読書案内「喜びは悲しみのあとに」上原 隆著 (1)
一生懸命生きて
悲しみのあとに喜びは訪れるのか。
努力が報われる日が訪れることを願いながら読んだ。
この本は、読書案内「友がみな我よりえらく見える日は」(2017.04.30付ブログで紹介。読書案内№98)に続くコラム・ノンフィクションである。
悲しみのあとには、必ず喜びが訪れると信じて、今日という日を精一杯生きよう。
どこか悲しげだが読んでいて、それぞれの主人公を応援したくなる一冊だ。
ブックデーターから紹介(要旨)
重度の障害を持つ子どもの父のハードボイルド作家、倒産した地方新聞社の元記者たちの
困難な再就職への道を追う、「子殺し」の裁判ばかりを膨張する女、突然戦力外を通告さ
れるプロ野球選手など辛く苦しい人生を背負った18名が登場する。
ロボットの部屋
小林満26歳。
ごく普通の青年の部屋だがたった一つ異なることは、
500体の超合金ロボットのおもちゃに囲まれて暮らしていることだ。
普通のサラリーマンがなぜこれほどまでにおもちゃのロボットに執着しているのだろう。
幼稚園の頃のオモチャを今も大切に持ち続けている。
彼が小学一年生の時両親が離婚をした。
彼は東京の家から、横浜の母の実家に預けられた。
週に一度母は彼に会いに来た。
その度に彼は母に連れられてデパートに行った。
彼の欲しいものはロボットだった。
毎週毎週、彼はロボットを買ってもらった。
彼はなぜロボットに執着したのか。
後年彼は次のように答えている。
「語りかけ易いんですよ。
どれが一番強いかとか、やさしいかとか、それぞれに性格付けして遊んでいました」
彼は寂しかったのだ。
心を許し話し合うことができたのは、ロボットだったのだろう。
5年ぶりに別れた父に再開した。
彼は5年生になっていた。
彼はやっぱりロボットが欲しいといった。
「まだこういうものが好きなのか」と父が呟き、 その表情は少しがっかりしていた。
彼は悲しかった。
唯一自慢できるロボットは、彼の淋しさを癒してくれるおもちゃだつた。
彼はそれを父に見せ自慢したかったのだ。
こうして彼は何度か父との感情のすれ違いを経験しながら大人になっていくが、
もはや父にも新しい家族ができ子どもがいる。
彼が父に会いたいと思うほど、別れた父は彼に逢いたいとは思わなかった。
父には新しい家庭ができたのだ。母も再婚した。
彼はますますロボットにのめりこんだ。
「あなたにとって、ロボットってなんですか?」
ロボットに囲まれた部屋の中で彼は答える。
「僕は、自分が家庭を持ったら、子どもをぜったいひとりにはしないって決心してるんです」
答えた彼の手には、小学校6年生の時に、再開した父に買ってもらったゴーグルロボが握られていた。
(読書案内№103)
(2017.8.26) (つづく)
次回も「喜びは悲しみのあとに」から掌編を紹介します。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます