秋田市中央部と北部・土崎を結ぶ主な道路は、臨海バイパス(国道7号)と新国道(という名の県道)、そしてその間に位置する旧国道(市道。実際には旧旧国道)。
羽州街道である旧国道沿いには、寺院や史跡が点在する。
中央部側から北へ向かう時、面影橋を渡り、ショッピングモール「パブリ」・帝石前を過ぎると、右側から道がぶつかる丁字路交差点。
左側は寺内蛭根(てらうちひるね)、右側は交わる道路より手前(=帝石側)が八橋大道東(やばせだいどうひがし)、道路の向こうが寺内油田(てらうちあぶらでん)と、なかなか読みづらい町名の三つ巴。草生津川のこちら岸(右岸)では、ここが八橋の北端となるが、左岸はさらに北側も八橋。
その角に1本の大きな松の木がある。
その呼び方は、僕は今まで明確に意識したことはなかったけれど、「八橋(寺内?)の一本松」とか「旧国道の一本松」と言えば、ある程度長く住んでいる秋田市民なら近隣住民以外でも知っていると思う。この丁字路も「一本松の交差点」で通るはず。ランドマークの松だ。
僕はこの場所はあまり通らないので、今年10月に久しぶりに通った時、一本松の姿に驚いた。
松の木の向こうが右方向への下り坂の道
枝や葉が大幅に減り、残った葉は枯れている。往時の姿を知らない人であっても、明らかに異常だと分かる状態。
※この記事では、10月と12月に撮影した写真が混ざっているが、松の状態に大きな変化はない。
マツノザイセンチュウ、いわゆる「松くい虫(←漢字とかなの組み合わせは、この表記が行政的には正式らしい)」による「マツ枯れ」症状だろうか。【2020年1月29日訂正・松くい虫による松枯れではないことが分かりました。以下は初回アップ時のまま残しますので、詳細は末尾の追記をご覧ください。】
松くい虫は、北アメリカ原産の線虫で、1905年に長崎で発見以降、北へ侵略を続けてきた。秋田では1983年頃から被害が出始め、1997年辺りから深刻化している。海岸の松林が全部枯れてしまった所もあった。
(再掲)2009年の羽越本線沿い
一本松はいつからこうなってしまったのか、Googleストリートビューでは、
大きいのが2017年7月、左上の小さいのが2018年6月。
2017年では健全そうで、昨2018年初夏には枯れて葉が減り始めていた。
ツイッターも見てみると、2018年1月にはまだ緑の葉。2018年10月には枯れた上の部分が撤去されていた。今年8月初めには、旧国道側の枝が取り払われ、現在のシルエットになったようだ。
マツ枯れ症状は、感染後の夏から秋にかけて急速に進むが、寒い所ではその翌春になることもあるとか。いずれにしても発症は2018年で、感染はそれ以前になる。
一本松のそばには、秋田市の保存樹の標柱が立っており「通称 油田の一本松」とあった。1984年3月に保存樹第222号として指定。【17日補足・地名が由来だから「ゆでん」ではなく「あぶらでん」と読むべき。】
他の資料でも「油田の一本松」と表記されていることが多く、通称というよりも正式名称に近いかもしれない。※現在の所在地はギリギリ八橋大道東になり、住居表示以前も八橋字大道東だった(後述)ようだが、充分油田で通じる場所。
秋田市教育委員会発行「文化財イラストマップ(ぐるっと文化財マップ) 秋田市八橋・川尻地区編」によれば、「寛政5年(1793)に旧羽州街道沿いに植えたと考えられる松並木の中で現存する1本」とのこと。
ツイッターでは、一般の人たちによる油田の一本松の現状を憂う声がちらほらあるが、公式な情報は…
秋田市役所サイト「市政記者クラブ配布資料」の一覧に、7月31日に「保存樹油田の一本松について」が出ていた。
プレスリリースを一般向けにも公開してくれるのは、親切かつ当然のことではあるが、秋田市役所ではタイトルと日時場所だけで配布資料の実物はアップしてくれない。マスコミが必ず報道するとは限らないのだから、個人情報などがない本件のようなものは、内容も見せてほしい。問い合わせれば教えてくれるのでしょうけど…
日時・内容の欄には「8月3日(土曜日)八橋字大道東73-16地内」。字大道東が、住居表示前の所在地か。8月3日といえば、旧国道側の枝払い作業がされていた時のようで、その周知だったのだろうか。どこかで報道していたかな?
現在も保存樹の標柱が立っているということは、この状態でも指定解除されていないのだろう。
誰が見ても想像できそうだが、この状態では回復の見込みはないだろう。名残惜しいのは当然だが、この姿をさらしておくよりは…と思ってしまう。
中途半端な知識だが、ここから他の松に感染させてしまいそうな気もする(線虫や媒介する昆虫はもういなくなったのか)。
距離はずっと離れているが、秋田市内では千秋公園西側に鷹の松、鑑の松という保存樹もある。鷹の松は大きい枝が折れて支えが入るなどしているものの、現在はいずれも葉は元気(この記事に秋の鑑の松の写真)。
そういう松は薬剤散布など対策をしているのだろうか【末尾の追記参照】。だったら、油田の一本松でももっと前にできることがあったのではないか。とか考えてしまう。
旧国道は高清水の丘の中を通る。この付近でも、土崎に向かって右手・北側が坂や崖状になっていて、秋田市内にしては見晴らしがいい。
旧国道を通行している限りでは、あまり高低差を意識できないが、標高は面影橋で6メートル、一本松で11メートル。昔の人が、できるだけ楽に通行できるよう道を作ったということだろうか。
一本松の下も坂道になっているので、
太平山が見える
大昔は並木だったからまた違ったのだろうけれど、数十年前なら家が少なく、一本松越しに田んぼと油田のやぐら、さらに向こうに太平山がよく見えたのかもしれない。
保存樹の標柱と反対側にも何か立っていた。
「古四王神社蟲除霊符」
古四王(こしおう)神社は、旧国道を北へ進んだ所にある、格式高い神社。
上記文化財マップでは、一本松が「古四王神社(寺内)の虫送り祭りは、ここまでが範囲です。」とあった。「古四王神社の虫送り」が詳しくは分からないが、古四王神社の地元に当たる。
【17日追記】一本松の隣接地の面影橋・パブリ寄りに広告看板が立っている(数年前はセブン-イレブンが広告主だった)。現在は青いもので、シロアリなど害虫駆除業者の広告なのは皮肉なもの。
【17日追記】一本松は種(しゅ)としてはクロマツだろう。クロマツは塩に強いため海辺でよく見られるが、マツノザイセンチュウには弱い(アカマツのほうは抵抗性は多少ある)そうで、海辺の松で被害が目立つようだ。
【19日追記】タイミングよく、秋田市が管轄する都市公園でのマツノザイセンチュウ防除作業(薬剤注入)の入札情報が出た。今回は3公園で行われるが、うち松林の中にある栗田神社街区公園では199本の松があるようだ。ということで、充分なのかどうかは別として、いちおう対策をしてはいるようだ。
【2020年1月29日追記】松くい虫ではなった。
2020年1月29日付 秋田魁新報 秋田市地域面で「弱る「油田の一本松」(秋田市保存樹) 将来的に植え替えを 地元町内会、市に要望書」が報道された。
1月28日に地元町内会が秋田市長に対し、一本松が「枯死し伐採した場合、同じ場所に松を植え替えるよう求める要望書を提出した。」。
「市公園課によると、2017年から樹勢の衰えが目立ち始め、18年2月に樹木医がすす葉枯れ病の可能性があると診断した。19年7月には樹木上部の枯死を確認。8月に上部の枝を剪定し、土壌改良や殺菌剤の散布を進めてきた。」
伐採しないのはまだ生きているということらしい。
松くい虫ではなかったのか。だからこそ、感染してもある程度放置しても差し支えなかったのだろう。
すす葉枯病は、多雨・過湿、根の状態、大気汚染で発生しやすくなるようだ。
【2021年8月18日追記】ついに伐採されることになった。
秋田市サイトの「市政記者クラブ配布資料」一覧には、8月16日付で建設部公園課から「保存樹「油田の一本松」の伐採について」が発出。例によってサイトではそれ以上の詳細は分からず、(問い合わせか)報道を待つしかない。
18日になって、秋田放送の夕方のニュースで取り上げられた。8月21日土曜日に伐採、その後、市が周辺の(歩道?)整備を行って、来年度だか来春だかに、新しい松を植えるとのこと。
【2021年8月22日追記】21日のNHKの東北ブロックニュース(土曜なので秋田県域ニュースなし)や、22日付 秋田魁新報 地域面で報道された。以下、魁より。
・クロマツ。樹齢200年以上。樹高約9メートル。
・昨2020年7月に樹木医が枯死と診断、9月に保存樹指定解除。保存樹指定は1984年。
・21日は3時間で伐採作業終了。切り株だけに。
・跡地には歩道が整備される予定。地元町内会の要望を受け、年明けごろには付近に高さ5メートルほどの新たなクロマツを植える。
【2022年3月27日追記】2022年3月25日付 秋田魁新報 秋田市地域面「秋田市「油田の一本松」跡 新たなシンボルに育て 市、クロマツ植樹し式典」より。
3月19日に、高さ約5メートルの新しいクロマツを植樹。24日には市が記念式典(新聞では「何を記念」したのか分からない。新しい松を植えた記念ってこと??)を行った。式典には町内会長など4人が出席(スペースや新型コロナの都合でしょう)。
羽州街道である旧国道沿いには、寺院や史跡が点在する。
中央部側から北へ向かう時、面影橋を渡り、ショッピングモール「パブリ」・帝石前を過ぎると、右側から道がぶつかる丁字路交差点。
左側は寺内蛭根(てらうちひるね)、右側は交わる道路より手前(=帝石側)が八橋大道東(やばせだいどうひがし)、道路の向こうが寺内油田(てらうちあぶらでん)と、なかなか読みづらい町名の三つ巴。草生津川のこちら岸(右岸)では、ここが八橋の北端となるが、左岸はさらに北側も八橋。
その角に1本の大きな松の木がある。
その呼び方は、僕は今まで明確に意識したことはなかったけれど、「八橋(寺内?)の一本松」とか「旧国道の一本松」と言えば、ある程度長く住んでいる秋田市民なら近隣住民以外でも知っていると思う。この丁字路も「一本松の交差点」で通るはず。ランドマークの松だ。
僕はこの場所はあまり通らないので、今年10月に久しぶりに通った時、一本松の姿に驚いた。
松の木の向こうが右方向への下り坂の道
枝や葉が大幅に減り、残った葉は枯れている。往時の姿を知らない人であっても、明らかに異常だと分かる状態。
※この記事では、10月と12月に撮影した写真が混ざっているが、松の状態に大きな変化はない。
マツノザイセンチュウ、いわゆる「松くい虫(←漢字とかなの組み合わせは、この表記が行政的には正式らしい)」による「マツ枯れ」症状だろうか。【2020年1月29日訂正・松くい虫による松枯れではないことが分かりました。以下は初回アップ時のまま残しますので、詳細は末尾の追記をご覧ください。】
松くい虫は、北アメリカ原産の線虫で、1905年に長崎で発見以降、北へ侵略を続けてきた。秋田では1983年頃から被害が出始め、1997年辺りから深刻化している。海岸の松林が全部枯れてしまった所もあった。
(再掲)2009年の羽越本線沿い
一本松はいつからこうなってしまったのか、Googleストリートビューでは、
大きいのが2017年7月、左上の小さいのが2018年6月。
2017年では健全そうで、昨2018年初夏には枯れて葉が減り始めていた。
ツイッターも見てみると、2018年1月にはまだ緑の葉。2018年10月には枯れた上の部分が撤去されていた。今年8月初めには、旧国道側の枝が取り払われ、現在のシルエットになったようだ。
マツ枯れ症状は、感染後の夏から秋にかけて急速に進むが、寒い所ではその翌春になることもあるとか。いずれにしても発症は2018年で、感染はそれ以前になる。
一本松のそばには、秋田市の保存樹の標柱が立っており「通称 油田の一本松」とあった。1984年3月に保存樹第222号として指定。【17日補足・地名が由来だから「ゆでん」ではなく「あぶらでん」と読むべき。】
他の資料でも「油田の一本松」と表記されていることが多く、通称というよりも正式名称に近いかもしれない。※現在の所在地はギリギリ八橋大道東になり、住居表示以前も八橋字大道東だった(後述)ようだが、充分油田で通じる場所。
秋田市教育委員会発行「文化財イラストマップ(ぐるっと文化財マップ) 秋田市八橋・川尻地区編」によれば、「寛政5年(1793)に旧羽州街道沿いに植えたと考えられる松並木の中で現存する1本」とのこと。
ツイッターでは、一般の人たちによる油田の一本松の現状を憂う声がちらほらあるが、公式な情報は…
秋田市役所サイト「市政記者クラブ配布資料」の一覧に、7月31日に「保存樹油田の一本松について」が出ていた。
プレスリリースを一般向けにも公開してくれるのは、親切かつ当然のことではあるが、秋田市役所ではタイトルと日時場所だけで配布資料の実物はアップしてくれない。マスコミが必ず報道するとは限らないのだから、個人情報などがない本件のようなものは、内容も見せてほしい。問い合わせれば教えてくれるのでしょうけど…
日時・内容の欄には「8月3日(土曜日)八橋字大道東73-16地内」。字大道東が、住居表示前の所在地か。8月3日といえば、旧国道側の枝払い作業がされていた時のようで、その周知だったのだろうか。どこかで報道していたかな?
現在も保存樹の標柱が立っているということは、この状態でも指定解除されていないのだろう。
誰が見ても想像できそうだが、この状態では回復の見込みはないだろう。名残惜しいのは当然だが、この姿をさらしておくよりは…と思ってしまう。
中途半端な知識だが、ここから他の松に感染させてしまいそうな気もする(線虫や媒介する昆虫はもういなくなったのか)。
距離はずっと離れているが、秋田市内では千秋公園西側に鷹の松、鑑の松という保存樹もある。鷹の松は大きい枝が折れて支えが入るなどしているものの、現在はいずれも葉は元気(この記事に秋の鑑の松の写真)。
そういう松は薬剤散布など対策をしているのだろうか【末尾の追記参照】。だったら、油田の一本松でももっと前にできることがあったのではないか。とか考えてしまう。
旧国道は高清水の丘の中を通る。この付近でも、土崎に向かって右手・北側が坂や崖状になっていて、秋田市内にしては見晴らしがいい。
旧国道を通行している限りでは、あまり高低差を意識できないが、標高は面影橋で6メートル、一本松で11メートル。昔の人が、できるだけ楽に通行できるよう道を作ったということだろうか。
一本松の下も坂道になっているので、
太平山が見える
大昔は並木だったからまた違ったのだろうけれど、数十年前なら家が少なく、一本松越しに田んぼと油田のやぐら、さらに向こうに太平山がよく見えたのかもしれない。
保存樹の標柱と反対側にも何か立っていた。
「古四王神社蟲除霊符」
古四王(こしおう)神社は、旧国道を北へ進んだ所にある、格式高い神社。
上記文化財マップでは、一本松が「古四王神社(寺内)の虫送り祭りは、ここまでが範囲です。」とあった。「古四王神社の虫送り」が詳しくは分からないが、古四王神社の地元に当たる。
【17日追記】一本松の隣接地の面影橋・パブリ寄りに広告看板が立っている(数年前はセブン-イレブンが広告主だった)。現在は青いもので、シロアリなど害虫駆除業者の広告なのは皮肉なもの。
【17日追記】一本松は種(しゅ)としてはクロマツだろう。クロマツは塩に強いため海辺でよく見られるが、マツノザイセンチュウには弱い(アカマツのほうは抵抗性は多少ある)そうで、海辺の松で被害が目立つようだ。
【19日追記】タイミングよく、秋田市が管轄する都市公園でのマツノザイセンチュウ防除作業(薬剤注入)の入札情報が出た。今回は3公園で行われるが、うち松林の中にある栗田神社街区公園では199本の松があるようだ。ということで、充分なのかどうかは別として、いちおう対策をしてはいるようだ。
【2020年1月29日追記】松くい虫ではなった。
2020年1月29日付 秋田魁新報 秋田市地域面で「弱る「油田の一本松」(秋田市保存樹) 将来的に植え替えを 地元町内会、市に要望書」が報道された。
1月28日に地元町内会が秋田市長に対し、一本松が「枯死し伐採した場合、同じ場所に松を植え替えるよう求める要望書を提出した。」。
「市公園課によると、2017年から樹勢の衰えが目立ち始め、18年2月に樹木医がすす葉枯れ病の可能性があると診断した。19年7月には樹木上部の枯死を確認。8月に上部の枝を剪定し、土壌改良や殺菌剤の散布を進めてきた。」
伐採しないのはまだ生きているということらしい。
松くい虫ではなかったのか。だからこそ、感染してもある程度放置しても差し支えなかったのだろう。
すす葉枯病は、多雨・過湿、根の状態、大気汚染で発生しやすくなるようだ。
【2021年8月18日追記】ついに伐採されることになった。
秋田市サイトの「市政記者クラブ配布資料」一覧には、8月16日付で建設部公園課から「保存樹「油田の一本松」の伐採について」が発出。例によってサイトではそれ以上の詳細は分からず、(問い合わせか)報道を待つしかない。
18日になって、秋田放送の夕方のニュースで取り上げられた。8月21日土曜日に伐採、その後、市が周辺の(歩道?)整備を行って、来年度だか来春だかに、新しい松を植えるとのこと。
【2021年8月22日追記】21日のNHKの東北ブロックニュース(土曜なので秋田県域ニュースなし)や、22日付 秋田魁新報 地域面で報道された。以下、魁より。
・クロマツ。樹齢200年以上。樹高約9メートル。
・昨2020年7月に樹木医が枯死と診断、9月に保存樹指定解除。保存樹指定は1984年。
・21日は3時間で伐採作業終了。切り株だけに。
・跡地には歩道が整備される予定。地元町内会の要望を受け、年明けごろには付近に高さ5メートルほどの新たなクロマツを植える。
【2022年3月27日追記】2022年3月25日付 秋田魁新報 秋田市地域面「秋田市「油田の一本松」跡 新たなシンボルに育て 市、クロマツ植樹し式典」より。
3月19日に、高さ約5メートルの新しいクロマツを植樹。24日には市が記念式典(新聞では「何を記念」したのか分からない。新しい松を植えた記念ってこと??)を行った。式典には町内会長など4人が出席(スペースや新型コロナの都合でしょう)。