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抗うつ剤で神経細胞増加?

2013年01月05日 | 報道・出版関係
脳は一旦障害されると再生する機能がないため、後遺症として症状が残ってしまいます。これまで多くの研究がなされて来ましたが、なかなか有効な薬がないのが現状です。
私は米国留学中に神経再生の研究をしていましたが、そのきっかけは、「大人の脳内でも新たな神経細胞が産生されている」という報告でした。
これは米国のGage博士が報告した神経新生(neurogenesis)と呼ばれる現象で、従来の「脳は再生しない」とされていた既成概念を打ち破る大きな発見だったのです。
そうなると、「脳内の神経細胞新生を増やせば、脳卒中などで障害された脳機能の改善につながるのではないか」と誰もが考えます。私も、脳卒中モデルを作成し、神経新生の促進因子を探すために実験していました。
その結果、ある成長因子(FGF)が重要な働きをすることを見いだし科学論文として報告したところ、とても大きな評価を頂きました。

しかし、人に応用するとなるとどうでしょうか。私の研究は成長因子FGFの遺伝子を導入する方法でしたが、ご存知のように遺伝子治療には倫理的に大きな壁があります。そう、安全性に問題がないかどうかを慎重にチェックする必要があるのです。
これには長い時間がかかります。「長期の安全性」を示すには、「長期の実験」が必要となるからです。また、安全性に少しでも問題があれば、実際に行うことは難しくなります。
このため遺伝子導入法ではなく、普通に内服や点滴されている薬剤の中に効果があるものがないか調査がなされています。当教室でも研究を続けていますが、本日、あるうつ病の薬が脳内の神経細胞新生を促し、脳梗塞やアルツハイマー病に有効ではないかと報道されていました。

http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130105070334175

残念ながらこの抗うつ剤「フルオキセチン」という薬剤は日本では未承認で、入手することが出来ません。またこの薬剤をヒトに応用した場合に効果があるかどうか、まだ不明です。
ただ、この研究をきっかけに、この系統の薬剤を調べて行けば、ある程度ヒトに効果のあるものが見つかるかもしれません。

今後もこういった研究が進み、いつの日か、脳卒中の後遺症や認知症の特効薬が開発されることを期待しています。
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