That Thou remember them, some claim as debt,

secret talk31 眠りの森、罪―dead of night
まどろんで、瞳を開けて森の底。
「…ぅ、」
声こぼれて痛覚にじむ、じわり痛み疼きだす。
背中、肩甲骨から響く敲かれる、この痛みに記憶むせる。
「…何時だ、いま?」
ほの暗い落葉、薄墨色の花。
薄闇そまる視界に時が狂う、どれだけ眠りこんだ?
つかめない時間感覚に途惑わされる、いつもと違う五感に背中を起こした。
「つっ、」
ぴしり痛覚つんざく、肩から背中いっぱい轟く。
固まる筋肉ぎしり軋む、それでも左腕ひきよせ時計に瞬いた。
「16時…?」
そんなに時過ごしてしまった?
寝過ごした時間を見つめて、瞬いた睫そっと香ふれた。
「…あ」
おだやかな、さわやかな甘い香
清々しい甘い馥郁やわらかに薫る、この香よく知っている。
知っている、けれど今ここにいるはずもない香に自嘲ほほ笑んだ。
「いるわけないのにな…周太?」
いるわけない、でも「if」仮定する。
仮定して期待したくなる、もし今ここに君がいたのなら?
「…名前で呼んでよ?周太、」
呼びかける、唇かってに零れだす。
もう遠くなった時間、それでも繰り返す想い呼びかける。
「俺を呼んでよ…今、」
呼んで、名前で呼んで今すぐに。
そう願った日はもう遠い、遠く遠くなってしまった。
時間ごと君は遠くなって、もう逢えなくなった日どれくらい?
「逢いたいよ…」
つぶやいて、でも返事なんかない。
返してもらえるはずもない、返されてはいけない声。
そんな今にしてしまったのは自分、誰のせいでもない自分の罪だ。
『隣にいたい、ずっと一緒にいさせて?』
ほら自分の声が誓う、でも破ったのは自分。
あの約束どんなに幸福だったろう、大切で、今も宝物のまま温かい。
それなのに叶えられなかった時間が疼く、まどろんだ背中きしませて痛んで、香ふれる。
―…昨日から声が出にくいんだよ、
ぶっきらぼう素っ気ない声、すこし掠れていた。
薄紅そまる首すじ、乗ってしまった特急列車、レール走る振動音。
隣に君のふてくされた横顔、それから「はちみつオレンジのど飴」あまい香。
―…それやる、
乗換のプラットホーム、オレンジ色のパッケージ。
あれが君からの最初のプレゼント、缶コーヒーはノーカウントなら。
「…、」
登山ジャケット胸ポケットさぐって、指先すぐ慣れた硬さ。
ティック状のパッケージとりだして、一粒とって口に含んだ。
ほら、君が香る。
「ん…」
ころり、ころ。
飴ころがして爽やかに甘い、この香いつも君だった。
ただ隣で眠った寮のベッド、勉強ともにするデスク、帰宅日の公園のベンチ。
ただ読書する横顔の口もと薫る、そうして初めての夜はじめてのキスもこの香あまかった。
あまくて、あまくて懐かしくて泣きたくなる。
「…だから呼んでよ、周太?」
微笑んで吐息あまい。
柑橘さわやかに甘くなる、あの幸福のまま香たつ。
匂やかな甘い優しい記憶、時間、飴一粒にとじこめて唇あまい。
―でも棄てたのは俺だ、どんな理由でも、
棄てたくなかった、
唯ひとつ欲しかった、離れたくなかった。
唯ひとり君がいてくれたら何もいらない、ずっと隣にいたかった。
それでも、離れたくないからこそ棄てるしかなかった幸福は、それでも君を護らせる。
「でも死んでほしくないんだ…周太?」
呼びかけて落葉のあぐら、見あげて頭上はるかな梢ふる。
木洩陽かすかな夕暮れの森、静かな冷気しのびこんで浸される。
凍みこんで這いあがる山の大気、ひとり座りこんだ孤独が今、優しい。
ひとり、それでも君の香を唇に。
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】

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英二side story予告編@第85話+XX日

secret talk31 眠りの森、罪―dead of night
まどろんで、瞳を開けて森の底。
「…ぅ、」
声こぼれて痛覚にじむ、じわり痛み疼きだす。
背中、肩甲骨から響く敲かれる、この痛みに記憶むせる。
「…何時だ、いま?」
ほの暗い落葉、薄墨色の花。
薄闇そまる視界に時が狂う、どれだけ眠りこんだ?
つかめない時間感覚に途惑わされる、いつもと違う五感に背中を起こした。
「つっ、」
ぴしり痛覚つんざく、肩から背中いっぱい轟く。
固まる筋肉ぎしり軋む、それでも左腕ひきよせ時計に瞬いた。
「16時…?」
そんなに時過ごしてしまった?
寝過ごした時間を見つめて、瞬いた睫そっと香ふれた。
「…あ」
おだやかな、さわやかな甘い香
清々しい甘い馥郁やわらかに薫る、この香よく知っている。
知っている、けれど今ここにいるはずもない香に自嘲ほほ笑んだ。
「いるわけないのにな…周太?」
いるわけない、でも「if」仮定する。
仮定して期待したくなる、もし今ここに君がいたのなら?
「…名前で呼んでよ?周太、」
呼びかける、唇かってに零れだす。
もう遠くなった時間、それでも繰り返す想い呼びかける。
「俺を呼んでよ…今、」
呼んで、名前で呼んで今すぐに。
そう願った日はもう遠い、遠く遠くなってしまった。
時間ごと君は遠くなって、もう逢えなくなった日どれくらい?
「逢いたいよ…」
つぶやいて、でも返事なんかない。
返してもらえるはずもない、返されてはいけない声。
そんな今にしてしまったのは自分、誰のせいでもない自分の罪だ。
『隣にいたい、ずっと一緒にいさせて?』
ほら自分の声が誓う、でも破ったのは自分。
あの約束どんなに幸福だったろう、大切で、今も宝物のまま温かい。
それなのに叶えられなかった時間が疼く、まどろんだ背中きしませて痛んで、香ふれる。
―…昨日から声が出にくいんだよ、
ぶっきらぼう素っ気ない声、すこし掠れていた。
薄紅そまる首すじ、乗ってしまった特急列車、レール走る振動音。
隣に君のふてくされた横顔、それから「はちみつオレンジのど飴」あまい香。
―…それやる、
乗換のプラットホーム、オレンジ色のパッケージ。
あれが君からの最初のプレゼント、缶コーヒーはノーカウントなら。
「…、」
登山ジャケット胸ポケットさぐって、指先すぐ慣れた硬さ。
ティック状のパッケージとりだして、一粒とって口に含んだ。
ほら、君が香る。
「ん…」
ころり、ころ。
飴ころがして爽やかに甘い、この香いつも君だった。
ただ隣で眠った寮のベッド、勉強ともにするデスク、帰宅日の公園のベンチ。
ただ読書する横顔の口もと薫る、そうして初めての夜はじめてのキスもこの香あまかった。
あまくて、あまくて懐かしくて泣きたくなる。
「…だから呼んでよ、周太?」
微笑んで吐息あまい。
柑橘さわやかに甘くなる、あの幸福のまま香たつ。
匂やかな甘い優しい記憶、時間、飴一粒にとじこめて唇あまい。
―でも棄てたのは俺だ、どんな理由でも、
棄てたくなかった、
唯ひとつ欲しかった、離れたくなかった。
唯ひとり君がいてくれたら何もいらない、ずっと隣にいたかった。
それでも、離れたくないからこそ棄てるしかなかった幸福は、それでも君を護らせる。
「でも死んでほしくないんだ…周太?」
呼びかけて落葉のあぐら、見あげて頭上はるかな梢ふる。
木洩陽かすかな夕暮れの森、静かな冷気しのびこんで浸される。
凍みこんで這いあがる山の大気、ひとり座りこんだ孤独が今、優しい。
ひとり、それでも君の香を唇に。
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】



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