雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

読書案内「山の霊異記 霧中の幻影」 (3) 石田の背中 他 

2016-12-21 13:10:07 | 読書案内

読書案内「山の霊異記 霧中の幻影」(3)
                           安曇潤平著
 
第4話 石田の背中
 
を藪の中へ先導していったのはいったい誰だったのか。

 約束の時間が過ぎても一向にくる気配の見えない友人・石田を置いて、   
 一人で登り始めた。

 携帯に掛けても反応がない。
  約束場所の駅から、登山口までバスに乗った。
 バス停から登山口までの緩やかな道を少し歩くと、T岳登山口に着く。
 ここからが登山道だ。
 ショルダーベルトを締めなおし、靴ひもを結びなおし、
 登山口の階段見上げた俺の目に飛び込んできたのは、
 ザックを背負った石田の姿だった。

 一本前のバスで来てしまったと石田は詫びる様子もなく、
 歩きはじめる。
 早い。
 いつもの石田ではない。
 息も切らさずハイペースで登っていく。
 石田が不意に立ち止まり登山道を外れ、
 深い笹薮の中に入って行った。
 咎める松山に石田は
 「この道を進めば山頂に直登できるんだ」と言いどんどん藪の中に入っ
 ていく。       
 道はますます狭くなり、笹薮が体に巻き付く
 引き返した方がいい」と言う松山に、
 「いいから俺についてこい」と石田は言う。

 松山はぞっとして足を止めた。
 その声は石田の声ではなかった。
 冷たく、悪意のこもった聞いたこともない男の声だった。
 
 その時松山の携帯電話が鳴った。
 電話のむこうから聞こえてきた声は……。
 松山は驚愕した…。

第五話 三枚鏡
 めったに人が入らない山で知り合った女は、
 大事そうに「コンパクトな三面鏡のような鏡」を持っていた。
 2年ほど前に、冬の鹿島槍ケ岳で滑落して亡くなった友人の形見だと言う。

 問わず語りに女は「鏡」にまつわる不思議な話を始める。
 時々その鏡の真ん中に他人の顔が映っている時がある。
 あり得ない事だが、話には続きがある。

 ある日北アルプスの谷で遺体が発見されたニュースを見ていた女は驚いた。
 画面に映し出された顔は、その前の日、真ん中の鏡に映った女性の顔だった。
 何とも気味の悪い話だ。

 女が去ったあと、気がつくと例の三枚鏡が忘れ去られたように残っていた。
 背筋が少し寒くなり、心臓の脈打つ音が聞こえる。

 勇気を出して鏡を開いてみた。左右の鏡に

 自分が映る。そして真ん中の鏡には……。
 なんの変わりもない自分の顔が映っていた。

 物語はこれで終わりではない。
 女が三枚鏡を忘れたのは偶然なのか。
 それとも……。

 その後の女の動向は……。
 謎は深まり、鳥肌の立つ余韻が残る。(2016.12.21)   (読書案内№95)

 

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