萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

大月七日、秋明菊―twilight

2022-10-07 23:52:58 | 創作短篇:日花物語
面影、あなたへ香る
10月7日誕生花シュウメイギク秋明菊


大月七日、秋明菊―twilight


あわく燈る、あなたへの時間。

「香らないのね…」

こぼれた想い唇かすめて、けれど花は香らない。
あわく純白きらめく花、まるで匂いたつ清雅、そのくせ香らないのは止まったから?

『匂いやかな花って僕は想うんだ…凛として、優しくて、まるで』

ほら、なつかしい声が笑ってくれる。
あなたの声だ。

『まるで…みゆきさんみたいで』

恥ずかしがりな声、穏やかで慎ましくて、そのくせ透るテノール。
まるで少年のようだった、あなたの方こそと幾度なんど想ったろう?

「ロマンチストなんだから、ほんと…」

声こぼれて追憶が微笑む、もう戻らない瞬間。
もう帰られない、変えられない、あの幸福の時。

「ほんと…すきよ、あなた、」

微笑んで花こぼれる、夕闇あわく抱こめる。
もう香らない、けれど褪せることない想いの貌、なつかしい愛おしい夫婦の時。

『すきだよ、』

ほら追憶が微笑む、あなたの声、瞳。
それから唇かすめて香る、あなたの好きな夕闇ひそやかな風。


秋明菊:シュウメイギク、花言葉「忍耐、耐え忍ぶ恋、薄れゆく愛、褪せていく愛、多感な時、淡い思い」

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