萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk25 霜月望郷―dead of night

2016-11-07 23:58:00 | dead of night 陽はまた昇る
初雪から、
宮田@第85話+XX日



secret talk25 霜月望郷―dead of night

切るような風、もう冬になる。

はずんだ息あわく白い、くゆらす吐息に風あおる。
断崖はるか昇らす冷風、なぶられる髪ひるがえって凍てつかす。
ほろ苦い埃っぽいような、そのくせ甘い香くゆる湿度かすめて冷たい。

ほら、北西の空に雲が湧く。

「…雪か、」

尾根はるかな北と西、あの雲じき辿りつく。
そうなれば雪は降り山の様相は冬、ほっと息つき英二は笑った。

「帰るか、」

山上、吹雪に巻かれたら危ない。
そんなこと山の常識だ、それが分水嶺の山なら危険度なお高い。
危険を知りながら登るなどダメだ、自分のプライドかけて踵返した。

「また来るな?」

頂に笑って踵返す、まだ仰ぐ山頂はるか高い。
まだ1時間はかかるだろう、その往復に雪雲きっと追いすがる。

「…30分以内かな、」

ひとりごと歩きだす道が降る、登山靴かすかに底が変わる。
登りより固くなりだす道、頬ふれる大気が5分前より硬い。

「あ、」

雪だ、もう。

「風、強いのか、」

踏みだし仰ぐ空が白い、はりめぐる雲は雪はらむ。
動かないような白い空、けれど確実に流れだす冬に初雪がふる。
きっと30分後には真白おおう、そんな風と雲にたどる山路を白が舞う。

もう冬埋もれる道、ただ30分で消えるだろう。
それでは帰られなくなる、だから辿る道に微笑んだ。

「すぐ帰るよ?」

帰ろう、君に。


撮影地:谷川岳@群馬県

にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村

blogramランキング参加中! FC2 Blog Ranking

人気ブログランキングへ

PVアクセスランキング にほんブログ村

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 山岳点景:紅葉2016.11×秩父... | トップ | 山岳点景:Color, 秋 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

dead of night 陽はまた昇る」カテゴリの最新記事