萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第X話 越年山夜 ―「Future New year's eve 」another,side story S.P 

2017-01-01 02:31:42 | 陽はまた昇るS.P
最初の一瞬を、
周太X歳@第85話+α年



第X話 越年山夜 ―「Future New year's eve 」another,side story S.P

韻々、除夜の鐘が鳴る。

「…はぁっ、」

走る雪道に息が凍る、弾む鼓動に白くゆらす。
登山靴の蹴りあげる雪さくさく駆けて、駆けて、けれど鐘が鳴る。

でも、零時まだ3分前。

「すみませんっ、」

謝って人波かきわけて、走る参道ざわめく燈火。
蕎麦すすめる呼び声、醤油ふくよかな出汁の香、薪の爆ぜる音ほろ甘く香る。
篝火の朱、オレンジ明るい軒端つらなる道、破魔矢に笑顔、いつもより遠い鳥居。

『二年参りは混むね、いつもの3倍かかるかもよ?』

教えてくれた幼馴染の声がめぐる、あの忠告どおりだ?
いつも静かな杉林ただ賑やかで、白い吐息と笑顔の道で腕時計を見た。

―あと2分…まにあうかな?

石段あと何段、いつもなら10秒なのに?
焦る想い踏みしめる登山靴、凍りつく雪しんしん冷たい。

―こんな寒い中がんばってるんだね、いつも…今までも、

さくり、さくり、雪の階段に君を想う。
いつも君はここを歩く、駆ける、そんな日常に君は生きる。
その道たどる吐息くゆらす零度、白い吐息と人波にダッフルコートのフード引かれた。

「しゅうたっ!」

あ、呼んでくれた?

「周太っ!」

また呼ばれる、その声にフード引かれる。
引かれて振りむいた先、青いウィンドブレーカーの笑顔はじけた。

「やっぱり周太だ!」

いつもこうだ、君が見つけてくれる。

「あ…、」
「おいで周太っ!」

君の声が呼ぶ、喧騒にも徹る声。
届いた声まっすぐ見つめて、ダッフルコートの腕そっと掴まれた。

「こっちだ周太っ、おいで!」

いつもより大きな声が笑う、切長い瞳いつもより弾む。
カーキ色ふかい制帽の翳から瞳は笑って、きれいな笑顔にひきよせられる。

「すごい混んでるだろ?来てくれてありがとう周太、待ってたよ?」

ゆれる篝火に笑顔あかるむ。
朱色きらめく瞳ただきれいで、見惚れながら口開いた。

「ん…時間ぎりぎりでごめんね、英二、」
「ぎりぎりでも間に合ったよ?でも大学の集まりだったろ、脱け出してきたのか?」

きれいな低い声が笑ってくれる。
気遣ってくれる瞳やさしくて、穏やかな笑顔に微笑んだ。

「田嶋先生は年越し呑みっておっしゃってたけど、ね…英二こそ巡回の途中でしょ、おじゃましてごめんなさい、大丈夫?」

話しながら恩師の貌つい浮かぶ。
たった1時間前の記憶つい可笑しくて、笑った頬に温もりふれた。

「ありがとう周太、来てくれて今ほんと幸せだよ?」

きれいな低い声そっと額ふれる、白い吐息やわらかに視線を透かす。
切長い瞳まっすぐ自分を映して、その青い隊服の肩に白銀が舞った。

「あ…英二、雪だよ?」

呼びかけて制帽のつば動く、白皙の頬に篝火が映る。
朱色きらめく横顔ただ綺麗で、そっと見つめるまま君が笑った。

「一緒に見られたな、今年最初の雪、」

ぱちっ、

篝火が爆ぜて朱色きらめく、切長い瞳に燈がともる。
青いウィンドブレーカー朱に雪に染まらす肩、白い吐息が笑った。

「あけましておめでとう周太、今年もよろしくな?」

君が笑う、今年も、って。

僕の名前を呼んで「今年も」って笑う、これは先の約束。
今おとずれたばかりの年その先へ、そして昨日までの想いに周太は笑った。

「あけましておめでとうございます、英二…今年もよろしく、ね?」

韻々と除夜の鐘が鳴る、もう明けた新たな年に。
新しい年に雪がふる、最初の雪まっしろで静かで、そうして君の季節が明ける。



にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村

blogramランキング参加中! 人気ブログランキングへ FC2 Blog Ranking

PVアクセスランキング にほんブログ村

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 山岳点景:今年の青2016 | トップ | 山岳点景:雪原にて »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

陽はまた昇るS.P」カテゴリの最新記事