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ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

柱にかかる時計

2021-02-27 10:16:48 | 
夜だった
自宅で多くの心が殺された
ドップラー効果の白い箱車が迎えに来る
朝方、帰ってきた頃には
柱にかかる時計は数時間進んでいた

俺は生き残った心たちと外に出た
心が立てなくなっている
立ち上がろうとしても恐ろしく
すぐに手をついてしまう
這いつくばって帰ると柱時計は一回りしていた

四つ足の俺は世の中のスピードについていけず
後ろから次々と足音が聞こえ、すぐにその背中は遠ざかっていく
もう何周遅れなのだろう

家は帰るたびに少しずつ廃墟となり
時計だけが1年、10年、30年と秒針を響かせて進んでいる
単4の電池ひとつで
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ひと、ひと、ひと

2021-02-26 18:39:08 | 
雪のような肌をして
ナイフみたいに鋭利に笑い
時にストーブのような眼差しで見つめる
抱きしめたらとろけそうな極上の人

今日もこの街の何処かに宝石が埋もれている
そう信じてゴミ箱をあさり
ようやく手にした宝石を
口いっぱいにほうばった食欲の人

いくら空の向こうに旅行したいからって
ビルの屋上の絶壁に立つなんて
ロケットに乗るより早く空に到着したかったのだろう
ついに一線を踏み越えてしまった引力の人
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 初恋の遠い空

2021-02-26 16:23:23 | 

「中学の同窓会、来る?」


同じ高校の他のクラスの少女が僕に問う机を挟み僕の目の前に立つ美しい君
卒業から1年も経ってなかったが
ショートカットだった君の髪は背中まで伸び、大人びて見えた

君が教室を去った瞬間から周囲は君を僕の彼女だと信じ込んだ
本当に迷惑な女
苛立ちと憧れが中学の頃から変わらない
彼女と話すと言葉が短く切れてしまうのも変わらない

帰る方向が同じだからたまに自転車を並べて話し、また話さず
粋がりのセブンスターにも、君は注意もせず、嫌な顔もしないので僕は悲しくなった

その時彼女は言った「背、伸びたね」と
今は長身の彼女より僕の方が背が高い
それが男らしさと幼い勘違いをして僕は満更でもない

「彼女できた?」
出来たとでも言えば、君は僕の肩を揺すって祝福するだろう
本当に気に食わない
告白でもしてやろうか
しかし、僕のたかだか16年のプライドが鼓動を高鳴らせ、それを許さない
こんなに近くにいるのに、君は遥か遠い空
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僕の平成

2021-02-26 15:16:01 | 
平成が明けた空はよく晴れていた
僕はその眩しさを忘れない
二度と見ることはなかった眩しさを

突然、僕の頭上に雷が落ちた
僕は死ななかった
壊れたまま生きていた

その日から常に重たい雨雲が垂れ込めていた
短い間隔で激しい雨に打たれる
冷たく痛く傘もない

僕は次第にどこに行けば激しく打たれるかを知り
あらゆる場所に立ち入らなくなり
少しでも豪雨を避けるための場所を探し続けた

ついに平成が終わる
意義や価値など見い出せないまま
死が怖いという理由で生き延び続けた平成が
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はるなつあきふゆ

2021-02-26 14:07:27 | 
春には花びら舞い散る中で
別れと出会いがあり

夏は夏でいろんな音が聞こえる
蝉の音
激しい雨の音
打ち上げ花火の音
大粒の汗が滴り落ちる音

秋には空は青く
雲は痩せ
色とりどりの人や木々は美しいけれど
生き急ぐ切なさは隠せない

やがて冬が来て西高東低の気圧配置
寒さの底で季節が止まったような気分になる

それでも柔らかなレコードのように時は回転して
季節が積み上がって時代は過ぎ
今この世に生きるあらゆる命たちはすべて消え
新しい人々が遥か遠くの春を生きている
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平成の暮れ

2021-02-26 10:33:10 | 
昭和の暮れ
両親に手を引かれた男の子の笑顔が、最後の夕日に輝いていた

平成の夜明け
日本はバブル景気に沸いていた
やがて日が高く昇るにつれ
金は消え、人は老い、心はすさんだ

自然も平成に対し、残酷だった
地震、豪雨、酷暑
それなのに今日の空は軽やかにくつろぐ

幸福を謳歌した人もいただろう
不幸を耐え忍んだ人もいただろう
新たに誕生した命、消えていった命は数知れず

あらゆる人生も生き抜いた価値に変わりなく
叶わなかった夢、報われなかった努力
こびり付いた苦しみ、悲しみ
つべこべ言わず、一列に並んで成仏せよ

30年前とよく似た家族が通り過ぎていく
両親に見守られ、プレゼントを抱えた男の子が無邪気に笑う平成の暮れ

 

 
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秘密

2021-02-25 18:36:30 | 
まだ外には出ないほうがいいよ、風が強いから
君は優しく言った
僕はそれに甘えて、しばらく君の心の温かさの中にいた

秋の終わりの世界を君と歩く
落ち葉がふんだんに散りばめられ、アスファルトが見えない
こんなふうに何もかも上手に隠せたら良いのだけれど
君の疑わぬ笑顔が西日に晒されて輝く
僕はそれを避け、俯いた

行き止まりが近づいてくる
君にはそれが見えていない
見えてくる頃には僕はもういない
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2021-02-25 17:17:02 | 
痛いほどの眩しさをしかめ顔しながら
僕は長い暗闇を歩いている

昔はよく見た美しい光
それは儚く上質で点々と
少し甘い香りを漂わせながら輝いていた

それは希望の似合う者にしか見えない
未来を信じる者にしか見えない
遥か遠い夏の夜の光
僕はただただ懐かしむだけで
もう二度と目にすることはないだろう
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深い黒

2021-02-25 15:40:11 | 
もう身動きが取れない
病気と社会の挟み撃ちに遭い
四面からは楚歌が流れ
八方すべてが塞がれた

生きる苦さを希望という仮想の砂糖で誤魔化してきた
次第に若さは剥がれ落ち、甘味は途絶えた
万策が尽き、途方に暮れていると
いつの間にか延びたはずの日も暮れていた

人ひとり、いなくなろうと世界は気づかずに流れていく
会社へ向かう人々の足取りも日々、同じ速度の繰り返し
夜、煌々と灯りを点けても
僕の心は黒々に塗りつくされている

 

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不思議なもの

2021-02-25 14:03:19 | 
僕は未だにUFOを見たことがない
それでも不思議なものはいろいろ見てきた

金持ちなのにそれを使うことに臆病だったり
貧しいのにそれを使うことに躊躇がなかったり
苦いものを甘いと言ったり
また甘いものを苦いと言ったり

不謹慎な喜び
誠実な遊び人
幸福な悲しみ
不幸な微笑み
この世界そのもの
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