児童文学 「ビルマの竪琴」に見る水島上等兵の気持ち(2)
日本へ帰れるぞ! 一緒に帰ろう!
これからお話しするのは、
ビルマという熱帯の国で終戦を迎え、
からくも生き残ったある日本兵・水島上等兵の物語の、さわりの部分です。
1945年、長く続いた太平洋戦争は終わり、
日本は敗戦国になった。
多くの兵隊が現地に残り、捕虜となった。
水島上等兵は、隊長の命令で、降伏しようとしない日本兵の説得に向かいます。
だが、その後いつまでたっても、水島は戻らなかった。
そんなある日、部隊の前に、水島そっくりのビルマ僧があらわれました……。
黄色い衣を着た、まだ若い僧でした。
手には托鉢のための器を持ち、肩には、目の覚めるような緑のオウムが止まっています。
「あっ、あれは水島ではないか」
「水島上等兵!」
「水島上等兵!」
「おい、水島!水島だろう」
皆が声を掛けましたが、
この水島に似たビルマ僧は、何も答えず、
捕虜になった兵隊たちの前を両手を合わせ、
無言で、
うつむき加減に通りすぎて行きました。
夏も終わり近くなったある日のこと。
一人の兵隊が、息を切らしながら、走ってきて言いました。
「日本へ帰れるぞ!命令が出たんだ。出発は三日後だ!」
夢にまで見た祖国日本に帰れるのです。
みんなは、手を取り合って喜びました。
「あれほど、帰りたかった日本に、やっと帰れる」。
肩を抱き合い、
生きて帰れることをみんなで喜び合いました。
その時、兵士のひとりが思い出したように言いました。
「そうだ、あの水島に似たお坊さんがもし水島上等兵だったら、一緒に日本に帰れるのに」
しかし、連絡の方法もなく瞬く間に、
2日間が過ぎてしまいました。
明日には日本に帰る船が出る。
水島にはもう会えないのだろうか。
その日の夕方です。
「あの坊さんが柵の外にいる」誰かが叫びました。
それは、あの日確かに橋ですれ違ったお坊さんでした。
「水島―っ」
誰かが叫ぶと、他の兵隊たちも思い思いに叫びました。
「水島!我々は明日、日本へ帰るぞぉー」
「一緒に帰ろう」
(2016.8.4記) つづく
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