大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!29『藪から棒』

2024-10-13 07:25:19 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
29『藪から棒』 




「とりあえず、その服なんとかしねえとなあ(^_^;)」

 エルフの王女レミは、マユの叫び声で着替えたばっかのフンワリワンピを吹き飛ばされて。取りあえず、そこら辺の落ち葉をかき集めて蓑虫みてえになってやがる。

「いいのよ、あの驚きっぷりで、あなたの魔力のスサマジサも分かったから」

「んでも、その格好じゃあんまりだろ。マユが魔法で服を出してやっから」

「アハハ、そうしてくれたら嬉しいんだけどね(^_^;)」

「あんまりファッションのセンスには自信ねえんだけどな……とりあえずファッション雑誌でも見て考えようよ」

 マユは、とりあえずローザンヌにあった最新号を出したぜ。

「このタンク付きトロピカルTシャツに花柄フレアースカート、ストローハット付きなんてどうだ?」

「……あの」

「じゃ、このゴスロリモテカワ系なんかどうだ。知井子ってやつがこんなの着てんだけどよ、あ、こっちのもいいかも……ん、どうかしたか?」

 レミは、じっとうつむいてやがる。

「……やっぱり、あなたを騙すことなんてできないわ」

「騙す……どういうことだ?」

「マユが、魔法で服を出してくれたら……もう契約成立ってことになるの」

「え……マユをハメようとしたのか!?」

「……うん」

 アホー

 鳴き声がしたかと思うと、上を飛んでたカラスが糞を落としやがってレミのホッペに命中させやがった。レミは、一瞬ドキリとしたけど、そんなに驚いてねえ。なんか間が抜けててマユはクスっと笑っちまった。

「…………」

「あぁ、ごめん笑ったりしてよ……」

 マユは、ティッシュを出して拭いてやろうとした。レミは、のけ反りやがる。

「なんだよお(`△`)」

「それもダメ……わたしのために何かしようとしたら、それも契約したことになる」

 アホーとカラスが、また鳴いた。

 シャクに障ったんで、カラスを石にしてやった。

 ポト

 カラスは「アホー」の「ホ」の口をしたまま落ちてきやがった。

「あ……それ、お父さんの監視用のカラス……ヤバイよ」

「ハァ、もういいよ」

「え……」

「とりあえず、レミの味方になってやんよ」

「ほ、ほんと( ゚Д゚)!?」

 思わず立ち上がるレミ。

 その勢いで、身にまとった落ち葉が、いっせいに落ちてスッポンポン。でも、それにも気づかないほどレミの驚きと喜びは大きいみてえだ。

 ちょっとクセのあるやつみてえだけど、悪い奴じゃなさそうだ。

「あぁ……とりあえず、その格好、なんとかしよう」

「……あ(;'∀')」

「えい……あれ?」

 とりあえず、ファッション誌最新号に載ってた服を着せたんだけど、服はタグが付いたままレミの前に置かれた状態だぜ。

「これ、着ちゃったら、もう後戻りできないよ……」

「いいから、早く……着ろって言ったら、さっさと着ろヽ(`Д´)ノ 」

「あ……ありがとう(;'∀')!」

 レミは、大急ぎで服を着やがる。

 そのとき、マユが木の葉を吹き飛ばして出来た半径10メートルほどの森の広場。その向こうの薮で人の気配がした。

「だれだ、そこに居やがるのは!?」
 
 マユは、レミを庇うように立ちふさがったぞ。


 薮から……棒みてえな男が現れやがった。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  

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連載戯曲・クララ ハイジを待ちながら・6・お嬢さま!

2024-10-12 17:52:16 | 戯曲
クララ  ハイジを待ちながら    

大橋むつお 
 
※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます




6 お嬢さま!

時   ある日
所     クララの部屋
人物    クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)




 明るい曲が流れ、クララはモニターのアナタとともに歌いながら踊る。踊り終えて、なぜか涙ぐむアナタとクララ。


クララ:ああ、おもしろかった。またやりましょうね。どうしたの、どうして泣いてるの?……え、わたしも……ほんと変ね、こんなに楽しいのに、こんなに友だちなのに……ちょっと暑い。

 こっちの窓も開けるわね……トドの雲もどこかにいっちゃったんでしょうね、方角から言えばこっちのほうなんだけど。

 ……あ、飛行船! 

 わあ、あんなに低くゆっくりと……シャルちゃん。ロッテンマイヤーさん。飛行船よ、飛行船! 

 テラスからお庭に出てみて。今、教会の上のあたりだから……あ、アナタには見えないわね(カメラの向きを変える)……どう、見えた? 

 ツェッペリンね……昔はもっと大きいのがあったそうよ……あれの何倍も大きいのが……追いかけてみたらって……うん、いつかはね……追いかけていって、きっと乗せてもらうわ。雲は流れて行ってカタチを変えてしまうけど、飛行船はカタチを変えないわ、検索したら、乗り方だってわかるし……それに、今日は大事なお友達が来るんだもん……え、なんか言った?……なんでもない……へんなの。

 ……飛行船、グルーっと街の空を一周するのね。まるで、わたしのことを待ってくれているみたい……。

 このとき陽気な口笛が聞こえる。

クララ:あの口笛……ハイジだわ!

 ……カメラもどすね、わたし着替えなきゃならないから。

 だって、この服はアルムで初めて立てたときに、ハイジとお揃えで買ってもらったままだもの。なにか新しい服でなくっちゃ……ハイジは、昔のままよ「わたしはアルプスの子です」って、全身で自己主張してるみたいな、トロコンハイジ。

ロッテンマイヤー:お嬢様。ハイジが、ハイジが来ましたよ!

クララ:わかってる、口笛が聞こえたわ。

ロッテンマイヤー:じゃ、お早く。

クララ:服を探してんの……。

ロッテンマイヤー:ハイジは忙しい子なんですから、お早く!

クララ:分かってるわ、ロッテンマイヤーさん!

 シャルロッテがやってくる。

シャルロッテ:お嬢さま、お手伝いいたしましょうか?

クララ:あ、ありがとう、適当にひっぱりだして見せてくれる。

シャルロッテ:……これなんか、いかがでしょう、シックなブルーでお嬢さまにぴったり。

クララ:ありがとう。でも、もすこし明るいものでなくっちゃ、ハイジに負けちゃうわ。

シャルロッテ:……じゃ、これは?

クララ:それじゃ郵便ポスト。

シャルロッテ:じゃ、こっち。

クララ:サンタクロースの孫じゃないのよ。

シャルロッテ:……じゃ、思い切ってこんなのは!?

クララ:いいけどナントカ48みたい、ちょっとセンスがね、わたし的じゃない。

シャルロッテ:じゃ、こっち!

クララ:いまいち!。

シャルロッテ:じゃ……思い切ってこんなの!

クララ:あ、ミリタリー。   

シャルロッテ お気に召しまして?

クララ:……でも、それって日本の自衛隊。専守防衛って、引きこもりのイメージ。

ロッテンマイヤー:お嬢様、ハイジ先に行きましたわよ。

シャルロッテ:お嬢さま!

クララ:大丈夫。わたしの家の前一本道だから、交差点につくまでに間に合えばいいの。

シャルロッテ:じゃ急ぎましょ!

クララ:うん!

シャルロッテ:これなんか……お嬢さま……?

クララ:……シャルちゃん、それ脱いで。

シャルロッテ:え?

クララ:クララの再出発! 一からやり直しますって気持ちでメイドのコスなんかいいと……思っちゃったぞ!

シャルロッテ:こんなの、昔のアキバですよぉ。

クララ:あんなマガイモノじゃない。だって、シャルちゃんは本物のメイドなんだもの。わたしメイドインクララになる。お脱ぎなさい!

シャルロッテ:お嬢さま……。

クララ:脱げぇ!

シャルロッテ:きゃー!

 クララ、シャルロッテを追いかけ回す。やがて捕まえて、シャルロッテに馬乗りになり、メイド服を脱がせようとする。

シャルロッテ:や、やめてくださいぃ……お嬢さまは、お嬢さまは、シャルロッテでもなく。ハイジ様でもなく。お嬢さまなんですから! クララ・ゼーゼマンでいらっしゃるんですから、クララ・ゼーゼマン!

クララ:わたし……クララ・ゼーゼマン……あ、ちょっとクラってきちゃった!

シャルロッテ:はい、クララでいらっしゃいます! なにもコスチュームなんかでごまかすことなんかありません!

クララ:そう、そうよね……クララはクララのままで!

シャルロッテ:はい、さようでございます。お嬢さまはお嬢さまであるままで!

クララ:ありがとうシャルちゃん。そうなんだ、簡単なことだったんだ。わたしはわたしのまんまで……ありがとう、このままで、あるがままのクララで行くわ! じゃあね!

 駆け去るクララ、ホッと胸をなで下ろすシャルロッテ。

シャルロッテ:ああ、やっと行ったぁ。

 クララ、駆け戻ってくる。

シャルロッテ:お嬢さま!?

クララ:髪の毛ぐらいかしていかなくっちゃね(鏡に向かって髪を梳かして)ごめん、後のことはお願いね!

シャルロッテ:はい、お嬢さま!

クララ:じゃ、行ってくるね、シャルちゃん。ロッテンマイヤーさんも、バーコードの彼氏によろしくっ!

 駆け去るクララ。しばし呆然のシャルロッテ。

ロッテンマイヤー:シャルロッテ!

シャルロッテ:行かれましたよ、今度こそ……。

ロッテンマイヤー:ああやって、時間をかせいでいらっしゃるのよ。ハイジが交差点まで行って行方が分からなくなるまで……そして「間に合わなかったわ」って戻ってきては、この繰り返し。

シャルロッテ:そんなことありません。さっきはセーラー服でしたけど、今度は……今度は、ご自分のまんまで出かけられましたから。ね、そう思われるでしょアナタ様も(片づけようとする)

ロッテンマイヤー:放っておきなさい、それくらいご自分でできるようにしていただきます!

シャルロッテ:だって……。

 窓の外、この家に向かって来る男に気づく。

シャルロッテ:あ、あのバーコード!……ちょっと、おじさーん! うちのロッテンマイヤーさんに御用ですかぁ!? え、通りかかっただけ? そんなこと言わないでぇ、ちょ、待って! ロッテンマイヤーさーん、バーコ……バルコニーの下に彼氏さんっすよ! 早くしないと行っちゃう!

ロッテンマイヤー:え、あ、ちょ、いま手が離せなくて、て、テーブルクロスとかね……(''◇'')ゞ

シャルロッテ:ああ、もう手がかかるなあ。おじさーん! そこらへん一周してから戻って来てぇ! あ、アナタ様も、コンビニに行くついでにお散歩とか(^▽^)。じゃ、切りますね。えと、パソコンはむずいなあ……これかぁ?

 陽気なテーマ曲カットイン。

シャルロッテ:あ、ちがったぁ! ああ、もうあとあと! ロッテンマイヤーさん、わたしやりますからあ!


 シャルロッテそでにハケ、テーマ曲流れるうちに幕。

 

※ 本作は無料上演である限り作者名「大橋むつお」を記していただければ自由に上演していただいてけっこうです。上演許可も取らなくてかまいません。チラシやパンフレット、中高生の場合はコンクール等で連盟に提出する書類等に作者名「大橋むつお」を明記してください。連盟から上演許可書を求められる場合はメッセージなどでご連絡ください。書類を返送用の封筒を同封のうえ送っていただければ必要事項を記入して返送いたします。
 大幅な脚色、たとえば、登場人物が増えるとか減るとか性別が変わるとか、劇中のエピソードや台詞が変わる時は脚色者を記していただければ幸いです。


 2024年10月 大橋むつお

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馬鹿に付ける薬 021・ヒュドラを討つ・6『ヒュドラ昇天』

2024-10-12 11:46:39 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
021:ヒュドラを討つ・6『ヒュドラ昇天』 




「どうやら俺たちが待っていたのはお前たちだったのかもしれねえ」

 意外なことを言う真ん中の首。

「待っていた? わたしたちをですか?」

「ああ、俺たちは『選ばれし勇者』を待って黄金のリンゴを渡すのが使命なんだ」

「「「…………」」」

 にわかには信じがたい冒険者たちはすぐには返事をしない。

「聞いてんのかぁ、お前たちに……」

 ドン

 プルートが大剣を地面に突いた。

「負け惜しみかぁ?」

「「んだとぉ!?」」

「まあまあ」

 二つの首が文句を言いかけるが、真ん中のが目で制して話を続ける。

「俺たちのケルベロス星座は、20世紀にヘラクレス座に取り込まれちまって、もう元気の出しようがねえんだ」

「あらぁ……」

「ケルベロス座なんて聞いたことも無いぞ」

「あああ……(=△=;)」

 アルテミスの一言に再び深いため息をつくケルベロス。しかし、それとわかる溜息は真ん中だけで、両側の首は、もうため息をつく元気さえない。

「ヘラクレス座と白鳥座の間にあったんだ。いまはヘラクレスの中に取り込まれてる」

 商店街のラーメン屋が一軒無くなったように言うプルート。

「まあ、そうだったんですか」

「ごめんな、簡単に言ってしまって」

「まあいい。まぁ、百聞は一見に如かずだ。これを見てくれ」

 ケルベロスが半円を描くように尻尾を振ると数十本のリンゴの木が消えて巨大なインスタントラーメンみたいなのが現れた。

「なんですか、これは?」

「ヒュドラだ、冒険者たち」

「「ええ( ゚Д゚)?」」

「ヒュドラ? 袋から出したばかりのインスタントラーメンみたいだぞ」

「そこのメイジ」

「はい?」

「その杖で叩いてみてくれないか」

「え、ええ」

 少しためらいのあるベロナだったが、蛇の首が見えるわけでもなく、ウロコさえないクネクネの塊は〇〇食品のロゴさえ入れればインスタントラーメンのディスプレイにしか見えず。小さく息を吸うと「エイ!」と掛け声をかけて杖を振るった。

 バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ……

「オオ!」「うわ!」「キャ!」

 崩れの中の方に、それとハッキリわかる蛇の首がゴロゴロと現れた。

「なるほど、首はぜんぶ中心に向かっていたんだな」

「たぶん……」

 ケルベロスが前足で首たちを掻き出すと、真ん中から百個以上の黄金のリンゴが現れた。

「ヒュドラのやつ、最後までリンゴには手を付けなかったんだなぁ」

 三つの首をうなだれさせるケルベロス。

「こいつらがリンゴの番人だったのは本当みたいだな」

「お祈りをさせてもらうわ」

 そう言うと、ベロナは頭の高さほどに浮き上がりヒュドラの欠片の山をグルリと回りながらゆっくりと昇魂の詠唱歌を口ずさむ。

 カケラたちはホロホロと儚く光り、空に昇っていった。


 しばらく欠片たちの昇天を見送る三人。


 最後の光が消えて地上に目を戻すと、ケルベロスの姿が消え、生まれて間もない子犬がスヤスヤと眠っていた。

 三人は黄金のリンゴを回収し、ベロナが子犬を抱き上げると――仕方ないあなあ――儂はしらんぞ――まあまあ――と呟きながら街道に戻って行った。



 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!28『そいつはレミってやつで……』

2024-10-12 07:36:18 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
28『そいつはレミってやつで……』 





「あなた、小悪魔のマユさんね」

「う……何者!?」

 こいつ、うちの制服は着てるけどにせもの……いや、人間でさえねえ!

「少し、お話がしたいの。いいかしら」

「こんなとこでかぁ?」

「時間はとらせないわ」

「……中庭にでも行こうぜ」

 廊下へのドアを開け……え、ドアはビクともしねえ!

「……なにをしやがった!?」

「ここからは出られないわ」

「ここ、あんまりお話とかする雰囲気じゃねえと思うんだけど」

「そうね、この時間帯、あまりロックもしておけないし」

「じゃあ、どこで……?」

「こっち」

 そいつが指差したのは、6番目の個室……。

「え……ここって、個室は5つのはず?」

「黙って、付いてきて」

 そいつが6番目のドアを開けると、他の個室と同じ便器があるだけだ。二人で入ると狭い。

「その便器のレバーを反対側に回して」

「マユが?」

「うん、わたしは、女子トイレ全体をロックするのに力を使っているから」

「しょうがねえなあ……ん? 動かねえぞ、反対側には」

「人間の力じゃね。小悪魔であることを思い出して……早く」

「もう……」

 マユが小悪魔の力を籠めると、ガクンと一瞬の抵抗があって、レバーが回った。

 ジャーーーーーゴボゴボゴボ!!

 勢いよく青い水が渦を巻いて流れだした。マユは一瞬トイレの洗浄剤かと思ったけどよ、水はすぐに青い霧状になって、個室を満たしはじめたぞ………個室の壁が消えて、空間が広がっていく。

 その時、廊下とのドアが開いた。

「なんだ、開くんじゃない。美紀ぃ、使えるよ!」

 この声はルリ子だ。

「よかったあ! 二階のトイレじゃ間に合わないとこ……ううう……漏れそう!」

 美紀は一番手前の個室に駆け込み、ルリ子は、洗面台の鏡を見ながら髪をとかした。すると、鏡に写っていた一番向こうの個室が一瞬揺らめいたように見えたぜ。

「え……錯覚?」


 青い霧が薄らいでいくと、鳥の声や木々のそよぐ音で、そこが森の中であることが分かったぜ。


「ああ、やっと落ち着ける……」

 そいつは、いつの間にかミニのフンワリしたワンピになっていて、まるで妖精のように見えた。

「さあ、自己紹介からしてもらおうか。取りあえず人間じゃなさそうなことだけは分かったけどな」

「ああ、ごめんなさい。わたし妖精のレミ」

「あ、ドアーフ?」

「ムウ、こう見えてもエルフの王女よ」

「エルフ……にしては、背が低い」

「そう、これが問題……」

「そういうことなら、お医者さんかエステか親父の王様にでも言うこったな」

「ムウ、これは、問題のほんの一つに過ぎないの。それにエルフはお医者さんにもかからないし、エステも関係なし。お父様には108人の王子と王女がいて、いちいち構ってらんないし」

「108人もか!? おめえは何番目なんだぁ?」

「そ、それは、いまは関係ない(>◇<)!」

「でぇ、小悪魔のマユになんの用?」

「あ、そう、用件言わなくっちゃね……その前に、ちょっと深呼吸させてね……」

「長い間、トイレに籠もってて息が詰まったかぁ?」

 マユの皮肉も無視して、レミは三回深呼吸をした。

「おまたせ。別にトイレのせいじゃないのよ。あそこはあのあたりで唯一のここへの出入り口だからしかたがないの。でもね、おちこぼれ天使がいるじゃない。雅部利恵って」

「ああ、おめえら、キリスト教の世界じゃ否定されてるんだったな」

「そうよ、ハリー・ポッタだって迫害うけるとこもあるんだから」

「唯一神だもんな」

「そこいくと、悪魔はキリストの世界でも認知されてるし、迫害されてるって点じゃ、わたしたちと同じでしょ。そいで、わたしたちは、いろいろ相談ぶったんだけどね。なんとかまとまるかなあと思ったら、決まりかけたとこで、文句いう奴が出てくるし、ティンカーベルなんかね……」

「ああ、グチは、また暇なときに聞いてやっから、用件を言え!」

「ああ、実はね……」

 レミは、マユの耳元で原稿用紙で1000枚分ぐらいの説明を数秒でしやがった。

「……分かったぁ?」

「ちょっと待て……」

 パソコン用語で言うと圧縮された状態でよ、解凍すんのに時間がかかる。

「スペック低いんじゃないのあなたの脳みそ ( ᯣ _ ᯣ )」

「うっせえ、気が散る」

「ムゥ」

 三分ほどしてやっと分かった……で、驚いた!

「……ええ、そんなあ!!!!」

 小の字がついても悪魔だ。本気で驚くと半径50メートルぐらいの木々の葉っぱを吹き飛ばすぐらいの迫力がある。着替えたばかりのレミのフンワリワンピは引きちぎられてふっとんじまったぜ。

 キャーーーーー(”>▭<”)!!

 レミは、大あわてで、そこいらの落ち葉を集めて体にまとい、蓑虫のようになっちまいやがった。

「で、どうかなあ、引き受けてもらえる(^_^;)?」

「ダメだ、マユには、そんな時間の余裕はねえ。なんたって……」

「おちこぼれぇ……」

「修行中だ!」

「はい、修行中」

「それに、マユには拓美って同居してる幽霊もいやがるし」

「あ、その人なら、眠ってもらってる。ほら、気配ないでしょ……?」

「え……ほんとだ」

「それに時間のこともノープロブレム。ここでの一年はそっちじゃ十秒ぐらいにしかならないから。ここは、パソコンのファイルみたいなところ、全てのことが圧縮されてんのよ(^▽^)」

 そう言うと、レミは腕を組んでニンマリと笑いやがった。

 これが、とんでもねえ物語のはじまりだったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  


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銀河太平記・253『アルルカン、松を自慢する』

2024-10-11 15:20:32 | 小説4
・253

『アルルカン、松を自慢する』 ツナカン 




 ご無沙汰してるっす。ツナカンっす。

 ほら、銀河一の賞金首、海賊アルルカンの手下で、海賊船ヒンメルの副長のツナカンっす。

 あ、読者のみなさんとは192『ココちゃんに決めてもらうっす!』以来っすから、ちょっと解説するっす。

 火星では病気が流行るわ戦争は起こるわヤバヤバなんで、カサギのアジトを畳んだっす。カサギのアジトは扶桑幕府のお目こぼしでやってきたんで、密かに頼まれてココちゃん、須磨宮心子内親王殿下を密かにお乗せしてプロキシマ・ケンタウリbって4光年先の星に向かってるとこっす。

 ヒンメルは全長1200m、基準排水量600万トンて巨大戦艦なんすけど、とんでもねえ船で速度が光速を超えるっす。プロキシマだって一か月足らずで着くっす。

「だぁからぁ、いいだろぉ」

 船長はダダをこねて冥王星で船を停めたっす。

 冥王星の陰にはあちこちから拾ったりかっぱらったりした船が、船長はコレクションって言ってるっすけど隠してあるっす。

 で、船長は、ナガトのレプリカとか持っていくってきかなかったんすけどねえ。松・竹・梅の駆逐艦を持っていくってことで納得させたっす。

「いちど見ておくぞ」

 微速で出航して、航海長操艦になると、すぐに艦尾のウェルドッグに行きやがったっす。

「ナガトは残念だったけど、戦時急造艦もカクカクしててかわいいからなあ(^_^;)」

 お供は自分とゲストのみなさんっす。

 ゲストがいっしょなのは、見せびらかしたいからっす。ナガトを連れて行けなくて残念無念なのを、駆逐艦松を自慢することでなだめたいからっす。ゲストもいい人たちだから、みんなニコニコついて来てくれるっす。

「ほら、艦首がダブル・カーブド・バウじゃなくて直線なのがいいだろぉ! なんか、幼稚園出たばっかりの子がピンピンに折り目の付いた制服着てるみたいだろ! ちっこいのにいっちょまえに四連装の魚雷発射管持ってるとこなんて、ピカピカの一年坊主が大きなランドセル背負ってるみたいでカワイイぞ!」

「 煙突とか細くって、ほんとうに一年生の手足みたいですね」

「そうだろそうだろ(^▽^)」

 ココちゃんは付き合いがうまいっす。

「しかし、艦橋が低くて小さいなあ」

 周恩雷がボソリと印象を言うと――言うと思ったわ――って感じで指をチッチッチとワイプさせるっす。

「チッチッチ、中に入ってみるとな、航海用の装具は特型の駆逐艦よりも優れていて、船団護衛とかには心配りがされていてだなあ……」

 ラッタルを上がって甲板に向かうと、艦橋のてっぺんから誰かが飛び降りてきたっす!

「なにやつ!?」

 さすがにゲストを庇って、そいつに立ちふさがる船長! 自分も腰の拳銃を抜いたっす!

「おいおい、オレだよオレ(^_^;)」

 お道化てホールドアップするのは、船長のライバル、目の上のタンコブ!

「き、貴様ぁ、ファルコンZのマーク船長(;・`д・´)!」

 ニクソゲに言いながら、どこか嬉しそうな船長だったっす(^_^;)



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 重要事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!27『同居はやりにくいぜ』

2024-10-11 08:11:29 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
27『同居はやりにくいぜ』 




「よく食べるわね……」


 里衣紗の声が降ってきた。

 目を上げると、里衣紗と沙耶が並んで立ってやがる。

「おめえたちだって」

 里衣紗と沙耶は、食堂特製のフライドポテトを持って、ホチクリ食べてやがる。校内で立ち食いは禁止なんだけどよ、昼時の学食とかカフェテラスは例外。その昔はよ、たとえ学食内でも禁止だったらしい。

「あたしたち、Bランチと、これだけだよ」

 沙耶に言われて、マユは自分のテーブルに目を落とした。

 A定食(B定食に、ぶっといトンカツが付いている)に、かき揚げ丼、きつねそば、脇には、沙耶たちより一回り大きなフライドポテトが、ドデンと置かれている。

「アハハハ……」

 ……たしかに多い。

「昨日AKRのレッスンあったからよぉ(^_^;)」

「でも、知井子は、あれだよ……」

 里衣紗の目線の先には、テーブル二つ分向こうに知井子が玉丼の空になったのを置いて、アイスを舐めてやがる。それも、練習曲のスコアを見て、テーブルの下、足だけでステップの練習をしながらな。

 なんと可愛くも熱心なことか。

「同じAKRなんだよね……」

「あ……マユの体って、燃費悪いんだよな。アハ、アハハハ(^〇^;)」

 と、その場はごまかしたぜ。


 マユの体には同居人がいやがる。幽霊の浅野拓美な。


 マユは小悪魔だけど、アバターの体は、まったくの人間だ。使っただけのエネルギーは補給しなくちゃならねえ。

 ゲームのめんどくせえのにあるだろ。飯食わないとHPがどんどん下がる設定になってるやつ。あれのリアル版ってわけだ。それも、今は二人分。当然、飯も食うしトイレにも行く。

 で、今、マユは女子トイレの個室の中にいる。

 と言って、用を足しているわけじゃねえ。いくらラノベだってトイレの個室の状況を描写することまではしねえ。

 しかし、トイレ本来の使い方をしていなければ別だ。

――なあ、拓美。マユの体に同居してるのは……まあ、同意する。暫定的にだけどな――

――ごめんね、レッスンで体力使うもんだから……わたしって、サブリーダーでもあるわけでしょ。スタジオには一番に入って、最後に出るの――

――リーダーのクララとかいるじゃねえか――

――クララはクララよ。トップとサブは自転車の前と後ろ。どっちが力を抜いても自転車は進まないわ――

――でもよ、拓美って幽霊じゃん。空気も吸わねえのに、飯は食うわけ?――

――マユの体に入っていると、お腹が空くの!――

――拓美って、生きてたころ、かなりの大メシ食いだったんじゃねえのか?――

――そういうマユの体こそ、燃費悪いんじゃないの。自分でも言ってたじゃないの――

――ああでも言わなきゃ、ごまかせねえだろが!――


 コンコン

 そのとき、個室がノックされた。


「あ、ごめん、今空けるからよ…」

 ジャーーゴボゴボ

 急いで水を流して個室を出たぜ。

 ん?

 目の前に、知井子ぐらいの背丈のカワイイやつが立ってやがって、目が合っちまう。

 こういう状況だと、気まずくって視線を避けるもんだけどよ。そいつはマユの目を見てニッコリ笑いやがる。

 こっちは拓美の方が恥ずかしがっちまって、心の奥に引っ込んじまいやがる。顔を真っ赤にして心臓をドキドキさせたままでよ。こういう負け的なシュチエーションは嫌ぇだ。だから必要もねえのに悠々と手を洗う。

 え?

 手を洗いながら、鏡越しに他の個室が全て空いていることに気づいた。

 そんで、今のやつが、個室に入らねえで、じっとマユを見てやがる。

 こいつ?

 鏡の中で視線が合っちまってドキリとしたぜ。


「あなた、小悪魔のマユさんね」


 そいつは、ニコリともせずに言いやがった。

 

☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  



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連載戯曲・クララ ハイジを待ちながら・5・窓を開けるクララ

2024-10-10 16:48:42 | 戯曲
クララ  ハイジを待ちながら    

大橋むつお 
 
※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます




5 窓を開けるクララ 

時   ある日
所     クララの部屋
人物    クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)







 窓を開けるクララ。いつしか曲は止まって鳥のさえずりが聞こえる。


クララ:あ、ピーちゃんだ! 

 あれ、見える!? 見えてる!? 

 時々この窓辺にもやってくるのよ。鳥のことはよくわかんないけど多分インコ……おいでピーちゃん、こっちだよこっち。ほら、エサあげるから、ピーちゃん!

 ……行っちゃった……アルムのハイジのとこじゃ、牧場で、手をのばすだけで小鳥がやってきたものよ……うん、分かってるわ。

 あのピーちゃんは「あなたの方こそ外に出てらっしゃい」って言ってるの。

 ……わたし、ハイジとアルムの自然のおかげで、こうやって歩けるようになった。ほら、もうスキップだってできるわ。

 去年の体育祭じゃリレーだって出たのよ。フフ、信じられないでしょ。人を抜くことは、さすがにできなかったけど、順位を落とすようなことはなかったわ。持久走だってこなしたし、ランナーズハイてのも体験したわ……あれって、走り始めて三十分くらいたたないとやってこないのよね。最初の三十分までは「なんでぇ……」ってくらいきついんだけど、それ過ぎると、どこまでも、いつまでも走っていけそうな爽快感。

 そのくらいにクララは回復したの……人生も同じよね、ランナーズハイがある。

 アルムから帰って、三年くらいはそうだった……でも気づいたの。リレーとかで走るのは、ゴールがはっきりしている。でもでも、人生のゴールって自分で見つけなくっちゃいけないのよね。

 わたしたちにはそれが無いのよ……こないだね、アンがやってきたの。

 知ってる? アン・バーリー……あ、結婚する前はアン・シャーリー。そう『赤毛のアン』のアン。もう歳だけどね。わたし、娘さんのリラのほうが仲がいいの。ほら、この写真。こっちの娘さんのほうがリラ、かわいいでしょ。こっちのキリっとしてるおばさんがアン。長いこと学校の先生をやってたの。

 わたしもね、学校の先生になろうって思ったことがあるのよ……だってステキじゃない。いつまでも若い子達の弾むような感性の中で泣いたり笑ったりできるなんて、それこそ永遠の青春! 

 わたしはハイジじゃないからね。アルプスの自然から立ち上がる力は、もらえたけど。あそこはハイジの世界。

 わたしの世界は自分で見つけなくっちゃ。アンは言ってた「わたしは、いい時代に先生がやれて幸せだったって……雲が流れていくわ……アルムじゃね、あの雲はハイジを待ってくれるの……この街じゃ、あの雲はわたしを待ってはくれない。知らん顔して、流れていくだけ……え、あのハイジのブランコはどれくらいの長さがあるかしらって……フフフ、わたしも考えたわ。うん、ハイジの真似をしてみたの……ハイジって、なんでも知りたがって、くちぐせは「おしえて」だったものね……で、わたし、計算したの。振り子の周期から、あのブランコの長さは三十七・八メートルだって。で、ハイジに教えてあげたの。きっと驚くだろうって思って「わー、クララってすごい!」って言ってくれるだろうって……ハイジはなんて言ったと思う……不思議そうな顔をしてね「なんで、そんなこと計算するの?」……ハハハ……ハイジはね、ただブランコに乗ってみたかっただけなの、流れる雲の上に寝そべってみたかっただけなの。雲がハイジを待ってくれている。その感動を表したのが「おしえて」。

 わたしは、その「おしえて」を勘違いしていた。

 だから、いっそうハイジの「おしえて」がうらやましい……え……うん、大丈夫。なんでも聞いて。

 ……アハハ、遠慮してたの?……アナタって、デリカシーありすぎ。気疲れするでしょ、いつもそんなじゃ……イジメにあったことがあるかって? あなたは……あ、わたしから話さなくっちゃいけないわよね。

 イジメはないわ。ハイジに会うまでは学校にもいけなかったし。ウフフ、ロッテンマイヤーさんにはしょっちゅう叱られてたけどね。あの人はただ注意してるつもりなんだけど、口調がきついのね(かすかにクシャミ聞こえる)ウフフ、根はいい人よ……学校に行ってからは……うん、あんまりお友達はできなかったな。だれもがハイジみたいに心を開いてくれるわけじゃないし、だれでもハイジに対するように心を開けるわけじゃない。でも、その代わりイジメられるようなこともなかった。

 こんな言い方ダメかもしれないけど、イジメって、根本のとこでは、相手に対する興味の現れだと思う……ね、わたしのいたずらも同じよ。ロッテンマイヤーさんとかが反応してくれるからやってんの……アナタはぁ?

 ……いいのよ、言いたくなった時に聞かせてくれたら。

 ……あ、もう雲流れていっちゃった。さっきヒツジさんみたいな雲があったんだけどね……あれかなあ……トドみたいになっちゃったけど……わたしたちの心も雲みたいね。あっという間に流れて変わっちゃう。アルムの雲だって流れるんだけどね、ハイジは、雲がハイジを待ってくれてるように思えるわけ。

 ……あの感性にはまいっちゃう。なかなかあんなふうにはね……フフ、落ち込んでなんかいないわよ。ただ、「ちがうんだ」って思っただけ。で、わたしは、わたし自身の「おしえて」を持てばいい。そう思い直したの。

 だからこれ……この本たち。まあ、大半は図書館から借りてくるんだけどね……それにしてもすごい量? 

 う~ん……でも二千冊くらいよ。服とかも多いから。あんまり、お部屋の中ゴチャゴチャにしときたくないの。ゴチャゴチャは、頭の中だけで十分。

 ……アナタの部屋って、よく見るとステキじゃない……ううん、そんなことない。ベッドの枕のほうに机があって、パソコンとかモニターとかすぐ側なんでしょ。床に一見散らかってるように見えてる服も、ベッドの足下から、キャミとか下着、ブラウスにベスト……あ、そのジャケットとると鏡なんだ。

 起きたら順番に着て、最後は鏡で確認して出かけられる。機能的じゃない! あなたって、印象よりも合理的な人なんだ……あ、今なに隠したの!?……だめ、見ちゃったんだから、ちゃんと見せなさいよ。

 ……ステキ……それってダンスかなにかの衣装?……そうか、さっき言ってたの、そうなんだ! 言ってたじゃない、演劇部の後に入ったクラブがあるって……そうなんだ、ダンス部だったんだ!

 ……え、部員がみんなやめちゃってアナタ一人に……そう、それでもがんばろうとしたんだ……先生も忙しいもんね……授業と会議とパソコンばっかだもんね……え、IDカード……先生が首からぶらさげてる……わたしも、あれキライ。なんだかスーパーとかコンビニの商品の品質表示みたいでしょ……え、バーコード? ナイショだけど、ロッテンマイヤーさんの彼もバーコードよ(ロッテンマイヤーのくしゃみ)……頭じゃなくって、IDカードに……え、時々産地偽装してるみたいな先生も……アナタってウィットの感覚いいわよ。もっと本とか読んで感覚磨くと……アハハハ、わかった、わかったって。もうお説教みたいなこと言わないからさ……ね、ダンスのレパートリーどんなのがあるの?

 ……あ、それわたしも知ってる。ユーチューブで覚えた! ね、いっしょに踊ってみようよ……すごーいもう、コスに着替えたの!?……うん、とてもステキよ。待って、シンクロさせるから……よし、いいわよ!

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やくもあやかし物語2・076『魔王子トバル』

2024-10-10 14:38:42 | カントリーロード
くもやかし物語 2
076『魔王子トバル』 




「魔王女トバリの弟、魔王子トバルだ。見知りおけ」

 姉のトバリそっくりのニクソイ笑顔でマウントをとりに来る。

「あなたたち双子なの?」

「ああ、そうだよ。でも、戦い方は違うよ。トバリは結界を張って地霊どもを従えて戦うけど、ぼくは、こうやって戦うんだ……」

 顔の前で腕をXに組んだかと思うと、トバルの体はボンヤリと滲んで6:4くらいに分裂。そして、ふたたびハッキリしてきたと思ったら、6の方がメイソンに4の方がわたしソックリになった!

「ええ!?」

 シャキーーン

「こいつは、相手ソックリに擬態して戦うんだ……トオオオ!」

 剣を構えると、最後まで言い切らずに打ちかかるメイソン! トバルメイソンも同時に打ちかかって来る。なんだか、左右を逆に映す鏡みたいだ。

 トオーー!

 安心してはいられない、わたしにソックリなトバルヤクモの方は先手を取って討ちかかってきたよ(''◇'')!

 右手に思い槍、左手にミチビキ鉛筆を持って、トバルヤクモの攻撃を受け止める!

 ガシ!

 互いに同じ武器、同じ力なんだから打ち消し合う……と思ったら、ジリジリと押し込まれる。

 ええ、なんでぇ( >Д<)?

「相手は高い位置からダッシュしてきて勢いがついてるからだ! 少し踏みとどまればチャンスも見えてくる!」

 自分も苦しい戦いをしているのに、ちゃんとアドバイスをしてくれるメイソン。ノブリスオブリージュ! 貴族の息子だけのことはある!

 カシーン! ブンブン! ジャキーン! ガシガシ!

 メイソンは、攻撃をいなして相手の隙を誘っては攻撃を加えるけど、やっぱり同じスキルなのでラチが明かない。助けて欲しいけど、どうも無理っぽい。

 グヌヌヌ("皿″)……グギギギ(>皿<)……歯を食いしばって押し込まれないようにがんばるけど、こっちは互いに運動神経が悪いので、ひたすら押し合うだけだよ。

 ズズ……ズズズ……ズズ……

「まずい……」

 変な音がするのでなんだろうと思っていたら、メイソンの方が気づいた。

「トバリが結界をすぼめてきている、結界がすぼまると、こいつの力が増していくみたいだ!」

「ええ!? あ、ほんとだぁ……(''◇'')」

 押し込まれる力が微妙に強くなってきている」

「ほかの子たちはどうしてるんだろッ……」

 ほんとは「なにをしてんのよ!」なんだけど、優しく言ってみる。

「力を使い果たしたんだろ、もう気配がしない……」

「そんなぁ」

「僕も、そろそろ危ないかもしれない……」

「あ、ちょ……メイソン!」


 ああ、絶体絶命……と思ったら、ポケットから御息所がフワフワ浮き出て来た。


「「なんだ、おまえは?」」

 トバルヤクモとトバルメイソンが同時に声を上げる。

 そうか、御息所はコピーできていないんだ。でも、御息所の力ってたかが知れてるっぽい。

『妾は六条の御息所じゃ、畏れ多くも先の東宮殿下の妻である。見知りおけ』

 おお、バリバリのお局言葉! これは勝算があるのかも!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!26『AKR最初のレッスン』

2024-10-10 08:07:22 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
26『AKR最初のレッスン』 




 その週末、AKRの最初のレッスンの日がやってきたぜ!

 約束じゃ、体は拓美に貸して魔界で補修なんだけどな、今日は特別に憑いてる。

 姿勢と歩き方の練習だけで二時間。そのあと発声とボイストレ-ニング。昼食を挟んで、ストレッチをやってダンスレッスン。まるで体操部みてえなことばっかりやらされる。ダンスの基本だと聞いてなかったら五分ももたなかったぜ。

 その合間にスマイルの練習。

 要はニコニコ微笑む練習で、これが案外むつかしい。オーディションのときは、緊張しながらも、みなハイテンションだったんで自然な笑顔になったけどよぉ、なんにもねえのに微笑むってのはむつかしいぜ。

「はい、笑って!」

 と、いきなり言われても、なかなか出来るもんじゃねえ。中には虫歯が痛いのをこらえているような顔になるやつもいやがった。

「あなたたちは、アイドルなんだからね。どんなに疲れていても落ち込んでいても、一瞬で笑顔になれなきゃダメ!」

 前世紀末にアイドルの頂点にいたインストラクターの指導は厳しかった。

「ダメよ、3分やそこらで引きつってしまうようじゃ。いい、笑顔ってのは、ホッペのところに笑筋というのがあって、ここを鍛えるの。日本人が一番苦手な表情筋。今から、またダンスのアップダウンやるけど、その間、笑顔を絶やさないように。前の鏡を見ながら、チェックして、ハイ一時間!」

 で、一時間すると、知井子を始め、大半のやつの笑筋は笑顔のまま引きつるか、ケイレンしてしまったぜ。

 落ちこぼれ天使の雅部利恵はろくでもねえやつだけど、この笑顔の関してだけはエライと思っちまったぜ。あいつ、怒る時も居眠りする時も必殺技くらわせてくるときも笑顔だもんな(^△^;)。

 知井子もケイレン組だけどよ、楽しそうなんでマユは嬉しかった。リーダーの大石クララは、さすがに、ダンスのアップダウンも笑顔もこなしてやがる。

 最年長の服部八重もできてやがって。知井子は「負けた」と感じてやがったけど、ヘタレ眉になりながらも爽快な顔をしてやがる。

 爽快とヘタレってのは相反するんだけど、知井子のはなんか微笑ましくってよ「いちばん個性的よ!」とインストラクターにも褒められて、みんなも拍手なんかしやがってよ、マユも自分のことみてえに嬉しくなったぜ。

 知井子の人生は、負けっ放しでヘコンでばかりだった。

 でも、今はちがう。近いうちに必ず自分もできるんだという気持ちが湧いてきてやがる。それに、だれもできないことを笑ったりバカにしたりしねえ。みんな同じ目標を持ってるからかな。

 沙耶や里衣沙も数少ない友だちだったけど、このAKR47は、知井子が今まで経験したことがないような仲間になってきたぜ。


「じゃ、取りあえずプロモ用の写真撮るからね。一か月限定で流すAKR初のプロモだよ」


 全員の集合写真と個別の写真。ディレクターから多少の注文はつくけど、基本は本人たちの生(き)のままだ。

 ほとんどのやつが、ぎこちなかったけど、黒羽Dは、あえてそのままにした。成長するアイドルの第一歩だとか言ってよ。

 その中に、大石クララと並んで自然なハツラツさで撮れた者がいた。

 マユだ。

 正確にはマユが体を借してやってる幽霊の拓美。拓美のマユは、午前のレッスンから際だっていた。休憩中には、できねえやつに付いてやって、リーダーシップさえ発揮していやがった。

 拓美がマユの魔法で、みんなの記憶から消えてしまった(ただ、大石クララだけは知っている)んで、サブリーダーが居なかったんで、サブリーダーは不在のままだった。

「マユ、サブリーダーやってくれないか」

 レッスンの最後に黒羽ディレクターから頼まれた。


 その明くる日、マユは目覚めてびっくりした。自分の中から拓美が出ていかねえんだ。


――ちょっと、約束が違うじゃねえか。平日はマユだろうが――

――ごめん、レッスンが終わったら、出て行けなくなっちゃって――

――ええ、困るよ。マユ二重人格になっちまうじゃねえか!――

――ほんとうにごめん。平日は大人しくしているから――

――もうヽ(`Д´#)ノ !――

 マユは、初めて、やっかいな幽霊を引き受けてしまったことを後悔したぞ。

 キリキリキリ……

 とたんに戒めのカチューシャが頭を締め付けてきやがる。

「「イテ……!」」

 マユの悲鳴はステレオになっちまった……。




☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  


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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・132『二年目の体育祭』

2024-10-09 15:53:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
132『二年目の体育祭』   




 ちょっと面白くない。

 なにが?

 運動会よ運動会。

「体育祭と言いなさい体育祭と」

 佳奈子が真面目な立ち姿で注意する。

 見上げる佳奈子はけっこう色っぽい。

 学年対抗リレーを走り終えてクラス席に戻ってきたばかり。アンカーで200を走り終え、一等こそは一年生にかっさらわれたけど、その一年との差をコンマ8秒にまで縮めたのは、さすがに女バレのキャプテンだ。

 200を全力疾走してきたので、お肌ははち切れそうにツヤツヤして頬は健康な朱に染まり、瞳の奥は――惜しくも二着!――の灯を収めきれずに潤んでいる。退場門から戻ってくるまでにウォータークーラーでガブガブ水分補給、ざっと拭っただけの唇はプクプク潤って、心臓はニュートラルに戻り切らずに首筋の血管をピクピクさせている。

「なんかねえ、不完全燃焼!」

 目の前のブルマは不完全燃焼のオケツを収めきれずにフニフニさせてけしからん景色。令和の時代にはほとんどの学校でご禁制品扱いしているのがよく分かる。

「やっぱり、文化祭と一週間違いじゃ、文化祭の方に力が入っちゃいますよぉ」

 午後からの出番のないロコは、さっさとジャージの下を履いて気持ちの上では体育祭を終えている。

『プルグラム15番、着せ替えリレーに出場される先生方とサポート伴走者に当っている生徒のみなさんは入場門にお集まりください。くりかえします……』

「あ~あ~行って来るかぁ」「荷物頼むわね」

 これも、ノリの悪い声で入場門に向かう真知子とたみ子。

「でも、着せ替えリレーを最後に持ってきたのは正解ですね。面白いからダレずに閉会式にいけますよ。生徒会も考えましたねえ(^▽^)」

「アハハ、まあねぇ」

 わたしは好きじゃない。

 男の先生をトラックの真ん中に立たせる。海パンとTシャツで。

 スタート地点から走り出した女子がトラックを一周して、それぞれのチームの先生のところに取りつく。先生たちの足元には黒い袋が置いてあって、到着した女子は袋から女ものの衣装を取り出して先生に着せて、着せ終わったら手に手を取ってトラックを一周走ってゴールするという恒例のプログラム。

 衣装は女子の制服やら看護婦やらミニスカポリスやら、女性アイドル風のやらいろいろ。パンツ以外の下着とかも入っていて、もし令和でやったら、ちょっと問題ありという代物。

 まあ、1971年だし、ノープロブレムで、みんなワハハハワハハハと笑って、大晦日みたいに一年の憂さを晴らす。

『ええと……杉野先生が事情によって参加されませんので、2年3組の加藤君が代わりに参加します。加藤君、頑張ってください~』

 放送部のウグイス嬢が気楽に変更をアナウンス。

 ウワァアアア(^▽^)!!

 
 中略


 例年の如く、おぞましくも大爆笑の『着せ替えリレー』を終え、運動会、いえ体育祭はめでたく幕を下ろした。

 そうそう、杉野先生に代わって出場した加藤高明、10円男は意外に用意されたセーラー服が似合って好評。

 順位が一年と同点になって、なんとか二年生の面目を保った運動会、いや体育祭だった。


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!25『デーモン先生との対話』

2024-10-09 08:41:32 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
25『デーモン先生との対話』 





『マユ、何しに戻ってきた……ガルルル』

『なにって、先生……』 


 そこはサンズの川を挟んだ魔界とこの世の境目だったぜ。

 川の向こうに、ケルベロスがいやがる。

 魔法学校に(落第する前)通っていたころ、よく鼻くそ味のチョコなんかやっていたんで、このケルベロスはマユによくなついてやがる。

 今も目を細め、お座りをしながら、ヨダレを垂らしてやがる。でもよ、その口から聞こえてくるのは、あの、おぞましいデーモン先生の声だ。

 ケルベロスは、地獄の番犬なんだけどよ、子犬や、孫犬がたくさんいて、魔界のいろんなところで番犬をやってるんだ。

 ケルベロスってのは、犬の一族の名前でよ。 一匹一匹は別なんだけどな、悪魔や小悪魔はみんなケルベロスって呼んでる。たとえばよ、スマホのことはスマホとしか呼ばねえだろ。スマホを『ジミー』とか『香里菜』とか『ハインリヒ』とか名前つけて呼ぶ奴はいねえだろ。

 で、かなたの魔法学校から駆けてきてシッポ振ってんのが、学校の移動インタホンになってるケルベロスで、ポチ……と、マユは勝手に名付けてんだけどな。
 
 この「ポチ」って名前にしたことも、マユが人間界にやられた原因の一つだとマユは思ってるぜ。

 で……人なつこい顔をしながら、ニクソいデーモン先生の声でしゃべるのがアンバランスでおかしいんだけどよ。

 笑いそうになったけど、この数か月の人間界での修行で「何食わぬ顔」というのを覚えたからな、見た目には分からねえ。でもよ、そこはデーモン先生で、ケルベロスの二番目の顔が言う。

『だいぶ、とぼけるのが上手くなったな』

「と、とぼけてんじゃねえよ」

 ケルベロスには三つの首があり、当然六つの目がある。四つの目で、マユの姿は3Dで見られてる。そして残り二つで、マユは心の中まで見られてる。悪魔の魔眼てやつだ。

 でもよ、その魔眼をしてもマユの心は読み切れねえぜ。

 なんでか……マユ自身にも、自分の気持ちがよく分かってねえからだ。

『マユ、おまえ……このケルベロスをだいぶ手なずけたな……』

 ポチは、三つの首で、互いの顔を見回した。そして、前足で、三つの頭を器用に叩いた。「ギャフン」という声が三つして、ポチの顔はケルベロスらしく、いくぶん引き締まったぜ。まあ、年寄が調子の悪いテレビとかを叩くようなもんだ。

『どうやら、迷いがあるようだな……』

「あ、まあな……」

 デーモン先生の言葉で、マユは自分の心を探ってみた。

 補習の辛さ、知井子や沙耶たち友だちとの毎日。雅部利恵への敵愾心。任務か憎しみか、友情か打算か分からなくなっちまった自分の心。

 まるで、七つに分解してこんがらがった虹みてえな心……マユは、自分の心を美しく形容してみたぜ。

『ばか、飾ってみても、おまえの心に変わりはない』

「アハハハ、バレちまったか(^_^;)」

『要は、どうしていいか分からなくなって……サボりたい気持ちでここに戻ってきたな……』

「そ、そんなことは……」

『違うというか……』

「分かんねえよ……」

『ならば、別の目でみてやろう……』

 シャキン

 三つ目の首の目が鋭くなってきやがった。他の二つの首が、なにか羨ましそうに、三番目の首を見ているぞ。

「な、なんだよ、その目は!?」

『これは、おまえを裸にして見る目だ……』

「え……?」

『バストが1センチ、ヒップが2センチ大きくなった。ウエストは……』

「ちょ、ちょっと先生!!」

 マユは慌てて、両手で体の上と下を隠したぞ。

『心は体に現れる……良くも悪くも、おまえは人間界に馴染んできたな。今回の知井子や拓美の件で、おまえのやったことは間違ってはおらん。だからカチューシャを締め上げることもしなかったであろう。ただ、お前は自信を無くし疲れておる。だから、今やっていることが、正しいのかサボりたい気持ちなのからなのか分からなくなってきた。その迷いが肌に現れておる……WWWW』

「なんで、今のとこだけWWWWなんだよ?」

『……お前の背中を押してやろう。ただちに人間界に戻るがいい』


 六つの目がいっぺんに怪しい光を放って……気が付いたら、大石クララの横顔が目の前にあった。

 え、なんで横顔?

 クララの目は、目に見えてる方のマユに向けられている。

「マユ……あんたの目は、浅野拓美の目だわ!」

 バレてしまった。デーモン先生のせいだ!

「わ、わたし……」

「そうだよ、今の今まで忘れてたけど、拓美って子がいたんだ!」

 クララは目を丸くしてマユの姿をした拓美はうろたえた。仕方なく、本物のマユは半透明な姿を現してやったぜ。

「マ、マユ……いったい……!?」

 クララは、ハッキリなのと半透明の二人のマユを交互に見て混乱したぜ!

 でもな、クララはたいしたもんで、並の女の子みてえにパニクることも気絶することもなかったぜ。ただ、目の前の不思議を一生懸命理解しようとしやがった。


「なるほどお、そういうことだったの……」


 クララは、二人のマユの話しを理解した。
 
 あの屋上で、マユは拓美の強い想いを理解したんだ。そんで自分の体を貸してやることにしたんだ。

 だからよ、屋上から降りてきて、今に至るまでのマユは拓美なんだ。

 そんでマユは、魂だけの存在になって、魔界に戻ろうとして、さっきのケルベロスとのやりとりになったわけだ。で、デーモン先生の一押しで戻って来た、目には見えねえソウルになってよ。でもよ、元来鋭いクララには真実を見抜かれちまったわけだ。

「あ、マユ、消えかかってるけど!」

――魂だけで姿を見せるって、ずっと片足でつま先立ちしてるみたいにシンドイんだ!――

「ごめんね、マユさん(-_-;)」

 マユの姿の拓美がすまなさそうに言いやがった。

――いや、マユも、少しさぼれるかなあって、ヨコシマなところが無くもねえから……あ……消え……かけ……あと……心で……伝え……――

 そこで、半透明なマユは消えちまった。あとは心で二人に伝えたぜ。

――当面、週末だけ拓美に体を貸す。その間拓美はマユの記憶も預かることになる(ただし魔法は使えねえ)――

 だから、拓美はあくまでマユであり……マユはマユで……言葉がややこしい。悪魔ではなく、あくまでマユであり、そのことを人に言っちゃあならねえ。クララは特異体質で記憶を完全には消せねえ。無理にやると、クララの命に関わるんで、クララも秘密を守ること。

 で、平日は、本物のマユに戻るけど、休日は魔界で特別補講。

 そして、いつかは拓美は、マユの体に入れなくなり、昇天しなければならねえ。

 それが、どんな状況や条件の下でそうなっちまうかは……拓美にも、マユにもわからなかったぜ。デーモン先生もなんにも言わねえしな……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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連載戯曲・クララ ハイジを待ちながら・4・体験学習感想文最優秀賞!

2024-10-08 16:39:07 | 戯曲
クララ  ハイジを待ちながら    

大橋むつお 
 
※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます




4 体験学習感想文最優秀賞!

時   ある日
所     クララの部屋
人物    クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)



 好きな曲をかけて紅茶を入れるクララ。

クララ:スイスの紅茶って、正直いってまずいわ……ウェー(まずそうに舌を出す)……でもね、アルムの紅茶は別よ。
 なぜだか解る? ミルクティーだからよ。アルムのヤギさんのミルクが入るとね……ガゼン別物になっちゃう。あまりの美味しさにうなっ茶う……ウウウ(幸せそうに、うなる)……分かる、今の?……うなる前よ。
「なっちゃう」と「うなっちゃう」……そう、今のが韻を踏むってこと。あ、また笑ったぁ。

 アナタって、いつから引きこもってるの……ちがうよ、外に出なくなるのは結果にすぎないの。

 実際の引きこもりは、もっと前から始まってるのよ。人の話が心に響かなくなったとか……うん、そう。人の声がなんだかテレビから流れてくる声みたいによそよそしく聞こえちゃったりするの。

 アナタは……そう、よくわかんないか……いいわよ、思い出したら教えて。わたしはね学校から行った職業体験学習……うん、介護付き老人ホームに行ったの。

 お掃除したり、食事のトレーを運んだり……ううん、直接介護に関わることはやらせてもらえない、見学だけ。お話はさせてもらえたわ。でもね、通じないのよね……「おじいちゃん、おいしい?」とか「若い頃はなにやってたんですか?」とか精いっぱいの笑顔で聞いてもね、無視する人とか……むろん認知症の人もいるから仕方ないんだけど、「おいしいよ」って笑顔で応えてくれたおばあちゃんの目の中にわたしが映ってないの。

 ペーターのお祖母さんの時みたいには心が通じないの……おばあちゃんは毎年のことだから、マニュアルどおり「おいしいわよ」……え、そうよ三日間。うん、三日間でどれだけのことが分かるってもんじゃないんだけどね……ハイジならもっと……ううん、なんでもない。

 わたし、そこで見ちゃったの。そのおばあちゃん、トイレの帰りにこけちゃって、骨折。

 大騒ぎだった……しっかりしてそうなおばあちゃんだったから、ヘルパーさんたちにも油断があったんでしょうね。娘さんがとんで来てね「要介護三の母なんです。一見しっかりしてるように見えてるけども。統合的な行動はできないんです。トイレに行って、パンツを下ろす、座る、用を足したらウォシュレットのボタン押す。パンツを上げる、手すりにつかまって立ち上がる。いちいち言わなきゃわかんないんです。入所のときにそう申し上げたはずです」穏やかにはおっしゃってたけど、目は怒ってた。
 ケアマネさんやヘルパーさんはむつかしい専門用語使って説明してたけど、言い訳してんのはわたしにも解った……娘さんは、おばあちゃんを後ろから抱きしめて「お母さん、ごめんね……」って、そして一言「安心してください。訴えたりはしませんから」……施設の人たちは、その一言でほっとした。わたしにも分かった。
 気がついたらわたし、娘さんを追いかけて「ごめんなさい、ごめんなさい……」って謝ってた。わたしって関係ないんだけどね、謝らなきゃって、居ても立ってもいられなくなったの。そしたら所長のオッサンに……おじさまに「余計なことは言うな!」って腕をひっぱられて……で、そのことを感想文にそのまんま書いたら担任の先生に書き直ししなさいって……これ見て! 

 ジャ~ン「体験学習感想文最優秀賞!」 うん、うそ八百のお涙頂戴の完全フィクション。

 笑っちゃうよね。そこからなんだか、大人と話すのがイヤになっちゃって、友だちにも谷崎潤一郎でどん引きされちゃうし……でも、不思議ね、こうやって話してみるとやっぱ違う。スルっと手からこぼれ落ちちゃうのよね……窓開けるわね、空気入れ替えなくっちゃ……え……いいわよ、アナタのお話聞いてからでも……え、首を吊ったこと!? ないない、ないよそんなこと……アナタ……やったの?……でしょうね、成功してたら、わたし、幽霊とチャットやってることになるものね……え、最初は肩が痛くなるの? 首じゃなくって……上からひっぱられてちぎられるみたいに……で……目の前が一瞬で真っ暗に……そこで怖くなって……そうなんだ。

 うん、いいわよ。聞く聞く……え、あなたって演劇部だったの。ステキじゃない!……そっか、居場所が無かったのね、学校とかで、友だちとかも……それで演劇部でやっと……え、予選で最優秀。

 やったー! 

 で、本選は……そっか、残念だったわね……それでクラブがバラバラに……それはもういい……そうよね、また来年がんばればいいんだもんね。
 演劇部の後、ほかのクラブに……それは、まだナイショ? 
 いいわよ……え、自殺防止の授業。そんなのがあるんだ、アナタの国の学校でも! 
 で、お決まりは「命の大切さ」ハハハ、ハモちゃったね。それって「平和の大切さ」と同じくらい無責任でナンセンスよね。だって、目の前に首くくろうとしたアナタがいるのにね。アハハハ……それに気づかずに「命の大切さ」笑っちゃうわよね……空気入れ替えるね。

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馬鹿に付ける薬 020・ヒュドラを討つ・5『ケルベロス・2』

2024-10-08 15:48:14 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
019:ヒュドラを討つ・5『ケルベロス・2』 




 ちょっと  待って  くれぇ


 バラバラで元気のない声がした。

 なにやつ!?

 得物を構えた三人が振り返る……と、肩で息をして、今にもへばってしまいそうなケルベロスがよろよろと進み出てくる。

アルテミス:「なんだあ、またやろうってのか(`▢´)!?」

 アルテミスが吠えると、ケルベロスはペタンと腰を落とした。かろうじて突っ張った前脚はガクガクと震え、とても戦える状態ではない。三つの首は、どれもフルマラソンを終えたポンコツ選手のようにゼーゼー喘いで、なんとも情けなく、戦意が無いことは明らかだった。

ベロナ:「なんだか様子がへん」

プルート:「なにか言いたいことがあるのか?」

 ケルベロスの三つの頭は「……ぁ……」「……ぇ……」「そ…の…」と声は発するが息も気力も続かず、一瞬黙ったかと思うと、お座りの姿勢のまま小便を漏らしてしまう。

「おまえぇ(-▭-;)!」「てめえぇ(;'△')」「きさまらぁ(-_-;)」

 言い合いになりそうだが、言葉も気力が続かず、やっと真ん中のが頭を上げてやっと語り始める。

ケルベロス真ん中:「みっともねえとこを見せちまったな、笑ってくれてもいいんだぜ」

ベロナ:「笑うだなんて、そんな……ちょっと待ってね」

 ベロナがロッドをかまえる。

アルテミス:「あ、回復魔法とかダメだぞ!」

 それには答えずに短く詠唱すると漏らした水溜まりが消えて、ケルベロスのお尻は紙おむつにくるまれた。

「「「あああ……(=△=;)」」」

 それまででいちばん情けない溜息を漏らすケルベロス。

アルテミス:「やっちまったな」

プルート:「完全に心を折っちまったな」

ベロナ:「え、あ、まずかった(;'∀')?」

ケルベロス真ん中:「いや、これで、もう一つ吹っ切れた気がしたかもな……」

 左右の頭は完全にうな垂れて覇気も根気も失せ果てている。

 仕方なく、真ん中が声を落としたまま語り始めた……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
  
 

 



 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!24『クララに呼び止められる』

2024-10-08 08:50:56 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
24『クララに呼び止められる』 




「それでは、これからの企画と予定を発表します」

 シアターに集められた受験者に黒羽Dが向き合った。

 結果は分かってんだけどよ、読まねえようにしてる。これって、鏡の前に立って自分の顔を見ねえようにするみてえで、ちょっとイラつく。

「ユニットの名前は『AKR47』とします。意味は『明るい未来』のAKARUIからとりました」

 マユの消去魔法が効いて、48が47に変わってやがる。もうみんなの頭から拓美の記憶は完全に消えていたぜ。

「ユニットのキャッチコピーは『週末アイドル』。ここにいる大半の人は中高生です。高校を卒業するまでは、学校との両立をはかってもらいます。別の言い方をすれば、その両立の条件の中で、本当に生き残り、力をつけたメンバーでより進化したユニットに成長させる。いわば『成長するユニット』が、コンセプトです」

 キリ!

 47人の顔が引き締まったぜ。

 その後、ここしばらくのレッスンやらマスコミへの発表などについて説明があって、正式にHIKARIプロとの契約の書類が配られたぜ。

 ちょっと困った。

「早まっちまったかぁ……」

 選考会場からの帰り道、知井子のお父さんとお母さんが車で迎えにきていた。

 すっかり明るく自信を取り戻した知井子に、お父さんも、お母さんも大満足。ユニットの選抜メンバーに選ばれたことよりも、娘が明るく前向きになったことを喜んでる。知井子の問題は一段落した。そんで、食事を勧められたけど、マユは丁重に断ったぜ。

「ねえ、マユ……」

 大石クララに呼び止められた。

 二人は、公園のベンチに並んで腰をかけた。

「わたし、何かしっくりこないのよ」

 揃えた足の先を見るようにしてクララが言う。

 こいつ、なんか気づいてやがんのか?

「何が、しっくりこねえの?」

「…………」

「あ、ごめんな。マユ、敬語とか苦手でよ、ちょっと言葉が乱暴なんだ(^_^;)」

「ああ、いいよ仲間なんだから」

「そうか、じゃぁ、このままでいくぜ」

「バカなこと言うみたいだけど、わたし、もう一人いたような気がするんだ」

「もう一人って……」

「だれだか、分からないけど、わたしより輝いていた子が……」

「さ、錯覚じゃねえかぁ。あれだけがんばったオーディションが終わってよ、ホッとしてよ。がんばってた自分が別人みたく思えて、そう感じるんじゃねえかぁ。うん、受験生みんながんばったんだからよ!」

 足許にたむろしていた、鳩たちが、何かに驚いたみてえに飛び去った。

「……その目、その目よ」

「え、マユの目が……どうかしたのか?」

「その目は、マユの……マユの目って……」

「な、なんだよ(;'▭')」

 こいつ、なんか気づいてやがんのかぁ(;'∀')。

「虹がかかったみたい……ああ、なんだろ。同じ目をしてた子がもう一人居たような気がした」

「そ、そーなのかぁ(^▢^;)」

 うろたえて目線を避けると、気の早いコウモリが木の間がくれに飛んでやがる。

 たぶん、魔界の監視コウモリ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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銀河太平記・252『朱元尚張り倒される』

2024-10-07 15:22:56 | 小説4
・252

『朱元尚張り倒される』 メグミ 




「フーちゃんを助ける!」

 ひとこと言うとマイさん(児玉元帥)は窪地を飛び出した。

 同時にわたしも飛び出す。ハナも同時に飛び出して、マイさんは0.02秒だけハナを視線の端に捉え、構わずに突き進む。

「そばを離れないで」

 一言だけハナに命じた。

 西之島戦争を経験した三人に、こまかな指示は要らない「フーちゃんを助ける」というだけで、戦術的な目安は決まっている。

 フーちゃんに向かって来るロシア兵を排除してフーちゃんを漢明の部隊に戻すことだ。広報とはいえ軍服を着たフーちゃんをこちらで保護することは憚られる。劉宏も前衛の一個分隊をだけしか救出の為に出していない。
 状況的には一個大隊を動かして完全を期さなければならないんだろうけど、そんなことをすれば本格的に漢明とロシアとの大戦争になってしまう。

 だから、マイさんはハナには命じたんだ。そばに居させておく限り、ハナが世界大戦を始めてしまう気遣いはないだろうし、青銅の騎士を相手をしながらの救出には十分役に立つ。

 漢明の分隊は数体の青銅の騎士に阻まれているけど、三騎ずつが当たってフーちゃんと朱准将に近づかせないようにしている。残りの騎兵は逃げ道確保のため啓開にあたっている。

 不十分だ。

 今さらに自分が窮地に陥っていることに気づいた朱元尚はオロオロするばかり。フーちゃんが泣きそうな顔でなだめたり逃げ道を示すが、ロクに聞いていない。その狼狽えぶりは馬にもうつって、オートホースのはずであるのにロデオに出たリアル馬のように暴れまわっている。

「いっそ、朱元尚のおっさんぶち殺してフーちゃん一人逃がしてやるのが早いぜ!」

 ハナが正論を言うけど、仮にも准将、死なれては漢明軍はじっとしているわけにはいかなくなるだろう。

「とにかく青銅の騎士を無効化、めぐみさんは一人でやって!」

「はい!」

 漢明兵が手を焼いている青銅の騎士に向かってジャンプ!

 一瞬目が合った漢明兵に「交给我吧 (まかせて)!」と叫ぶ。

 青銅の騎士の首に飛びつくわたしに目を丸くするが、味方であることは分かったみたいで、引き続き比較的弱点の手足の関節への攻撃を続ける。

 マイさんやハナほどではないけど、わたしもラボや診療所を守るため、西之島戦争では十数体のロボットを無力化した。こいつらの弱点は関節は第二なんだ。第一は首の後ろにあるサーキット。漢明製もロシア製も大きな違いは無いはずだ。
 むろん、首やら肩のアーマーで保護されているけれど、首に取りついてさえしまえば、意外と楽に処理できる。

 問題は、激しく動き回るロボットの首に掴まることだが、数多の戦闘を経験した三人には難しくはない。

 ガガガガガ ガガガガガ

 実直な漢明兵が足の関節を集中的に攻撃、騎士の首が膝に向いてアーマーと首の間に隙間ができ、その隙間にレーザータガーをぶち込み出力を最大にする。

 ピューーーン

 一丁上がり!

 ドシャ

 騎士が倒れる音を後ろに聞いて、次の騎士に取り掛かる。

 所要時間は30秒ほど、まだまだ天狗党で鍛えた腕は衰えていない。

 次、まだ馬を失っていない騎士に取り掛かる。視界の端にマイさんとハナが共同で騎士を倒しているのが見える。

 連携がとれていて、次に見た時には、もう三体目にかかっていた。

 しかし、虎の子の青銅の騎士を討ち取られ黙っているロシア軍ではない。一般騎兵たちがモンゴル騎兵の隙を縫って二騎、三騎とこちらに向かって来る。

 メグさん感謝!

 声に驚いて一瞬目を向けると、野戦服の上だけを兵隊のに換えた劉宏元帥が馬の背から騎士の首に飛びつくところだった。

 二秒で青銅の騎士を無力化した劉宏元帥は、たちまち朱元尚の馬を突き止め、鞭で朱元尚を絡めとると自分の馬の鞍壺に引き寄せる。

 パン!

 盛大な音をさせて朱元尚の顔を張り倒す。

 正気に戻すというよりは、ショックで動けなくさせ、馬の首に掴まらせたまま自分の旅団目がけて駆け去っていく。

 ありがとうございました!

 フーちゃんが泣き笑いでお礼を言いながらそれを追いかけ、残った分隊も空に向けて一斉射すると旅団の待つ方角に走り去っていった。

 
 マイさんがボートに戻ってきたのは、それから三十分以上経ってからだった。

「いやあ、どういうわけか孫大人まで出向いてきていてね、テムジンも居たもんだから馬乳酒で乾杯してきた」

「え、孫大人もですか?」

「あいつ、きれいな女の人連れてやがってよ、ちょっと冷やかしたら……」

「まあ、言ってやらないでよ。大事にしてるみたいだったし」

「えへへ、弱みを握るってのは面白れぇかもな」

「ハナ、人が悪くなったぁ」

「まあいい、とりあえず戦争の芽は摘み取れた」

「マイさん、元帥に戻ってます」

「アハハ(^_^;)」

「なあ、帰ったらよぉ……」

 ゆっくりお風呂に入ろうということにまとまって、一路西之島に向け、ボートはモンゴル平原を東に走った。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
コメント
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