感染を題材にした小説 (2)「復活の日」 小松左京著
人類は滅亡するのか
MM-88によって地球は汚染されていく。
( 写真文庫本は1975年角川文庫より刊行)
手元の本は角川文庫の本で経年劣化でスレや黄ばみが激しい。
初版は1964(昭和39)年 書き下ろし 早川書房から刊行。
56年も前に書かれたSF小説だが、
一部書評は今日の新型コロナウイルスが蔓延する社会を予言する書ともてはやす。
この年東京オリンピックが開催された年だが、
三波春夫のオリンピック音頭がながれ、
アスリートとスポーツファンが世界中から東京に集まってきた。
お祭りムード一色に染まったこの時代だから、
書き下ろしとして上梓せざるを得なかったのだろう。
新聞、雑誌、週刊誌もお祭りムード漂う中「人類滅亡」の危機を描く小説を連載する勇気は、
オリンピックに水を差すようでできなかったのだろう。
人気に火が付いたのは文庫本が出版された後の1975年以降だろう。
1980年には、つまり書き下ろし版が発行されてから16年後、
巨額の製作費をかけた映画がつくられたことを見ても理解できる。
プロローグ
原子力潜水艦ネーレイド号の潜望鏡がするすると上がる。
東京湾口の浦賀水道。
三浦半島の東端の観音崎に向けて2000㍉望遠がとらえた映像が、
17インチの画面いっぱいに俯瞰された。
驚愕の光景が出現した。やはり……
家々の戸や窓はほとんどとざされ、ところどころ、うつろな暗い口を
ポッカリあけている。電柱に、色あせた質屋の看板が見える。街路に
は、舗装のこわれた所から草がはえ、赤錆のスクラップと化した自動
車が、塀や電柱にぶつかったり、道路の真ん中にのりすてられたりし
ていた。無人の、あれはてた街の上に、春の陽のみがいたずらに明る
く、あたたかく、さんさんと湯のようにふりそそいでいる。草ぼうぼ
うの庭や空地には、春の花が咲きみだれ、四辻の一角に、真っ赤にさ
びた小さな三輪車が、そのままにおきさられているのを見つけて、吉
住は思わず胸をしめつけられた。そのかたわらに、白っぽいぼろぎれ
のようなものが地面にへばりついてた。眼をこらすと、それはぼろぼ
ろの服をまとった白骨だった。
無人と化した風景を作者・小松左京は延々と続ける。
で……。人類社会の終わりを告げるような描写なので続きを引用します。
気がついてみると、いたる所に白骨がちらばっていた。玄関わきにく
ずおれ、溝に半分はまり、辻におりかさなり、あるものは二階の窓か
ら首のおちた上半身をのり出して……風雨にさらされ、くわえさる動物
たちもなく、犬猫もまた白骨死体となっていた。二年半前は、この古く
活気に満ちた港街の、にぎやかだった何万という人々は、今は春の陽の
中に白く光る、動かぬ白骨となって、声もなく横たわっている。チラリ
と黄色の小さなものが動く。白骨に蝶がたわむれている。
原子力潜水艦ネーレイド号の潜望鏡が静かに閉じられ、
八万五千キロさきの南極の基地に向かって波の下の潜航を開始する。
目に見えぬ恐怖が人々を急速な勢いで覆いはじめ、世界のメディアは地球の危機を訴え、研究者は自分たちの研究の手の届かぬところで起き始めた異変に手をこまねいて傍観するのみだった。全地球を飛び交った情報の電波も衰え、やがて最後の電波が途絶えたとき、世界は沈黙の暗闇に覆われた。天よりおそいかかる閃光と白熱と火の柱による核戦争が起こした滅亡の道ではない。
なぜ、こんなことになってしまったのか?
どうして?
起こってしまったあとで、その原因を知ったところで何になろう?
ほろびたものは、もはやかえってこない。
作者の懊悩は続く。
三十数億の人間と、五千年の歴史と、
最近百年の目覚ましい発展を遂げた巨大な世界は1960年代の末突如としておわりを告げた。
たった一つ忌まわしい災厄から奇跡的に救われた地を除いて。
酷寒と荒れ狂う吹雪と、永遠の氷で閉ざされた過酷な世界・白い大陸に閉じ込められた、
わずか一万人そこそこの人々に託された人類復活の希望が託される。
細菌兵器「MM-88」
生物化学兵器として開発されたMM-88が盗まれた。
カプセルに詰め込まれた猛毒のMM-88は小型飛行機に積まれ、
敵国に輸送される途中、吹雪きの大アルプスで墜落。
黒焦げの乗員と部品や胴体の破片が発見される。
……春になり雪解けが始まると、奇妙な死亡事故が報告され始めた。
MM-88
摂氏マイナス十度前後で、増殖しはじめる。
マイナス三度を超えると、増殖率は100倍以上になり、
零度を超えるときちがいじみた増殖を開始する。
摂氏五度で、猛烈な毒性を持ち、
増殖率はマイナス十度の時の約二十億倍になる。
動物実験の結果。
感染後五時間でハツカネズミの98%が死滅、
一番早いものは感染後二時間で死んだ。
得体のしれない死亡例が、
各国から報告され人類滅亡の序章の幕が静かに、
上がり始める。
唯一生き残ったのは、南極大陸に滞在していた各国の観測隊員1万人と原子力潜水艦「ネーレイド号」等の乗組員たちだ。
人々は国家の壁を越えて「南極連邦委員会」を結成。
力を合わせて食料や子孫の問題など乗り越え、
世界が再び復活する日にに向けて活動を開始する。
新型コロナウイルス 最新ニュース
世界の感染者数198万人余 死者12万人超 (朝日4/16)
日本の感染者数8722人 死者178人(クルーズ船を除く) (4/16)
東京・新たに127人の感染者 (4/15)
東芝・国内全拠点休業 (4/15)
「対策しなければ最悪40万人が死亡」と厚労省専門家チーム(4/15)
(表記のないものはNHKウェブニース)
新型コロナウイルス 最新ニュース (NHKニュース ウエブ)
〇 「緊急事態宣言」全国に拡大。
さらに、これまでの宣言の対象の7都府県に北海道、茨城県、石川県、岐阜県、
愛知県、京都府の6つの道府県を加えたあわせて13都道府県について、特に重点的に感染拡大防止の取り組み
を 進めていく必要があるとして、「特定警戒都道府県」と位置づけました。(4/17)
〇 東京都 新に201人感染確認 1日で最多 都内2794人に(4/17)
〇 10万円一律給付 自己申告に基づいて行われる見通し 麻生財務相(4/17)
〇 全国の感染確認 16日は574人 計9200人超に(クルーズ船除く)(4/17)
(読書案内№149) (202004.16記)
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今を予言する様な小説を読みました。
5月6日まで図書館は閉鎖ですが、「復活の日」探してみたいと思います。
高嶋哲夫さん、パニックものたくさん書いていますので、ぜひ読んでみてください。
「首都感染」最近購入しましたが、まだ未読です。
読むのを楽しみにしています。
図書館閉鎖には わたしも困っています。
今月の予定表は、全部消えてしまい、家に引きこもり状態です。おかげで、読書三昧の日が続いています。
このシリーズはもう少し続けたいと思います。