萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

藤が咲く

2018-05-01 23:17:05 | 創作短篇:日花物語
酔うならば、
五月花色


藤が咲く

紫そまる、春終わる。
だから時の終わりが。

「この林はダメだなあ、」

かつん、

鉈が鳴る、節くれた手に木屑はじく。
かつかつ刃ならせて皺深い手、疑問こぼれた。

「じーちゃん、なんでダメなんだ?」

どうして「ダメ」なんて言う?
わからない紫の波に銀髪ふりむいた。

「うん?なんでってなんだ?藤のことか?」
「そう、」

うなずいて落ちた視線、薄紫ひとつ燈る。
茶色ひろがる足もと一滴、あわい色に祖父が言った。

「藤はなあ、からみついた木をダメにしちまうんだな。ほれ?」

かつんっ、

鉈が響いて木が香る。
舞った木屑やわらかな光、ほろ渋い甘い香に言われた。

「な?こーんなに木がスカスカになっちまう、こんなんばかりじゃあダメだ、」

節くれた指の先、切り開かれた幹は虚しい。
それでも頭上こぼれる紫まぶしくて、甘い馥郁あふれて香る。

「だめじゃないよ?僕には…」

本音そっと唇ひらく、香ただ愛しくて。


撮影地:山藤@神奈川県2018.4

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コメント (2)
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