秋田県男鹿市船川港船川字船川(「ふながわみなとふながわ あざふなかわ」だそう)に、「お菓子のゴンタロー」という和洋菓子店がある。
大正14年創業で「長栄堂」という店名だったそうだが、祖先(創業者ではないようだ)の名前にちなむ屋号「権太郎」が浸透していて、誰も長栄堂と呼んでくれなかったので、「ゴンタロー」にしてしまったと、公式ホームページで説明されている。
男鹿市船越と潟上市天王にも店があり、男鹿の菓子店としては著名かつ大規模。男鹿のお土産としていただくこともある。
これまで、秋田市内では購入できなかった(アトリオン地下では買えたかも??)が、昨2019年10月、秋田駅ビルトピコに初出店。
2階正面から入ってすぐ、4つの島を複数の菓子店が共有して商品を並べる「秋田お菓子小路」の1店。現在は9店舗中7店舗が秋田市内の菓子店で、市外は角館のくら吉とゴンタローだけ。市民や旅行客が、ゴンタローのお菓子を入手しやすくなった。
【2021年4月19日追記】トピコのゴンタローは、2021年3月31日で閉店してしまった。再び秋田市内では購入できなくなった。
「男鹿銘菓」と銘打った2品
地方の菓子店ではよくあることだけど、ゴンタローのお菓子は地元男鹿にちなんだ商品名が多い。
右側「鬼の石段」は、皮と羊羹風のあんこが別添されたモナカ。商品名は鬼(なまはげの起源とされる)が一晩で999段の石段を作った伝説にちなむ。最近出た商品かもしれないが、京都製のOEMで、よそでもあるやつ。
ほかには、袋に男鹿半島の地図を描いたブッセ「あしねけ」というのもある。知らなかったが、方言で「遊びにおいで」という意味だそうで、かなり局所的な言葉ではないだろうか。
今回取り上げるのは、写真左の「えぐり舟」。
「えぐり舟」もローカルな用語だろうか。丸太をえぐって作る「丸木舟」のこと。包装のイラストがそれだ。
1994年3月1日秋田県広報協会発行の「ホットアイあきた380号」には「丸木舟は男鹿半島の海の生活にとっては欠くことのできないものであった。」「樹齢三百年以上の杉丸太をくりぬいて造る。」「明治三年の記録によると、男鹿半島全体には三百八十九艘の丸木舟が存在した」とあった。
お菓子のえぐり舟は、以前から知っていた。
開封。絵は裏面にもつながっていた
中身は、アルミホイルで包まれた、細長くて膨れた形。
長さ10センチ弱のケーキみたいなものが現れる
えぐる前の丸太のように見えなくもない外観。紹介しているのは「赤あん」とされる商品なので、
中にはこしあん
もう1種「白あん」もある。外袋で赤あん/白あんを区別するには、裏面の小さい文字が確実。袋表面で明確に区別することはできないようだ。どうも、白あんのほうが、印刷の水色が薄く、舟の色が黄色が強い(商品名の地色と同じ程度)という違いがあるみたい。
ホームページでは和菓子として紹介されているが、バターなども入った和洋折衷菓子。
こういうアルミホイルで巻いて焼くケーキみたいな(?)お菓子のことを、レシピサイトなどでは「ホイルケーキ」と呼んでいるが、専門的には「ホイル焼き」と呼ぶという話もあった。
でも、ネットで「ホイル焼き」を検索すると、魚のホイル焼きばかり。そう言えば、昔の秋田市の学校給食では、鮭または鯖のホイル焼きが出た。鯖は味噌焼きで、わりと好きだった。
と、ここまでで、えぐり舟を知らない秋田県南部~秋田市辺りの人なら、「おばこナひでこナ」じゃんと思うことでしょう。
その通り。湯沢市に本社があり、秋田市内にも店がある「お菓子のくらた」の商品と類似する。過去の記事でも少し取り上げている。
「おばこナ」「ひでこナ」で2タイプあり、どちらも秋田民謡にちなむ商品名。中身はおばこナは黒砂糖あん、ひでこナは白味噌あん。包装形態もえぐり舟と同じで、外袋のデザインはかすりの着物をモチーフにしている。アルミホイルはひでこナは金色。
2016年にAGFが実施した「珈琲(ハートマーク)和菓子アワード」で、秋田県代表として選ばれたそうで(やっぱり和菓子扱いか)、その時に「発売されたのは、今から50年以上前。」と説明があるので、1960年代中頃には発売されていた。
僕は、くらたのお菓子では「きいちご」と並んでおばこナが好き。食べる時、ひでこナとどっちがどっちか分からなくなって、毎回悩むのが難。
えぐり舟も、やはりおいしいとは思っていた。
今回久々に食べて、同時に食べ比べたわけではないけれど、えぐり舟のほうがよりおしいのではないかと思った。個人的感想だし、もらえるのならどっちも大歓迎ですが。
えぐり舟のほうが、食感がより柔らかく、優しい甘さに感じた。黒砂糖かどうかの違いもあろう。また、アルミホイルのべたつきやカスのこぼれ落ちが、心持ち少なくて食べやすかったかもしれない。
ネットでざっと見ると、秋田の人でも、えぐり舟とおばこナひでこナの類似性に言及している投稿は見当たらなかった【2日訂正】とても少なかった。そして、それぞれにファンが多いことが分かった。
秋田県内ながら販売地域がギリギリで棲み分けられていたことがあるだろう。
それが昨年秋から、秋田駅ビルの同じフロアの目と鼻の先で相まみえているのだが、それでも知らない人が多いかも。商品名から中身が想像できないし、かつ「ホイルケーキ」「ホイル焼き」というお菓子の名前自体も一般的でないこともあるだろう。
また、以前、秋田県外のお菓子で、これらと同種のを食べた記憶があった。キーワードをいろいろ変えて検索してみると、やはり、あちこちに「銘菓」として存在していた。
確認できたものを挙げてみる。
・秋田にはないが全国展開するシャトレーゼ「梨恵夢(リエム)」。中は果物など複数種。
・北海道旭川「あずチャン」「かぼチャン」。粒あんとカボチャあん。1977年発売。
・「酒田むすめ」。こしあん・やきいもあん・コーヒーあん。1976年の酒田大火の直後に発売。
・館山「花菜っ子」。黄身あん。1975年発売。
・小布施「初栗」栗あん+栗甘露煮入り。
・高知「かんざし」。柚子風味。夏は冷やして、冬はホイルごと5~6分トーストすることを勧める。1962年発売。
・大分「瑠異沙(るいさ)」。バイオレットリキュールでスミレの香りがするあん。製造元が破産したが、元従業員らが立ち上げた新会社がブランクを経て再発売。
・「はっさく紀行 尾道てっぱんの道」はっさくあん。ドラマ「てっぱん」が2010年だから、それ以後発売か。
【2日コメントに基づく追記】・岩手岩泉町「龍泉洞」。
【2022年5月21日追記】・山形市 十一屋「ゴールドシャトー チルミー」。ホームページには「マロンクリームの餡に、洋酒とバターの香りを添えた、ソフトな和風洋菓子シャトー。ホイルで包んで焼き上げたチーズ風味のチルミー。」とあり、ゴールドシャトーとチルミーという2つのお菓子がセット売りされたものらしく、ゴールドシャトーはミルクまんじゅうのようで、チルミーがホイル焼き。
【2022年6月18日追記】上記は、市中の菓子店が製造して自店で販売するもののはずだが、製造専門業者が道の駅や土産物店での販売向けに製造するホイル焼きも、各地にある。
また、細長くなく、正方形に近い形状のホイル焼きも存在した。由利本荘市の田口菓子舗「ぎゅっとまるごと由利本荘りんごのホイル焼き」、札幌の千秋庵「札幌娘」、岩手県宮古市のつちや本舗「浄土ヶ浜」など。浄土ヶ浜は「東北地方で最初の手作りホイル焼きのお菓子です。」としている。
【2024年6月30日追記】全国の百貨店にも店がある京都の「京菓子處 鼓月」では、「しっとりとしたパウンド生地に小豆こし餡をお入れしたホイル焼きのお菓子」の「花洛(からく)」があった。(以上追記)
といったところ。
分かった限りでは、かんざしとおばこナひでこナが先発で、1970年代中頃に全国的に広まったような雰囲気。そして、中身は地域ごとに個性豊か。
これを見てしまうと、こしあんもいいけど、各地のをいろいろ食べてみたくなる。旅行がままならぬこのご時世、各地のホイル焼きをセットにしたら売れるかも?!
そして、秋田市のかおる堂では「どじょっこふなっこ」という名の、ホイル焼きがあったという情報も。
ネット上には「現在は製造していない」という情報のみで、かなり以前にやめていると思われる。
そう言われれば、そういうのもあったような気がしなくもないが、「おばこナひでこナ」と似たネーミングなので混同しているのかも。(どじょっこ/ふなっこで中身が違ったりしたのか?)【下の続きの記事参照】
※2001年のえぐり舟そのほかのゴンタローの菓子と、なんと自分で撮っていた、どじょっこふなっこの写真はこの記事中盤以降にて。
大正14年創業で「長栄堂」という店名だったそうだが、祖先(創業者ではないようだ)の名前にちなむ屋号「権太郎」が浸透していて、誰も長栄堂と呼んでくれなかったので、「ゴンタロー」にしてしまったと、公式ホームページで説明されている。
男鹿市船越と潟上市天王にも店があり、男鹿の菓子店としては著名かつ大規模。男鹿のお土産としていただくこともある。
これまで、秋田市内では購入できなかった(アトリオン地下では買えたかも??)が、昨2019年10月、秋田駅ビルトピコに初出店。
2階正面から入ってすぐ、4つの島を複数の菓子店が共有して商品を並べる「秋田お菓子小路」の1店。現在は9店舗中7店舗が秋田市内の菓子店で、市外は角館のくら吉とゴンタローだけ。市民や旅行客が、ゴンタローのお菓子を入手しやすくなった。
【2021年4月19日追記】トピコのゴンタローは、2021年3月31日で閉店してしまった。再び秋田市内では購入できなくなった。
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地方の菓子店ではよくあることだけど、ゴンタローのお菓子は地元男鹿にちなんだ商品名が多い。
右側「鬼の石段」は、皮と羊羹風のあんこが別添されたモナカ。商品名は鬼(なまはげの起源とされる)が一晩で999段の石段を作った伝説にちなむ。最近出た商品かもしれないが、京都製のOEMで、よそでもあるやつ。
ほかには、袋に男鹿半島の地図を描いたブッセ「あしねけ」というのもある。知らなかったが、方言で「遊びにおいで」という意味だそうで、かなり局所的な言葉ではないだろうか。
今回取り上げるのは、写真左の「えぐり舟」。
「えぐり舟」もローカルな用語だろうか。丸太をえぐって作る「丸木舟」のこと。包装のイラストがそれだ。
1994年3月1日秋田県広報協会発行の「ホットアイあきた380号」には「丸木舟は男鹿半島の海の生活にとっては欠くことのできないものであった。」「樹齢三百年以上の杉丸太をくりぬいて造る。」「明治三年の記録によると、男鹿半島全体には三百八十九艘の丸木舟が存在した」とあった。
お菓子のえぐり舟は、以前から知っていた。
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中身は、アルミホイルで包まれた、細長くて膨れた形。
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えぐる前の丸太のように見えなくもない外観。紹介しているのは「赤あん」とされる商品なので、
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もう1種「白あん」もある。外袋で赤あん/白あんを区別するには、裏面の小さい文字が確実。袋表面で明確に区別することはできないようだ。どうも、白あんのほうが、印刷の水色が薄く、舟の色が黄色が強い(商品名の地色と同じ程度)という違いがあるみたい。
ホームページでは和菓子として紹介されているが、バターなども入った和洋折衷菓子。
こういうアルミホイルで巻いて焼くケーキみたいな(?)お菓子のことを、レシピサイトなどでは「ホイルケーキ」と呼んでいるが、専門的には「ホイル焼き」と呼ぶという話もあった。
でも、ネットで「ホイル焼き」を検索すると、魚のホイル焼きばかり。そう言えば、昔の秋田市の学校給食では、鮭または鯖のホイル焼きが出た。鯖は味噌焼きで、わりと好きだった。
と、ここまでで、えぐり舟を知らない秋田県南部~秋田市辺りの人なら、「おばこナひでこナ」じゃんと思うことでしょう。
その通り。湯沢市に本社があり、秋田市内にも店がある「お菓子のくらた」の商品と類似する。過去の記事でも少し取り上げている。
「おばこナ」「ひでこナ」で2タイプあり、どちらも秋田民謡にちなむ商品名。中身はおばこナは黒砂糖あん、ひでこナは白味噌あん。包装形態もえぐり舟と同じで、外袋のデザインはかすりの着物をモチーフにしている。アルミホイルはひでこナは金色。
2016年にAGFが実施した「珈琲(ハートマーク)和菓子アワード」で、秋田県代表として選ばれたそうで(やっぱり和菓子扱いか)、その時に「発売されたのは、今から50年以上前。」と説明があるので、1960年代中頃には発売されていた。
僕は、くらたのお菓子では「きいちご」と並んでおばこナが好き。食べる時、ひでこナとどっちがどっちか分からなくなって、毎回悩むのが難。
えぐり舟も、やはりおいしいとは思っていた。
今回久々に食べて、同時に食べ比べたわけではないけれど、えぐり舟のほうがよりおしいのではないかと思った。個人的感想だし、もらえるのならどっちも大歓迎ですが。
えぐり舟のほうが、食感がより柔らかく、優しい甘さに感じた。黒砂糖かどうかの違いもあろう。また、アルミホイルのべたつきやカスのこぼれ落ちが、心持ち少なくて食べやすかったかもしれない。
ネットでざっと見ると、秋田の人でも、えぐり舟とおばこナひでこナの類似性に言及している投稿は
秋田県内ながら販売地域がギリギリで棲み分けられていたことがあるだろう。
それが昨年秋から、秋田駅ビルの同じフロアの目と鼻の先で相まみえているのだが、それでも知らない人が多いかも。商品名から中身が想像できないし、かつ「ホイルケーキ」「ホイル焼き」というお菓子の名前自体も一般的でないこともあるだろう。
また、以前、秋田県外のお菓子で、これらと同種のを食べた記憶があった。キーワードをいろいろ変えて検索してみると、やはり、あちこちに「銘菓」として存在していた。
確認できたものを挙げてみる。
・秋田にはないが全国展開するシャトレーゼ「梨恵夢(リエム)」。中は果物など複数種。
・北海道旭川「あずチャン」「かぼチャン」。粒あんとカボチャあん。1977年発売。
・「酒田むすめ」。こしあん・やきいもあん・コーヒーあん。1976年の酒田大火の直後に発売。
・館山「花菜っ子」。黄身あん。1975年発売。
・小布施「初栗」栗あん+栗甘露煮入り。
・高知「かんざし」。柚子風味。夏は冷やして、冬はホイルごと5~6分トーストすることを勧める。1962年発売。
・大分「瑠異沙(るいさ)」。バイオレットリキュールでスミレの香りがするあん。製造元が破産したが、元従業員らが立ち上げた新会社がブランクを経て再発売。
・「はっさく紀行 尾道てっぱんの道」はっさくあん。ドラマ「てっぱん」が2010年だから、それ以後発売か。
【2日コメントに基づく追記】・岩手岩泉町「龍泉洞」。
【2022年5月21日追記】・山形市 十一屋「ゴールドシャトー チルミー」。ホームページには「マロンクリームの餡に、洋酒とバターの香りを添えた、ソフトな和風洋菓子シャトー。ホイルで包んで焼き上げたチーズ風味のチルミー。」とあり、ゴールドシャトーとチルミーという2つのお菓子がセット売りされたものらしく、ゴールドシャトーはミルクまんじゅうのようで、チルミーがホイル焼き。
【2022年6月18日追記】上記は、市中の菓子店が製造して自店で販売するもののはずだが、製造専門業者が道の駅や土産物店での販売向けに製造するホイル焼きも、各地にある。
また、細長くなく、正方形に近い形状のホイル焼きも存在した。由利本荘市の田口菓子舗「ぎゅっとまるごと由利本荘りんごのホイル焼き」、札幌の千秋庵「札幌娘」、岩手県宮古市のつちや本舗「浄土ヶ浜」など。浄土ヶ浜は「東北地方で最初の手作りホイル焼きのお菓子です。」としている。
【2024年6月30日追記】全国の百貨店にも店がある京都の「京菓子處 鼓月」では、「しっとりとしたパウンド生地に小豆こし餡をお入れしたホイル焼きのお菓子」の「花洛(からく)」があった。(以上追記)
といったところ。
分かった限りでは、かんざしとおばこナひでこナが先発で、1970年代中頃に全国的に広まったような雰囲気。そして、中身は地域ごとに個性豊か。
これを見てしまうと、こしあんもいいけど、各地のをいろいろ食べてみたくなる。旅行がままならぬこのご時世、各地のホイル焼きをセットにしたら売れるかも?!
そして、秋田市のかおる堂では「どじょっこふなっこ」という名の、ホイル焼きがあったという情報も。
ネット上には「現在は製造していない」という情報のみで、かなり以前にやめていると思われる。
そう言われれば、そういうのもあったような気がしなくもないが、「おばこナひでこナ」と似たネーミングなので混同しているのかも。(どじょっこ/ふなっこで中身が違ったりしたのか?)【下の続きの記事参照】
※2001年のえぐり舟そのほかのゴンタローの菓子と、なんと自分で撮っていた、どじょっこふなっこの写真はこの記事中盤以降にて。