北海道から岡山に修学旅行で来ていた女子高生の相馬春奈(福本莉子)は、岡山の名産であるマスカット・オブ・アレキサンドリアを病床のおばあちゃんのお土産にしようとしていたが、財布を落としてしまう。手元に残っていたお金で買える金額ではなく、諦めかけた時に目に入ったのが、そのマスカットを使った果実和菓子「陸乃宝珠」だった。
たった一つだったが、その和菓子をお土産に買って病床のおばあちゃんを喜ばせたことをきっかけに、春奈はこの和菓子を作った会社に就職しようと考える。だが、面接に遅刻してしまい不合格になるものの、社長の田岡(長谷川初範)の一存で入社することになった。
実在する和菓子の老舗企業を舞台に、やや街おこし的なテイストで作られた作品。福本莉子さんの初単独主演映画。本来ならば昨年公開の作品。多少のものがたり展開の無理はでてくることは、ある程度織り込み済みで見に出かけた。
主人公の設定が弱い
北海道の高校が岡山(広島等を経由)を修学旅行先にする。僕の仕事柄この設定はいいとしよう。岡山の企業に就職を希望したわけも、許容範囲だろう。実際求人があるかどうかなどとは言わない。
就職できたいきさつもまあいいとしよう。でも、、、世間知らずの純朴な女の子が、新入社員研修中に数度の失敗をする様子。マスカット・オブ・アレキサンドリアの生産者・秋吉(竹中直人)との人間関係の構築の経緯、どうもありがちである。姉・雪恵(本仮屋ユイカ)は北海道に両親と住み、カーリングの東日本大会で優勝するような選手。実は春奈もけがをして選手生活を断念したが、カーリングの選手経験者。この設定が岡山で孤軍奮闘の春奈のキャラクター設定に、厚みをつけてくれればいいのだが、それほどではない。
全体的に「相馬春奈」の存在感・リアリティーが希薄に感じた。
7年前に「魔女の宅急便」を見た時に、僕は主演の小芝優花さんの演技についてこんなことを(えらそうに)書いている。
小芝さんは16歳。初主演映画が「魔女の宅急便」実写版である。映画を見て、彼女の演技が上手かどうか、正直評価がしがたい部分はある。でも、スクリーンの中のキキ(の心理状態)と、初主演のプレッシャーの中で演じる小芝さん(の素の部分)が、なんとなくオーバーラップした。はらはらしたし、ほほえましいなあとも感じた。
主人公が相馬春奈に見えたか、福本莉子に見えたかというと、後者に見えた。相馬春奈の存在感が薄いのだ。世間知らずの新社会人の立ち振る舞いとしても、全体的な設定が、福本さんかわいそうである。これで秋吉と対峙するのでは、そんな感じがした。これ以外にも、やや超常現象的な設定まである。
福本さんを見る映画
5年前の東宝シンデレラグランプリの彼女が、2年前(19歳)に撮影した本作。ほぼ前後して「ふりふら」や「映像研」を撮影していたことになる。前者の主役4人の1人でもなく、後者の登場するけどOne of themでもない。座長(主役)である。
主役として彼女の演技が上手かどうか僕にはわからない。でも、19歳の福本さんのある時間を切り取り、納めた作品。彼女の次(の主演)がどうなるか楽しみだし、少し心配でもある。