。

「いや、あれは挨拶なんかじゃない!」

 メイソンが押しのけるように前に出てかばってくれる。

「そうよ、わたしのスカートは結界なのよ。さっきは広げ過ぎて破られてしまったけど、こんどはほど良く広げて、あなたたちのシュラフにしてあげる」

「シュラフ?」

「死体袋のことだよ。気を付けて!」

「うん!」

 シュボン!

 広がるような窄まるような音がしたかと思うと、あっという間にドーム球場ほどの結界が展開され、見上げると結界のてっぺんから小さな足が吸い込まれるようにして格納されたよ。

『トバル、あなたの出番よ!』

 てっぺんから声が降ってきたと思うと、やくもたちの前にトバリによく似た王子さまみたいなのが現れたよ!



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!22『知井子の悩み・12』

2024-10-06 08:14:52 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
22『知井子の悩み・12』 




「ちょっと待った」


 一番後ろの冴えないジジイが孫の手みてえな手を挙げやがった。受験生はキョロキョロ、なんせジジイは小さくて、挙げた手の先しか見えてねえ。

 マユには分かっていたぜ。朝、会場前の掃除をやっていたジジイだけど、こいつが一番エライやつだってことをな。後ろのバンドや審査員どもが立ち上がったり、机を動かしたりしてジジイの通路を確保してやる。

「か、会長……」

 ダミーの審査委員長は、困ったような顔になりやがった。

「ここにいる全員を合格にする。いいな、黒羽くんも」

 ガチ袋を下げて隣りにいた黒羽をうながした。黒羽のおっさんには一目置いてる感じがするぜ。

「はい、自分もそう考えていました」

 すると、ジジイは、ステージの前まで来て、マイクも使わずにしゃべり出した。意外にいい声だ。

「まず、名乗っておこう。わたしがHIKARIプロの総責任者の光ミツル。本名は田中米造っちゅう、見かけ通りの冴えないジジイだ」

 ああ……( ゚Д゚)!

 受験生のほとんどが声をあげやがる。地獄の一丁目で天使を見つけたのに似てる。

 地獄と天国には相互監視システムってのがあってよ、お互いに天使と悪魔を派遣してんだ。まあ、大昔に決めたのが形骸化して残ってるだけで屁の突っ張りにもならねえんだけどな。形骸化した天使は立派そうだけどよ、さて、こいつはどうだ?

 マユは、頭の中にある悪魔辞書を検索……するまでもなかった。声をあげた受験生の思念が飛び込んできたぞ。

 光ミツル――1960年代の後半にデビューしたポップス界異色の新人。フォークソングのシンガーソングライターとして名を馳せるが、フォークソングが政治的、思想的傾向を持つことに反感『新宿フォークゲリラの主席』と言われ、田中のヨネさんで通っていたが、ある日忽然と姿を消した。数か月後、鳴り物入りで歌謡界にデビュー。芸名も光ミツルと、あえて通俗的にしてポップス界の寵児になりやがった。80年代に入ると、人気の絶頂で現役を引退。以後HIKARIプロを立ち上げて、多くのアイドルを生んだ。そして、黒羽みてえな名プロディユーサーを育ててきやがって。十年前に経営の第一線からは身を引いて、今は、その姿を知る者は、芸能界でも少なくなってきた。

 ほお……

 要は、影のフィクサーってわけだ……こういうやつは、そういう経歴で祭り上げられてるだけか。とんでもねえ性癖とかあって、死んだ後に正体がバレるかだがな。

 その影のフィクサーが、思い切ったことを言いやがった。

「ここにいる48人全員を合格とする」


 ええ……("◎▽◎")!?


 審査員席の奴らが、受験生たちよりも目を丸くしやがった。

「相対評価では、確かに発表された16人が優れている。しかし、残りの32人の子たちも絶対評価では水準を超えている。このまま、帰すのは惜しい」

「しかし、会長……」

 社長とおぼしきおっさんが発言しかけた。

「まあ、年寄りの道楽と思ってくれ。あと、黒羽君たのむよ」

 ジジイは、光の速さで引っ込んじまった。

「じゃ、あとは、わたしが」

 黒羽がガチ袋を外してステージの前に出てきた。

「我々は、新しいポップスのユニットの形を模索して、ほぼ一年かけて構想を練ってきました。我々もプロです。その構想には自信があります」

「そ、そうだ!」

 社長が声をあげやがったが、どこか空元気でお追従めいている。こいつは会長どころか黒羽のおっさんにも頭が上がらねえみてえだ。

「しかし、そのプロ意識と旧来の自信に縛られてはいないだろうか……これが会長とわたしが引っかかった点です。ここにいる48人は、みんなステキな人たちです。全員をチームとしてしごいてステキに磨きをかけます。で、定期的に選抜メンバーを選考します。取りあえずは、先ほど発表した16人の人たちに選抜メンバーになってもらいます」

 えええ(((((((((((((((( ゚Д゚))))))))))))))))!!

 16人分の歓声があがったぜ。

「チームリーダーは浅野拓美さん。サブを大石クララさんとします」

 カチン(〇_〇)

 拓美は固まっちまいやがった!

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!

 一瞬の間があって、みんなの拍手。

 そして拓美の目から涙が雫になって落ちてきやがったぜ。


 その涙をみんなは嬉し涙と思ったけどな、そのワケを知っているのはマユ一人だけだったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・131『今日は文化祭!』

2024-10-05 17:04:45 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
131『今日は文化祭!』   




 だらし内閣とはうまく言ったもんだ。

 組閣の記念写真を見ていたお祖母ちゃんが一人ごちる。

 大臣たちを従えて下段の真ん中にいる新総理……ちょっとねえ。

 モーニングのズボンはずっちゃって、逆に式服用の襟高シャツはずり上がってメタボっぽいお腹が覗いて、なんだか顔もだらしない。


 登校前だったんで、お祖母ちゃんの溜息には付き合わないで家を出る。


 なんたって、今日は文化祭の本番なんだ!


 保健室を通路代わりに使い、支度用にその隣の教室二つを借りている。本当は準備用の教室は一つしか使えないんだけど、クラス24人の女子が花嫁衣裳を着るのには狭い。メイクや結髪も同時にやると、どうしても教室二つは要るんだ。

 判断したのはわたし。やっぱり結婚式場でバイトをやってるのが役に立つ。


「え、それって!?」


 廊下で着替えてる男子を見に行ったたみ子が声を上げた。

 たみ子は、あちこちチェックしてから最後に着替えるんだ。いちおう取り組みの責任者だしね。

「え、なになに?」

 ドアから顔だけ出して、わたしも驚いた。他の女子も寄って来る。

 介添え役で出る男子のコスがマチマチだ。

 総理大臣と同じ燕尾服もあれば、紋付袴のもあるし、宝塚の男役みたいな白やらシルバーのタキシードみたいなのもある。べつに新総理みたくだらしないというわけじゃない。サポートに来てくれている式場スタッフのおかげで馬子にも衣裳。

 でもね。

 男どもは分かってないけど、燕尾服以外は全部花婿のコスだ!

 ウワア! キャー!

「ええと、なんかまずいのか?」

 委員長の高峰君がビシッと決めた羽織袴で首をかしげる。10円男の加藤高明も羽織袴で収まってやがる。

 式場も貸衣装屋さんも、地元高校の文化祭だし、赤口でヒマな日だし、面白そうだし、ノリノリでやってくれてる。

 こっちのイメージでは、男子は花嫁を花婿に引き渡す男親、あるいは仲人のおっさんという設定だった。

「いやあ、だってみんな若いんだもん、花婿になっちゃうわよ(^^♪」

 コーディネーターのMさんが笑顔でVサイン。

「じゃあ、あとは辻本さんとグッチだね」

 いよいよ自分の番だよ!


「え、なんでですか!?」


 いざ支度にとりかかると、ただ一人和服の花嫁衣裳にしてたたみ子のサイズが合わない。

「ああ、あたしノッポだからなあ(^_^;)」

 で、数とサイズに余裕のあるウェディングに変更した。

 そして、その花嫁衣裳がわたしに回ってきた!

 本格的にやると、カツラや化粧で大変なんだけど、そこは文化祭のイベントなんで略式。

 いちおう白塗りにして紅をさす。カツラは着けないで、髪をバレッタでまとめる。

 アハ( ´艸`)

 なんだか、フランスのパントマイムの人みたいで笑ってしまう。

 そして、髪をバレッタでまとめて、角隠しに綿帽子を着けると


 なんということでしょう! 驚異のビフォーアフター!


 うわああああ((((((( ゚Д゚)))))))!


 みんなもわたしもビックリ! 三国一の花嫁の姿が家庭科から借りて来た姿見に映っていた!

『ただいまより、2年3組全員によります取り組み【ウェディングパラダイス】を本館南の斜面にて行います』


 放送部のアナウンスが入っていよいよ本番!


 タ~ンタ~カタンタンタンタン♪

 タイアップした吹部がウェディングマーチを奏で、2年3組のみんなは保健室から伸びたバージンロードをカップルで進んで行く。

 ピカ! ピカピカ!

 演劇部の牧内さんが、あちこちに仕込んだスポットライトを後輩部員といっしょに操作してくれる。

 カシャ カシャカシャカシャ!

 あちこちで写真のシャッターが切られる。直美さんは『報道』の腕章とかつけて、堂々と真ん前から撮ってるし、うわさを聞き付けたのか、日ごろは顔を見せない校長先生やらPTAの会長やらもカメラもってしゃがんでるし(#^_^#)。

 かわいい! きれい! お嫁さんだぁ! 日本一! 世界一!

 いろんな声やら溜息やら(^_^;)

 うわああああ(# ゚Д゚#)!

 ひときわ大きな歓声というかため息が漏れる……て、みんなの視線がみんなわたしのほうに来てるんですけど(# ゚Д゚#)!

 お似合いねえ(n*´ω`*n)! お似合いだわあ(#^〇^#)! すてきだわぁ(#^◇^#)!

 PTAのおばさんたちがちょっとちがう歓声やら感想やら……お、おい、10円男! 顔赤くするんじゃねえよ!

 なんだか、自然の流れで、わたしと10円男がセンターに来てしまって主役みたいになってきた。

 あ、ええと……(;'∀')

 綿帽子の中で焦っていると、グラウンドの方から人が上がって来る気配。

 気配は、子どものように一段一段刻むように上がって来る……これは、神主や巫女さんが拝殿とかの階(きざはし)を上がる時の所作……と思ったら、スセリヒメの御神楽さん!

 いつもの巫女服の上に羽衣みたいなのを羽織って幣とかも持ってるし。

「かけまくも かしこき大神のお前にかしこみかしこみ申さくぅ……」

 結婚式で神主さんがあげる祝詞みたいなのを唱え始める……式場じゃ、このあと固めの杯……と思ったら、幣を持ち替えたスセリヒメは三方に載せた盃をささげる!

 え、まあイベントなんだからと盃を手にする。すると、今度は水引の付いた銚子でお神酒を注いでくれる。

 勢いというか流れのままに……これって三々九度なんですけど。

 溜息やらシャッターやら拍手やらが沸き起こると、これも式場でお馴染みのアレが聞こえてくる。

 高砂やぁ~この浦舟に帆を上げてぇ~月もろともに出で潮のぉ~

 高砂がフェードダウンしてくると、たまにキリスト教式でやる時の牧師さんが現われて「それでは、滞りなく式もお開きとなりますので、ブーケトスの儀を執り行います。新婦のみなさん、ブーケをお持ちになって後ろをむいてくださ~い(^▽^)」

 いつの間にか、女子は全員ブーケを持っていた。

「それでは、ワン……ツー……スリー!」

 エイ! トー! ヤー! ソレ!

 好き好きに掛け声と共に24個のブーケが宙を飛び、グラウンドの半分を埋め尽くした生徒やらお客さんやらが歓声を上げながらブーケを取り合う。

 吹部が仕込んだのか、チャペルの鐘が鳴り響いて、学校は文字通りのウェディングになった!



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!21『知井子の悩み・11』

2024-10-05 07:31:00 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
21『知井子の悩み・11』 




「浅野さんと桜井(知井子)さんには驚きました! いいものを見せていただきました、ありがとう!」


 大石クララの賛辞は本物だった。その証拠にマユへの誉め言葉は、一つも無かったぜ(^_^;)。

「ありが……」

 拓美の返事が完全に言い終える前に、クララは続けた。

「浅野さんのパフォーマンスは特にすごかった! 全身全霊で唄って踊って……なんだか、もし世の中に天使がいるんだとしたら、こんな風なんだろうなあって思ったわ!」

――天使って、そんなにいいもんじゃねえぞ(おちこぼれ天使の雅部利恵のドヤ顔が浮かんだ)と、思いつつ、マユはクララの素直な感動はよく分かったぞ。

「う~ん……天使じゃ言い足りないわね」

 いい感想だ(雅部利恵のドヤ顔がズッコケた)。

「天使みたいという点じゃ、桜井さんも同じ。浅野さんのは……なんてのかな。命賭けてますってのか、ここまでできたら死んでもいいや! そんなスゴミ感じちゃった!」

――おお、するどい! 本人も、そう思ってやったんだぜ!――

 拓美は、すごく嬉しそう。この世から消える直前、それも数時間後には誰の記憶にも残らねえパフォーマンス。それを、心から感動してくれる大石クララ。いま出会ったばかりなのに、何年も付き合った心の友のように思えて、メアドの交換までやってしやがった。

――やれやれ、これで消去しなければならないものが一つ増えちまったじゃねえか――


 長引いた審査も、昼食後三十分ほどしてようやく終わりやがった。


 審査員の心を読まないように苦労したぜ。読まないようにしていても、審査員の興奮はダイレクトにマユの心に伝わってきやがる。新聞の号外を目の前に広げられて、見出しを読まないぐらいの苦労がいったぜ。

「マユ、なにブツブツ言ってのよ」

 知井子が、面白そうに聞いてきやがった。

 マユは無意識のうちにダンテの「神曲」を暗誦していたんだ。

 ダンテの「神曲」は、小悪魔学校二年の必修で、暗記しなきゃならねえんだ。マユは、この暗記が大嫌いでよ、自分から進んで暗誦したことなどなかった。それを無意識に唱えちまうんだから、マユの緊張もかなりのもんだったんだぜ。

 で、マユは感じたんだ……審査員長の心に迷いがあることを……。

「では、審査結果を発表します。長橋さん、よろしく」

 名目上の審査委員長が、先輩アイドルユニットのリーダーを促した。

「はい、では、発表いたします。HIKARIプロ新ユニット合格者十六名の方々の受験番号とお名前を……」
 
 長橋みなみが全十六名の名前を読み上げると、感激と落胆のオーラが等量に感じられた。それはメチャクチャ強くってよ、頭が痛くなって、マユ思わずしゃがみこんじまった!

「マユ、しっかりしてよ。マユも、わたしも、拓美ちゃんも、さっきのクララちゃんも合格だわよ!」

「え……わたしまで」

 視線を感じた、その視線にはメッセージが籠められていた。


――いま、いまよ! この幸せの絶頂でわたしを送って!――


 向けた視線の方角に拓美の泣き笑いの顔があった。想いは残ったけどよ、これを外したらきっかけを失う! 

 今だ!

 ここにいる全員の記憶を消去するために、両手を後ろに回して悪魔クロスを作り、マユは密かに呪文を唱えた始めたぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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連載戯曲・クララ ハイジを待ちながら・2・クララのいたずら

2024-10-04 14:19:29 | 戯曲
クララ  ハイジを待ちながら    

大橋むつお 
 
※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます




2 クララのいたずら

時   ある日
所     クララの部屋
人物    クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)


クララ:聞こえちゃった……でしょうね。聞いちゃったもの仕方ないわよね……そう、わたしはクララ・ゼーゼマンよ……え、知らない!?(ズッコケる) 
 あなた、『アルプスの少女ハイジ』知らないの? ハイジは知ってるけど、クララは知らない……って? 
 ほら、ハイジがフランクフルトの街でゼーゼマンて、わたしんちだけど、そこにわたしの話し相手にって連れてこられて……そうそう、ハイジが夢遊病になったり、ペーターのお祖母さんに白いパンを持って行こうとして叱られたり、わたしが『七匹の子ヤギ』の話で、ハイジを慰めたり……うん、ハイジにアルムの山に連れて行ってもらって、歩けるようになった……なんだ、知ってるんじゃないの。
 え……でも、その子がクララだってことは忘れてた? ううん、いいのよ、わたしって脇役だものね……でもね、あなたも引きこもってるんなら、もうちょっと勉強したほうがいいわよ。
 だって、時間は腐るほどあるけど、人生の長さって、引きこもっていようが、ハイジみたいに飛び回っていようが変わりはないんだからさ。本くらい読みなさいよ。
 図書館くらいいけるでしょ……え、コンビニには行くけど図書館なんか行ったことない……図書館って税金で出来てるんだから、行って少しは取り戻さなきゃ損よ……税金なんて払ってない? 
 そんなことないわよ。あなたが使ってるパソコンだとかネットの使用料だとか、スマホとかパケットとか、それこそ着てる服とか、吸ってる空気にだって税金かかってるんだから……ごめん、責めてるつもりじゃないのよ。
 わたしって銀行員の娘だから、そういうとこシビアなの(本をとりにいく)ほら、これなんかいいわよ『西の魔女が死んだ』わたしたちと同じ引きこもりの子の本なんだけど、とても……なんてのかなぁ、ファンタジーなの。
 最後なんか泣けちゃって、ジーンときちゃって……だめだめ、中味は自分で読みなさい。検索しなさいよ、どこの図書館にもあるわよ(かすかに電話の鳴る音)
 あ、それから、赤川次郎。これもいいわよ。ちょっとブルーな時でも軽く読めちゃって元気でるから。『三毛猫ホームズシリーズ』とか『三姉妹探偵団シリーズ』とか、古いとこじゃ、『探偵物語』『セーラー服と機関銃』とかおすすめよ。『シリーズ』なんかもいいわよ。年に一回出るんだけど、主人公が毎年歳をとっていくの。爽香が十五歳で始まって、今は四十前後……

 え、電話? 

 ハハハ……あれ鳴りやまないの。ちょっとね……それからね……(本を探す)えーと……これこれ、谷崎潤一郎、ちょっとハマっちゃったけど、出てくる女の人みんなマゾなんだもんね。たまに行った学校で「好き」って言ったら、みんなにどん引きされちゃった。
 え、アナタも知らない……じゃあ、これなんかどう『魔女の宅急便』。ううん、アニメじゃないの、原作よ原作。角野栄子さんの本でね、全六巻あるの。キキが結婚して子供たちが、旅立つまで、二十四年もかかってんの。なんか、爽香シリーズに似てるでしょ。もっとすごいの、エド・マクベインの八十七分署シリーズ。五十年も続いたのよ……う~ん、イマイチ……じゃあ『ワンピース』のお話でも……。

ロッテンマイヤー:お嬢様ですね、このいたずらは!?

クララ:さすが、ロッテンマイヤーさん。もう気がついた!?

ロッテンマイヤー:二回もひっかかりませんよ!

クララ:え、わたしって、もうやっちゃってたっけ?

ロッテンマイヤー:ええ、三カ月と三日前。

クララ:よく覚えてたわね?

ロッテンマイヤー:ええ、わたしの誕生日でしたから。

クララ:ああ、五十歳の……。

ロッテンマイヤー:いいえ四十九歳でございます!

クララ:同じようなもんじゃない。

ロッテンマイヤー:いいえ、ものごとは正確に記憶しなければなりません。

クララ:はいはい。

ロッテンマイヤー:「はい」のお返事は一回でけっこうでございます。

クララ:は~い。

ロッテンマイヤー:お嬢様!

クララ:はい!

ロッテンマイヤー:あ、そうそう、今のお電話、お父様からでございました。

クララ:え、お父様!?

ロッテンマイヤー:お客様がおいでになるけれど、ハイジとか、お友達が来られたら、遠慮せずに遊びにいきなさいって、おっしゃっておいででした。

クララ:はい。

ロッテンマイヤー:わたしも、そう望んでおりますので。では。

クララ:はい……はい(モニターに向かって)?……え、今のいたずらアナタも覚えてた? わたし、話したんだっけ?
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馬鹿に付ける薬 019・ヒュドラを討つ・4『ケルベロス・1』

2024-10-04 12:15:11 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
018:ヒュドラを討つ・4『ケルベロス・1』 




 グガアアアア!

 三人が身構えると同時にケルベロスは飛びかかってきた!

 三つの首は跳躍するまでは、それぞれ三人を睨み据えていたが、跳躍の頂点に差し掛かったときは揃ってメイジのベロナに牙を剥いて襲い掛かった。

 ズサ! ビシ! ハッ!

 プルートの斬撃! アルテミスの弓! ベロナのホーリーブレス!

 三つが同時にヒット! ケルベロスはすんでのところで身を躱し右の薮の中に逃げ込む。

「まだ来るぞ!」

 プルートが叫び、ベロナもアルテミスも得物を構え直す。

「思ったほど強い攻撃じゃなかったわ(;'∀')」

「あたしの矢もちゃんと突き立ったぞ(;'▭')」

「来るぞ!」

 グガアアアア! 

 ズサ! ビシ! ハッ!

 二撃目も危なかったが、自分たちの反撃に手ごたえを感じる三人。

 ザザザザザザザ ザザザザザザザ ザザザザザザザ

 三度薮の中を右に左に駆けまわるケルベロス! その後、三度、合計五回の攻撃をしてくるが、三人の冒険服に爪がかかる程度で、一つもまともにはヒットしていない。
 加えて冒険者三人は、防御にも攻撃にも慣れて、次の攻撃ではケルベロスに致命傷を与えられる気がした。

「くそぉ……」「もう一回……」「ちょっと待て……」

 微妙に異なるテンションの呟きがして、十数メートルの距離を開けて三つ頭の犬が姿を現した。微妙に息が上がって、たぎらせている闘気はハッタリのように感じられる。

「なんだ、もうおしまいかぁ……」

 そう言いながらも、大剣を中段に構え直すプルート。ベロナもアルテミスもそれに倣って弓と杖を構えた。

「待て待てぇ」「やるか!」「逸るな!」「痛い、勝手に首振るな!」「なにを!」「こっち見んな!」「まあまあ」「なあなあで済ますな!」「なあなあじゃねえ、まあまあって言ったんだ」「なにを!」

 三つの頭はさらに意見が合わなくなってきて、頭同士でもめ始める。

「あはは……ほっといて先に行きますか(^_^;)」

「そうだな、こんなのを相手にしても仕方がない」

「リンゴの匂いが強くなってきたし」


 さらに森の奥を進むと、やがて下草を刈って手入れの行き届いたリンゴ畑が見えてきた。


「おや?」

 リンゴ畑はテニスコート三面分ほどの広さがあって、数十本の普通のリンゴの木に取り囲まれて倍ほどの高さのが青々と葉を茂らせていた。

「あの大きいのが黄金のリンゴの木だ」

「でも、プルート、実がなっていないぞ」

「他のは、ちゃんと赤い実を付けているのに」

「おかしい、夕べ偵察した時にはちゃんと実がなっていたんだぞ。それに……」

 プルートが言うまでもなく、ベロナとアルテミスにも分かった。

 禁断の森の主、百の首を持つ蛇の化物ヒュドラの姿が見えないのだ。

「あいつ、ひょっとして早く目が覚めてしまったか……」

 そう言って、プルートは剣を抜き、ベロナとアルテミスも半身に構えてヒュドラの襲撃に備えるのだった。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
  
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!20『知井子の悩み・10』

2024-10-04 09:20:28 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
20『知井子の悩み・10』 




 オーディションは審査に入って、受験者たちは控え室にもどったぞ。


 この審査が長引きやがる。

 オーディション終了直後は静かな興奮だったぜ。

 化粧前に座ってボ-っとしてるやつ。スマホや携帯を出して親や友だちに連絡を入れるやつ。やたらにスポーツドリンクを飲み始めるやつ。
 色々だけど、みんなどこかで、知井子と拓美を意識してやがる。話しかけてくるやつやジッと見たりってことはねえけど、みんな――あの子たちすごかったね――って思ってやがる。

 学年の始まりにルリ子が目立ちやがったのに似てるけど、あいつは性格悪そうで、ビビられたり敬遠されてだった。

 利恵も絶世の美少女だから、こんな感じで注目されてたけど、あいつは天使だ。「天使のままの姿形は反則だろが!」って言ってやったら「神さまは、あるがままであることを尊ばれるのよ」って涼しい顔で返して来やがった。まあ、ブスも美人も三日で慣れるって言葉の通りだったけどよ。

 知井子と拓美はミテクレじゃなくて、スキルとかタレント性だ。そんで、芸能界っちゅうかアイドルの世界は競争だからな、もし受かったら、ずっとこんな視線の中にいることになるんだ。てえへんだろうなと思ったぜ。

 でもよ、当の本人の知井子と拓美は気づいてねえ。全力を出し切って、呆然としてやがる。

 まあ、こういう景色も面白れぇもんだ。

 けどよ、ちょっと気にかかった。

 ここに来てから魔法の使いっぱなし。時間を限ってだけど拓美に命を与えたりしたのは、もう完全にA級魔法だぜ。

 でも、カチューシャが締め付けてくることもねえし、デーモン先生の文句も聞こえてこねえ。

 ちょっとヤバくねえかぁ?

 そのとき、戒めのカチューシャから、マユの頭の中にメッセージが入ってきた。

――黒きことは白きこと、白きことは黒きこと――

 え?

 声はルシファー。悪魔の親分でマユを人間界に落とした張本人。普段はサタンていうんだけど、たまにルシファーの名前で現れやがる。べつに名札とかIDとかが付いてるわけじゃねえ。出てきた瞬間のイメージでそう思っちまう。ちょっと難儀な魔界のボスで悪魔学院の校長でもありやがる。

「ありがとう、気持ちよく唄えたわ。もう思い残すこともない……送ってくれてもいいわよ」

 拓美が、目を潤ませ、しかし、しっかり覚悟のできた声で、横顔のまま言ってきやがる。

「わたしは半日って言ったのよ。まだ時間は十分あるわ、審査結果を聞いてからでいいわよ」

「う、うん……ありがと」

 うつむいた拓美の表情は分からなかったけど、膝に落ちた涙で、気持ちは分かった。

 知井子が、そっとハンカチを差し出しやがった。


 ノックがして、スタッフのオニイサンが入ってきた。


 ( ゚Д゚)!!


 それだけで控え室のみんなの神経は尖って、女の子たちの視線がオニイサンに集中したぜ。

「あ、あのぉ、お弁当なんだけど、ちょっと待ってて……審査発表まで、ちょっと時間かかるんで」

 お弁当は人数分しかねえ。つまり、本来は居ないはずの拓美の分で足りなくなってしまって、オニイサンは微妙にパニック。

 廊下にキャスターに載せられたお弁当の山が感じられた。

 お弁当は段ボールの箱に入ってるけど、パッケージは白のと黒のとがあって――白と黒がありますが、中身は同じです――ってメモが付いている。大量注文だったんで、パッケージが間に合わなかったんだ。

 で、まじめなオニイサンは配る前に数えたら一個足りねえことに気が付いた。それでアタフタしてるわけだ。

「お弁当のパッケージが白と黒があるけど、審査の当落とはぜんぜん関係ありません。お弁当屋さんのパッケージが切れただけで……あ、切れたって、あ、そういう意味じゃなくて(;゚Д゚)、とにかく、もうちょっと待っててください」

 オニイサンの慌てぶりに、みんなから笑いが起こる。

 マユは、急いで魔法をかけた。

 廊下のお弁当に魔法をかけ、足りなくなったお弁当の一つを二つにした。見かけだけを二つにしたので、味は半分になっている。食べたやつは、自分が味覚障害になったかと思うだろう。並の悪魔なら、全部のお弁当のエッセンスから均等に取って一個のお弁当を作る。マユはまだまだおちこぼれ、イタシカタナイ……。

 オニイサンは先輩のスタッフを連れてきて「もう一回数えてみよう」ということになって、二度数え直しても「ちゃんとあるじゃないか」ということになって、無事にお弁当が配られた。

 餌が配られて、控え室のみんなはやっと年頃の女の子らしくなってきたぜ。

 あちこちにグル-プができて、年齢にふさわしい賑やかさになってきた。マユは、知井子と拓美と三人でお弁当を食べたぞ。
 その三人の小グル-プの中でも、知井子はお喋りの中心になった。マユはホッと胸をなでおろし、知井子は、この数か月で伸びた身長以上に大きく頼もしくなったような気がしたぜ。

 お弁当を食べ終えるのを見計らっていたのか、一人の女の子が近寄ってきた。

 胸には受験番号①のプレートが付いていた。

「わたし、大石クララって言います……」

 その子は、見かけの可愛さの裏に、男らしいと言っても良いような清々しい心映えを感じさせたぞ

 大石クララが、ペコリと頭を下げた。

――不味い!  なんだよ、この味のうすさは!――
 
 同時に、味半分のお弁当を口にしたスタッフの思念が飛び込んできて、ちょっと慌てたマユだったぜ。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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連載戯曲・クララ ハイジを待ちながら・1 クララの秘密

2024-10-03 17:18:21 | 戯曲
クララ  ハイジを待ちながら    

大橋むつお 
 
※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます




1 クララの秘密

時   ある日
所     クララの部屋
人物  クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)



 ヨーデル明るく流れる中、幕が上がる。中央にクララの椅子。あとの道具は全て無対象。クララがヨーデルに合わせ鼻歌を口ずさみながら取り散らかした衣装を片づけている。やがて点けっぱなしにしていたパソコンのモニターの大画面(客席)に気づく。


クララ:あ、点けっぱなし(スイッチを切ろうとして)あ、そっちも点けてたのね。やだぁ、わたしってこんなに散らかしっぱなしで……え、アナタも似たようなものなの? カメラ回してよ……アハハ、ほんとだあ。似たもの同士ね。もう一カ月……え、三週間? まだそんなものかなあ……「ニコプンサイト」で知り合ってぇ、チャット始めてぇ、すぐにボイチャ。カメラ付けたのは三日前……かな?(この間、ノックの音が数回するが、クララは気づかない)


 このとき下手からメイド服のシャルロッテがやってくる。


シャルロッテ:失礼します、お嬢さま……あ、お手伝いいたしましょうか?


クララ:あ、いいのよいいのよ、いつもこうなんだから。

シャルロッテ:でも……あ、チャットやってらしたんですか?

クララ:ああ! ナイショナイショ!

シャルロッテ:あ、はい。はいです……フフフ。

クララ:フフフ……ま、見られたんじゃ、しようがないか。あ、この子、先週うちにやってきたばかりのシャルちゃん。メイド服、初々しいでしょ!

シャルロッテ:(モニターに向かって)あ、えと……わ、わたし、先週からここでお世話になっている新入りのメイドです。お嬢さまはシャルって縮めておっしゃいますけど。い、いちおう、そういうことでご承知おきくださいませ。

クララ:ほんとはシャルロッテさん。

シャルロッテ:あ……。

クララ:で、シャルちゃん。わたし、ちゃんと人には敬称つけるんだからね。よくお笑いタレントさんたちのことを呼び捨てにする人いるけど、わたしはキライよ。人を粗末にすることは自分も粗末にすることなんですもんね。クララの人生リテラシー!

シャルロッテ:あ、あの、お嬢さま、チャットでリアルネームは……。

クララ:わたし、きちんとしたいの。むろん相手によりけりよ。この人は信じていい人。だから、リアルネーム。でもむろんファミリーネームは非公開。住所とかもね、わたし個人の信条でやってることだから。

シャルロッテ:この方のハンドルネームはぁ?

クララ:アナタ。

シャルロッテ:アナタ?

クララ:穴ぼこの穴に田んぼの田。

シャルロッテ:アハハ、おもしろいハンドルネームですね。

クララ:ウソウソ、普通の三人称のアナタ。わたしがそう決めたの。ほんとは別のハンドルネーム使ってらしたんだけど。わたしが、そう提案したの。もう元のハンドルネーム忘れちゃった……いいのよ。今さら言ってもらわなくても。もし、いつかリアルネーム教えてもらえたら、そのときはね。

ロッテンマイヤー:(声) シャルロッテ、お嬢様のおじゃまをしてはいけません。

シャルロッテ:はい、ロッテン……。

ロッテンマイヤー:どうかしたの?

シャルロッテ:いいえ、すぐにまいります。

ロッテンマイヤー:そうしてちょうだい。今夜は旦那様がお客様をお連れになってこられるんだから、ゼーゼマン家として恥ずかしくない準備をしなくてはならないんですからね。

二人:あ……!

ロッテンマイヤー:ゼーゼマン家は、この街でも由緒正しい……なにかございまして、お嬢様?

クララ:ううん、なんでも(シャルロッテをインタホンから遠ざけて)チャイルドロック外して、チャットやってんのはロッテンマイヤーさんにはナイショだからね。

シャルロッテ:はい、承知しました。

クララ:あの人に知られたら、お父様には百倍くらいに誇張して言いつけられちゃうから。バレたら、クララはパソコン取り上げられるし、シャルちゃんはここに居られないかもよ。

シャルロッテ:は、はい、お嬢さま!

ロッテンマイヤー:シャルロッテ!

シャルロッテ:はい。今まいります! じゃ、お嬢さま。わたしで役に立つことがございましたら、いつでもどうぞ(モニターに)アナタ様も、お嬢さまのことどうぞよろしく。で、さっきのおばさんの声は聞こえなかったってことで……(下手に去る)
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銀河太平記・251『ペシペシと頬を叩く劉宏』

2024-10-03 11:26:50 | 小説4
・251

『ペシペシと頬を叩く劉宏』 劉宏元帥 




 青銅の騎士は超小型の核融合エンジンを動力とし、チタン合金の装甲で全身を覆ったロボット騎兵だ。

 二十三世紀の今日、兵器に限らず、世界の動力はパルスエンジンが標準なのだが、ロシアは艦船や大型の航空機以外は核融合エンジンに頼っている。
 小型化などの技術が未発達なのだ。民生品は輸入のパルスエンジンを使っているが、軍用品には使えない。輸入品はどこで外国の軍隊や諜報機関と結びついているか分からず、情報が筒抜けで、いざというところでロシアの支配を離れてコントロールされてしまうかもしれない。また、アンチパルス化された空間ではパルスエンジンは使えない。

 我が漢明軍も同様なのだが、燃料はパルスバッテリーを使っている。エンジンではなく動力源なのでアンチパルスの影響を受けることも無く、ロシアのそれよりも出力は二倍から三倍になる。

 漢明軍が本気で乗りだせば、互角に戦えるロシア兵は青銅の騎士ぐらいしかいない。

 数において十分とは言えない青銅の騎士は、我が軍と渡り合えば、各個撃破される。じっさい、目の前でモンゴル騎兵がその身を犠牲にしながらも十騎あまりの青銅の騎士を撃破している。

 第二次大戦におけるドイツのタイガー戦車の運命に似ている。1対4までなら怖れる敵のいないタイガーだが、連合軍は5両以上の戦車で対処することでタイガーを仕留めていった。我が軍には、青銅の騎士を5騎以上で対処するだけの兵が準備されている。

 他にも厄介な問題がある。

 ロシアは、いざとなれば人の命など、たとえ自国民であっても考慮しない国なのだ。第二次大戦でロシア人は三千万も人命を失ったが政権が倒れることは無かった。

 ロシアは、いざとなれば無尽蔵と言っていい兵力を繰り出せる。

 どのように優れた兵器と優秀な軍隊を持つ国でも、ロシアと事を構えるのは二の足を踏む。

 ……どうも、こと軍事のことになると、劉宏の思考になってしまって王春華の姿には似つかわしくない言葉になってしまう(-_-;)。


 ペシペシ


 両手で頬を叩くと、近くの兵たちがクスリと笑う。

 テヘペロまではカマさないが、十分にクールダウンできた。

 と、肩の力を抜いたら、その努力を踏みにじる者が現れた。

「朱准将が突出していきます!」

 副官が叫んで、わたしは馬の上で跳びあがってしまった!

「胡盛媛中尉が追っております」

 だめだ、すぐに国境を超えてしまう!

「引き止めろ!」

 一声で十分。

 旅団長が手を挙げると、スイッチが入ったように前衛のうちの一個分隊が飛び出していく。

 しかし遅かった。

 分隊があと数十メートルというところで朱元尚は国境を跨いでしまい、次の瞬間には青銅の騎士を先頭に十数騎のロシア兵が二人に向かってきたのだ!



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!19『知井子の悩み・9』

2024-10-03 08:27:28 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
19『知井子の悩み・9』 




 グニュゥゥゥ……グニュ……グニュゥゥ……

 空間がマーブル模様にねじれて渦を巻いていやがるぜ!

 その渦の真ん中に向かって浅野拓美はゆっくりと落ちていきやがる。

 渦になっちまってるところはよく分からねえけど、外側はまだ完全に渦には成りきってねえ……よく見ると、それは拓美の十数年の思い出たちだ。

 今まで受けたオーディションの数々……「いいかげんにしろよ」と叱りながら、心の中では応援してくれていたお父さん……「残念だったわね」と、落ちたオーディションを慰めてくれた親友が、心の中ではせせら笑っていたこと……シカトするように何も言わない友だちが、痛々しそうに思って心を痛めていたこと……あるアイドルユニットのデビューに胸ときめかせ、人生の目標にした中学生だったころの拓美……音楽の実技テスト、思いがけず拍手をもらい、いい気になっている拓美……「拓美ちゃんすごい!」……先生もクラスメートも、この時は素直に喜んでくれていた……保育所の生活発表会、拓美は、音程の合わない子を懸命に教えていた。お母さんがお迎えに来ているのに、この子たちみんなと楽しく歌いたいと思っていた純な拓美……よちよち歩きだったころ、公園に連れていってもらい、吹く風に歌を感じ、まわらない舌で、そよぐお花といっしょに歌っていた……「ねえ、この子ったら、お歌、唄ってる!」「ほんとかよ!?」拓美を抱き上げて、心から嬉しそうにしている若いお母さんとお父さん……そこで、マーブル模様は渦のまま止まっちまった。

 渦の中心はほの暗く、台風の目のように揺らいでいる。

 多分あそこまでいけば、あっちの世界に行ってしまうんだろう……拓美は、そう感じて覚悟を決めた……でも、渦は、それ以上には動こうとはしねえ。


 おまえ、本当に唄うことが好きだったんだな。


 う……うん……


 渦に呑み込まれ、先の方しか見えてねえ右手の先が返事をするみてえにピクリとしたぜ。

 すると、急速にマーブル模様は逆回転しはじめ、あっと言う間に、もとの小会議室に戻っちまった。

「拓美……おまえ、歌を唄うために生まれてきたような子だったんだ……」

「うん……そうみたい……」

「でも、死んじまった」

「…………」

「……半日だけ、生きていることにしよう」

「え……」

 手にしたA4の白紙が本当の合格通知に変わった。

 ちょうど、えらそうな(でも、実はペーペーの)スタッフがヤケクソで配電盤に拳をくらわせやがったんで、その拍子で電源が戻ったことにした。

「え、お、オレの根性で電源戻ったってか!?」
 
「では、再開しまーす!」

 ディレクターの声がとんだ。

 ん?

 審査委員長のジジイは、受験者のファイルが微妙に厚くなったような気がしたけど、フロアーになだれ込んできた受験者どもの熱気ですぐに忘れちまった。

「審査は番号順ではなく、ランダムに出てきた番号で行います。いつ自分の番になってもいけるように」

 スタッフがそう言うと。ビンゴゲームのガラガラが出てきて、HIKARIプロの売り出し中のアイドルが、にこやかにガラガラを回しやがった。

「あの子の笑顔、小悪魔に見える……」

 知井子が呟いて、本物の小悪魔は思わず笑いそうになっちまったぜ。

 知井子は、びくびくしながらも「一番になれぇ!」と、思ってやがる。学校では見せたことがない闘争心だぜ。

「受験番号47番!」

 47は知井子の番号だ。

「え!?」

 ビックリはしたけども、知井子はおどおどとはしてねえ。

 知井子、大進歩だぞ!

 思わずこぶしを握るマユだったぜぇ(^_^;)。

 知井子は、オハコの「ギンガミチェック」を元気いっぱいに歌い上げやがった。振りはコピーじゃなくて、自分で考えたオリジナル。ちょっとタコ踊りみてえだけどイケテル……ここまでイケテルとは、マユは予想もしていなかったぜ。

 おあいそじゃねえ拍手を受けて、知井子はステージを降りた。

 次のやつは、知井子に呑まれちまった。といっても、ここまで勝ち進んできたやつだ、萎縮することはなかったけど、どこか力みすぎ、知井子みてえに自然なノリにはなってねえ。

 マユは、お付き合いのつもりで適当にやっておくつもりだった。

 けどよ、知井子が作った空気は、みんなに伝染しちまって、マユもつい本気になっちまったぞ(^〇^;)。


 そして、拓美の番がまわってきた。


 受験番号は現実には存在しねえ48番だ。


 マユは、改めて魔法をかけ直した。審査が終わったら、関係者一同の記憶、ビデオやパソコン、カメラの記録も消さなきゃならねえ……おちこぼれ小悪魔には、少し荷の重い魔法だぜ。

 拓美がステージに上がった。

 おおぉ…………

 審査員、受験者たち、フロアーに居た全員からため息がもれたぞ。

 あ、あれ( ゚Д゚)?

 思わず自分が魅力増進の魔法をかけちまったのかとビビっちまった。それほど拓美は輝いていたぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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せやさかい 番外・004『総集編・2・中割り』

2024-10-02 10:48:25 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
番外
004『総集編・2・中割り』さくら 




 アニメいうのは、ザックリいうと、監督の絵コンテから始まる。

 絵コンテいうのは、アニメのキャラクターの動きや構図なども含めてシーンごとにカット割りの絵にしたもの。

 これができてないと、ほかの作業がいっさいでけへん。

 大手は専業のコンテマンがいたりするけど、零細企業の江戸川アニメは監督が絵コンテを描く? 書く?

 A4の紙の左側が五つにコマワリされてて、そこにワンシーンずつのおおよその絵が描かれる。まあ、5コマ漫画みたいなもん。右側には、セリフとか注釈が書かれてて、 その絵コンテをもとにいろんな作業が始まるわけ。

 いろんな作業の始まりで、いちばん重要なんが原画。

 原画は……そう、たとえば人物がジャンプするシーンやったとする。原画マンは、①ジャンプする直前 ②ジャンプの途中 ③着地したとこ。最低この三つ。たいていは、その間にもう二コマほどの絵を入れて描く。

 原画マンには、ザックリした第一原画ときちんと描いた第二原画がある。まあ、ラフと清書いう感じやね。

 その第二原画が動画さんとこに周って、じっさいの撮影に使われる動画を描く。ジャンプが三コマとか五コマでは間に合えへんから、動画さんは原画の間を繋いで中割りと呼ばれる絵をたくさん描く。

 原画がええかげんやと、絵と絵の間がうまく繋がれへんで、場合によってはグチャグチャな作画崩壊ということになってしまう。

 ひどい場合は「中割が描けない!」っちゅうことで突き返されることがある。

 酒巻さんは、まさに、この突き返しにあったわけやねん。酒巻さんは第二原画やから、第一原画の里中智満子がヘボやったんやと思う。

 
 目玉焼きにかける醤油をとろうとしたら、醤油さしをくれながら留美ちゃんが言う。

「里中智満子って、酒巻さんの別名なんだって」

「え?」

「酒巻さん、第一原画も第二原画もやってたんだよ」

「そんなぁ」

 留美ちゃんは、夕べあれから江戸川の知り合いにスマホで連絡をとってたんや。分かれへんこと、心配なことにはソッコーで対応する。ズボラなうちにはでけへん能力の高さ。中学の頃は、しょっちゅう立ち止まってばっかりの子やったけど、どうも抜かされてしもたみたい(^_^;)。

「でも、今日からはよそから助っ人が入るみたいで、来週は総集編にしなくてすみそうだって」

「そうなんや……」

「あ、お醤油!」

「あ、あわわわ!」

 かけすぎた醤油はご飯にかけて、さっさと食べると、二人で学校に向かった。

 
 二人とも五日ぶりの学校。


 むろん出席日数が足りひんようなことはないけど、ちょっとね。

「がんばろうね」

 吊革につかまって、相棒は見透かしたように一人ごちる。

「第二原画みたいな登校しかできてないんだからね」

「せやなぁ、中割でけへんようなことにはならんように」

「気を付けようね」


 学校に着くと、教室のあちこちに島ができて盛り上がってる。


 え、なんやろ?

 横目で覗くと、みんなスマホの写真でキャーキャー言うてる。

 あ、せや。先週の金曜日は高校最後の遠足やったんや!

 せやさかい、みんな思い出をいっぱいつくってきたんや。

 そう気づいたら、ちょっとみんなの中には入っていきにくくなってしまう。

 ああ、中割がでけへん(^_^;)。

 しゃあない、自分の人生、原画も中割も自分でせんとあけへんしね。

 そんなウチに合わせてくれたわけやないんやろけど、窓から吹いてくる風は、まだ夏の匂いと熱を残してた。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 酒巻栞(原画) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)  相野千春(声優の先輩)
 
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!18『知井子の悩み・8』

2024-10-02 08:25:57 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
18『知井子の悩み・8』 




 浅野さんはうつむきやがったが、マユはたたみかけたぜ。

「あなたは、多分一次選考のあとで死んだの。あなたに自覚はないから、原因は分からない。でも、あなたのオーラは生きてる人間のそれじゃない。他の人には見えないけど、受験者が一人多いのに、さっき気づいたわ」

「それは他のだれかが間違えているのよ。スタッフかも知れない。わたし、こうやってちゃんと、二次合格の書類だって持っているもの」

「ん……ああ、やっぱり」

 浅野さんが手にした書類は、ただのA4の白紙のコピー用紙だった。


 エアコンの音だけが静かに際だったぜ。


「……これは、ただの白紙よ。浅野さんには、これが本当の合格通知に見えてるんだ」

「だ、だって、こんなに、はっきりと『二時選抜合格、浅野拓美様』って書いてあるじゃない」

「拓美、あなたは、死んだ自覚がないから、それに合わせた都合のいいものしか見えてないの。無いものだってあるように見えているだけ……」

「そんな……ありえない……(◎_◎;)」
 
 浅野拓美の目が怒りに燃えてきた。マユに本当のことを言われ、当惑が怒りに変わってきやがったんだ。

 ゴオオオオオオ! ガチャガチャガチャ!!

 部屋の中に風がおこり、机や椅子が動き出し、部屋の中はグチャグチャになった。

「ああ、こんなにしちまってぇ……」

「……わたしじゃない、わたしじゃないわ。わたしには、こんな力はないわよ」

「かなり重症だな。とりあえず片づけよ」

 マユが指を動かすと、部屋はあっと言う間に元の姿に戻った。

「あ、あなたって……やっぱり魔法少女?」

「悪魔だ! 小悪魔だけどな。もう一度、落ち着いて書類を見ろ」

「……は、白紙! あ、あなた、わたしの合格通知をどこへやったの、どうしたの!?」

「何もしてねえ、おめえにも、本当のことが見えてきたんだ」

 ガタ ガタガタガタ……

 再び、部屋のあらゆるものが揺るぎだし、照明がパチンと音を立てて割れた。マユは、照明が落ちた時点で拓美の霊力を封じたぜ。

「拓美に自覚はねえんだろうけど、そうやって、二次選考では、何人もの子たちに怪我をさせたんだ。だから、最初にスッタッフのおっさんが注意していただろ」

「わ、わたしは……」

「そう、そんなつもりも、自覚もねえ。人の演技を見て、スゴイと思ったら、無意識のうちにやっちまったんだ」

 それでも飲み込むこめねえで、頭を抱えてやがる。

「仕方ねえな……」

 ガラガラ!

 マユは、部屋の窓を景気よく開けると、拓美にオイデオイデをした。

「外に……?」

 窓ぎわに来た、マユは拓美の脚をヒョイとひっかけ、背中を押した。

「キャー!」

 悲鳴を残して、拓美は、はるか眼下のコンクリートの歩道に落ちていった。


「……わたし、いったい?」


 歩道で、怪我一つしないで佇んでいる自分に驚いてやがる。

「見てろぉ!」

 はるか上の窓から、口も動かしていないのに、マユの言葉が振ってき驚く拓美。

 そして、その直後、マユは頭を下にして、真っ逆さまに落ちてやった。地面につく直前に一回転して、体操の選手みてえな決めポーズで着地したぜ。

「す、すごい……すごい、超能力!」

「おめえだって、今やったじゃねえか。マユは悪魔だから、おめえは幽霊だから怪我一つしねえんだ。周りのやつらを見てみろ。だれも、マユ達に無関心だろ。女の子が二人立て続けに、あんな高いところから、落ちてきたのによ」

「どうして……」

「ほら、今、男がおめえの体をすり抜けていくぞ……」

 拓美は、「あ」と声を上げたが、かわす間もなく、男は彼女の体をすり抜けていった。

「あ、あの人って、幽霊?」

「幽霊はおめえだ!」

「で、でも……」

「まだ、分からねえ? じゃ、もっかい、あの部屋に戻ろう……入り口からじゃねえ。戻ると思えば、それでいい」

「え、あ……」

「さっさと思え!」

「は、はい!」

 一瞬で部屋に戻った。

「わたし、やっぱり……」

「やっと分かったかぁ(-_-;)」

 もとの部屋に戻って、拓美は萎れた朝顔みてえになっちまった。

「……一次選考のあと交通事故があった。わたしはすんでのところで……」

「助かったんじゃねえ、死んだんだ。可愛そうだけど、それが真実だ」

「……でも、わたし、このオーディションには受かりたい」

「そうやって、おめえが居れば、おめえは無意識のうちに、人に怪我を……いいや、今日は殺してしまうかもしれねえ。それだけ、おめえは危険な存在なんだ」

「……じゃ、どうすれば」

「もう、あっちの世界に行っちまえ」

「あっちって……?」

「死者の世界だ」


 拓美は目に大粒の涙を浮かべ、ようやく……コックリしやがった。

「マユが、送ってやるよ」

「うん。仕方……ないのよね」

「じゃ、いくぞ。目を閉じろ」

「うん……」

「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 全てを観念してひとまわり小さくなる拓美。その姿は、ハンパな小悪魔には、ちょっと心の痛む姿だったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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せやさかい 番外・003『総集編・1・総集編の変な訳』

2024-10-01 16:36:04 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
番外
003『総集編・1・総集編の変な訳』さくら 




『いまどき総集編なんだってね、だいじょうぶなのかい?』

 相野さんからメールが来た。

 相野さんといっしょにやらせてもろてる秋アニメ『オメシグ〔泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)〕』が二週連続で総集編になってしもた。

お祖父ちゃん:「なんや、いつのまに最終回やってんなあ?」

 オメシグのファンになってくれてるお祖父ちゃんが不思議な顔をする。

テイ兄ちゃん:「お祖父ちゃん、アニメの総集編いうのはなぁ……」

 そろそろ三十路やいうのに、若者文化にドップリのテイ兄ちゃんが説明する。

 お祖父ちゃんはNHKのドラマの感覚なんや。

 総集編いうのは番組がめでたく最終回を迎えて――あの感動をもう一度!――ちゅうノリで放送する特別番組。大河ドラマなんかは、総集編というだけで年末の気ぜわしさとお正月の予感がするめでたいもんや。

お祖父ちゃん:「ええ、放送に間に合わんから、しょーことなしにやってんのんか!?」

 うちもテイ兄ちゃんも「「あははは(^◇^;)」」と笑うしかないねんけど、お祖父ちゃんは、うちが主役の妹の役をやってるんで、ちゃんと観てくれる。ありがたい。


留美:「あれねぇ、動画さんからNGが出たんだって」


 遅くに帰ってきた留美ちゃんが報告してくれる。

 留美ちゃんは終電に間に合うようなら、たとえ明くる朝にとんぼ返りになっても家に帰って来る。オメシグにもちょっとだけ出てくれてるしね。

留美:「原画の酒巻さん、ちょっとひどいらしいよ」

さくら:「ええ、なんでえ?」

 オメシグは江戸川アニメが元請けの秋アニメ。なんか事情はよう分からへんねんけど、他の会社が請けられんようになって、江戸川が急きょ引き受けることになった作品。

留美:「コ▢ナからこっち、アニメって全話完納じゃない」

さくら:「ていうか、それしか知らんかった」

留美:「大人の事情で、社長が引き受けてきて、ムリクリ割り込ませたから無理が出てるっぽいよ」

さくら:「そうなんや……」

留美:「酒巻さんて、すごくていねいな仕事する人でしょ」

さくら:「ああ、うん……」

 声優の仕事をしてるのは江戸川アニメがあったればこそ。もとはと言えば先輩の百武真鈴(ももたけまりん)のたくらみやったけど。この仕事に生きがいを感じてるうちには、真鈴先輩は神さまだか悪魔だかのお使いで、江戸川アニメは第二の故郷っぽい。

 高校生やった(いまでも、まだ三年生やねんけど)わたしを、陰になり日向になって見守ってくれたのが江戸川の人たち。監督は、いたってどんぶり勘定やけど、それを支えているのがスタッフのみなさん。

 とくに酒巻さんは「ていねいにやっていたら、必ず見えてくるものがあるわよ」と、つい監督にのせられてやっつけの勢いで行こうとするのを諌めてくれはった。

留美:「絵コンテのあがりも遅かったんでしょうねぇ……」

 そう言いながら、タブレットにオメシグの公式サイトを出す留美ちゃん。監督を筆頭に数十人の名前がスクロールされていく。

さくら:「第一原画の里中智満子って、誰やのん?」

 偉大な少女漫画家と似すぎてる名前にひっかかる。所帯の小さい江戸川アニメ、ほぼ全員を知ってるうちには聞き慣れへん名前や。

 酒巻さんは第二原画なんで、第一原画さんが描いた第一原画に引っ張られてる。

 監督の遅筆がそもそもの原因やろねんけど、この第一原画にもちょっとむかついた。

 思わず伸ばした手ぇは虚しく空を掴む。

 ああ……空しく手ぇは空気をモフる。

 あれから二月……まだダミアロスには慣れへんさくらでした。


 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 酒巻栞(原画) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)  相野千春(声優の先輩)
 
 
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