スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

訪問の意図&僕の理解

2014-07-18 19:09:44 | 哲学
 スピノザのユトレヒト訪問の意図について,『スピノザの生涯と精神』の訳者の渡辺義雄は,リュカスの伝記への訳注で,フランスと和平交渉の余地があるかを確かめ,可能ならば休戦に持ち込みたいと思っていたからだという主旨のことを述べています。コレルスの伝記の方には,スピノザは帰国後,家主に対して,なぜ自分がユトレヒトに行ったのかをよく知っている偉い人がたくさんいるという意味のことを言ったと書かれていて,渡辺の言い分を裏付けているように思われます。
                         
 これに対して,『ある哲学者の人生』のナドラーは,スピノザにそのような意図があったということには懐疑的です。いくらスピノザが高名な哲学者であったとしても,戦争を停止させるような権限があったとは考えにくいというのが,ナドラーがそう考える理由です。
                         
 渡辺とナドラーでは,ユトレヒト訪問の時期の推定にずれがあります。ただ,渡辺の推定する時期には,政治的にはスピノザと近かったヨハン・デ・ウィットは生きてはいましたが,すでに失脚後で,政治的実権は,好戦的な反動保守派のうちにありました。かれらが休戦を志向するということ自体が考えにくいことであり,仮にそう望んだとしても,スピノザは保守派からすれば目の敵のような存在ですから,スピノザに調停を依頼するなどあり得ないと僕は考えます。つまりコレルスの伝記の内容自体,僕には疑わしく思えます。もし書かれていることが真実であるなら,単にスピノザが家主を安心させるための方便にすぎなかったと推測します。
 ただ,何の目論見もなくスピノザがわざわざユトレヒトまで行ったとも僕には思えません。スピノザが休戦を望んでいたということは間違いないと僕は思います。政治的な意味において自身にそのような力がないということを,スピノザは承知していたと思いますが,それでも自分がユトレヒトまで行くことで,僅かながらでも休戦への道を模索することが可能であるとスピノザは考えていたと僕は思います。招待の理由が何であれ,単に招待されたというだけで,スピノザがユトレヒトまで出向くとは考えにくいからです。

 テクストをこれ以上詮索したとしても,個物res singularisの起成原因causa efficiensに関する明解な答えを見つけ出すことはできません。少なくとも僕には無理です。そこで,僕がどのように考えているのかということだけ,かいつまんで説明しておきます。
 第一部定理二八がある以上,僕はres singularisの起成原因は,それとは別のres singularisであると考えるべきだと思います。そして第二部定理九から推定すると,このことは,第二部定理八系で,res singularisが神の属性に包容されている限りにおいてといわれている場合にも,また時間的に持続するといわれる限りにおいて存在するといわれている場合にも,同じように適用されると考えています。ただし,もしもあるres singularisが神の属性に包容される限りにおいて存在する場合には,その起成原因である別のres singularisも,同様の様式において存在します。そしてこの場合,res singularisには永遠性が含まれます。一方,もしもres singularisが現実的に存在するという場合を射程に入れるなら,その場合にはそのres singularisの起成原因たる別のres singularisも,現実的に存在するres singularisであると考えます。この場合は,単にこのことだけに注目する限り,res singularisの存在に永遠性は含まれません。ただし第二部定理八系が示すように,現実的に存在するres singularisは,永遠性を有するものとして神の属性に包容される限りにおいても存在しますので,そのres singularisが永遠の観点から認識されることは可能です。僕が持続は永遠の特殊な形態であるというとき,それはこの事態を前提としています。
 ただし,どんなres singularisも,その属性の直接無限様態なしには存在することはできません。いわばある属性の直接無限様態は,その属性のres singularisの起成原因ではないけれども,その属性のres singularisに対しては本性の上で「先立つ」存在であると考えます。第一部定理二三から,直接無限様態が間接無限様態に先立つことも明白です。よって直接無限様態は,その属性の第一の様態であるというのが僕の理解です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする