エボラ出血熱(4) ―戦いを挑んだ勇敢な人々―
1989年10月、軍の上層部には衝撃が走った。
当時、『このエボラウイルスは空気感染する可能性もささやかれていた。エボラが、サルから人間界に飛び火したらどうなるのか。直ちに陸軍伝染病医学研究所を主体とするバイオハザード(微生物災害)・スワット・チームが編成され、情報は封印され、機密保持体制の下、エボラの制圧作戦が開始された』。
モンキーハウスに収容している数トンに及ぶサルは、次々に赤い目をして感染の表情を呈し、虚ろな表情で檻の隅にうずくまっている。ハウスの中は汚物にまみれ、異臭が漂い、死の匂いで充満していた。不安や恐怖と戦い、劣悪な環境の中で、感染の危険に晒されながら、サルたちに強力な麻酔注射をし、心臓を取り出し、血液を採取し、肉の塊となった死骸を秘密裏に処理していく。
夫婦でこのせん滅作戦に参加した陸軍中佐(後に大佐に昇進)夫妻、ウイルス学者、ウイルスハンターたちの自己犠牲を顧みない勇気ある行動に深い感激を覚える。
『ホット・ゾーン』の中で活躍する者は、完全密封された「宇宙服」と呼ばれる防御服に身を包んで行動した。
現在でもこのウイルスのワクチンは存在せず、確たる治療法もない。
その飛び抜けた危険性ゆえに、微生物の危険度を示す国際的な危険度において、最高に危険な「レベル4」に分類されている。この分類法によれば、あのエイズでさえも「レベル2」でしかない。
人類の英知と勇気が、アメリカの人間への感染を阻止した。サイエンス・フィクションの最後は次のような記述で終わる。
『(せん滅作戦で今は無人となり)見捨てられたモンキーハウスの中で、エボラはこの中の部屋に出現しその本性をむき出しにし、飽食した末に、森林に退いていった。いつの日か、それはまた戻ってくるだろう』。
20年前に出版された「ホット・ゾーン」でリチャード・プレストンが予言したように、今、西アフリカでは「エボラ出血熱」が発現し、未だ終息を見ていない。
(昨日の風 今日の風№13)
2014.12.23記 (つづく)