脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
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ISAT

2008年08月22日 | くも膜下出血
 治療法の選択についてです。
 開頭クリッピング術は、長い歴史があり再出血の予防効果が確実です。しかし、先に述べたように、全身状態への影響を考えなければなりません。一方、血管内治療では脳に直接触れることなく、治療ができます。しかし若干確実性に劣ります。
 これら二つの治療法にはこのような長所と短所があります。またどちらの方法もすべての動脈瘤に適用できるものではありません。それぞれの動脈瘤に対して、これらのどちらが適しているかは、専門的な判断が必要です。患者さんの年齢や全身状態に加え、動脈瘤の部位、大きさ、形などを総合的に判断する必要があるためです。
 一般的にどちらの治療が良いのかについて多くの議論がありましたが、科学的な比較研究の結果が2002年に発表されました。この試験はISAT(International Subarachnoid Aneurysm Trial)と呼ばれ、多施設が参加し、クリッピング術と血管内治療を無作為にふりわけた臨床試験です。この試験では開頭クリッピング術と血管内治療のどちらも可能と判断された2000人以上の患者さんが登録されました。結果は、術後1 年後に障害なく自立している患者さんは、血管内治療の方が有意に多いというものでした。この結果は「従来のスタンダードであるクリッピング術よりも、新しい血管内治療の方が成績が良かった」という点で全世界に大きなインパクトを与えました。
 しかし、この良い効果が、長期に継続するかどうかが不明であり、現在も長期的な調査が行われています。従って現時点ではこのISATの結果を考慮しつつ、個々の患者さんごとに治療法の選択を行っています。

 くも膜下出血で入院してもしクリッピングの説明しかない場合には、コイルによる治療ができないかどうか、もしできないならその理由を聞いてみましょう。明確に答えてもらえれば、納得がいきますよね。
 
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Matrix その後

2008年08月22日 | 動脈瘤
マトリックスを使った塞栓術をあの後2例に行いました。
一例めは前回紹介した症例です。
それを含んだ3例について感じたことをまとめます。
今回は専門家向けです。

コーティングしてあることによる摩擦がマトリックスのひとつの特徴です。
これをうまく使うと、壁にへばりつく感じでコイルを留置することができます。
これまでのどのコイルよりも意図的に偏った位置への留置が可能ということになります。
つまり動脈瘤からの分枝が温存することができるということになります。

一方で、コイル同士の摩擦があることは、コイルが自然に動脈瘤全体に広がるのを難しくします。
このためにマイクロカテーテルの位置をこまめに補正する必要があります。
もし補正が難しい場合、完全塞栓が難しいということになります。
不完全塞栓ではいくらマトリックスでも治癒率が低くなってしまいます。

つまり、この3例を通して「マイクロカテーテルの位置補正ができる状況でこそマトリックスの真価が発揮される」ことがわかりました。
上の図は3例目の患者さんです。
かなり良い塞栓にみえますが、自分としては矢印の部分にもう少しコイルを入れたかったと思います。
組織化コイルの力で完全治癒すると良いのですが...
ダブルカテーテルなどのテクニックが一つの解決策になると思います。
次回はその方法でやってみます。
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