読書案内「喜びは悲しみのあとに」上原 隆著 (3)
一生懸命生きて
悲しみのあとに喜びは訪れるのか。
努力が報われる日が訪れることを願いながら読んだ。
天安門から遠く離れて
彼女(宋)は 中国人である。母国の大学出たが、当時中国では民主化運動が盛り上がり、彼女も毎日のようにデモに参加した。天安門事件が起こり運動は鎮圧された。彼女は経済的安定と自由を求めて日本の大学に留学し、東京の小さな貿易会社に就職する。中国語はもちろん、日本語と英語を話せる彼女に会社は期待し、彼女も張り切っていた。
だが…
社長は我がままで、気分屋。部下を呼びつけて意見を聞こうとするが、全部を聞かずに話の腰を折り自分の結論を押し付けてしまう。その上下品である。状況が変われば、前言を平気で覆し、計画を独断で変更してしまう。社長と営業部員の宮本と彼女で母国中国へ商談に行った時のエピソードも聞くに堪えないような話ばかりだ。しかも、中国人を非難し、中国の習慣を認めようとしない。ほとほと嫌気がさし気が滅入ってしまう彼女に宮本はつぶやく。
「宋さん、社長とうまが合わないみたいね」 「ええ」宋はうなずく。
「どうしてもうまくいかない相手というのはいるからね。努力してもダメなことってありますよ。宋さんみたいに語学も仕事もできれば、どこにでも就職できますよ」宮本が言った。
宋は自問自答した。
……ホントはあなたはもうちょっと別の場所にいるばずなんじゃないの。自分のプライドを押し殺してまで、同じ場所にいることないよ。だって、それじゃ、中国を飛び出した意味がないじゃないの。やめよ、この会社……
才能もあり、一生懸命仕事に励むのだが、恵まれない。努力が結果となって現れない。報われない仕事をすることになる。多くの場合会社そのものが合わないのか、上司に恵まれないかだ。ストレスを抱え孤立無援の状況に陥り、最悪の場合、「自死」という選択を選ぶような事態になりかねない。
宋の場合は。最後の一行は次のように終わる。
光に照らされた宋の顔にちょっと明るさが戻ってきた。
(読書案内№105)
(2017.9.1記) (つづく)
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